植物が何百万年も前からアスピリンを作っていたことをご存知ですか?
ヒト属は、ネアンデルタール人の時代つまり数万年前から、自己治療薬として使用してきたそうです。
人間は頭痛がすると鎮痛剤を使おうしますが、植物も同じように周囲の危険からストレスを受けると、自らアスピリンを生成することができるようです。
この鎮痛剤は、樹木やヒマワリに含まれるサリチル酸という未加工の状態で、植物がストレスを感じたときに反応して作られます。
サリチル酸は、何世紀にもわたって痛みや炎症の治療薬として人間に使用されてきましたが、植物も人間と同じように痛みや疼きに鎮痛剤を使用するのです。
植物では、シグナル伝達、調節、病原体の防御において基本的な役割を担っており、葉緑体(光合成を行う緑色の小さな器官)で生成されるこの物質は、通常ストレスに反応して生成されます。
(optimistdailyより)
カリフォルニア大学リバーサイド校(UCR)の研究グループは、この現象を解明し、気候変動に対する植物の生存確率を向上させることを目的として研究を行い、植物がサリチル酸の生産をどのように制御しているかを報告する画期的な論文を、昨年6/3のScience Advancesに「Reciprocity between a retrograde signal and a putative metalloprotease reconfigures plastidial metabolic and structural states(逆行性シグナルと推定メタロプロテアーゼの相互作用がプラスチドの代謝・構造状態を再構築する)」というタイトルで発表しました。
新しい研究では、植物におけるこの特殊な自己防衛メカニズムについて詳しく調べ、アスピリンの活性代謝物であるサリチル酸の生産がどのように制御されているかを明らかにしました。
UCRの植物生物学者ウィルヘルミナ・ヴァン・デ・ヴェン氏は、
「植物も私たちと同じように、痛みに鎮痛剤を使うようなものです」
と言います。
共同研究者のジンツェン・ワン氏は、
「我々は、得られた知識を作物の耐性を向上させるために利用できるようにしたいと考えています。
それは、ますます暑くなる日差しの強い世界の食糧供給にとって極めて重要なことです」
と説明しています。
植物がストレスを受けたときに行う複雑な反応の連鎖をより深く理解するために、ヴァン・デ・ヴェン氏とその研究グループは、主要なストレスシグナル伝達経路の効果を阻害するように変異させた植物の生化学的分析を行いました。
実験は、シロイヌナズナに強い光を照射して行われた。
環境ストレスは、すべての生物に活性酸素を発生させます。
例えば、日焼け止めを塗らずに直射日光を長時間浴びると、人間の皮膚は活性酸素を発生させ肌が日焼けしシミやそばかすの原因となるのはご存知の通りです。
(人間の皮膚は太陽に反応して活性酸素を発生させ、そばかすの原因になります:カリフォルニア大学リバーサイド校より)
また植物の場合には、害虫や乾燥、暑さなどのストレスがあります。
植物では、高レベルの活性酸素は致死的なものになります。
多くの物質がそうであるように、毒は量の多少に関係するのです。
この環境ストレスにより、活性酸素(ROS)が生成され、その数が多いと植物に大きなダメージを与えます。
しかし、低レベルの活性酸素は、植物細胞の機能において重要な役割を担っているため、その調節が重要になるのです。
「致死量に満たないレベルの活性酸素は、サリチル酸などの保護ホルモンの産生を可能にする緊急招集のようなものです。
活性酸素は両刃の剣なのです」
とワン氏は述べています。
(植物ストレスの種類と影響:bitevolvedより)
彼らは、バクテリアやマラリア原虫にも見られるMEcPP※1という早期警告分子に注目しました。
(※1:MEcPPについてよくわからなかったので、少し調べてみました。奥が深くて掘りきれませんでしたが(笑)、この記事の最後に載せましたので、ご興味あればご覧ください)
研究チームは、熱、衰えない日差しや干ばつによって、低レベルの活性酸素が植物細胞の糖製造装置で初期警報分子MEcPPを生成することを誘発し、MEcPPが蓄積されると次にサリチル酸の生成を促進し、細胞を保護する一連の作用を開始することを発見しました。
サリチル酸は、植物の葉緑体を保護し、そして光合成の重要な場である葉緑体を守る植物細胞の中で、さらに反応が進みます。
MEcPP分子とその機能については、まだ分かっていないことがたくさんあるが、この仕組みが分かれば、ストレスや負担に強い植物を作るために、科学者がこの仕組みを利用することができるようになるといいます。
動物だけでなく植物も温暖化の影響を受けていることが分かっており、平均気温が上昇し続ける中で、どれだけの種が生き残ることができるかは分かりません。
(UCRの研究室で、強い光ストレスに反応して色を変える植物:カリフォルニア大学リバーサイド校より)
研究者が指摘するように、この研究で検討されたストレス(高熱への反応、水不足、常時日光)は、すべて現在世界中の植物が経験しているものであり、植物に問題があれば、食物連鎖の中の他の生物にも問題が生じます。
このようなストレス反応の連鎖は、植物が暑さや日照り、干ばつに反応することで確認され、植物が人間と同じようにさまざまな痛みに鎮痛剤を使用していることを示しているのです。
「サリチル酸は、気候変動に伴うストレスに耐えることができるため、植物のサリチル酸生産能力を高めることは、気候変動が日常生活に与える影響に挑戦する上で一歩前進となります」
と、UCRの分子生物化学者で筆頭著者のカタユン・デヘシュ氏は述べています。
デヘシュ氏は、
「これらの影響は、私たちの食べ物にとどまりません。
植物は、二酸化炭素を吸収して空気をきれいにし、日陰を提供し、多くの動物に生息地を提供しています。
植物の生存率を高めることで得られるメリットは計り知れないのです」
と指摘してます。
(植物ストレス研究を主導したUCRの科学者、ウィルヘルミナ・ヴァン・デ・ヴェン氏、カタユン・デヘシュ氏、ジンツェン・ワン氏:カリフォルニア大学リバーサイド校より)
この研究はまだ始まったばかりではありますが、研究者たちは、この知識が植物の改変に大きな利益をもたらすと考え、植物が環境災害に強くなるような工夫を続けています。
研究グループは、細菌やマラリア原虫など他の生物でも生成される分子であるMEcPPの役割を中心に、さらなる研究を進めていく予定だということです。
※1:MEcPP(2-C-Methyl-d-erythritol-2,4-cyclopyrophosphate)は、イソプレノイド※2前駆体生合成のMEP経路(非メバロン酸)※3において中間体になります。
MEcPPはMEcPP合成酵素(IspF)によって生成され、HMB-PP合成酵素(IspG)の基質(酵素の作用を受けて化学反応を起こす物質)となります。
酸化ストレスの条件下では、MEcPPは特定の細菌に蓄積される。
植物の傷や過度の高照度照射などの生物学的ストレスは、葉緑体へのMEcPPの蓄積を増加させる。
葉緑体から核に輸送されたMEcPPは、逆行性のシグナル伝達を行い、核にコードされたストレス応答遺伝子を特異的に誘導するように誘導する。
イモムシやアブラムシなどの昆虫性草食動物による食害は、植物ホルモンであるジャスモン酸(JA)やサリチル酸(SA)を介した植物の抵抗機構を誘導します。
これらの植物ホルモン経路は、しばしばクロストーク(シグナル伝達経路が情報を伝えるときに他の伝達経路と影響しあう)を起こします。
植物ホルモン以外にも、メチル-D-エリスリトール-4-リン酸経路の最終代謝物であるMEcPPが、アブラムシなどの生物ストレスに応答して核遺伝子の転写を制御すると推測されてきた。
MEcPPを高レベルで蓄積したシロイヌナズナ変異体(hds3)は、キャベツアブラムシ(Brevicoryne brassicae)に対して高い抵抗性を示すが、大型キャベツ白毛虫(Pieris brassicae)に対する抵抗性は変化していない。
このように、MEcPPはシロイヌナズナのキャベツアブラムシに対する抵抗性を誘導するために、植物ホルモンのクロストークを超えて作用する別個のシグナル伝達分子である。
※2:イソプレノイド化合物は、すべての細胞に必須の成分である天然有機化合物。
イソプレノイドは、イソプレンを単位とする脂溶性のビタミン類(カロテノイド)やステロイド化合物など)一連のテルペン類化合物(テルペノイド)の総称。
イソプレノイドは、単純な前駆体であるイソペンテニル二リン酸(IPP)およびジメチルアリル二リン酸(DMAPP)から生合成されます(IPPとDMAPPは、イソプレノイド合成の出発物質)。
植物が産生するイソプレノイドの生合成経路には、細胞質で生合成されるメバロン酸(MVA)経路と、葉緑体で生合成される非メバロン酸(MEP)経路が知られています。
ちなみにテルペンはイソプレンを構成単位とする炭化水素で、植物や昆虫、菌類、細菌などによって作り出される生体物質です。
分類によってはテルペン類のうち、カルボニル基やヒドロキシ基などの官能基を持つ誘導体はテルペノイドと呼ばれる。
テルペンの語源はテレピン油であるが、実際はテレピン油に限らず多くの植物の精油の主成分です。
(このブログでは2021/10/24のフキノトウの回で、テルペン類の一種、ペタシンを多く含むフキノトウが、がんの増殖・転移を強く抑制するという記事を載せています)
※3:非メバロン酸経路(non-mevalonate pathway)は、ピルビン酸とグリセルアルデヒド- 3-リン酸から、IPPとDMAPPを合成する代謝経路です。
代謝中間体として2-C-メチル-D-エリトリトール-4-リン酸(MEP)および1-デオキシ-D-キシルロース-5-リン酸(DXPまたはDOXP)を生合成することから、MEP経路、DXP経路、DOXP経路、MEP/DOXP経路とも呼ばれる。
ピルビン酸+グリセルアルデヒド-3-リン酸→DOXP→MEP→CDP-ME→CDP-MEP→MEcPP→HMB-PP→IPPはDMAPP
多くの細菌や植物の葉緑体は、非メバロン酸経路によりIPPとDMAPPを生合成します。
(植物とアピコンプレックス門の原生動物は、色素体の非メバロン酸経路でイソプレノイドを合成しています。ほとんどの真正細菌も、この経路でIPPとDMAPPを合成しています)
一方で真核生物や植物の細胞質などは非メバロン酸経路ではなくメバロン酸経路によってIPPが生合成される。
ちなみにメバロン酸経路は、アセチルCoAからIPPとDMAPPを生合成するということです。
真核生物、真菌、および一部のグラム陽性菌はメバロン酸経路を介してIPPを産生しますが、グラム陰性菌および一部のグラム陽性菌は非メバロン酸またはMEP経路を利用します。
参考文献:
「The plastidial metabolite 2-C-methyl-D-erythritol-2,4-cyclodiphosphate modulates defence responses against aphids」:National Library of Medicine、
「Non-mevalonate pathway」:bionity、
「イソプレノイド合成・・・メバロン酸経路 と 非メバロン酸経路」:eonet、
「2-C-メチル-D-エリトリトール-2,4-シクロピロリン酸」:ja.unionpedia、
「2-C-Methyl-D-erythritol-2,4-cyclopyrophosphate」:en.wikipedia
などなどなーど
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この間、長屋の連中が花見をしているときに吉兵衛さんが「桜の木のように自然のままに生きていると、虫に食われたりしても自分の中で薬を作り出して、自分自身を癒やすことができるようになる」と言っていましたが、どうやら思い込みの当てずっぽうではなかったようです。
頭をぶつけたわけではなさそうだし、禅寺での修行の成果でしょうか?(笑)
今回ワン氏は、活性酸素は両刃の剣だとコメントしていましたが、世の中のものはだいたい両刃の剣、言い方を変えれば適量にコントロールするということがベストなのだということでしょうね。
このブログでも両刃の剣というキーワードは、以前鉄分の回(2020/10/17「血中の過剰な鉄分をコントロールできなくなることが人の健康寿命に関連している」)や耐寒性遺伝子の回(2021/6/12「世界の1/5の人が耐寒性の遺伝子を持っている。が、現代の社会ではこの能力がかえって病気のリスクを高めている可能性がある」)の記事でも使ってたな。
そういえば、ヒューマニエンスの「家畜」の回では、幸せホルモンであるオキシトシンも両刃の剣なのだと語っていましたね。
(リンクしたこの記事も参考になるかな)
これには驚きましたが、確かに自分と同じ仲間を守るために使うオキシトシンは、仲間以外の異なる考え方や行動をする人たちを排除することにも使うことによって、自分たちを守り生きながらえさせることに繋がる進化をしてきた結果なのかもしれないなあ。
現代の我々が、敵対する人たちを戦争で殺害するような行為をすることもこの仕組みから生じているのかもしれないと考えると、いままでの進化がこれでいいのか疑問に思います。
しかし番組では、だからこそ一つのグループだけに留まることなく、他のグループともコミュニケーションをとり多様性を受け入れていくことがヒト属が生存し続けていく上で重要なカギなのだと説いていました。
確かにヒトの考え方や生き方や障害のあるなしにかかわらず、他人を尊重しあうということが重要なんでしょうね。
いまの社会には、図らずも多様性をめざすという大きな流れが作られつつありますが、なるほど今回のことでその意味がやっと腑に落ちたのでした。//
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2022年中に間に合った!
