ご無沙汰してます、モモントモリの桃川です!
寿限無の公演、大成功だったとの吉報を日本でいただきました。
森くん、お疲れ様!!どうもありがとう〜!!
当初から「絵本を作る」という目的で二人で進めておりました共同事業、
現場の環境の都合もあり、「森くんの語りを中心として絵を使う」という形で
ついに日の目を見る機会に恵まれましたこと、本当にありがたい限りです!!
私は日本でほぼ孤独に悶々と絵をかきなおし続けていましたが、
きちんと作品にでき、発表できたことは、森君のプロデュース力の大きさはもちろんのこと、
彼の意志を応援し、フォローしてくれる方々の支えがあったからこそなのだろうと思います。
本当にありがとうございます。のっかるだけ乗っかってしまってすいません・・・(笑)
さて、今回はせっかくなので自分の描いた絵についてご紹介。
今回はおよそ10枚ほどの絵を使用したのですが、
全編、絵葉書サイズの画用紙を使って、「筆ペン」を使って描いてみました。
話の全貌が明らかになる前から森君からは「落語の寿限無の話を題材にしたい」と聞いてました。
なら、日本画に代表する「毛筆」を利用して書いてみよう、と思ったのがきっかけです。
普通の筆ではなく、筆ペンを利用したのは単純に「便利だから」でした(笑)
ちょっとした時間に外にいて筆ペンなら一本持っていれば執筆できるので当初思った以上に使いやすかったです。
(その分ボツにした絵も山のごとしですが)
・筆ペンを使うならペンのサイズの都合上、紙もあまり大きくできないこと
・滲みなどを利用してもある程度丈夫であること、
・値段が安いこと
以上三点を理由として、手ごろな価格の画用紙のはがきを利用しました。
このまま誰かに送っちゃってもいいですね(笑)
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Facebook(桃川個人): https://www.facebook.com/haruyuki.momokawa
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嘉数優子さんの『いちばん大切なこと』が電子書籍で2つの分野で新着カテゴリー1位になりました。
イラストもご自身で描いておられます。
大人向きの絵本風童話です。
以下は、まえがきより
私は、心理カウンセラーとして
今までに、いろいろな方の心の少し深い部分にあるお話を、たくさん聴かせていただきました。
自分にとって本当に大切なものは、失ってから初めて気づく。
そのように感じることが本当に多く、時には切なくて、胸を痛めることもあります。
もし、失う前に気づくことができたなら、何かを変えることができるのかもしれない。
そんな思いを込めて、書き上げました。
大の読書好きの私の、1番大好きな本である
サン=テグジュペリ
「星の王子さま」のような、読みやすい小説の中に、イメージしやすいイラスト(挿絵)と共に。
この本は、あまり本を読むのは得意ではないという方にこそ、お読みいただけるように、
まるで、1本の映画でも観るような感じで、さくっとお読みいただけるように
仕上げさせていただきました。
世代、性別を問わずに、全ての方に。
どうか、1人でも多くの方の心に届けることができますようにと祈っております。
嘉数優子さんの『いちばん大切なこと』
電子書籍はこちら。
紙の本も発売です。
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ロバとイヌが仲良くエサを探していました。
道のとちゅうで向う側からネズミが歩いて来たので、イヌがたずねました。
「いやぁ、ネズミくん、この先にはエサがあったかい?」
ネズミは道の先を指さしながら答えました。
「うん、この先に看板(カンバン)があってね、そこにエサのある場所が書いてあったよ」
エサがあると聞いてロバとイヌは大喜び。
ネズミに礼を言って、
「エサがあるって!」
「ウン、おいしいのがあるとイイね!」
と、ウキウキした気分で歩きました。
しばらく歩くと、看板がありました。ネズミが言っていたものでしょう。
ロバとイヌは看板に近づき、字が読めるロバが、イヌにもきこえるように読みました。
「この先、三本の木が立っています。一番左側の木の下に、たくさんの麦があります、だって!」
看板を読んで、麦が大好物のロバはうれしそうな声をあげました。
イヌは麦が食べられないのでガッカリしましたが、ロバがうれしそうにしていたので、
「麦だって、よかったねロバくん」
「ヒヒヒーン、ありがとうイヌくん」
「ところで、看板には他になにか書いてない、肉とかホネとか」
ロバは看板を読み返しましたが、
「他には、何も書いてないねぇ」
「そっかぁ……」
イヌはガッカリしました。
ロバはキョロキョロと辺りを見わたしました。
イヌがあまりにもガッカリしていたので、他にイヌのエサの情報は無いかと思ったからです。
「あ、」
ロバは何か見つけました。
「ねぇ、ねぇ、イヌくん、あっちにも看板がありそうだよ」
と、ロバは走りました。
イヌはもロバを追いかけました。
看板の前に来ると、ロバは書いてあることを読みました。
イヌはシッポをふって、ロバの読む声をききました。
「三本あるうちの、まん中の木の下には、人間が置いて行った干し草があります、だって」
「干し草か〜」
イヌはガッカリしました。また食べられるものでは無かったからです。
「ロバくん、そっちもキミが食べるといいよ」
と、イヌは力なくいいました。
ロバはイヌがかわいそうでしかたありません。しかも、自分一人でエサを食べる気にもなりません。もう一度、キョロキョロと辺りを見わたしました。
しかし、もう看板は見当たりませんでした。
とりあえず、ロバとイヌは三本の木のところまで行ってみることにしました。
さっきまでは楽しい旅だったのに、今は二人とも、ガッカリして歩いていました。
そして、三本の木に着きました。
左側は一面の麦畑、その横には干し草がさくさん積んでありました。
その光景に、ロバは今にもよだれがこぼれてきそうでした。
しかし、となりでガッカリしているイヌの姿をみると、素直に喜べませんでした。
ロバは、なにか無いかとキョロキョロ探していると、遠くに緑色の何かを見つけました。
「イヌくん、あの緑色のものはなんだろう」
イヌも見ました。それは右側の木のずっと先にありました。
「なんだか、赤いのものも見えるね」
「行ってみようか」
二人は右の木の向う側へ走っていきました。
「あ、カンバンがあった」
ロバはすぐに、書いてあることを読みました。
「おいしいトマトです、だって」
「トマト!」
イヌはさけびました。
「食べれる?」
と、ロバは、おそるおそるききました。
「うん、まえに食べたことある、あまずっぱくて、みずみずしくておいしいよ」
「やったね!」
ロバは喜びました。そして、「みずみずしいのなら、ちょうど、のどがかわいたから、ボクも食べよう!」
と、ロバが言いました。
二人は仲良くトマトを食べました。
「おいしいね」
「うん、のどがうるおうよ」
ロバとイヌはおたがいの顔を見ながら喜びました。
そして、しばらく二人はトマトを食べて、大満足してかえりましたとさ。
おしまい。
JUGEMテーマ:創作童話
]]>生まれたばかりのひな鳥が、ピヨピヨと鳴きながら歩いていました。
ひな鳥が一羽で歩いているなんて、とても危ないことです。
ピヨピヨ歩いていると、目の前に、
なんだか毛むくじゃらなものが見えました。
ひな鳥は顔を上げていくと、
ずっと毛むくじゃらが上の方へと続いています。
そして、行き着いた先には顔がありました。
「ニャー!」
その顔は、恐ろしい顔が声を上げました。
(『ニャー』と鳴く大きな毛むくじゃらにあったら、
すぐに逃げるのよ)
と、母鳥に言われたことをひな鳥は思いだしました。
(やばい! 逃げなきゃ!)
