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・「双子の聖女は運命を入れ替える」の第1回です。
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「入れ替わりましょう」
「私たちの運命を入れ替えるの。立場も、未来も、結ばれるべき人も」
「そんなこと……許されないわ」
もう一人が不安に震える声で否定する。
だが彼女は首を振り、その否定さえも否定する。
「誰が許さないと言うの?だって私たち、自分では何ひとつ選んでいないわ。周りが勝手に、私たちの運命を決めたのよ。なのに……どうしてそれで、苦しまなければならないの?」
「私だって、納得してなどいないわ。だけど……宝玉守りの姫は、神の力を預かる聖女なのよ。勝手に役目を代わるなど、許されることではないわ」
その言葉に、彼女は笑った。
「大丈夫よ。だって、私たちは
言いながら、彼女は鏡を指し示す。
そこには、頭の
月の光のようなプラチナブロンドの髪に、紫水晶の瞳。
宝石のように美しい、一対の双子の姉妹。
「“片恋姫”の言い伝えなんて、ただの迷信よ。これまでにジンクスを打ち破る者がいなかったから、宿命のように言われているだけだわ」
彼女はもう一人の手を握る。自分にそっくりな、双子の姉妹の手を……。
「私は運命に屈したりしない。恋を実らせるためなら、神様だって
その強気な台詞に、もう一人もようやく心を決める。
「……そうね。私も、このまま運命に従いたくなんてない。だから……入れ替わりましょう」
姉は妹に。妹は姉に。
それは、ふたりの“秘密”の始まり。
ふたりだけの“罪”の始まりだった。
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・「双子の聖女は運命を入れ替える」の第14回です。
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「……“聖女の瞳”?」
リーリエのお
王宮内にある、宝玉姫の
それは、ボリュームのあるウェーブヘアーを、
宝玉姫と、ごく
初めてそこに足を踏み入れたイーリスは、すぐにその絵に目を奪われた。
「この絵は……どなたの絵なのでしょう?」
そこに飾られているからには、おそらく歴代宝玉姫の誰かであろう。
だが、少女は“美の象徴”たる光の宝玉姫のイメージとは、かけ離れていた。
だが、強い眼力を宿した瞳だけが、やけに印象的で、顔かたちは平凡な彼女を、非凡で
「やはり、あなたも
王妃にそう告げられ、イーリスは目を見開いた。
「え!?でも、マリア・エルフリーデ姫は、絶世の美女のはず……」
言いかけ、イーリスはハッと唇を押さえる。
これでは、絵の少女が不美人だと言っているようなものだ。
王妃は苦笑し、首を振る。
「吟遊詩人の唄では、そのように歌われていますね。ですが、この絵が一番、彼女の真実を表現できていると、彼女を知る全ての者が言っていたそうです」
「エルフリーデ姫は確か、
「ええ。エルフリーデ姫は、滅亡の危機に
イーリスは改めて絵画の少女を見る。
容姿が平凡であるにも関わらず、不思議に目を惹く少女だと思った。
そして、何より印象的な、強い瞳……。
「この瞳……。鉱物か貝殻の破片でも混ぜてあるのでしょうか?角度によって、きらきら光って見えるような気が
「ええ。マリア・エルフリーデ姫は、角度によって蒼にも碧にも見える、不思議な色の瞳を持っていらっしゃいました。それを再現しようとしたのでしょう」
「え……?」
イーリスの脳裏に、幼馴染の少年の顔が浮かぶ。
改めて絵を見てみれば、その瞳の色は、彼の瞳に似ている気がした。
「その瞳の色は、初代宝玉姫マリアの血を、色濃く受け継いだ証。数十年に一人しか現れない、稀有な遺伝的特徴です。我らはそれを“聖女の瞳”と呼んでいます」
「……“聖女の瞳”?」
イーリスは呆然と、その名を
「ええ。その瞳の持ち主は、宝玉を扱う能力に
「あの……その瞳は、初代マリア姫の血を引いていない者にも、現れることがあるのでしょうか?」
おそるおそるイーリスが問うと、王妃は笑って首を横に振る。
「いいえ。今までそのような例は、聞いたことがありません。逆に、その瞳を持って生まれたなら、それはその人間が光の宝玉姫の血脈に生まれた証です」
イーリスの背を、ぞくりと
(フェーダー……あなたは一体、何者なの……?)