いやあ「時代遅れのRock'n Roll Band」よかったねえ。
佐野さん、らしいなあ(笑)
トラックの大友さんもいたよ(笑)
さて、今年最後も、古代人関連ということになりました。
本来であれば今年のベスト5を載せるところですが、結局今年はペーボさんに敬意を評して1位から5位までネアンデルタール人関連ということになりそうでしたので、あえて書きませんでした(笑)
お詫びのしるしにおまけの研究記事も載せましたので、悪しからず。
また来年もよろしくお願い申し上げます。
よい年となることを祈念し、今年の最後の記事とさせていただきます。
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リバプール大学の研究により、旧石器時代の祖先はベジタリアンの食事を楽しみ、平たいパンのようなものを含む洗練された風味豊かなレシピを調理していたことが明らかになったということです。
(”グルメ”だとか”ベジタリアンの食事を楽しみ”なんていう言い方は、現代人の読者を引きつけるワードになってますが、古代人にとって食べることは生きるための重要な作業であったはずなので、正しくは”植物性の食事ができた喜び”という言い方ではないかと思うんだけど。いや、もしかすると美味しさを追求するのはヒト属の特質なのかもしれないなあ)
考古学・古典学・エジプト学科のセレン・カブク博士率いる考古学者チームは、これまでに発見された最古の食物遺物(下の写真)の分析から、初期のホモ・サピエンスとネアンデルタール人が複雑で多様な食事をし、その中で植物が大きな役割を担っていたことを明らかにしました。
(セレン・カブク氏:リバプール大学より)
11/23に「Cooking in caves: Palaeolithic carbonised plant food remains from Franchthi and Shanidar(洞窟の中の料理:フランチチとシャニダールから出土した旧石器時代の炭化植物遺物)」というタイトルで発表された研究は、現代の食品の調理・加工技術や多様な植物種子の利用が、これまで考えられていたよりも数千年も前に一般化していたことを初めて明らかにしたものになりました。
研究チームは走査型電子顕微鏡を用いて、ネアンデルタール人が花に囲まれて埋葬されていることで有名なイラクのシャニダール洞窟で発見された、初期ホモ・サピエンス(4万年前)とネアンデルタール人(7万年前)の食物遺物の炭化サンプルを分析しました。
また、ギリシャのフランキティ洞窟から発見された植物性食物遺物では、ヨーロッパで最も古いもの(約1万2000〜1万3000年前)になりますが、平たいパンのようなものが含まれていたそうです(ただ、それが何からできていたかは明らかではない)。
この分析結果からは、7万年前という早い時期から食品の風味が重要であり、ネアンデルタール人や初期ホモ・サピエンスの料理には、調理が複雑でいくつかの手順を含み、使用される食品が多様であり、苦味や鋭い味、タンニンが豊富な植物がよく使われていたことが確認されました。
これにより、ネアンデルタール人は肉を主食としていたという固定観念を覆すことができ、その結果旧石器時代の食生活には複雑なレシピが存在することが判明したのです。
また、古代の料理人は食べ物をより美味しく食べるために、さまざまな工夫をしていたことも明らかになっっています。
例えば、最も一般的な食材である豆類は、種皮に含まれるタンニンとアルカロイドにより、本来苦い味を持っていますが、旧石器時代の狩猟採集民は、水に浸したり、粗く挽いたり、石で叩いて殻を取り除いたりといった複雑な調理技術を使うことによって、苦味の大部分を除去していたことが今回の研究で明らかになりました。
(イラク・クルディスタンのザグロス山脈にあるシャニダール洞窟の風景を示す:cnnより)
カブク氏は次のように述べています。
「この研究は、認知の複雑さと、非常に早い時期から風味が重要であった食文化の発達を指摘しています。
時間と空間が離れているにもかかわらず、両遺跡で類似した植物と調理法が確認され、おそらく料理の伝統を共有していたことが示唆されました。
私たちの研究は、初期の狩猟採集民の食事が、現代の調理法と同じように複雑であることを決定的に示しています。
例えば、野生の木の実、エンドウ、ベッチ(種子のさやを食用とするマメ科の植物)、草などを、豆やレンズ豆などの豆類、時には野生のノハラガラシなどと組み合わせて食べることが多かったようです。
(ただし、ノハラガラシはシャニダール洞窟でのみ、ホモサピエンスの住んでいた時代に遡って発見されたとのこと)
これらの結果は、狩猟採集民の食習慣、彼らの料理の功績、そして旧石器時代の採集民が主に肉食だったのか、あるいは熱心な菜食主義者だったのかについての以前の議論を大きく前進させるものです!」
リバプール大学考古学教授で、本研究の共著者であるエレニ・アソウティ教授は、次のように述べています。
「このような料理法は、新石器時代の農耕社会の特徴であり、今日私たちが理解している料理の起源であると考古学者や人類学者に長い間認識されてきました。
私たちの発見は、現代の調理技術が、農耕の始まりより何千年も前に、より深く長い祖先を持つことを示すものです。
この研究は、人類の食生活の進化を科学的に研究する上で、新たなフロンティアを開くものです」
(エレニ・アソウティ氏:リバプール大学より)
このような独創的な調理法は、かつて狩猟採集生活から農耕中心生活への移行(新石器時代への移行と呼ばれる)6,000〜10,000年前に初めて出現したと考えられていた。
しかしカブク氏によれば、7万年前のシャニダール洞窟で古代人が豆類を叩いて浸していた証拠は、アフリカ以外で植物を食用に加工した最古の直接証拠であるとのことです。
カブク氏は、先史時代の人々がこのように植物の素材を組み合わせていたことに驚いたというが、これは明らかに風味が重要であったことを示唆しているからです。
私たちの古代の祖先は、住んでいた場所によって様々な食事をしており、その中には様々な植物が含まれていたようです。
((左から)ギリシャのフランキティ洞窟でパン状の食品、イラク北部のシャニダール洞窟でワイルドピースを使ったパルス状の食品が発見された:the-pastより)
英国サウサンプトン大学人類起源考古学センターのジョン・マクナブ教授(この研究に関与していない)は、ネアンデルタール人の食生活に関する科学的理解は、「狩猟した獣肉を大量に摂取していたという考えから離れるにつれ」大きく変化したと述べています。
「シャニダールからの更なるデータが必要ですが、もしこの結果が支持されるなら、ネアンデルタール人は豆類や、食べる前に慎重な準備を必要とするイネ科のいくつかの種を食べていたことになります。
洗練された食品調理の技術は、これまで考えられていたよりもはるかに深い歴史を持っていました。
さらに興味深いのは、食べられない毒素を意図的にすべて取り除いたわけではない、という可能性である。種皮の存在が示唆するように、一部(特に苦味のある種の部分。ネアンデルタール人が選んだ味)は食品中に残っていたのです」
とマクナブ氏は述べています。
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この時期からネアンデルタール人は、苦味を美味しさの要素として考えていたようです。
う〜ん、これはすごいな。
動物は苦味のある食物は普通毒として口にしないはずで、食べるとしても経験的に体を楽にする解毒薬として使用するぐらいだと思いますが、苦味をうまいと感じることがこれこそヒト属の特性なのでしょうね。
さて、そして追加で取り上げますが、先史時代の食生活に関する別の研究が上記研究論文発表日と同じ日に発表されました。
これは、イタリア全土の研究機関に所属する大規模な研究チームが、古代人(ホモ・サピエンス)の歯石から採取した古代のDNAを用いて、古代人の口腔内に生息する真菌、細菌、ウイルスを分析し、イタリアで数千年にわたって狩猟から農業に移行した際の人類の食生活の変化を追跡することに成功したというものです。
新石器時代の人々の食生活が狩猟・採集から農耕へと徐々に変化するのに伴い、古代の口腔内微生物も変化した可能性が示唆されています。
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ヒトの口腔内の微生物は、私たちの健康に大きな影響を及ぼしていますが、私たちの多様な口腔内細菌と生活様式がどのように共進化してきたかについては、ほとんど分かっていません。
しかし農耕が始まる以前から、私たちの食生活は変化しており、それに伴い口腔内の細菌も変化していると考えられています。
古代の口腔内細菌を分析することで、過去3万3,000年にわたるイタリアでの食事パターンの発展(農耕の発達の前後)を明らかにする新しい研究がこのほど発表されました。
これは、フィレンツェ大学とパドヴァ大学が共同で行った研究の成果で、Nature Communicationsに「Ancient oral microbiomes support gradual Neolithic dietary shifts towards agriculture (新石器時代の食生活が徐々に農耕に移行したことを裏付ける古代の口腔内微生物群) 」というタイトルで発表されています。
同グループは論文の中で、旧石器時代、新石器時代、銅器時代に生きた人々の歯に付着していた石灰化した歯垢を調べ、食料を狩猟から栽培に移行したことによって生じた変化について詳しく述べています。
イタリアのパドヴァ大学で比較生物医学と食品を研究するアンドレア・クアリアリエッロ博士研究員率いる研究者たちは、先史時代のイタリアに3万年以上住んでいた76人の口腔微生物と、石灰化プラークに見られる微小な食物残滓を調査しました。
もう少し詳しく言うと、33,000年前から13,000年前に生きていた9人の狩猟採集民の歯石と、パグリッチ洞窟(8,200年前から4,200年前)で見つかった新石器時代から銅器時代の67人のサンプルを調べたということです。
ちなみにパグリッチ洞窟には、馬の画像など旧石器時代の遺物がたくさんあったとか。
(後期旧石器時代[紀元前3万1000〜1万1000年]、新石器時代[紀元前6200〜4000年]、銅器時代[前3500〜2200年])
(アンドレア・クアリアリエッロ氏:linkedinより)
その結果、この地域の人々の生活様式が劇的に変化した時期を含む約3万年にわたるデータにより、狩猟に依存した肉食を中心とした食生活から、発酵や乳の導入、農耕中心の食生活に伴う炭水化物への依存度の上昇などの変化がわかることで、食生活や調理法の傾向を明らかにすることができたといいます。
食料を栽培するようになると、食生活だけでなく、生活様式も変化しました。
少人数で食べ物を探してさまようことをやめ、農耕を中心とした大きな共同体を形成したのです。
重要なのは、微生物叢の変化を、食物摂取の証拠(歯垢中の食物片)および食物加工の証拠(砥石や動物遺体に見られる食物残渣)と関連付けることができたことだといいます。
この研究によると、多くの生理的プロセスに重要な役割を果たす口腔微生物叢は、生存戦略の変化と関連して変化する、すなわち細菌組成は新しい農業生計システムに徐々にそして段階的に適応していくということだと述べています。
その結果、口腔内の微生物組成には2つの大きな変化があることがわかりました。
1つは、人々が自家製の食品を食べるようになった初期のわずかな変化、もう1つは、新石器時代に農産物を食べることが主流になったときに起こったより顕著な変化です。
まず、新石器時代の紀元前6,200年から紀元前5,000年の間、農耕への移行の最初の数世紀で、最初の変化が起こったようです。
多数の新種の細菌が口腔微生物叢に出現し、それらは現在、ポルフィロモナス・ジンジバリス、タネレラ・フォーサイシア、トレポネーマデンティコラなどの口腔疾患や自己免疫疾患の原因と考えられているものも多く含まれています。
2番目のより顕著な変化は、新石器時代の後半(紀元前4,500-紀元前3,500年)に始まり、気候や環境が大きく変化し、人類の祖先の口腔内には新種の細菌が多く存在するようになり、旧石器時代の試料に存在した細菌はほとんど消滅する傾向にあります。