ひな鳥は一目散に逃げだしました。
すると、毛むくじゃらも追いかけてきます。
ひな鳥はまだ上手く飛べません、バタバタと羽を激しく動かして
少し飛んで、ちょこちょこ走り、またバタバタと羽を動かして
少し飛んではちょこちょこ走る、をくりかえしながら必死に
逃げました。
毛むくじゃらも逃がしてなるものかと、前足で捕まえようとしますが、
ひな鳥は、ちょこまかちょこまかと巧みなステップで逃げるので、
捕まえることができません。
必死に逃げているひな鳥の行く手には壁があり、
そこには小さな穴が開いていました。
ひな鳥がここへやって来たときに通った穴です。
壁の向うにはひな鳥の家があり、母鳥もいます。
あの穴の大きさなら、毛むくじゃらは通れないはずです。
ひな鳥は羽をバタバタさせて、少し飛んではちょこちょこ
穴に向かって走りました。
ひな鳥の頭の上を、毛むくじゃらの足が、
“ビュンビュン”と音を立てて、何回も何回もかすめました。
ひな鳥は何も考えずに、ただ、穴に向かって一目散に走りました。
穴はすぐそこです。
ひな鳥は最後の力を振り絞って壁の穴に飛び込みました。
穴をすり抜けたのと同時にひな鳥は、なにか激しい衝撃を背中に受け、
前のめりに転んでしまいました。
どうやら毛むくじゃらの足が穴の中に入って来て、
ひな鳥にあたったようでした。
(いててててて)
ひな鳥は痛みを感じながら立ちあがり、後ろを見ました。
先程通った壁の穴から、毛むくじゃらの足だけが出ていて、
右へ左へと激しく動いていました。
どうやら毛むくじゃらは、足しか穴に入れられないようです。
「ふーぅ」
ひな鳥は、とりあえず逃げ切れて安心したように息をつきました。
すると、
「もう、どこへ行っていたの!!」
という母鳥の声が聞こえてきました。
「姿が見えないから、心配したでしょ!!」
もう、カンカンに怒っているようでした。
ひな鳥は、謝るよりも先に、
「ママ! 毛むくじゃらにあったよ!」
というと、母鳥は全身の羽を逆立たせて、
「なんですって!」
と、大きな声を上げました。
しかし、ハッとした顔になって、すぐに身をかがめて、
小さな声でひな鳥に言いました。
「それで、毛むくじゃらはどこへ行ったの?」
ひな鳥は穴の方を指さして、
「あそこ」
と言いましたが、もうそこには毛むくじゃらの足は
ありませんでした。
「アレ? いない」
不思議がっているひな鳥に、母鳥は小声で言いました。
「あの穴まで来ていたってことは、ぐるりと回り道をして、
すぐにこちら側にやってくるわ、こうしちゃいられないわよ」
と言ったあと「こちらに来なさい」と母鳥が言うので、
ひな鳥はついて行きました。
少し歩くと、母鳥は背の高い大きな赤いツボの前で立ち止まりました。
そしてツボを見上げながら言いました。
「ここに入るわよ」
ひな鳥は背の高いツボを見ながら、
(こんなに高く、飛べないよ)
と思い、無理だよ、と言おうとしたとき、
首の辺りを母鳥に噛みつかれました。
それは母鳥が高いところへ連れてってくれるときにしてくれることと
同じで、ひな鳥は慣れていました。
ひな鳥を加えた母鳥は大きく羽ばたくと、背の高いツボの入口を目指し、
高く飛びあがりました。
ひな鳥は、今まで飛んだこともない高さにいるのが珍しくて、
ウキウキしました。と、同時に、母鳥の力強さに、
とても安心しました。
母鳥はツボの頂上まで行くと、すぐに中に入り、
ツボの底に着地しました。
“ゼーェ、ゼーェ”
と、母鳥は羽を上下に揺らしながら苦しそうに息をしていました。
「とにかく、ここでしばらく、静かに、していましょう」
母鳥は苦しそうに途切れ途切れにそう言いました。
それから母鳥とひな鳥はお互いの体を寄せ合いました。
しばらくすると、何やら、足音のようなものが聞えてきます。
ひな鳥は怖くなり、母鳥にしがみつくように体を押し付けました。
母鳥も小刻みに震えているようでした。
ひな鳥が耳を澄ませてみると、毛むくじゃららしき足音は、
近づいて来たかと思うと遠くなり、また近づいて来ては、
反対側に行くといった具合に聞えました。
ひな鳥は、ブルブル震えていましたが、極度の緊張からか、
こんな時に、なんだか“くしゃみ”がしたくなってきました。
ひな鳥は小声で母鳥に言いました。
「ねぇママ、くしゃみしちゃダメかな?」
母鳥は、とんでもない! と言った表情で首を振りました。
ひな鳥はくしゃみを我慢しようと思いました。
しばらく毛むくじゃらの足音を耳を澄まして聞いてみましたが、
やっぱり、くしゃみがしたくてたまりません。
「ねぇママ、一回だけ、くしゃみしていい?」
母鳥は首を振りながら小さな声で、
「ダメよ、くしゃみなんてしたら、毛むくじゃらに見つかっちゃうわ」
と、言いました。
ひな鳥は、仕方ないなぁ、と思い、もう一回、
くしゃみを我慢しようと思いました。
くしゃみから気をそらそうと、毛むくじゃらの足音を聞いてみます。
(だいぶ向こう側を歩いているようだな)
ひな鳥はそう思いました。
(それにしても、くしゃみがでそうだな……)
毛むくじゃらの足音が近づいてくるのが分かりました。
(マズイ、こっちに近づいてきてる!
でも、くしゃみが!)
ひな鳥は必死にくしゃみを我慢しました。
(ダメだ、くしゃみしちゃダメだ)
ひな鳥は両方の羽で鼻を押えました。
(ダメ、ダメ、今くしゃみしたら見つかっちゃう)
足音は、どんどん近づいてきます。
(あぁーぁ、毛むくじゃらが……
あぁーぁ、くしゃみが……、くしゃみが……)
足音はまさに、ツボのすぐ向う側でとまりました。
(あー、ダメだー!)