「残念ながら、ここ数十年、聖女の瞳の主は現れていません。もっとも、現れない方が良いのかも知れませんが……」
そう言い、王妃は声を
「聖女の中の聖女と称えられる一方、その瞳には不吉な伝説もあります。聖女の瞳が現れるのは、時代の節目。歴史が大きく揺らぐ前兆なのだと……」
イーリスは声も出せずに固まる。
王妃はそれを、単純な恐怖によるものと
「大丈夫ですよ。片恋のジンクスと同じ、ただの言い伝えです。それに、今この時代にその瞳の持ち主は、
イーリスは、身体が震え出さないように
(大丈夫よね?あれが本当に“聖女の瞳”なのだとしても……フェーダーは男の子だもの。“聖女”ではないのだもの。不吉な前触れではないはず……)
「さぁ、もう心を落ち着けなさい。これから
王妃に
フェーダーのことは、まだ王妃に知られてはならない――混乱しながらも、そのことだけは何となく理解していた。
それに、今は何よりも優先すべきことがある。
今日この日、イーリスは光の宝玉姫となるのだ。
(まずは、宝玉姫としての務めを、しっかりやらなくては。全ては、それからよ)
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・「双子の聖女は運命を入れ替える」の第23回です。
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その日からどことなく、ルーカスの態度がよそよそしくなった。
距離を取られていることに気づきながらも、多忙なイーリスは、関係修復の機会を持てなかった。
(やっぱり、あの時の言葉がいけなかったのかしら……。冷たく突き放したように聞こえてしまったのかも知れない。でも、私は宝玉姫。王が迷い、道を
そこには、
『お願い、イーリィ!ルーカス様を
きっとルーカス様は、お母様のことで、深い悲しみと絶望の中にいらっしゃるわ。
だって、“いつか普通の
王妃の訃報は、リーリエの元にも届いていた。
それを聞いた瞬間、リーリエの
あの時、リーリエは気づいていた。ルーカスの胸に、母への切ない思慕があることを。
母との心の距離を実感しながらも、密かに“いつか普通の母子のようになれること”を夢見ていたことを……。
『本当は、すぐにでも飛んで行って、私がルーカス様をお慰めしたい。
でも、私には無理だもの。一番近くにいるイーリィが、あの方の御心を救って差し上げて』
その文面には、リーリエの必死の想いが
イーリスは
(私、気づいていなかった。ルーカス様が、そんな想いを秘めていたなんて……)
イーリスの目に映るルーカスは、時におどけた所はあっても、あくまで立派な“王子様”だった。
己の立場を
だから、ごく平凡でありふれた、
(そばにいる私すら気づけずにいたことを、リーリィは見抜いていたのね。これは……恋の力なのかしら)
それまでイーリスは、リーリエの恋心を甘く見ていた。
イーリス自身が現実に出逢って夢から
(なのに……遠く離れていても、こんなにもルーカス様のことを想って……。どうしましょう。私……リーリィに言っていないことがあるのに)
リーリエの恋は、きっと叶わない。――国の事情を知るイーリスには、その恋の結末が、容易に想像できた。
この国には今、水面下で進められている政略がある。
ルーカスの弟王子が、ずっと国を離れて留学しているのも、そのためだった。
(王妃様の御葬儀で、第二王子殿下も一時帰国される。そうなれば、きっと
イーリスがルーカスを異性として意識しないのは、その事情を知るせいでもある。
そしてその事情を、イーリスはあえて妹に知らせていなかった。
無邪気に王子様に憧れるリーリエの“夢”を、壊さないようにするために……。
(でも、こんなことなら、もっと早くに教えてあげれば良かった。幼い夢が破れるのと、本気の恋が破れるのとでは、大違いだわ……)
憂鬱な気持ちを抱えながら、イーリスは、しばらく足の遠のいていた例の塔へ向かう。
せめて、リーリエの今の“願い”を叶えるために……。
ルーカスはこの夜も、塔の屋上にいた。
イーリスの姿に気づいた彼は、気まずそうに目を
「待ってください!」
イーリスはあわてて引き留める。
「この前は、申し訳ありませんでした。お母上を亡くされたばかりのあなたに、気遣いもできず……」
「いいよ。君の言葉は正しかった。王子が感傷に
ルーカスの言葉には、感情が籠もっていなかった。
心からの言葉ではなく、王子としての模範解答をしているだけなのだと、イーリスは悟る。
(このままでは、慰めどころではないわ。聖女としての教科書通りの言葉では、この人の心は救えない)
イーリスは
今は、ルーカスを慰めることを優先すべきだと。
「ずっと、我慢していらっしゃったんですよね?お母上に甘えることを……」
その言葉に、ルーカスの動きが止まる。イーリスは、ゆっくりと歩み寄っていった。
「そして今も、王子だからと、悲しみを