(この分野で行われた以前の分析では、気温の上昇に伴い、水資源の減少に耐えられる植物を栽培するようになった2つの段階が確認されている)
(イタリア銅器時代(紀元前3,000年頃)の巨大な歯石が沈着した前歯の例:physより)
細菌の機能プロファイルは、旧石器時代の狩猟採集民と新石器時代のコミュニティで異なっており、同じサンプルの歯石について行われた古生植物学の調査や、口腔の健康状態に関する人類学的情報と興味深い対応が見られるといいます。
生物学部のマルタ・マリオッティ・リッピ氏が旧石器時代の個体について行った古植物学的分析では、さまざまな穀物種に属する大量の植物成分、特にデンプン粒が発見されたという。
今回の研究で、南イタリアの狩猟採集民のコミュニティでは、すでに研究に協力したシエナ大学のグループが強調している動物性タンパク質と脂肪の摂取に加えて、食事における植物の摂取も非常に重要であったことが明らかになりました。
この発見は、興味深いことに旧石器時代の細菌種は、デンプン分解菌の存在がより高いことが観察されました。
歯石中の食物の微小片を調べると、その均一性は、動物やでんぷん質の植物を多食する、長年の自給自足戦略を表している可能性があり、実際、その後の新石器時代よりも植物の種類が多くなっている。
狩猟採集民は単に狩りをするだけでなく、オート麦などの雑穀を石で挽いて食べていた。
このことは、この植物が南イタリアの旧石器時代の狩猟採集民の食生活の一部であったことを示しています。
また、黄色いスイレン(Nuphar lutea)の根茎を摂取した痕跡も確認されました。
一方、新石器時代及び新石器時代以降の試料では、植物種のばらつきが小さく、機能的プロファイルも異なっており、特に新石器時代末期の第二移行期には、ガラクトース(乳製品に非常に多く含まれる糖)を代謝する種や病原性因子が多く存在することがわかりました。
新石器時代には、初期の農民は小さな村に移り住み、陶芸の技術を身につけ、また食生活も炭水化物が多く、タンパク質が少ないものに変化していった。
興味深いことに、気温の上昇という環境変化が起こった時期は、新石器時代の後半に研究者たちが観察した口腔内微生物組成の変化の第二段階と一致している。
気候変動は、この地域の新石器時代の人々の食生活にさらなる変化をもたらし、その変化は口腔微生物の特徴に影響を及ぼし、病原性種の増加や個人の健康悪化につながる兆候が見られた。
新石器時代のサンプルでは、歯の病気の発生率が高いのです。
なお、不可解なこともあって、有史以前の人々は畜産業が発達した後も、主に近東、中央アジア、アフリカの砂漠地帯を中心に、他の多くの地域で大規模な狩りを行っていたようです。
実際、少なくともいくつかの場所では、新石器時代以降に狩猟が盛んになったようです。
「今回の研究で、古代人集団における口腔微生物とライフスタイルの対応関係が初めて明らかになりました。
微生物の進化史だけでなく、人類集団との共進化を再構築する上で、この研究の重要性を確認することができました」
と著者らは主張しています。
「この研究はまた、新石器時代はかつて考えられていたような新しい生活様式や新しい文化の突然の到来ではなかったという考えを裏付けるものでもあります。
新石器時代は、もっとゆっくりとした移行期だったようです」
と前述のマクナブ氏は語っています。
(ジョン・マクナブ氏:サウサンプトン大学より)
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う〜ん、この研究も示唆に富んでいますね。
旧石器時代では実は多くの植物(炭水化物)を食べていたため多様な微生物が口腔内に存在していたが、新石器時代以降、つまり農耕を始めたあとは種類の少ない一定の植物(炭水化物)を多く摂取するようになり、栄養状態がよくなった代わりに、限定的な炭水化物の種類によって口腔内の微生物の多様性も失われ、現代にまで続く疾患のもととなっている細菌により病気を発症する可能性が高くなったというのですから。
これは、腸内細菌叢の多様性を維持することが健康に重要だと言われるようになったことと同じなんじゃないかと思うのです。
無酸素状態の大腸内と酸素が豊富な口腔内とでは、同じとは言えないでしょうが、同じような作用が起こるのではないかと思います。
現代の私たちは、このような研究から明らかになった歴史を学ばなければなりませんね。
ちなみに、ネアンデルタール人と私たち現代人に関わる腸内細菌の話は2021/4/24に書いてありますので参考まで。//
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この間熊さんが、勢い余って「夏の暑いときでもチシャに酒をかけたら元気になる」と言ってしまい、おかみさんに突っ込まれていましたが、どうやらそれは本当のようなんです。
今年の6月に理化学研究所ほか共同研究グループが、植物にエタノールを摂取させると暑さに強くなるという研究成果を発表していますので、まずはその話題から。
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理化学研究所、筑波大学、横浜市立大学の共同研究グループは、一般的なアルコールとして知られているエタノールを摂取することで、植物が熱ストレスに耐えられる可能性があることを突き止めました。
この研究は、6/22のPlant Molecular Biologyに「Ethanol induces heat tolerance in plants by stimulating unfolded protein response(アンフォールドタンパク質応答の促進によるエタノールによる植物の耐熱性誘導)」というタイトルで掲載されています。
地球温暖化によって、世界中の農作物が暑さで収量減少のリスクが高まっています。
このリスクを減らす方法を見つけ出すことは、農業の持続可能性を守ることにつながるだろうと期待されています。
遺伝子組み換え技術を使えばそれに対応できますが、より簡単で安価に実施できるローテクによる解決策も求められているのです。
理化学研究所環境資源科学研究センターの関原明チームリーダーは、
「遺伝子組み換え植物はすべての国で容易に入手できるわけではないので、斬新でシンプル、かつ安価な技術を開発する必要があります」
と指摘します。
科学者たちは、これを実現するために安全な化学物質で作物を前処理することを有望視しており、植物を環境ストレスに対して強くするさまざまな化学物質を探しています。
そして関氏たちは、暑さにさらされる前にエタノールを植物に投与するだけで、暑さに強くなることを発見しました。
共同研究グループは、レタスとモデル植物であるシロイヌナズナを使って低濃度のエタノールに数日間暴露しました。
その後、エタノール処理した植物と未処理の対照植物を、熱ストレスを引き起こすのに十分な高温(50℃)で短期間栽培。
その結果、熱ストレスに耐えたのは無処理株ではわずか10%だったのに対し、処理株では最大70%が生き延び、エタノールの効果が非常に大きいことがわかったそうです。
(シロイヌナズナにおけるエタノール投与による高温ストレス耐性の強化:理化学研究所より)
また彼らは、この効果の背後にある分子メカニズムについても手がかりを得ることができました。
エタノール処理によって活性化される、一連の遺伝子と生化学的プロセスを特定したのです。
この反応の特徴の一つは、小胞体と呼ばれる細胞小器官でストレス適応に関与する結合タンパク質-3(BIP3)と呼ばれるタンパク質の産生が増加することです。
(エタノール投与によるの高温ストレス耐性強化のメカニズム:理化学研究所より)
このストレス応答は、環境ストレス時に発生するタンパク質の不完全な折り畳みの影響を緩和することから、アンフォールドタンパク質応答(折り畳み異常タンパク質応答)と呼ばれています。
小胞体及び小胞体ストレス応答(UPR)
小胞体は、真核生物の細胞内に存在する膜状構造の細胞小器官の一種。
この器官内では、生命現象の維持に必須なタンパク質の加工(折り畳み)や糖鎖などの修飾が行われる。
小胞体ストレスとは、折り畳みが不完全なタンパク質が小胞体内に過剰に蓄積してしまった状態を意味する。
タンパク質の加工プロセスは外部環境の変化に非常に敏感であり、高温や乾燥、病害などのさまざまな刺激を受けると、正しく加工されていない不完全なタンパク質が蓄積してしまう。
真核生物はこのような状態を回避するシステムを持っており、そのシステムを小胞体ストレス応答と呼ぶ
(理化学研究所より)
(Unfolded protein response(UPR)の概要:日本生化学会より)
関氏たちは、今後このメカニズムの解明をさらに進めていく予定だということです。
「アンフォールドタンパク質応答が関与していることはわかりましたが、エタノールを介した環境ストレス適応ネットワークの未知の側面を明らかにするためには、さらなる研究が必要です。
このメカニズムを解明することで、保護効果を高める方法や、より多くの生物種に応用できるような微調整ができるかもしれません。
エタノールの外用は、さまざまな植物の耐暑性を高める、簡単で安価で効果的な方法かもしれません」
と関氏は言う。
今回の発見によって、気候変動の影響に強い作物を低コストで作る方法を提供する可能性があり、農作物の高温耐性を強化する肥料や技術の開発に貢献すると期待できるとのことです。
**********
さて6月の研究によって、植物に対するアルコールの意外な効果がわかったわけですが、5年前にはアルコールが植物の耐塩性も高めることを発見していました。
塩害は、かんがい農業による塩類集積や海沿いの地域で生じ、農作物の生産に大きな悪影響を及ぼしています。
植物は高濃度の塩によるストレス(高塩ストレス)にさらされると、根からの水分の吸収の阻害や光合成の低下などが生じ、また活性酸素の蓄積が誘導され細胞死が引き起こされます。
世界の人口が増え続けている中、塩害に強い作物や肥料の開発など早急な問題解決が求められています。
理化学研究所の関チームリーダー、佐古 香織特別研究員、横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科のフォン・マイ・グエン大学院生らの研究グループは、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業の一環として研究を行い、エタノールが植物の耐塩性を高めることを発見しました。
この研究は、2017/7/3、Frontiers in Plant Scienceに「Ethanol Enhances High-salinity Stress Tolerance by Detoxifying Reactive Oxygen Species in Arabidopsis thaliana and Rice(エタノールによるシロイヌナズナおよびイネの活性酸素の消去による高塩分ストレス耐性の向上)」というタイトルで掲載されました。
世界のかんがい農地では、その約20%で塩害が発生しており、作物の成長や収量に大きな被害をもたらしているそうです。
このため、こうした塩害から植物を守る技術の開発が望まれているわけです。
そんな中、研究グループはシロイヌナズナとイネの解析等を行い、エタノールを投与する処理によってエタノールが活性酵素の蓄積を抑制することにより耐塩性を強化することを明らかにしました。
実験で高濃度の塩によるストレスを加えたところ、未処理のシロイヌナズナは白くなって枯死しましたが、エタノール処理をした場合は塩ストレス下でも生存できました。
(高塩ストレスを加えるとシロイヌナズナは白く枯死した。一方、エタノールを処理した植物は塩ストレス下でも生存できた:科学技術振興機構より)
次に研究グループは、耐塩性強化のメカニズムを明らかにするため網羅的な遺伝子発現解析を実施しました。
その結果、高塩ストレスによって発生する活性酸素を除去するために働く遺伝子群の発現が、エタノール処理によって増加することがわかりました。