「ハぁックショーーーーーーーーーーーンンンンン!!!!!!」
我慢して我慢した挙句に出たひな鳥のくしゃみは、
それはそれは大きなものでした。
そのくしゃみの衝撃で、なんと、ツボが粉々に割れてしまいました。
「ギニャー」
という悲痛な叫びのような声が聞こえました。
飛び散ったツボの向うに、一目散にその部屋から逃げだしていく
毛むくじゃらの後ろ姿が見えました。
ひな鳥は、なにが起こったか良く分かりませんでしたが、
とりあえず今は、くしゃみが出てスッキリとした気分です。
ふと、横を見ると、母鳥が倒れていることに気づきました。
「ママ! ママ!」
ひな鳥が叫ぶと母鳥は目を覚まして、
「もう、大声を出さないで、クラクラする」
と、頭を振りました。
「ママ、毛むくじゃら、逃げて行ったよ!」
ひな鳥がそう言うと母鳥はすぐに我に返り、辺りを見渡して、
「本当だ、いなくなってるね、よかった〜」
と胸をなで下ろしました。
そしてひな鳥の顔を見ながら、
「あなたの大きなくしゃみに助けられたのね」
といって、ひな鳥を抱きしめました。
ひな鳥は、なんだか良く分からなかったけど、
母鳥の羽に包まれているのが気持ちよくて、
だんだんと、眠りの世界に入って行きました。
おしまい。
JUGEMテーマ:創作童話
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むかしむかし、あるところに、
おじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんとおばあさんは、二人が生活できるくらいの野菜を
育てて生活していました。
しかし、その年は天候が悪く、
秋になっても野菜があまり収穫できませんでした。
少ない食べ物で細々とした生活を送っていましたが、
お正月も近いし、たまにはなにか美味しいものを食べようか、
と思いました。
とは言え、なにか売ってお金に変えようとしても、
売るものがありません。
どうしたもんか、と考えていたとき、おばあさんが子どものころに
両親が、頭に乗せるカサを作っていたことを思い出しました。
それではカサを作って、街で売って、食べ物を買おう!
ということになり、おばあさんの遠い記憶を頼りに、
二人はカサを作りはじめました。
何日かかけて、なんとか売り物になりそうなカサが出来上がりました。
次の日、おじいさんとおばあさんは、
同じ数のカサを二人で背負い街まで売りに行きました。
街へは家で採れた野菜を売りに、しょっちゅう行き来していたので、
二人とも慣れていました。
街までの道中には、ところどころにお地蔵さんが立っていました。
道しるべのように立っているお地蔵さんの前を通るとき、
おじいさんとおばあさんはいつも、
「今日もご苦労様です」
と、手を合わせ、必ず、お供えをしていました。
今年は収穫量が少なく、細々と食べていくのがやっとでしたが、
家で採れたイモを、お地蔵さまの前に置きました。
街に着くまで、七体のお地蔵さんの前を通ります。
おばあさんはちゃんと七個のイモを持って来ていて、
お地蔵さんを見つけると、イモを置いて手を合わせました。
やがて二人は街につきました。
道の端っこに、二人は荷物を置きました。
いつも野菜などを売っている場所です。
おじいさんがゴザをひいて、その上に、二人でカサを並べました。
そして、おじいさんは声をあげました。
「カサだよ〜、カサはいらんけ〜」
おばあさんはゴザの上に腰をおろし、カサを一個一個、
布で拭いてキレイにしました。
二人はしばらくカサを売り続けました。
だいぶ時が経ち、日も傾いてきました。
二人はお昼も食べずに、代わる代わるに呼び込みをしましたが、
カサは全然売れませんでした。
「やっぱり、野菜じゃないと、売れないのですかねぇ」
と、おばあさんが言いうと、
「おばあさんのカサは、立派なんだけどなぁ」
と、おじいさんはカサをなでながらこたえました。
二人は、そろそろ疲れたから、店じまいして帰ろうか、
と話をしていると、
「冷たい」
空から、静かにゆっくりと雪が降って来て、
おじいさんの頭に乗りました。
「おや、雪だ」
「はい、雪ですねぇ〜」
おじいさんは、持っていた手ぬぐいを頭に巻いてから
二人は、なにも言わずに、なんとなく、雪を眺めていました。
「すみませ〜ん」
という声が聞こえました。
二人は声のした方を見ると、何人かの子どもが立っていました。
「おや、どうしました?」
おばあさんが声をかけると、
「カサ売ってください」
と、子どもがお金を差し出しながら言いました。
「おや、ありがとねぇ」
おばあさんは笑顔で言って、
「もう、店じまいしようとしてたから、差し上げますよ」
と、おじいさんに目を向けると、おじいさんは
「雪も降って来たし、持っていくといいぞ」
と、目を細めて言いました。
おじいさんとおばあさんはお金を受け取らず、
子ども一人一人にカサを渡しました。
カサを渡し終ると、持ってきたカサが
全部なくなってしまいました。
子どもたちはカサを嬉しそうに持ち上げたり
かぶたったりしていました。
すると、うしろからきた子どもが言いました。
「ありがとう、でも、悪いから、お金は置いてくね」
子どもはゴザの上にお金を置くとすぐに走り出し、
その子を追いかけるように、他の子も走りだしました。
「おやおや」
慌てておじいさんはお金をひろい、
子どもたちを追いかけようとしましたが、
子どもたちは、カサを両手で持ち上げながら遠くに行ってしまい、
楽しそうに小道を曲がって、あっという間に姿が
見えなくなってしまいました。
「あー、ただでよかったのに、りちぎな子たちじゃのう」
「ホントですね〜、ありがたい子たちですこと」
と、おばあさんは子どもたちが走っていった方に手を合わせました。
「じゃ、おばあさんや、このお金をこの街で全部使ってやろうな」
「そうですね、きっと、あの子たちも街の子ですから、
ここで全部使ってあげたほうが、良いでしょうなぁ」
と、二人は片づけをして、お店に入ると、
買えるだけの、たくさんのおもちを買いました。
「さぁ、雪が強くならないうちに帰ろう」
おじいさんとおばあさんは、おもちを食べるのを楽しみしながら、
来た道を戻っていきました。
二人は、帰り道もお地蔵さんに出会うと、手を合わせて挨拶をします。
最初のお地蔵さんの前にきたところで、二人は驚きました。
「おやおや、誰かがお地蔵さんにカサをかぶせてくれたのかのぉ」
「そうですねぇ、雪が降っているから、
優しい人が、かぶせてくれたのでしょうねぇ」
と、言いながらおばあさんは、街で買ったおもちを一つ、
お地蔵さんの前に置き、手を合わせました。
二人は帰り道をのんびり歩いて、やがて、
次のお地蔵さんのところにやって来ました。
「おやおや、このお地蔵さんも、カサをかぶっとるのぉ」
「ほんと、優しい人がいるのですねぇ」
おばあさんはおもちを置き、二人はお地蔵さんに手を合わせました。
そして、次のお地蔵さんのところへ行くと、
またカサをかぶっていました。
「おやおや、本当に、優しい人がおるのぉ」
「ホントですねぇ〜」
おばあさんはおもちを置いて、二人で手を合わせました。
その後も、出合うお地蔵さんは、みんな頭にカサをかぶっていました。
優しい人がおるのじゃのぉ、と二人は言いながら手を合わせ、
そして、家のそばにある、最後のお地蔵さんのところまで
やって来ました。
「おやおや」