また、活性酸素の一種である過酸化水素を消去するアスコルビン酸ペルオキシダーゼ(アスコルビン酸を基質として過酸化水素などの過酸化物を無毒化する酵素)の活性も増加することを明らかにしました。
(エタノールは活性酸素の蓄積を抑制する(高塩ストレス下では活性酸素が蓄積し茶色を呈す。一方エタノールを処理した植物は塩ストレス下でも活性酸素の蓄積が抑制された。DAB染色は活性酵素を茶色く検出する:科学技術振興機構より)
実際に、シロイヌナズナとイネの両方でエタノール処理が活性酸素の蓄積を抑制し、耐塩性が強化されることも明らかになりました。
これらの結果から、単子葉植物・双子葉植物のいずれにおいても、エタノールは活性酸素の蓄積を抑制することによって耐塩性を強化することが示されたのです。
この研究で、植物の耐塩性を安価で入手が容易なエタノールが強化することがわかりました。
今後この研究を発展させることで、かんがい設備の設置が経済的に困難な地域などで、塩害に強い農作物を育生する肥料の開発、収量の増産につながると期待されます。
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そしてさらに今年の8月には、理研ほか共同研究グループが、植物が干ばつ時に生き延びるのにアルコールが役立つという研究成果まで発表しました。
この研究は、8月25日発行のPlant and Cell Physiologyに「Ethanol-Mediated Novel Survival Strategy against Drought Stress in Plants (エタノールを介した植物の乾燥ストレスに対する新たな生存戦略 )」というタイトルで掲載されました。
理研環境資源科学研究センター植物ゲノム発現研究チーム、横浜市立大学木原生物学研究所、龍谷大学農学部、名古屋大学、筑波大学、農業・食品産業技術総合研究機構などの共同研究グループは、エタノールを土壌に添加すると、2週間水を与えなくてもイネや小麦などの植物が生育することを明らかにしました。
この発見は、水が不足しているとき、コストと時間がかかり時に議論を呼ぶ遺伝子組み換え植物の生産を必要とせずに、安全で安価、広く入手可能なエタノールで世界中で食糧生産を増やす実用的な方法として提供できます。
今後、人口増加や気候変動による水不足が深刻化すれば、食料不足になるだろうことは想像に難くない。
このため、植物が水不足で枯れないようにする方法を考えなければなりませんが、植物に遺伝子組み換え技術を使って、葉にある気孔を閉じさせ植物から水が出ていくのを防ぐというやり方があり、これが一定の効果を上げています。
しかし暑さ対策と同じく、遺伝子組み換え作物を作るのはお金と時間がかかるし、最も必要としている国々が平等に遺伝子組み換え作物を手に入れられるとは限りません。
そこで研究グループは、別のアプローチで研究を進めてきました。
植物が水を奪われるとエタノールを生成することを知っていた彼らは、エタノールを植物に与えれば、将来の干ばつから植物を守ることができると考えたのです。
エタノールは、酵母などいくつかの生物で、嫌気的条件下における解糖系の最終産物である。
これをアルコール発酵という。
嫌気的条件下では、NADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を NAD+ (酸化型)にリサイクルする必要がある。
ここは、代謝の多様性がみられる興味深いポイントの一つで、生物によって以下のような違いがある。
・哺乳類では、NADHがピルビン酸にH+を渡して乳酸を作る。
・酵母やバクテリアは、以下の 2 段階の反応でエタノールを作ることで、NADHをNAD+にリサイクルする。この反応を アルコール発酵 ethanol fermentation といい、エタノール生合成の有名な反応である。
・ほとんどの高等植物も、同じ経路でエタノールを産生することができる。果実などはかなり高濃度のエタノールを含む場合がある。低酸素状態だけでなく、各種のストレスでもエタノールが作られる。ミトコンドリアに負担をかけないための応答と考えられている。
(Ultrabemより)
この仮説を検証するために、十分な水を与えながら約2週間植物を育て、そして土壌をエタノールで3日間前処理し、その後2週間水を与えないようにした。
すると、エタノールで処理した小麦やイネの約75%が水を与えても生き延びたのに対し、未処理のものは5%以下しか生き延びなかった。
(2週間水を与えなかった小麦は、土壌を水で前処理した場合(左)には生存できないが、3%エタノールで前処理した場合(右)には繁栄することがわかった。イネやモデル植物のシロイヌナズナも同様であった:physより)
研究グループは、エタノールがこの2つの重要な作物を乾燥から守ることを明らかにした後、シロイヌナズナを使い、まず葉に注目しその理由を調べることにした。
その結果、エタノールで処理したシロイヌナズナは、水を奪われるとすぐに気孔が閉じ、葉温が上昇することがわかりました。
そして、水を失ってから11日目、12日目には、これらの植物は無処理のものよりも葉に水分が保持されていることがわかった。
次に、水不足になる前となった時の遺伝子発現を解析しました。
これにより、干ばつ時にどのようなプロセスが活性化され、エタノールが植物の根に取り込まれた後、どうなるかを確認することができたといいます。
水を奪われる前からエタノール処理した植物には、通常、水不足時に発現する遺伝子を発現し始め、さらにエタノール未処理植物の葉の水分量が低下するのと同じ頃、エタノール処理をした植物は、エタノールから糖を作り、光合成を行っていたのです。
具体的には、エタノールが体内に取り込まれて代謝され、酢酸や糖、アミノ酸ができて蓄積していたこと、そして気孔が閉じて二酸化炭素の取り込みが減るものの、体内で作られた糖により成長が維持されることや、グルコシノレート、フラボノイド、アントシアニンなどの乾燥耐性に関わる有用な物質が多く作られ蓄積することも明らかになり、つまりエタノールを与えると、これらの効果が組み合わさって乾燥に強くなると考えられるとのことです。
(エタノール誘導性の乾燥ストレス耐性強化をつかさどる作用機序のモデル:理化学研究所より)
関氏たちは、エタノールで土壌を処理することで、いくつかの面で干ばつを緩和することができると言います。
「まず、水がなくなる前から干ばつに関連する遺伝子が発現し、植物に準備を先取りさせることができます。
すると気孔が閉じて、葉がより多くの水分を保持できるようになります。
同時に、エタノールの一部はさまざまな糖を作るための原料として使われ、気孔が閉じている状態では通常得ることが難しい、必要なエネルギーを供給するのです。
私たちは、小麦やイネなどの一般的な作物を外因性エタノールで処理すると、干ばつ時の作物生産量が増加することを発見しました。
これは、水が不足しているときでも、遺伝子組換えをすることなく、安価で簡単に作物の収穫量を増やすことができる方法なのです」
と関氏は語っています。
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いやはや、アルコールを摂取した植物のパワーってすごいですね。
というか植物に少々ストレスを与えると、もともと持っているポテンシャルが高まり、塩害に強く、乾燥にも耐え、暑さのなかでも生き延びることができるようになる、ということなんでしょうね。
恐るべし、地球上で最も古くから存在し生物界の覇者でもある植物の潜在力。
地球の歴史からすれば、ほんの短い間生きているだけのホモ・サピエンスごときは、こうはうまくいかないだろうなあ。
しかし熊さんの根拠のない、いい加減な思いつきが実は真実を現していたとは、熊さんの潜在力もたいしたものなのかも?(笑)
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このブログでも、「植物の知性」というテーマでいくつか記事を書きました。
(GIZMODOより)
ある種の植物は、ハチの鳴き声を聞くと、受粉への報酬としてより多くの蜜を生産する。
また、イモ虫に葉を食べられると、植物はより多くの化学物質を生産して撃退しようとする。
植物が切断されるときに発する電気的スパイクは、"鳴き声 "や "叫び声 "に例えられることがあります。
科学的な議論はまだ分かれているものの、植物が互いに音声のような複雑なコミュニケーションをとっている証拠だとする見方もあります。
また、菌糸がコミュニケーションを通じて、森林生態系の中で重要かつ複雑な役割を担っていることを示す研究もある。
菌糸の微細な根がネットワークとなり、木々をつなぐことで、水や養分を共有し、コミュニケーションを図っているのです。
植物が菌根菌を使ってコミュニケーションをとっていることについては、2020年10月10日の記事でも書いています。
菌根菌は、植物の根と密接な関係を結ぶ目に見えない糸のような菌で、土の中に広大なネットワークを持ち、近隣の植物をつないでいます。
この菌根菌の働きによって、植物は通常、土の中のわずかな隙間から菌根菌が供給する栄養分や水分を得ることができるようになります。
これにより、植物が栄養を得られる面積が大幅に広がり、乾燥への耐性も高まります。
その見返りに植物は菌類に糖分や脂肪酸を与えることで、双方に利益をもたらしているのです。
菌根菌だけでつながっている植物を使った実験では、ネットワーク内のある植物が虫に襲われると、近隣の植物の防御反応も活性化することが分かっています。
菌類ネットワークを介して、警告信号が伝わっているのです。
また、植物がこの菌糸を伝って単なる情報伝達だけ行っているわけではないことが、他の研究によって明らかにされています。
ある研究では、樹木を含む植物は、糖などの炭素系化合物を近隣の植物に転送することができるようです。
このような菌糸を介した炭素の伝達は、特に苗木の生育を助けるために有効であると考えられます。
特に、苗が他の植物の陰になり、光合成や炭素固定が制限されている場合はなおさらです。
しかし、この地中の信号がどのように伝達されるのかについては、まだ議論の余地があるとのこと。
そして今年4月6日Royal Society Open Scienceに「Language of fungi derived from their electrical spiking activity(電気的スパイク活動から得られる菌類の言語化)」というタイトルで発表された研究により、キノコは人間の言語に似た構造でコミュニケーションをとっている可能性があると示唆されたのです。
西イングランド大学Unconventional Computing Laboratoryのコンピュータ科学者アンドリュー・アダマツキー教授は、菌類の電気信号を分析し、英語やスウェーデンの言語に構造的に類似したパターンを発見したと述べています。
このアダマツキー氏はかなり面白い人物らしく、以前、菌類コンピューターを作ったり、粘菌や菌類でできた生きたウェアラブルを着たりする研究を発表していたようです。
(アンドリュー・アダマツキー氏:西イングランド大学ブリストル ブログより)
多細胞動物の体内および細胞間のコミュニケーションのほとんどには、高度に特殊化した神経細胞が関与しています。
これらの細胞は、神経系と呼ばれるネットワークを介して、生物のある部分から別の部分へメッセージを伝達します。
神経系の「言語」は、電位スパイクの特徴的なパターン(インパルスと呼ばれる)で構成されており、生物はこのパターンによって周囲の状況を察知し、迅速に反応することができるのである。
菌類は神経系を持たないにもかかわらず、菌糸という糸状のフィラメントを伝って電気的インパルスで情報を伝達しているようなのです。
この糸は菌糸と呼ばれる細い網を形成し、土壌中の菌類コロニーをつないでいるのですが、これらのネットワークは動物の神経系と驚くほどよく似ている。
このインパルスの周波数と強度を測定することで、生命界における生物間のコミュニケーションに使われている言語を解明し、理解することができるかもしれない。
英国ブリストルの研究者たちは、菌糸体(菌類の微細な根)が付着した基材に微小電極を挿入して、4種の菌類の菌糸に伝わるリズミカルな電気的インパルスを測定した。
4種の菌類の電流のスパイクのパターンを調べたところ、そのスパイクは 振幅、周波数、持続時間によって変化しており、トレイン(活動の列)にまとまっていることが明らかになった。
その4種類とは、幽霊キノコ(Omphalotus nidiformis)、エノキタケ(Flammulina velutipes)、スエヒロタケ(Schizophyllum commune)、サナギタケ(Cordyceps militaris)です。
((a) サナギタケ、菌類がコロニーを形成した基質のブロックをプラスチック容器から取り出した実験後の写真、(b) スエヒロタケ、菌類の付いた小枝を湿ったプラスチック容器から取り出した実験後の写真、(c) エノキタケ、容器は密閉しておいて蓋から電極を突き刺し、挿入した一対の差動電極の写真:physより)
「スパイクのトレインに、中枢神経系で観察されるようなバースト的なスパイクが観察されました。
この類似性は単なる現象的なものである可能性もありますが、これは菌糸体のネットワークが、神経細胞と同様にスパイクやスパイクの列の相互作用を介して情報を変換している可能性を示しています。
菌類が機械的、化学的、光学的刺激に反応し、電気的活動のパターンを変化させ、多くの場合、スパイク列の特性を変化させるという最初の証拠が得られているのです」
とアダマツキー氏は言う。
ただキノコの声に耳を傾けるには、忍耐が必要なようで、早口のスパイクは2.6分だが、ゆったりとしたスパイクは14分もかかるのだそうです。
すべてのスパイクをプロットすると、アダマツキー氏は間隔とギャップのパターンを人間の音声(英語)によく見られるパターンと数学的に比較しました。
その結果から彼はスパイクトレインのパターンを研究し、彼らが自分たちの間で言葉を交わしているのは間違いないと結論づけた。
これらのスパイクは、最大50個の単語からなる語彙に似ており、菌類語の基礎を形成していることを示唆していた。
そのなかで最もよく使われる単語は、5〜20個を超えないぐらいであることがわかった。
また、菌類語の長さは平均5.97であり、これは人間の言語に匹敵するという。
しかし菌類の種類によって話す言葉が異なっており、その複雑さも様々で、アダマツキー氏は彼らが何を言っているのか理解できていないことを認めています。
「何世紀も一緒に暮らしているにもかかわらず、我々はまだ猫や犬の言葉を解読できていませんし、菌類の電気的コミュニケーションに関する研究は純粋な幼児期にあるのです」
とアダマツキーは研究論文の中で書いています。
4種類の中で、スエヒロタケと幽霊キノコは、より複雑なコミュニケーション形態をとっており、その言語の複雑さと身体的特徴には相関関係がある、とアダマツキーは述べています。
このことから、菌類は独自の電気言語を持っており、近くにある食物やその他の資源、あるいは危険や損害の原因となりうるものなど、特定の情報を菌類同士、あるいは遠く離れた相手と共有しているのかもしれません。
アダマツキー氏によれば、この菌類が発する電気信号には複数の目的があるといいます。
「これはオオカミの遠吠えに似ていますね」
オオカミは頻繁に遠吠えをすることで、互いに警戒心を高め、群れを団結させます。
また、菌類は自分自身を守っている可能性もある。
菌糸の他の部分に誘引物質や忌避物質の供給源を伝達することで、水や栄養分を運んでいる可能性があるのです。
アダマツキー氏たちは、これまでの研究で、電気的、光学的、化学的、物理的な刺激に反応して菌類の電気活動のパターンが変化することを発見しました。
「菌類は、人間が感じるものすべてと、それ以上のものを感じることができます」
とアダマツキーは言う。
(UWE Bristol Research, Business and Innovationブログより)
基質のpHの変化、有害金属、CO2、流体の流れの方向などにも反応することができます。
また、菌類は化学的な合図、特に他の生物種のストレスホルモンを感知することができ、森林に生息する他の生物の健康状態や幸福度を報告している可能性もあると、アダマツキー氏は言う。
今回、真菌の菌糸に沿って直接、言語に似た電気的インパルスが伝達されることが明らかになり、菌糸によるメッセージ伝達の仕組みについて新たな手がかりを得ることができたと述べています。
アダマツキー氏は、この菌のユニークなセンサー能力を利用して、適応性のある建物のセンシングブロックや、自分の病気や空気中の有毒成分を知らせるウェアラブルを開発することができると考えています。
しかし、電気パルスのパターンがコミュニケーションの形態であるかどうかは、さらに研究が必要だといいます。
アダマツキー氏は、たとえそれが音声のパターンに似ていたとしても、パルスは単に菌類の増殖の結果である可能性があると認めている。
菌糸体の電気的スパイクを言語として解釈することは魅力的ではあるものの、今回の新発見には別の見方もあります。
電気パルスのリズムは、菌糸に沿って栄養分が流れる様子と似ているため、コミュニケーションとは直接関係のない菌糸細胞内のプロセスを反映している可能性もあるという。
栄養分と電気のリズムは、菌類が栄養分を求めて周囲を探索する際の成長パターンを示しているのかもしれない。
もちろん、電気信号が全くコミュニケーションを表していない可能性もある。
むしろ、電極を通過した帯電した菌糸の先端が、今回の研究で観察された活動のスパイクを発生させた可能性がある。
この研究で検出された電気的インパルスが何を意味するのかを確実に言えるようになるには、さらなる研究が必要です。
今回の研究で明らかになったことは、電気的スパイクは、菌糸体間で情報を伝達する新しいメカニズムである可能性であり、生態系における菌類の役割や重要性を理解する上で重要な意味を持つということです。
この結果は、菌類の知性、さらには意識についての最初の知見となるかもしれませんね。
これは非常に大きな可能性ですが、その定義によっては、人間が容易に知覚できない時間スケール、周波数、大きさで存在する可能性も考えられます。
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さてこの研究論文について、キノコの研究者であり昨年11月に生物有機化学研究の功績により紫綬褒章を受章した、静岡大学特別栄誉教授で静岡大学グリーン科学研究所の河岸洋和氏が、5/18のNEWSポストセブンで解説していましたので、ここでも紹介しておきます。
(河岸洋和氏: 国立大学附置研究所・センター会議より)
「これまでもマツタケとアカマツがそれぞれ成長に必要な物質を分泌しあっていたり、匂いを出して虫を誘引するなど、物質レベルでコミュニケーションをしていることはわかっていました。
しかし今回の研究は、キノコ内に流れる電気的な信号に着目している点で新しいといえるでしょう。
それを単語や文といった構造に当てはめていった点も、これまでの研究にはないアプローチです。
キノコの面白い特徴として、ひとつの場所に固まって生えているキノコの一部に光を当てると、光が当たっていない場所のキノコも一緒に成長したり、生えてきたりするんですよ。
それぞれのキノコは、キノコが生えている樹木や土の中で菌糸体という塊と繋がっていて、一見別々に見えるものでも同じ個体なのですが、この菌糸体を通じて今回のような電気信号のやりとりがされているとすれば面白いですね。
今後さらに研究を進めるのであれば、急に水をかけたり捕食者が近づいた時に、電気信号がどのように変わるかを見極めると面白いと思いますよ」
う〜ん、キノコのような菌類はやはり興味深いなあ。
アダマツキー氏は想像力が豊かでとても面白い人物ですが、河岸先生のようにキノコに魅せられて人生をこの研究に捧げる生き方をしている人をみていると、キノコがいかに魅力的な生き物であるかということがわかります。
そのうち私たちは、キノコ語が理解できるようになるかもしれませんね。
ちなみに、河岸先生たちのチームでは世界に先駆けて発表した研究成果が複数あるようで、その1つが米国映画「Fantastic Fungi(素晴らしき、きのこの世界)※」にも登場したヤマブシタケで、河岸先生はこのように説明しています。
「ヤマブシタケの抗認知症効果に関する研究を、1990年代に世界で最初に始めたのが、私たちのグループでした。
ヤマブシタケからは、1991年にヘリセノンC-Eを発見して以降、ヘリセノンF-H、エリナシンA-C、エリナシンD-Gから2000年のエリナシンH-Iに至るまで相次いで新物質を発表しています。
これらはいずれも、アルツハイマー病の予防や治療への有効性が指摘されている神経成長因子(NGF)の合成を促す化合物です」
※:この映画は、キノコや菌類の秘める力に迫るドキュメンタリー作品ですが、実は河岸先生の名前も登場するそうです。日本では昨年公開されたようですね。公式ウェブサイトに河岸先生がコメントを寄せています。
(この映画については、このブログでも昨年3/20に「ミツバチを救う伝道師」というタイトルの記事の中でも少し紹介しました)
その後、教授らのチームは、ヘリセノン類とエリナシン類を使ったラットによる動物実験も行った結果、動物実験においては学習能力の改善効果が明らかにされたそうです。
とはいえ、直ちにヒトに対する効果があるとまではもちろん言えないものの、ヤマブシタケは安全な食用キノコであるため、いくつかの臨床試験か行われているとのこと。
その結果、これまでに6本の論文が発表されており、そのうちの5本は日本の研究者のものだという。
これにも研究情報が載ってますね。
いずれにおいても、ヤマブシタケの認知症患者に対する有効性が確認されていて、日本のほかにも中国、韓国、欧米でも健康サプリメントとして、ヤマブシタケの成分を配合した製品が多数販売されているそうですよ。//
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確かに雨が降ると植物はなんとなく元気になったように見えますが、実際はどうなんでしょうか。
どうやら植物は、雨にあたると免疫が活性化されるようです。
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雨は植物が生きるために欠かせないものですが、その一方で、雨の中には植物に害を与えるバクテリアなどの病原体も含まれています。
そんな雨から、植物はどのようにして身を守っているのでしょうか。
名古屋大学などの研究者たちの最近の研究によって、植物が雨にさらされると、葉の表面にあるトライコームと呼ばれる毛状の構造物がこの雨を病気を引き起こす危険因子として認識し(病原体の襲来を予見し)、免疫システムを活性化して感染を防ぐことが明らかにされました。
この研究成果は、3/8のNature Communicationsに「Mechanosensory trichome cells evoke a mechanical stimuli–induced immune response in Arabidopsis thaliana(メカノセンサー・トライコーム細胞が引き起こすシロイヌナズナの機械的刺激による免疫反応)」というタイトルで掲載され、雨によって引き起こされる感染症から植物を守る方法の開発に貢献する可能性があると示しています。
植物には、人間や他の多細胞生物と同じように独自の免疫システムがあり、植物は病原体を感知すると免疫関連遺伝子を発現して、自分たちが感染しないようにするのだそうです。
雨粒の中には、細菌や糸状菌、ウイルスなどの病原体が含まれているため、植物に病気を引き起こす可能性があります。
(植物に感染する病原体の多くは、雨が媒介しているとか)
従い彼らにとって雨は危険因子の側面をもつわけですが、植物の雨に対する応答機構は未解明でした。
そこで名古屋大学の多田安臣教授、野元美佳助教たちの研究チームは、「植物は雨を病気の危険因子として認識し、何らかの方法でその危険から身を守ろうとするのではないか」という仮説を立てました。
研究チームは、植物が雨にどのように反応するかを調べるため、シロイヌナズナの苗を用いて研究を行った。
まず、雨にさらされたときに葉でどのような遺伝子が発現しているかをRNAシーケンス法※で調査した。