そのお地蔵さんを見ておじいさんが少し驚いたような声を上げました。
「カサをかぶっとらんのぉ」
「ほんとですねぇ〜、雪が積もって可愛そうに……」
「カサが、足りなかったのかのぉ……どれ」
と、言っておじいさんはかぶっていた手ぬぐいを外し、
「わしなんかの手ぬぐいでスマンが、かんべんしておくれな」
と、お地蔵さんの頭の雪を払ってから被せました。
「おじいさん、それはいいことをしましたね」
おばあさんは笑顔で言うと、おもちをお地蔵さんの前に置きました。
そして二人は手を合わせました。
手ぬぐいを外し、あらわになったおじいさんの頭に、
ふわっとした雪が降りかかりました。
「冷たい」
と、おじいさんは言ってから、
「おや?」と何かに気付きました。
「どうしました?」
不思議そうにたずねるおばあさんに、
おじいさんは遠い記憶を探るように静かな口調で言いました。
「カサは何個作ったんだっけのぉ……」
「えーっと、確か、三つずつ背負って街にいきましたから、
六個ですかねぇ」
「お地蔵さんは、七体いらっしゃったのぉ……」
と、呟くおじいさんに、
「おや?」
おばあさんも何かに気付きました。
「子どもたちは、何人じゃったかのぉ」
「はて、数えてませんが、カサが全部なくなりましたねぇ」
おじいさんとおばあさんは、顔を合わせました。
「おや」
「まぁ」
おじいさんとおばあさんは、同時にあることに気づきました。
「お金を置いていったあの子には、カサを渡したかのぉ」
「覚えてませんね……」
そして、二人は、目の前のお地蔵さんを見ました。
おじいさんとおばあさんは、お互いの顔を見合わせると、
おじいさんの手ぬぐいをかぶったお地蔵さんに
手を合わせて、深々とお辞儀をしました。
おしまい。
JUGEMテーマ:創作童話
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++++あとがき++++
平成8年、22年前でした。
当時小学生だった姪が、今回の物語のモデルとなった手作りの人形をプレゼントしてくれました。
掌に納まる宝物。
この子たちを見たときの感動は、今もはっきりと覚えています。
10歳の子が誰にも教えてもらわず、想像力だけでこんなにも表情豊かなキャラクターを、どうして作ることができたのでしょうか。
そして見た瞬間に、ムー、マリン、アムル、ジョンの名前とタイトルが浮かびました。
姪にお礼の電話で「きっと、このお人形達を使った絵本を書くね」っと約束しました。それから、早くも22年が経ってしまいました。
仕事、介護、日常に追われる中でも「マリンを背負ったムー」が頭から離れたことはありませんでした。
一昨年リタイヤの後も出版の仕方さえわからず、夢に終わるのかと思った昨年の年末も押し迫った12月28日、今回お世話になった夢叶舎の小林真美さんとのご縁をいただきました。
そして年明けの2日にひと晩徹夜で書いた原稿をお送りしてから、挿絵にも挑戦してみようと思い立ち、古い色鉛筆やクレヨンなどを用意しました。
古い古いスケッチブックを開くと、なんと、そこにはまさに今から描こうとしたシーンのデッサンがありました。
この日のために、22年前の私が描いていたのでしょうか。
ぜひ、そのイラストを表紙にしようと小林さんがおっしゃってくださり、裏表紙の絵も今度は22年後の私が描きました。
サブタイトルの【眠る前に読む目覚めの本】も、正直なところ、降りてきたとか浮かんだとかしかご説明できません。
目覚めが覚醒の意味なのかは分かりませんが、私が考える魂の喜びを求める旅は、特別なことでなく寝る、食べる、対話、など日常の中にこそヒントがあると思っています。
個々の悩みも希望も、心配、落胆、喜びさえ、大きさ、深さは誰とも比べようがありません。
誰からも非難されることはないと、自信をもっていただけたら嬉しいです。
もちろん夢も、自分で持ちたいですね。
私に夢を持たせ続けてくれた姪っこ、写真を提供してくれた夫、色々サポートしてくれた友人達、小林さんをご紹介してくださった金子浩一さん。
皆さんのおかげで、構想22年、作成1週間という奇跡のような夢が叶いました。
ありがとうございました。心から感謝しています。
+++筆者プロフィール+++
すが きょうこ
1955年、大阪生まれ。
商売人の家に生まれ、幼いころより家業の手伝いをして大人達の会話を聞きながら育った。
学校を出てからは、印刷、化粧品、服飾、不動産などの各種会社に勤めた。
20代後半からはスナック、クラブの経営、その後デザイン事務所を開業。
40歳の時、カルチャー業界最大手で全国展開のNHK文化センターに入社。
支社長を歴任後、本当に自分がしたいことを見つけるために60歳で退社。
現在は各種セミナー、講演会、リトリートの主催を行う。
JUGEMテーマ:本の紹介
JUGEMテーマ:オススメの本
JUGEMテーマ:幸せなお金と時間の使い方
JUGEMテーマ:小説/詩
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昔々、盗みを繰り返していた大泥棒いました。
ある時、とても優秀な役人が現れ、とうとう捕まってしまいました。
牢屋に入れられ、明日は処刑される日です。
大泥棒を捕まえた役人が、牢屋の前にやって来て、
大泥棒に話をしました。
「どうだ、調子は?」
大泥棒は牢屋の中で体を紐で縛られ、
身動き取れないような状態でしゃがんでいました。
役人の方に目だけを向けた大泥棒は、
「見てのとおりの状態です」
と、静かにと答えました。
役人は、大泥棒の静かな声の中に潜む刃物のような鋭さに
気付きましたが、動じず、話を続けました。
「最近、ちまたは、おまえの話題で持ち切りだ」
「ほう、それはおめでたいことで」
「おまえが盗みに入った所が大悪人のところばかりだったから、
『よくぞ盗みに入ってくれた』と庶民は喜んで、
逆に、おまえが英雄あつかいされてるよ」
「ほう」
と、大泥棒は口の端を上げて不敵な笑みを浮かべると、
「それは、笑える話ですね」
「あぁ、笑える話だ」
役人は表情を変えず、少し声を低くして、
「ところで、おまえは明日には死ぬ。
死ぬ前に、なにかしておきたいことはないか?」
「そうですねぇ」
と、大泥棒は考えるそぶりを見せてから、
「やりたいことは、全部やりましたので……
そうだ、辞世(じせい)の歌でもよみましょうか」
「辞世の歌? 随分と高尚な願いだな、まぁいい、
しっかりと聞いてやろう、どんな歌だ?」
大泥棒は少し笑みを浮かべ
「うっ、うん」と咳ばらいをしてから言いました。
♪かかるとき〜 さこそ命の、おしからめ〜
かねてなき身と〜 思いしらずば〜
目を閉じて聞いていた役人は、
歌を味わうようにそのままの状態で、
「なるほど、前々から、自分の命はないものと覚悟していたから、
死を前にしても、命を惜しいとは思わない、と、実に良い詩だ」
大泥棒はニヤリと笑い、
「おほめいただき、ありがとうございます」
と言いました。
役人は、小声で、くりかえし歌を口ずさみました。
「ん?」
何かに気付き、目を見開いて、大泥棒の方に向けました。
「おい、おまえ、今歌ったのはおまえの辞世の歌では無く、
古い武将の歌ではないか!」
その言葉を聞いて、大泥棒は大声で笑いました。
そして、
「ハハハ、さすがは俺を捕まえた男だ、
そうさ昔の武将のから盗んだ歌だ!
どうだ、この歌が俺の最後の盗みだ!