(※RNAシーケンス法:任意の細胞や組織における遺伝子の発現レベルを調査する技術)
その結果、雨に反応していくつかの主要な免疫関連遺伝子が発現したのですが、これらの遺伝子はCAMTA(calmodulin-binding transcription activators:カルモジュリン結合型転写活性化因子)と呼ばれる免疫抑制遺伝子によって制御されていることが判明。
CAMTAはカルシウムイオン(Ca2+)濃度によって制御されていることから、研究チームは、雨が細胞内のCa2+濃度を上昇させる役割を果たしているのだろうと推測した。
そこで、シロイヌナズナの葉にCa2+と結合すると緑色に蛍光を発する遺伝子(GCaMP3)を導入し、雨に反応して葉のCa2+濃度がどのように変化するかを調べました。
その結果、雨にさらされると葉の表面にある毛状の構造物トライコーム※の周囲のCa2+濃度が上昇することがわかった。
※トライコーム:
植物の表皮細胞が伸びたもの。長い物としては、ワタの種皮のトライコームが綿だそうです。トライコームの役割は、それぞれのトライコームによって違うが、強い光に対する防御、強風時に気孔から過度に水分を失う事を防止する役割、小さな害虫が葉の本体に近づきにくくする役割などが言われています。そして多くの植物で、トライコームは特殊な物質を貯めていて、たとえばバジル、ミント、タイム等ハーブの匂い物質はトライコームに貯められ害虫を予防しています。トマトのトライコームにも害虫を寄せ付けない成分が入っているようで、トライコームに異常があるトマトの突然変異体は害虫に食われやすいという論文もあります。これらのトライコームの成分はテルペノイドやフラボノイドが多いとのこと。
(日本植物生理学会より)
(名古屋大学研究成果発信サイトより)
このことから、トライコームは雨を危険因子として感知(物理的な刺激を感知する感覚器として機能)し、葉全体にカルシウム波(局所的なCa2+の増加を周囲へ伝達する)を誘導して免疫抑制物質CAMTAを不活性化し、それによって免疫関連遺伝子を活性化していることが示唆されたということです。
次にこの仮説を確認するために、シロイヌナズナのトライコームを欠損させた変異体を用いて同様の実験を行ったところ、変異体ではカルシウム波の伝播が損なわれていることが確認されました。
(A:葉面上の毛状の細胞(トライコーム)は、力を感知すると緑色で示すようにトライコーム周辺組織にカルシウムウェーブを誘導する。
細胞内のカルシウムイオン(Ca2+)濃度をGFP蛍光として可視化できるGCaMP3を導入した組換え植物を使用した。
トライコーム周辺組織にカルシウムイオンが流入しているのが見てとれる。
B:雨によって免疫が活性化され、黒斑病菌による病斑の形成が抑制された。
名古屋大学研究成果発信サイトより)
多田教授は、
「今回の結果から、トライコームが雨を危険因子として感知し、免疫反応を活性化させる役割を担っていることが確認されました。
今回の成果は、植物の病気に対する防御力を、いつでも、いつまでも、人工的に向上させることができる可能性を示唆しています。
この技術を用いれば、植物に病気が発生する可能性のある厳しい環境条件の時に、作物の免疫反応を活性化させることが可能になり、結果として作物の収量を安定させることができるかもしれません」
と述べています。
**********
なるほど、免疫活性の仕組みが少しわかりましたね。
しかし植物の免疫システムってどういうものなんでしょうか。
その辺も、ちょいと調べてみました。
自然環境で生育する植物は、いつも病原菌による危険にさらされていますが、植物は細胞表面に病原菌に対する受容体を備えていて、この受容体が病原菌を感知すると免疫システムが発動します。
すると、植物細胞は活性酸素種(ROS)を作りだし病原菌を攻撃すると同時に、防御関連遺伝子の発現や細胞壁のリグニン化※、抗菌物質の産生等を導き、自身を病原菌から防御します。
(※リグニン化:
導管細胞や繊維などの細胞壁にはフェノール化合物であるリグニンが多く蓄積し、細胞壁の機械的強度を増しています。このような細胞壁を木化 (リグニン化) したという。リグニンはセルロースに次いで地球上に多い有機炭素化合物であるといわれる。リグニンのおかげで微生物や虫などに分解されにくくもなります)
免疫応答が弱いと病原菌に負けてしまいますが、ある種の微生物はワクチンのように植物の免疫システムを活性化できることが知られています。※
つまり、微生物が植物と相互作用することでワクチンのように働き、植物を病原菌から守ることができるため、微生物農薬としての応用に期待が寄せられているそうです。
※:植物は微生物の種類を識別する能力を持っていて、病原菌に対しては感染を阻止するための防御反応を誘導し、共生菌に対しては菌の侵入を受け入れるための共生反応を誘導します。このような微生物の識別は、植物の細胞表面あるいは細胞内に存在する受容体を介して行われています。植物の病原菌認識受容体の構造や働きは動物の自然免疫で働く受容体と酷似していることから、病原菌に対する植物の防御応答は植物免疫と呼ばれているそうです。一方病原菌はエフェクター(ほとんどのエフェクターはタンパク質で、植物の免疫誘導を阻止する機能や病原菌の増殖に有利な環境を作り出す機能をもつ)と呼ばれる分子を分泌し、その働きによって植物の免疫反応を阻止し感染を成立させているということです。
(日本農芸化学会 化学と生物「植物の自然免疫研究の最前線植物免疫の活性化機構と病原菌の感染戦略」より)
(植物のパターン認識受容体がMAMPを認識して、パターン誘導免疫を誘導する。病原菌はエフェクターを分泌し、エフェクターが宿主の免疫抑制などにより、感染しやすい環境を作る。また、植物のNB-LRR型受容体はエフェクターを認識しエフェクター誘導免疫を誘導する。
植物の自然免疫研究の最前線植物免疫の活性化機構と病原菌の感染戦略より)
東京理科大学理工学部応用生物科学科の古屋俊樹准教授、朽津和幸教授らの研究グループは、有機栽培で育てられたコマツナの内部から約30株の細菌を分離し、開発した微生物の植物免疫活性化能を評価する手法を利用した結果、一部の細菌は植物培養細胞のROS生成を亢進し、植物免疫を活性化できることがわかりました。
さらに、実際にこれらの細菌を植物に接種することにより、植物に耐病性を付与できることを明らかにしたということです。
(東京理科大学「植物の免疫システムを活性化する微生物の簡便なスクリーニング手法を開発〜微生物と植物との細胞間相互作用に着目〜」より)
病原体に対して高い防御能力を発揮すると同時に、良性の微生物とは「持ちつ持たれつ」の相互作用を展開することができるのですから、植物の免疫システムはとても興味深いですね。
また、徳島大学大学院生物資源産業学研究部の山田晃嗣助教たちは、2016年に植物がどのようにして身を守っているのかについて新たな免疫応答メカニズムを解明、2016年に「Regulation of sugar transporter activity for antibacterial defense in Arabidopsis. (シロイヌナズナにおける抗菌性防御のための糖トランスポーター活性の制御 )」というタイトルで論文を発表しています。
植物に感染する病原菌は、生命活動を営むうえで非常に重要な元素である炭素を植物から糖を摂取していますが、植物は糖を細胞内へ回収することで、病原菌に糖を見つかりにくくしているのではないかと研究チームは仮説を立てました。
そして研究を行った結果、植物は細胞外の糖を隠して病原菌が糖を摂取しにくい状況を作ることで、病原菌に栄養を与えないようにして、さらには病原性因子の分泌を抑えることで、病原菌の感染力を弱めているということがわかったのです。
病原菌は宿主から糖を摂取していますが、植物は光合成によって空気中の二酸化炭素から糖を合成することができます。
(植物以外の生物は、他の生き物を食べることでしか炭素を獲得できない)
植物に感染する病原菌の炭素摂取方法は、たとえば病原細菌のイネ白葉枯病菌の場合、イネの細胞を操作して細胞内に蓄えられている糖を強制的に細胞外へ排出させ摂取するという例も報告されていて、戦略的に行われているようです。
病原細菌の多くは、葉の表面に空気の出し入れを行うために空いている穴である気孔から葉の内部に侵入し、植物細胞の隙間で増殖します。
(植物病原細菌の多くは気孔から葉に侵入して植物細胞の隙間で増殖する:academist journal「植物は病原菌からどう身を守るのか? – 新たな免疫応答メカニズムの解明」より)
そこで山田氏たちは、植物は勝手に糖を奪っていくというロシアのような暴挙をさすがに黙って見すごすわけがないはずと考え、「植物は糖を細胞内へ回収することで、病原菌に糖を見つかりにくくしているのではないか」と仮説を立てました。
細胞は膜に囲まれているため、そのままでは糖は細胞内には入りません。
糖を細胞内へ運ぶには、膜に埋め込まれている糖輸送体と呼ばれるタンパク質が働く必要があります。
2011年に研究チ−ムは、植物細胞の糖の取り込みには、STP1とSTP13という2つの糖輸送体が主に関与していることを報告していました。
そこでまずはじめにSTP1とSTP13の遺伝子を破壊した植物に細菌を感染させ観察すると、STP1とSTP13のある植物に比べて細菌の感染がより広がることがわかりました。
これはつまり、糖輸送体の働きが、病原細菌の増殖を抑えることに重要な役割を果たしていることを示しているわけです。
次に、植物の免疫応答と糖輸送体の関係性についての解析を行いました。
実験で測定したところ、植物の免疫応答が活性化すると、糖の取り込み活性が増加することがわかりました。
これは、植物は病原菌がやってくると細胞外部の糖を積極的に回収していることになります。
またその糖の取り込み活性の増加は、糖輸送体STP13の働きによるものであることもわかりました。
さらに、STP13は植物細胞表面にある病原菌センサーと結合し、リン酸化という修飾を受けることを見出しました。
そしてそのリン酸化によって、STP13の糖の取り込み活性が増加することがわかった。
これらのことより、植物は病原菌が侵入してくると、センサーが活性化し、リン酸化によってSTP13の糖の取り込み活性を増加させ、細胞外の糖を回収して細胞の中へ隠していることがわかったのです。
(病原菌が侵入してきた際には病原菌認識センサーが活性化し、リン酸化により糖輸送体STP13の糖の取り込み活性を増加させることで細胞外の糖を回収して細胞の中へ隠している:academist journal「植物は病原菌からどう身を守るのか? – 新たな免疫応答メカニズムの解明」より)
糖は病原菌の栄養となるため、糖がない状況では、病原菌は増殖しにくくなります。
しかし糖の役割は栄養としてのみではなく、細胞のスイッチとしての働きもあることが知られています。
病原菌は、宿主の免疫応答を抑える病原性因子を分泌しています。
(上述のエフェクターですね。通常は病原性因子を分泌しないが、宿主に感染したときにのみ分泌するそうです)
植物に感染する細菌の場合は、糖がスイッチとなり病原性因子を分泌するということが知られていたので、研究チームは植物細胞が細胞外の糖を回収することは、細菌の病原性因子の分泌の抑制に繋がっているのではないかと考えました。
そして実際に、糖輸送体STP13がリン酸化されて糖の取り込み活性が上昇することで細菌の病原性因子の分泌が抑えられるということがわかったそうです。
植物は細胞外の糖を隠して病原菌が糖を摂取しにくい状況を作ることで、病原菌に栄養を与えないようにして、さらには病原性因子の分泌を抑えることで、病原菌の感染力を弱めているということがわかったわけです。
(academist journal「植物は病原菌からどう身を守るのか? – 新たな免疫応答メカニズムの解明」より)
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いやはや、植物の免疫システムも動物に劣らずよく考えて(?)作られていますねえ。
またしても、植物を見る目からウロコが落ちましたよ。