大泥棒の最後の盗みが歌だなんて、
洒落てるだろう」
そう言って笑う大泥棒を、役人はあきれたように
鼻で笑いましたが、心の中では、
(おもしろい奴だ)
と思いながら、その場を離れました。
翌日。
大泥棒の処刑の日。
役人は牢屋の鍵を静かに開けました。
「出ろ」
体に巻き付いた紐を引きずりながら、
大泥棒が牢屋から出てきました。
待機していた二人の若い役人が大泥棒の腕を
左右からしっかりと掴み、役人を先頭に、
処刑場へ向かって歩き出しました。
大泥棒は見せしめとして、庶民に公開で処刑されることになっていて
処刑場は建物の外に作られていました。
暗い留置場の廊下を歩き、役人は処刑場へ通じる扉を開けました。
外の日差しが暗い廊下に差し込んで来て、
役人は目を細め手をかざしました。
と、それと同時に、大勢の人の声が
役人の耳に飛び込んできました。
役人は(なにごと?)と、うす目をあけて辺りを見渡しました。
処刑場の周りは、柵で囲まれており、
中に入って来れないようになっています。
その柵を囲むように、人だかりが幾重にもできていて、
全ての視線が、こちらに向けられていました。
役人は目を見開き、歩きながらその光景を眺めました。
その群衆がこちらの方を向いてなにか叫んでいます。
「そいつを解放してやれ!」
「その方は俺たちの味方だ!」
「お願い、ゆるしてあげてー!」
と、叫んでいます。
役人は、
(こいつは、こんなに庶民に慕われているのか)
と思い、鼓動が少し早くなる感じがしました。
大泥棒は処刑台に座らせられ、動けないように
縛り付けられました。
群衆からの叫び声は収まるどころか、
一段と大きく熱をおびたものになっていました。
役人は大泥棒の目の前に立ち、睨み付けました。
大泥棒も黙って役人を見上げています。
役人は言いました。
「どうだ、この声を聞いた感想は?」
大泥棒は表情を変えずに、
「特に、感想はないね」
「そうか」
役人はそう静かに言うと、二人の若い役人に目配りをしました。
若い役人は腰につけた刀を抜き、大泥棒に向けて構えました。
その瞬間、処刑場の周りからは、一段、いや、さらに二、三段、
大きな声が上がりました。
その声は、助けを求める声、許しを求める声、役人を罵倒する声。
様々な声が重なり合い、大音響で処刑台に押し迫って来ました。
役人は大勢の訴えを一身で浴びました。
人々のいろんな思いが集まったそれは、
憎悪の巨大な言霊のように、役人の体に突き刺さって来ます。
若い役人は刀を構え、合図があればいつでも斬りつける
体勢を整えています。
役人は合図を出すのに躊躇していました。
群衆の叫び声は、大泥棒を逮捕した優秀な役人をも惑わす
激しい力を持っていました。
役人の目が、処刑台に座っている大泥棒に向けられました。
その目はすぐに柵の向こうの群衆に向けられ、
次に二人の若い役人に向けられ、
そしてまた、大泥棒を捉えました。
役人が大泥棒を睨み付けていると、
ニヤリという笑みが返って来ました。
その表情を見て、役人は少したじろぎました。
こめかみの辺りから、
大粒の汗が頬伝って流れていきます。
その時です。
大泥棒は大声を張り上げした。
「あー、やかましい! やかましいぃぃぃぃぃぃっ!!!」
その大声は水の波紋が広がるように伝わり、
まず役人が驚き、二人の役人が驚き、
そして柵の外側の群衆が驚きました。
処刑場が一瞬の静寂に包まれました。
すぐに大泥棒は叫びました。
「おまえら! なに勘違いしてるんだ?
俺は、おまえらのために盗んだんじゃねぇ!
俺が、盗みたくて盗んだまでだ!」
静かに聞いている群衆に、少しの間を置いてから、
大泥棒は通る声で言いました。
「でもよう、命乞いしてくれてありがとうなぁ」
群衆の中に少し安堵の空気が流れました。
しかし、大泥棒の次の言葉で一転します。
「だがなぁ、勘違いすんなよ、
生き残れたら、また好きなように泥棒してやる」
そして、その場にいる全員に聞こえるような大きな声で、
「今度は、おまえらの家々に盗みに入ってやる!
おまえらの身ぐるみ全部盗んでやる!!!
覚悟しておけぇぇぇぇぇ!!!!!」
その大泥棒の声を聞いて、役人の目に力が入りました。
柵の向こうの群衆は明らかに混乱しているのが、
役人にも伝わってきました。
二人の若い役人もこちらを見ています。
役人は大泥棒から目が離せなくなり、
見つめたままでいました。
すると、大泥棒はニヤっと笑い、
「さぁ、殺せ!」
と群衆にも聞こえるような声で言いました。
役人は大泥棒の目を見ながら考えました。
大泥棒が盗みに入ったのは悪人の家ばかり、
そして、民衆からも慕われている。
しかも、あのような古い歌まで読める頭の良いこいつが、
本当に、民衆に危害を及ぼす行動をとるのか?
役人は迷いました。
大泥棒は相変わらず不敵な笑みを浮かべて
こちらを見ています。
役人は考えを纏めようと、目をつむり、
そして、しばらく考えました。
(いや、違う、逆だ、こいつは悪態をついて、
この場を納めようとしているだけだ)
役人は、ゆっくりと目を開けると、
大泥棒の目をしっかりを見据えました。
大泥棒はしっかりとした目で、役人を見ていました。
(よし賭けてみよう)
と心の中でつぶやくと、役人は、大きな声で言いました。
「みんな聞いてくれ!」
ざわついていた柵の向こうの群衆が、徐々に静かになり、
役人に耳を傾けました。
役人は群衆の方を向いて語りかけるように言いました。
「俺は、こいつに、別の罪を背負わそうと思う」
ざわつく群衆、困惑する二人の若い役人。
役人は続けます。
「コイツは大泥棒かもしれない。
しかし、俺にはどうしても悪人には思えない。みんなだって、
さっきまでそう思っていたんじゃないか?」
確かに、と何人かの群衆が頷きました。
「どうやらコイツの望みは、死ぬことのようだ」
役人は群衆を端の方からゆっくりと全体をなめるように、
目を配ってから、低い声で言いました。
「俺は、コイツの望みを叶えてやるのではなく、
逆に、生かすことで罪を償ってもらおうと思うが
みんなはどう思う?」
前代未聞の役人の発言に、群衆は驚いて、
それぞれがお互いの顔を見ました。
何事か話している群衆もいました。
混乱している群衆もいました。
役人はなにも言わず見渡していました。
群衆はざわざわと混乱しています。
役人の近くにいる、若い役人もお互いの顔を見たり、
そわそわとしています。
すると、ざわつく群衆のどこからか、
“パチ、パチ”
と、小さな拍手をする音が聞えてきました。
“パチ、パチ、パチ、パチ”
始めは小さな拍手の音でしたが、それは段々と大きくなり、
やがて、柵を囲む全ての方向からの大きな拍手になりました。
役人は笑顔で頷き、若い二人の役人を見ました。
若い役人も笑顔で拍手をしています。
役人は群衆を見渡しました。
拍手をしているその顔は、
満面な笑みが浮かんでいました。
役人は群衆に向かって何度も頷いてから、
若い役人に目配りしました。
二人は大泥棒を処刑台から解いて立ち上がらせました。
大泥棒は驚いた表情をして役人を睨んでいましたが、
役人は少し目を合わせただけで、視線を外し、
前に立って、留置場の方へ歩いて行きました。
前代未聞の決断をした役人の背中を、大群衆の拍手が
後押しするかのように鳴り響いていました。
おしまい。
JUGEMテーマ:創作童話
]]>
むかしむかしのお話です。
山のふもとに住んでいるおじいさんは、
山にのぼって芝刈りをしていました。
朝早くからまじめに芝刈りをしていると、
“グ〜ゥ”
と、腹の虫が鳴きました。
「おやおや、もうお昼どきかのう」
おじいさんは芝を刈るのをやめて、家から持って来た
小袋を手に取ると、近くの切り株に腰かけて、
中から竹の皮でできた包みを取り出しました。
包みをひざに乗せて開くと、中から、おにぎりが三つ出てきました。
「おばあさんのにぎる、おにぎりは、とってもおいしいからのう」
おばあさんが作ってくれたおにぎりを食べるのが、
おじいさんにとって、仕事中の一番の楽しみでした。
「いただきます」
おじいさんは手を合わせてから、両手でおにぎりを掴み、
頬ばろうとしました。
すると、ひざに乗っていた竹の皮からおにぎりが一つ
地面に落ちてしまいました。
「あんれまっ」
おにぎりはそのまま、山の斜面をコロコロと転がって行きます。
「待て!」
一日の楽しみのおにぎりを失うのはもったいない、
おじいさんは、手に持っているおにぎりを素早く
竹の皮で包みなおしてから、
転がっているおにぎりを追いかけました。
おにぎりは、コロコロコロコロ、転がっていきます。
「こら、待て〜ぇ」
コロコロ、勢いよく転がっていくおにぎりは、
途中にあった石にぶつかり、ぴょーん、と、
飛び上りました。
そして、そのまま、ひゅん、っと、地面に落ちると、
コロコロと転がり、地面に開いていた穴に入ってしまいました。
「ありゃりゃ、おばあさんに作ってもらったおにぎりが〜」
おじいさんは、慌てて穴を覗きこみました。
穴の中は暗くてなにも見えません。
おじいさんは、ガッカリと肩を落としうつむきました。
ため息交じりの息を吐いたおじいさんは、ふと、
なにか歌声のようなものが聞こえたような気がして
顔を上げました。
「ん? 空耳かな?」
おじいさんは疑いながらも、耳を澄ませてみると、
やっぱり歌声が聞こえてきます。
「どこから、聞こえてくるのじゃ」
おじいさんはしばらく目を閉じて耳を澄ますと、
どうやら歌声は、穴の中から聞こえてくるようです。
「この穴から、歌声が?」
おじいさんは四つん這いになって、
穴に耳を近づけて目を閉じました。
すると、はっきりと歌声が聞こえてきました。
♪おにぎりコロリン すっとんとん
♪コロコロコロリン すっとんとん
ゆかいな音楽と可愛らしい歌声します。
おじいさんは楽しくなり、目を閉じたまま、
歌声に合わせて体を揺らしました。
♪おにぎりコロリン すっとんとん
♪コロコロコロリン すっとんとん
やがて歌声は聞こえなくなってしまいました。
おじいさんは満足そうな笑みを浮かべると、
穴のそばに腰をおろして、
「この穴に、おにぎりを入れると、歌声が聞こえるのかのう」
とひとり言を言いました。
おにぎりはまだ二個残っています。
おじいさんは試しに一個、おにぎりを穴に入れてみました。
すると、また、歌声が聞こえてきます。
♪おにぎりコロリン すっとんとん
♪また来たおにぎり すっとんとん
おじいさんはシワクチャな笑顔になりながら、
体を揺らしました。
そして、竹の皮で包んだ、
もう一個のおにぎりを手にとると、
「最後のは、わしが食べよう」
歌を聞きながら、おばあさんの作ってくれた
おにぎりをおいしそうに食べました。
やがて仕事を終えて家に帰ったおじいさんは、
山であったことをおばあさんに話しました。
話を聞いたおばあさんは、
「それは楽しそうじゃのぉ〜
明日は、おにぎりをたくさん持っていくといいねぇ」
と、言ったので、おじいさんは笑顔でうなずきました。
そして、次の日、
おじいさんは朝から山で芝刈りをしていると、
“グ〜ゥ”
お腹の虫が鳴きました。
「そっか、もうそんな時間か」
おじいさんは、芝刈りの手を止めると、
家に続く道の方を見ました。
ちょうどおばあさんが小袋を持って
山を登って来る姿が見えました。
おじいさんが朝、山に出かけようとすると、
おばあさんは、自分も歌声を聞きたいから、
お昼どきに、おにぎりを持って山に行くよ、
と言っていたのです。
「お待たせしました」
と言うおばあさんに、
「おぉ、ちょうどよかったよぉ」
おじいさんは笑顔で答えました。
「こっちじゃ」
おじいさんは歌声が聞こえる穴に向かって、
坂道を降りていきました。
やがて穴につくと、二人は穴のそばに座りました。
おばあさんは持って来た小袋から、
竹の皮に包まれたおにぎりを取り出しました。
「十個も作ってきましたよ」
「そうか、そうか、いっぱい歌が聞けそうじゃな」
おじいさんはおにぎりを一つ取ると、穴の中に入れました。
そして、おばあさんの方を向いて、人差し指を口の前で立てて、
静かに耳を澄ませました。
おばあさんは良く聞こえるように、
耳に手を当て穴の方に向けました。
すると、
♪おにぎりコロリン すっとんとん
♪コロコロコロリン すっとんとん
歌が聞こえて来て、おじいさんとおばあさんは、
お互いの顔を見てニッコリ。
二人は歌声に合わせて体を揺らしながら、
おにぎりを食べました。
しばらくすると、歌が止んだので、
今度は、おばあさんがおにぎりを穴に入れました。
♪おにぎりコロリン すっとんとん
♪また来たおにぎり すっとんとん
「ふふふ」
おばあさんは「成功!」と言わんばかりの笑顔を
おじいさんに向けました。
その後、おじいさんとおばあさんは、おにぎりが無くなるまで、
歌を聞きながらおにぎりを食べました。
やがて、おにぎりが無くなり、二人のお腹もいっぱいになりました。
「どうじゃ、楽しい歌じゃったろ」
と、おじいさんが言うと、
「えぇ、本当に楽しい歌でした」
と、おばあさんは笑顔で答えました。
「さて、仕事にもどるかのぉ」
おじいさんは立ち上がり、おばあさんは竹の皮の包みを
小袋の中に入れてから、立ち上がりました。
そして、おじいさんが穴のそばから離れようとしたとき、
「おやまぁ〜」
と、おばあさんが声を上げたのでおじいさんは振り返りました。
すると穴の中から、ひょっこりと
ねずみが顔を出しているのに気付きました。
黙って見ていると、ねずみは小さな包みのようなものを
穴の縁に置き、すぐに穴の中へ入っていきました。
おばあさんはねずみが置いていった小さな包みを手に取ると、
それは木の葉っぱでできた包みでした。
おばあさんはおじいさんにも見えるようにして、
葉っぱの包みを開けました。
「まぁ〜」
中には、美味しそうな木の実が何粒か入っていました。
「これは、もしかして、おにぎりのお礼かのぉ」
「そうかもしれませんねぇ」
おじいさんは早速、木の実をつまんで口に入れました。
おばあさんも一粒食べました。
「おいしぃ」
「おいしいのぉ」
二人はシワクチャな笑顔をお互いに向けました。
おばあさんは穴に向かって言いました。