まあ確かに植物は動物が地球上に現れる前から、長い間進化を続けているので、そういう意味では生物としての先輩ですし、よく練られたシステムであるのは当然かも知れませんね。//
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そのため森の中には、ときに周囲の木の年齢の10〜20倍以上も生きている古木が存在するといいます。
私たちはそのような古木に対して、古から畏敬の念を感じ、また神聖な存在として信仰の対象にもしてきました。
樹木の中には、気の遠くなるような長寿を誇る種があります。
カリフォルニア州のホワイトマウンテンには、5,000年以上も生き続ける超長寿のブリストルコーン・パインの個体が生息しています。
カリフォルニアのジャイアントセコイアは3,000年以上生きたという記録があり 、チリとアルゼンチンのパタゴニア・ヒバも同じく長生きです。
世界最古の木は、ユタ州のフィッシュレイク国立森林公園にあるカロリナポプラで、約8万年前から生きているといいます。
しかし、一般的な木でも数百年という非常に長い寿命を持つことがあります。
私たち動物とは違い、樹木はある一定の寿命が来たら死ぬようにプログラムされてはいません。
その代わり、強風で樹冠がマッチ棒のように折れたり、虫害で養分を奪われるなど、外からの力によって死ぬことが多い。
しかし、成木になってその土地に定着すると、死亡率は劇的に低下し、自然環境におけるランダムなプロセスに反応するのだといいます。
(homiletixより)
成木の枯死率は毎年1.5〜2%程度とされています。
死に近づく体内時計を持っていない木は、干ばつや病気、天候に左右されず、森の平均的な木より2〜3倍長く生き続けます。
このような原生林の最古木の樹齢は、1,000年近くにもなるそうです。
そこで今回、米国CTS(Center for Tree Science:樹木科学センター)の研究者たち※は、はるかに年齢の高い木がどのようにして現われるのか、また森全体にどのような影響を与えているかを調べることにしました。
※:この研究には、バルセロナ大学生物学部、生物多様性研究所(IRBio)、栄養・食品安全研究所(INSA)のセルジ・ムネ・ボッシュ教授、専門家のチャック・キャノン氏(CTS モートン樹木園、米国)、ジャンルカ・ピオヴェサン氏(トスカーナ景観・環境計画・デザイン大学、イタリア)が参加。
しかし、古木の成長過程を実測することはできません。
大きな木ですが、森の中で一番大きいとは限りませんし、木の年代測定は必ずしも簡単ではありません。
例えば熱帯の木には、四季のある温帯地域の木のようなはっきりとした年輪がなかったり、また樹木の研究が進んでいる地域でも、樹齢のカタログが十分でない場合があるそうです。
そのため調査にあたっては、主にシミュレーションによる手法が用いられました。
イリノイ州ライルにあるモートン樹木園のCTS長であるチャールズ・キャノン氏は、コンピューターモデルを用いて、森林が成長し成熟するにつれて、古代の木がどの程度普及するかを推定しました。
樹木の寿命は人間よりもはるかに長いため、コンピュータ・モデリングは、長い期間にわたる森林の変化を理解するための最良の方法の一つであると、キャノン氏は述べています。
(チャック・キャノン氏:モートン樹木園サイトより)
研究者たちは、1年あたりの木の死亡率や環境変化を数値化し、さまざまな条件で15,000年にわたる期間での成長過程をシュミレートしました。
その結果、研究チームは、森林で最も古い木の年齢は成熟した木の全体的な死亡率に大きく依存することを、1/31のNature Plantsで「Old and ancient trees are life history lottery winners and vital evolutionary resources for long-term adaptive capacity(古木・古代の木は生命史の宝くじ当選者であり、長期適応能力のための重要な進化的資源である)」というタイトルで報告しました。
百年、千年単位で生存し続けるこれらの古木は、威厳のある存在感をもたらしてるだけでなく、常に変化する環境の中で長期的に森林の適応能力を維持するために不可欠な生き物であることが明らかになったのです。
森の中で最も古い木が、数千年にわたる森林の繁栄を支える遺伝的多様性を保持している可能性があるといます。
環境が激変して現在の森の主流派となる木々の生育が困難になった場合でも、さまざまな時代の異なる環境で生育した古木たちがいる場合、森は速やかに回復することが可能になります。
そのため森にとって古木は、異なる環境に適応する遺伝子を撒き散らしてくれる、貴重な存在だったのです。
研究者によれば、これらの黄金の遺伝子は、後から入ってくる周囲の木の遺伝的多様性と健康状態を根本的に変え、森林の枯死を食い止め、何千年にもわたって繁栄させるのに役立っているとのことです。
(モートン植物園のオールドバーオーク:studyfindsより)
1,000年近く前に根を張り繁茂した木は、周囲の若い木とは全く異なる条件で繁茂した可能性があります。
キャノン氏は、
「森の中の古木は、若い隣人と比べて異なる遺伝的プロファイルを持っているかもしれないので、これは重要なことです。
これらの古い樹木は、異常な環境条件に耐えられる種子や花粉を生産し、遺伝的保険のようなものを提供しているのかもしれないのです。
しかし、逆に木が森の足を引っ張ることもあります。
もし、その苗木が”現在存在しない環境に適応したもの”であれば、その遺伝子の貢献はかえって森を弱体化させてしまうかもしれませんから。
いずれにせよ、ほとんどの古代樹はサイズが大きいので、大量の種子と花粉を生産することになります」
と述べている。
また、樹木は動物のように年をとっても繁殖を止めません。
つまり、樹木の大きさと樹齢は、森林の多様性と再生産に多大な影響を及ぼす可能性があるということです。
「この研究の一環として、数千年にわたる古代の森林から生まれる”人口動態”のパターンを調べたところ、ごく一部の木が生活史の『宝くじ当選者』となることがわかりました。
彼らは、環境サイクルの橋渡しとなる高年齢に達することさえあるのです。
私たちのモデルでは、これらの希少な古木は、森林の長期的な適応能力と、植物集団の世界的な遺伝的多様性の保全に不可欠であることが証明され、時間的スパンが広がっているのです」
と、キャノン氏は指摘する。
研究チ−ムは、古代の木は一般的な成木の10倍から20倍まで生きることができると述べています。
森林の1%にも満たないこれらのユニークな樹木は、広大な森林の集団に不可欠な偉大な遺伝的・生物学的多様性を提供し、数百年から数千年にわたる幅広い歴史的環境条件を反映しているわけです。
「千年樹は数百年、数千年にわたるいくつもの環境変化を乗り越えてきたものであり、その回復力は森にも伝わっている。
また、これらの老木は、森林生態系に貴重なサービスを提供しています。
千年樹は、絶滅危惧種を含む他の生物種に生息地を提供し、若い樹木に比べて大量の炭素を吸収しています」
とボッシュ氏は指摘する。
(セルジ・ムネ・ボッシュ氏:バルセロナ大学生物多様性研究所(IRBio) より)
しかし今、地球上で最も古い森林が、人間の活動によって脅かされています。
研究の中で述べられているように、世界的に自然力による森林破壊が進行しており、北方生物圏から熱帯地域まで、世界的に樹木の枯死率が高まっているのだといいます。
その結果、気候変動の影響などで死亡率が最も高いシナリオでは、樹木がその年齢に到達する能力は限られているか、事実上不可能であることがわかりました。
キャノン氏は、
「伐採と森林整理のおかげで、太平洋岸北西部とアパラチアの一部を除いて、北米ではこれらの古木は希少になってしまった。
現在生き残っている古木は、ボルネオやアマゾンなどの熱帯地方に多く生息しており、それらの森林は日々減少しています。
気候変動に伴い、樹木の死亡率が上昇し、古代の樹木が森で生き残ることが難しくなる可能性があります。
したがって、老木や古木を伐採すれば、それらが持つ遺伝的・生理的遺産や、自然保護のためのユニークな生息地を永遠に失うことになる。
彼らは非常に重要であり、重要な役割を担っていると、私はますます確信している。
原生林は何世紀にもわたって培われた財産であり、一度伐採してしまえばもう元には戻らないのです」
とキャノン氏は指摘しています。
(研究者たちは、気候変動や森林伐採により古くからある樹木が世界的に少なくなっていることに警告を発した:dailymailより)
地域や世界の生息環境を改善するために、森林再生や植林などの行動がとられていますが、何世紀、何世代も経過しなければ、老木を回復、再生させることはできないと警告しています。
「これらは、新しい再生林では再現できない、最古の森林の新たな特性であり、保護されなければならない」
と研究チームは強調している。
「これらの研究は、森林だけでなく、少数の古代の木を保護することによって、生物多様性を保全するための世界的な戦略が緊急に必要であることを想起させます。
無傷の森林を保全することだけでなく、特に管理された森林景観の中で生き残った少数の古代樹を保全することだ。
自然再生プロジェクトにおいて、古木は将来の原生林の生物多様性の拠点となり、生態系の機能を保証する独自の体力を提供することができる」
と、専門家のピオヴェサン氏は結論づけています。
(ジャンルカ・ピオヴェサン氏:researchgateより)
研究チームは今後も、古木に焦点をあてた研究を行い、世界中の森林の適応力を高める手段を探していく予定だということです。
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古木に対して、畏敬の念を感じ神聖な存在として扱う信仰は、日本でも伝承されていますし、日本人のようなテレパシックな民族であればなおさら、そう感じてしまうのではないでしょうか。
日本では古来から自然に神が宿るという信仰が続いていて、樹木や岩、山、滝などが崇められてきました。
太古より日本人が古い樹木や巨樹のなかに見出したのは、植物としての生命だけではなく、精霊や神様といった目には見えないが畏怖すべきなにかが宿ると考え、お供えをし、土地の人々を守ってもらえるように手厚く祀っています。
こうした特別な樹木は、いつしかご神木と呼ばれるようになり、信仰の対象として崇められようになりました。
また、この世と神の世界の境にも結界としてご神木が立っており、大切に守り受継がれいます。
日本各地の神社の境内にひっそりとたたずむ御神木を見ると、たしかに神様が宿っていそうな古木で巨樹であることが多いですね。
樹齢千年、二千年という老木も珍しくありません。
ご神木は文献に寄れば、天を衝く高木、途方もない大きさの巨木、人の寿命をはるかに凌駕する古木に神性を見出したことに始まったとあるそうです。
ご神木はスギ、クスノキ、ケヤキなどの日本に自生する樹木が多く、スギは常緑の樹木で天に聳え立つ樹形から神様が降臨するための神憑木としての位置があり、クスノキやケヤキは樹高であることに加え、圧倒的な樹冠の大きさから神性が感じられたのかもしれないともいわれています。
また、寺院ではカヤやイチョウが大切にされ、巨樹・古木となって残っていますが、実が食用にできたり、油が搾れることなど救荒植物(きゅうこうしょくぶつ)としての価値があったとも考えられるそうです。
こんな感性を持ちあわせた日本人に生まれて、よかったと思います。
(livescienceより)
ちなみに、公立大学法人名桜大学付属国際EM技術センター・センター長で琉球大学名誉教授の比嘉照夫氏は、EM(有用微生物群)を研究開発(農業・畜産・環境・建設・工業利用・健康・医学などの幅広い分野で活用され、現在世界 150ヵ国余に普及)した方ですが、デジタルニューディールというサイトで「甦れ!食と健康と地球環境」というテーマの緊急提言を行っていますが、「第177回 環境中の微生物の機能とDNA密度の重要性」の中で、森の古木の役割をその一例として今回の論文を引用しています。
以下に一部引用します。
自然界における微生物は、常に活動を続け、生理生態的に生存環境を整え、総合的に生態系を維持する性質があり、物質のように固定的概念で捉えることは不可能である。
有用な微生物をより多く共生的に培養し、土壌に施用し続ければ、病原多発の「腐敗性土壌」から病気の発生しない「浄菌型土壌」に変わり、更に続けると、あらゆる有機物を無害に資化する「発酵型土壌」となる。
このレベルになると、有機物を細断し、地表に敷きつめるように施用すると堆肥化するよりも効果的である。したがって有機農業の難点となっている堆肥化プロセスは全く不用となる。
EMを収穫残渣レベルの有機物と一緒に施用すると、土壌中の微生物の種類と数が圧倒的に増大することは今や常識となっている。
最近のメタゲノム分析法では、環境中に存在する微生物のDNAをすべて特定することが可能となり、DNAそのものが量子力学的振る舞いをすることも明らかとなっている。
次に紹介する森の古木の役割もその一例である。
「〜今回の論文が引用されている〜」
EMを使い続けると、森の古木よりも環境に供給するDNAの量は圧倒的に多くなり、究極の農地は根本的に環境や健康、自然生態系を豊かにする力があることを再認識すべきである。
最近実用化されたLPS(リポポリサッカライド)は、グラム陰性菌の細胞壁の分解物であるが、免疫ビタミンとして呼ばれるようになっている。
EMの中に居る光合成細菌は機能性の極めて高いLPSをも産生する特性も有している。
自然界でLPSを産生するパントエア菌は、EMと共生的に繁殖する性質があり、EMで発酵した果物や果物の皮のピューレにも増え、更には腸内でLPSを作る力がある。すなわち、万能的な免疫ビタミンを日常的にEM生活で充足できる仕組みを作ることができ、病気にならない生き方が可能ということになる。
昔から体に良いとされてきた玄米はLPSも豊富です。
穀類では細菌が表面に共生する関係上、LPSは外側に多くなります。だから精白米より玄米の方がLPS量が多いのです。
ところで、植物の栽培に、化学肥料を使うと細菌の種類が偏り、農薬を使うと細菌が死滅します。
こういったことから、近年野菜についているLPS量は減っています。
野菜のビタミンやミネラルが昔よりずいぶんと少ないのと同じで、野菜本来の力が弱くなっているとも言えるでしょう。
これらのことを総合的に考えると、有機物を使用せず、農薬を使用しないことを売りにしている水耕栽培もDNAの総合力を考慮しない限り未来はないといえる。
この提言の中で、「DNAそのものが量子力学的振る舞いをすることも明らかとなっている」という記述があり、その後で「次に紹介する森の古木の役割もその一例である」とつないでいるのがよくわかりませんが(笑)、このDNAの量子力学的振る舞いについては、また別途記事にしますね。//
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昨日までTシャツ、短パンだったんですが、今日から長袖、長ズボンです(笑)
今日から晩秋ですか。
いやまだ早いな。
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今回の研究論文には、ちょっと驚きました。
タイトルは「Primitive eusociality in a land plant?(陸生植物の原始的な真社会性?)」
真社会性といえば、ハチやアリ、シロアリなどの昆虫や甲殻類(ある種のエビ)などが知られていますが、それ以外にこのブログでも「ハダカデバネズミとグーグル」というタイトルで前編(2019/5/11)と後編(2019/6/22)にわけて記事にしたように、哺乳類の一部ぐらいだと考えていたからです。
多くの動物は、さまざまな程度の複雑さを持った社会集団で生活しています。
真社会的なコロニーのメンバーは、複数の世代に属し、子孫の世話を協力的に行い、一部の者だけが繁殖し、他の者はコロニーの福祉のために働くだけなのです。
それがまさか植物までもとは。
(クワガタシダ:ja.haenselblattより)
いや、失礼しました。
いままで何回も植物がいかにすぐれた能力を持っているかを記事にして書いてきたくせに、いまだに心のどこかで植物を下等な生物であると思っているところがあったのかもしれません。
これからは、もう少し心を入れ替えてちゃんと植物を見る必要がありますね。
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ニュージーランドのビクトリア大学ウェリントン校の生物学教授であるケビン・バーンズ教授たちは、真社会的な植物を発見したと主張しています。
バーンズ氏は、オーストラリアとニュージーランドの間に位置する小さな火山島、ロード・ハウ島を中心に研究を進めています。
ロード・ハウ島は、オーストラリアとニュージーランドの間に位置する小さな火山島で、1788年にイギリス人が発見し、領有権を主張、現在はオーストラリアのニューサウスウェールズ州が管理しており、発育不良の熱帯乾燥林、珊瑚礁、いくつかの山があって、多くの固有種の動植物が生息しているほか、328人の居住者と400人の観光客が浮かんでいるといいます。
(ケビン・C・バーンズ氏は、動植物の生態や進化に関わる幅広いテーマに関心を持ち、動物で開発された概念や仮説、方法論を植物に応用したり、逆に植物で開発された概念や仮説、方法論を植物に応用することを常とするフィールドバイオロジストです:science.thewireより)
5月に発表された研究報告は、生物の複雑さの進化についての理解を覆すもののようです。
バーンズ氏の研究対象は、着生植物であるシダ植物のクワガタシダ(Platycerium bifurcatum)です。
着生植物とは、植物に寄生する植物のことですが、他の植物に発芽しても栄養を取らない非寄生性の植物で、すべての栄養を空気や雨水から得ています。
クワガタシダは、木の上で個々のシダとして成長するのではなく、高い位置にある厳しい環境に適応するために、コロニーを作って生活しています。
バーンズの研究チームは、クワガタシダが単独で発生することはなく、常に他のコロニーから離れた、1コロニーあたり6〜58個体の明確なコロニーに集まっていることを発見。
(このシダのコロニーでは、扇形の巣葉(木の幹に近い部分に生えている)の多くは不妊で、細い紐葉(巣葉の間から上に突き出ている)がコロニーの生殖能力を高めている:sciencenewsより)
個体の大きさ、形、質感はそれぞれ異なっていますが、コロニー内では常に隣り合って成長し、パズルのピースのように組み合わさってバケツのような水と栄養の貯蔵庫を形成して、コロニーのメンバー全員が利用できるようになっているといいます。
そして多くの個体は繁殖をせず、他のコロニーメンバーのために水を取り込んだり蓄えたりすることに専念しているのです。
木の上の生活
樹木の上は植物が成長するのに厳しい環境であり、土のない樹上では水や栄養などのストレスにさらされます。
水分や栄養分の不足を補うために、着生植物はさまざまな工夫を凝らしています。
ブロメリアはカップ状の葉をつけ、ランは特殊な根組織を持っていますが、クワガタシダは、この問題を克服するためにコロニー型のライフスタイルを開発しました。
クワガタシダは園芸店で購入することができるもので、他の鉢植えと同じように成長します。
しかし、ロード・ハウ島の自然の中では個々の植物が協力し合って、共同の水と栄養の貯蔵庫を作るために、しばしば自分の繁殖を犠牲にして、異なる作業に特化していることを発見したのです。
ちょうど社会性昆虫のように。
(島杉の樹冠の中で、褐色の吸水性のある巣状の葉をコロニーの底部と中心部に、緑色の紐状の葉を外側に突き出すように生育しているクワガタシダのコロニー:sciencenewsより)
この発見は私たちの理解を大きく変えるものでした。
これは真社会性への大きな進化が、植物と動物の両方で起こりうることを示唆しているのです。
何十年もの間、多くの科学者たちは、真社会性という言葉は、高度に協力的な昆虫の一部に限られるべきだと考えていました。
そのため、真社会性が自然界に存在することに懐疑的な見方が広まったようです。
生物の複雑性の進化
40億年前、生命は自己複製可能な単純な分子として誕生し、この単純な起源から複雑な生物へと向かって今日に至っています。
進化生物学者は、生物の複雑さは、ゆっくりと連続的に変化したのではなく、突然の大きな進化への転換が生じたと考えています。
例えば、単細胞生物が多細胞生物に進化したように、独立した存在が協力し合って、より複雑な新しい生命体を形成するとき、そのような移行が起こります。
(植物の進化の初期には、単細胞の藻類が結合してより複雑な構造になっていた:theconversationより)
また、バクテリア(原核細胞)のような細胞から、真核細胞のように核を持ち、特殊な機能を取り込み小器官を持つ細胞へと変化した例もあります。
オルガネラ(細胞内小器官)の進化の背景には、協力関係があるとのこと。
オルガネラは、自由に生きていた祖先が、他の細胞の壁の中で安全に暮らすために、独立性を捨てて進化したと考えられます。
一般的に認識されている大きな進化の変遷は8つあって、真社会性は最も新しいものに入るといいます。
真社会性の動物は、他の動物とは基本的に3つの点で異なります。
・異なる世代の大人で構成されるコロニーで生活する。
・労働力を生産的なグループと非生産的なグループに分けている。
・協力して子孫を育てる。
過去2年間、ロード・ハウ島で観察した結果、クワガタシダがこれらの基準を満たしていることがわかったとのこと。
(ロード・ハウ島。マウント・エリザからマウント・リドバードとマウント・ガワーを望む:science.thewireより)
高度に真社会的な種では、カーストのメンバーシップは永続的で変化しませんが、原始的な真社会性を持つ種では、個体はコロニーで必要とされる多くの役割に合わせて行動を変えることができるようです。
バーンズ氏はこのように述べています。
「クワガタシダは、おそらく後者のカテゴリーに当てはまると推測してます。
クワガタシダは、真社会性の連続性の中でどのような位置にあるのか、今後の研究で明らかにしていきたい。
しかし、今のところ、植物と動物は、生物学的な複雑さを追求する進化の道筋を共有していることがわかっています」
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ベンガルールにあるインド科学研究所の生態科学センターで、科学技術省(DST)の科学年チェアプロフェッサーを務めているラガヴェンドラ・ガダグカル氏がこの論文に対しscience.thewireに、クワガタシダの真社会性について詳しくそして興味深い文章を載せています。
(ラガヴェンドラ・ガダグカル氏:ces.iisc.ernetより)
今回時間がなく私からちゃんと説明が書けなかったので、ご興味ある方はこちらも読んでみてくださいね。//
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JUGEMテーマ:植物、自然
仕事は在宅ワークなのですが昨日は会社で打合せがあり出勤したのですが、通勤途中、道端に大きな黒アゲハがいました。変なとこにとまってるけどあまりの暑さに夏バテ??大丈夫かな??
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JUGEMテーマ:植物、自然
雨の土曜日 早朝ベランダで妹ワンコが何かと格闘しているので口元を見たらカマキリの赤ちゃんが.....。あ〜もうそんな季節かと思い鉢植えをくまなく見るとあちこちに10mm程度の赤ちゃんがいました。今年も我が家で生まれてくれてありがとうね。外敵に気を付けて大きくなるんだよ。
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JUGEMテーマ:植物、自然
ハイビスカスさん 今年もたくさん花を咲かせ、楽しませてくれてありがとう。数年前にホームセンターで買って確か土も替えていないけど次から次へと花が咲いてくれてベランダがにぎゃかでした。あ〜あ〜 沖縄へ行きたいな〜♪
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