「楽しい歌をありがとう」
「また来るでのぉ」
と、おじいさんは言って二人は坂をゆっくりと
のぼって行きました。
おじいさんとおばあさんは、その後、何度も何度も
おにぎりをたくさん作って、ねずみたちの歌を聞きに来ましたとさ。
おしまい。
JUGEMテーマ:創作童話
]]>
ここはお爺さんとお婆さんが長年やっているクツ屋さんです。
今は、営業が終わって明かりが消えています。
店内は真っ暗ですが、街灯の光が入口の窓から入って来て、
作業台の上だけは明るくなっていました。
お爺さんはいつもこの作業台でクツを作っています。
いつもは営業が終わったあとは、作業台の上には
何も乗っていないのですが、今日はなにかが乗っていました。
別に、営業している訳ではないので、
作業台になにか乗っていても問題はなさそうですが、
そうはいかないのでした。
「よいしょ、よいしょ」
作業台には棚が付いていて、それを支える柱があります。
その柱を伝って、何者かが降りてきました。
その者は、街灯の光で明るくなっている作業台に降り立つと、
「あれぇー」
と声を出しました。
そのすぐ後から、もう一人が柱を伝って降りたちました。
「どうしたのさぁ、そんな間抜けな声を出して」
と、言いながら、初めに降りた子の隣に立ちました。
二人は、このお店に住んでいる、元気な裸んぼうの小人です。
お店の営業が終わったあと、作業台はいつも二人の遊び場でした。
いつもは広々としている作業台の上で、かけっこをしたりして
遊ぶのですが、今日はなにやら物が置いてあります。
「ここに物があるなんて珍しいね」
一人の小人が言いました。
「なんだろう、アレ」
二人は作業台に置いてる物のそばに行きました。
薄くて茶色い物が置いてあります。
小人たちは知りませんが、それはクツを作る材料の革というものです。
小人はそっと触ってみました。
「あ、コレ、もしかしてお爺さんが作っているものの材料じゃない?」
「あ、ホントだぁ、いつもお爺さんが作ってるやつだ、
クツとか言ってたっけ」
小人たちの周りには、いろんな形をした革がありました。
「ねぇねぇ、ボク、クツ、作れるよ!」
一人の小人が言うと、
「ボクだって作れるさっ、いっつも上から見てるもん」
二人は屋根裏に住んでいて、いつもお爺さんがこの作業台で
仕事をしているのを見ていました。
「じゃぁさぁ、今日は、これを作って遊ぼうよ」
「いいね! お爺さんみたいに、作っちゃおう!」
二人の小人は、薄い茶色のものを持ち上げてくっつけました。
「お爺さんは、なんだか、細くてとんがったもの使っているよね」
革を繋ぎ合わせる針のことです。
「なんだか、棒の先に黒いものがついたやつで叩いてたりするよね」
クツの底にくぎを打ちこむための金づちのことです。
二人は作業台の周りを探し始めました。
「あ、細くてとんがっているもの発見! よいっしょ」
「叩くの発見、よっ、あー、これオモーイ!」
金づちは二人がかりで持ち上げました。
道具がそろうと、二人はお爺さんがやっていたことを思い出しながら、
協力してクツを作り始めました。
「これはこうやってぇ」
「よっと、ここに入れればイイね」
「よし、叩くよ、抑えといて」
「いいよ、持ってるよ」
全身を使い、作業台の上を、あっちに行ったりこっちに来たりしながら
なんとかクツを完成させました。
「ふぅー、できたね」
「うん、よくできたね」
「もう、外は明るくなって来たね」
「うん」
「疲れたね」
「うん、眠いね」
「うん、眠い」
と言いながら、二人はちょっとフラフラしながら棚の柱を、
よいしょ、よいしょ、とよじ登って自分たちの部屋に帰り、
ベットでぐっすりと寝てしまいました。
次の日、二人がまた屋根裏から作業台に降りてくると、
また革が置いてありました。
しかし、今日のは茶色ではなく、赤やピンクの革でした。
「あ、こっちには太い棒みたいのがあるよ」
「ホントだ! コレって、
お爺さんが女の人によく渡してるやつだよね」
「そうだそうだ、女の人が嬉しそうに持っていくやつだ」
どうやら女性用のクツの材料が置いてあるようでした。
「ボク、これ作れるよ!」
「ボクだって作れる!」
二人はまた協力してクツを作り始めました。
革を縫い合わせたり、金づちで打ち込んだり、
昨日も同じようなことをやりましたから、慣れたもんです。
でも、クツの種類が違うので、ちょっと難しいところもあって、
結局、クツを完成させたときは、もう外は明るくなっていました。
「完成したね」
「うん」
「眠いね」
「うん」
と、言いながら、小人は棚をよじ登って屋根裏の部屋に帰っていきました。
そしてまた次の日、営業が終わったあとの作業台に
小人たちが降りてきました。
「あれあれぇ」
「今日も、なんか置いてあるぞ」
二人が、置いてあるものに近づいて行くと、
なにやら昨日までとは違ったものが置いてありました。
「今日のは、なんか軽いね」
「うん、薄いし、なんだか肌触りがいいね」
肌触りが良かったので、二人は、置いてあるものにほおずりをして、
心地いい気分になりました。
「あれ、コレ穴が開いてるぞ」
「あ、ホントだ、切れてて穴が開いてる」
「あ、コッチもだ」
「三か所穴が開いてる!」
「一つは大きな穴で、その先が二つの長細い穴に分かれてる」
二人は穴に、顔を入れたり、腕を通したりして
しばらく遊んでいました。
「ん? あ、これ、もしかして」
「なに、なに」
「こうやって、こうやって」
一人の小人が、穴に頭から上半身を入れました。
「ホラ、顔が出た、手も出た、ちょうどいい」
「あーっ!!! これもしかして、服かも!!!」
「えっ、服?」
「そうだよ、ボクたちの服だよ!!!」
二人は大興奮して、作業台に置かれていた二人分の
シャツとズボンを身に付けました。
「わーい、服を着たの初めてだよ!」
「ボクも初めて!」
「ぴったりだ!」
「ぴったりだね!」
服を着た二人は、向かい合ってお互いの姿を見ながら大はしゃぎ。
服は全部着ましたが、まだ作業台の上には何か残っています。
「あ、これ、クツじゃない?」
「ホントだ! クツだ!」
二人は、クツを履きました。
「わーい、クツだクツだ、ボク、クツを履いてるよ!」
「うん、お爺さんがいつも作ってるクツだ!」
二人はクツを履いて、向き合って踊りました。
「わーい、ボクらは裸じゃなーい♪」
「クツだって履いているーぅ♪」
「おそろいの〜ふく〜♪」
「おそろいの〜くつ〜♪」
作業台の上で、二人は大喜びで歌をうたってはしゃぎました。
作業台で服とクツを身につけてはしゃいでいる小人の姿を、
気づかれないように、扉を少しだけ開けて、
お爺さんとお婆さんが見ていました。
お爺さんは店を閉める前に切り取った革を、
うっかり作業台に置いたまま、寝てしまったのですが、
起きてみてクツが出来上がっていたのでびっくり!
お婆さんに不思議なことがあったと話すと、
試しに今日もクツの材料を作業台の上に置いて隠れて見てみよう、
ということになり、二人でこっそり見ていると、
小人が降りて来て、クツを作り始めたので二人ともびっくり!
お爺さんとお婆さんは、クツを作ってくれたお礼をしようと、
裸んぼうの小人のため、お爺ちゃんはクツを作り、
お婆ちゃんは服を作りました。
作業台の上で、大はしゃぎで喜んでいる小人の姿を、
お爺さんもお婆さんも、目を細くして、
満面の笑顔で見ていました。
おしまい。
JUGEMテーマ:創作童話
]]>「危ないよ! やめなよ」
女の子は叫びました。
「大丈夫だよ、すぐ採ってくるから」
男の子は笑顔でそう言いました。
二人は大の仲良しで、今日は近くの山へ遊びに来ています。
崖に囲まれた場所で二人は話をしています。
「すぐって、崖の上だよ、どうやって登って行くの?」
「大丈夫さ、力には自信があるから」
男の子は力こぶを見せました。
今からほんの少し前のことです。
二人が山を歩いていると、崖に囲まれたところにたどり着きました。
「わぁ、可愛い花が咲いてる」
女の子は崖の中腹あたりを見つめて言いました。
男の子は目をキラキラさせている女の子の横顔から、
目線を崖の中腹にうつしました。
「ホントだ、キレイだね」
そこには、小さな青い花がありました。
崖の頂上から落ちる滝の側で、小さな体に青い花をたくさんつけて、
健気に咲いています。
「ボクが採ってくるよ!」
「ダメだよ、危ないよ、落っこちたらどうするの?
下は流れの速い川よ」
崖の頂上から滝が流れ、川は、ザアー、ザアーと
音をたてて勢いよく流れています。
「平気だよ、泳ぎには自信があるから」
泳ぐ真似をしている男の子に、女の子は近づいて力強く言いました。
「ダメよ、イイ、よく聞いて───」
女の子は、男の子の両腕を掴み、
ギュッ、っと力を入れて握りしめました。
「もう分かった、分かったよ、痛いから、腕、離してよ」
「行かない?」
「うん、行かない」
男の子が神妙な顔で言ったので、女の子は手を離しました。
すると男の子は、
「へへへへーッ」
と、いたずらっぽい声を上げきびすを返すと、
あっという間に崖を登り始めました。
「もう、やめなって言ってるのに!」
そう言う女の子の言葉が聞こえないかのように、
男の子は滝の水しぶきを浴び、びしょびしょになりながらも、
崖をよじ登っていきました。
女の子は落ちないかと心配で、
手を祈るように組んで見つめています。
男の子が少し登ったところで足を滑らせました。
「きゃっ」
女の子は小さく悲鳴を上げました。
男の子は体勢を整えて、
「大丈夫!」
と笑顔を女の子に向けました。
男の子はなんとか青い花に手が届くところまでよじ登りました。
そして手を伸ばし花を掴むと、女の子に向けて手を上げました。
女の子の表情が少し明るくなりました。
「あっ、」
一瞬の出来事でした。
男の子の右足が濡れた石で滑り行き場を失いました。
花を持つ手を高く上げていたので踏ん張れず、
バランスを崩した男の子の体は、
そのまま真後ろに倒れて行きました。
女の子は息をのみ、体を硬直させました。
そして何もできず、後ろ向きに落ちていく男の子の姿を、
ただ呆然と眺めていました。
女の子には、時がゆっくりと動いているように感じました。
ゆっくりと落ちていく男の子。
女の子の耳には何も入って来ず、とても静かでした。
静かに落ちていく男の子。
落ちていく男の子を、ただただ見ていると、
ふと男の子は女の子の方を向きました。
そして男の子は笑みを浮かべて言いました。
「受け取って」
男の子の手から青い花が投げられました。
ゆっくりと、弧を描いて飛んでくる青い花に
女の子は手を伸ばしました。
青い花は、ゆっくりと女の子の手の中に降りてきました。
女の子は青い花を静かに手に乗せると、
愛おしむかのように、優しく包みました。
“バシャーン!!!!!”
男の子の体は、川の中に落ちました。
女の子は “ハッ” として、慌てて男の子に近づきます。
男の子は顔を出し、片腕を大きく上げていました。
川の流れが速く、男の子の体はどんどん女の子から離れていきます。
女の子は、流される男の子を追いかけました。
石だらけで足場が悪い地面につまづきながらも、
必死に女の子は走りました。
しかし、追いつけません。
女の子の耳には、ゴーッ!ゴーッ!、という川の音だけが聞こえました。
それは男の子を飲み込もうとしている
荒々しい生き物の叫び声のように聞こえました。
「イヤーッ!」
思わず女の子は叫び声を上げました。
すると、流されながら男の子が言いました。
「ボクのこと、忘れないで……」
川の音で消え入りそうな男の子の声を、
女の子は必死で聴こうとしました。
男の子はどんどん川に流されていきます。
それでも必死にもがき顔を出しました。
女の子も男の子から離れないように、走っています。
男の子の顔は川から出たり入ったり繰り返しています。
女の子は、男の子を絶対に見失わないよう目をこらします。
男の子はなんとか川から顔を上げて、女の子の方を向きました。
女の子は男の子の目をしっかりと見つめました。
男の子も女の子の視線をしっかりと受け止めました。
そして男の子は消え入るような声で言いました。
「───大好きだよ…」
川の音に邪魔されず、女の子には、はっきりと聴こえました。
そして、それが女の子が聴いた男の子の最後の言葉になりました。
女の子は一生懸命走りました。
男の子を見失わないように目をこらしました。
しかし、追いつけぬまま、
男の子の体は、ついに見えなくなってしまいました。
女の子はその場にしゃがみ込みました。
そして、女の子は一言、呟きました。
「私も、大好きだよ」
両手には青い花が握りしめられていました。
「さっきまで、二人であんなに楽しく山を歩いていたのに、
なに、なぜ、どうして、こんな、こんな……。
と、女の子は涙をこぼしました」
と、女の子は言ってから、
「って、こんな悲しいお話が出来上がっちゃったら、
どうするのよ!」
女の子は握った手に力を込めて男の子に向かって言いました。
「痛いよ、分かった、分かったよ」
男の子は、両手を引っ張られ、嫌そうに言いました。
「ホントに?」
女の子の真っすぐな視線を向けられ、男の子は少し視線をずらして、
「うん」
と、頷きました。
女の子は、ジーッと、男の子の目を見てから、
手を放しました。
男の子は解放された手を擦りながら、
「ったく、相変わらず物語作るのが好きだな、小説家にでもなれ」
女の子はニコッと笑うと、
「じゃっ、いこ」
と言って、今度は優しく男の子の手を繋ぎました。
男の子は女の子に引っ張られ歩き出しました。
ふと、崖の花を見上げました。
男の子は、崖に咲いている青い花を眺めながら、
(今日のことは忘れないだろうなぁ……)
と、思いながら、ふとあることに気付きました。
「あ、」
「どうしたの?」
不思議そうに尋ねる女の子に、男の子はニッコリ笑い、
「ううん、別に」
「変なの」
と、プイっと向こうを向いた女の子の後ろ姿に、
男の子は小声で呟きました。
「ボクも好きだよ」
「え? 何?」
ふり返った女の子に、
「なんでもない!」
男の子は笑顔で言って、
「へへへへーッ」
と、いたずらっぽい声を上げ、女の子を抜いて先に走り出しました。
「もう、待ってよ」
二人は、崖を後にして、楽しく山を降りていきました、とさ。
おしまい。
JUGEMテーマ:創作童話
]]>