イーリスは
「私の母は、私が泣いていると、こうして優しく頬を撫でてくれました。私では、お母上の代わりにはなれないでしょうが……ほんの少しだけ、あなたを甘やかしても、よろしいですか?」
「イー…リス……」
ルーカスは戸惑うように瞳を揺らす。
「甘えてください、
ルーカスは、しばらく呆然とイーリスを見つめていた。
その顔が、くしゃりと
「み……見ないでくれ。王子が、人前で涙を流すなど……」
顔を逸らそうとするルーカスを、なおもじっと見つめ、イーリスは首を振る。
「泣いてください。今だけは。『甘えてください』と、言ったでしょう?」
ルーカスの唇から、
ルーカスはそのまま
自然、抱き締められるような格好になり、イーリスはあわてる。
「ルーカス様……っ」
「……ごめん。少しの間だけ。このままでいさせてくれ」
震える声で囁かれ、イーリスには彼を突き放すことができなかった。
(……大丈夫。他意は無いわ。これは男女の
イーリスは心の中で、必死に言い訳する。
確かにこの時、ルーカスにはイーリスへの恋情も下心も一切無かった。
だが、この夜のこの触れ合いが、ルーカスの、イーリスに対する意識を大きく変えてしまうこととなる。
これまで、ルーカスにとってイーリスは、最初に会った日の印象のまま――“泣き虫な年下の女の子”だった。
泣かせないよう守り支える相手ではあっても、共に国を
まだ“子ども”だからと、無意識のうちに恋愛対象に入れないようにしてきた。
だが、ルーカスは知ってしまった。
イーリスが
(イーリス姫……君は、いつの間に、こんなに優しく、心の大きな女性になっていたんだ……?)
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・「双子の聖女は運命を入れ替える」の第41回です。
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グローリアからもたらされた情報は、イーリスによって
幾度もの会議の末に出された結論は、国境の警備をさらに固めること、武力を増強すること、そして……ソフィステスとの間の“政略”を、一刻も早くまとめることだった。
イーリスは
ソフィステスとの政略が進むということは、リーリエの恋が叶わなくなるということだ。
だが、妹の恋路を優先し、政略の失敗を望むことなど、国を守る聖女の立場でできるはずがない。
(ごめんなさい、リーリィ。私には、あなたの恋の
フェーダーとの再会のために、危険な橋を渡ってくれたリーリエ。
そんな妹のために、今度は自分が力を貸したい……イーリスは心からそう思っていた。
そんな折、何も知らないリーリエが、手紙で無邪気な提案をしてきた。
『この前は、私がイーリィに協力してあげたでしょう?
だから、今度はイーリィが協力して
ただの公爵令嬢では、なかなか王子様の隣にはいられないわ。
だから、イーリィの姿になって、パーティーの間ずっと、ルーカス様のそばにいたいの』
イーリスは戸惑った。
『リーリエとしてではなく、
私が仲介すれば、しばらくルーカス様とお話しする機会くらい、作れると思うのだけど……』
『イーリィを“利用”してルーカス様とお近づきになったりしたら、他の令嬢からどんな目で見られるか分からないわ。
イーリィとしてなら、誰も文句は言わない。
ずっと、あの方を独占していられるもの』
リーリエには、手紙には書いていない下心があった。
それは、イーリスの姿を利用して、近しい立場からルーカスの好みや、効果的なアプローチ法を探ること……そして、会話を通して
(今の
リーリエは知らない。
もう、
こうして
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・「双子の聖女は運命を入れ替える」の第54回です。
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後半は声を
だがその声は、
(お……王妃!? 何を言っているの、この子!ルーカス様のお妃になるのは私なのに!)
口を出したいが二人の会話に割り込めず、リーリエは歯がゆい思いで立ち
そんなリーリエに、ふとソフィーローズが目を向ける。
「あら?もしかして、お隣にいらっしゃるのは光の宝玉姫様でしょうか?」
「え?あ……私は……」
(そうだ。私、イーリィの振りをしなければいけないのだわ。……え?
さすがのリーリエも、事の重大さに気づき、青ざめる。
ここで事が知られれば、
……国家の恥だ。
「お……お初にお目に、か……かかります。マリア・リ……マリア・
入れ替わりのため、
だが、ソフィーローズはまるで
「まあぁ……何てお美しい御方なのでしょう。さすがは美を司る光の宝玉の守り主様です!私の姉とは大違いですわ」
無邪気に
(……そんなに悪い子ではないのかも知れないわ。そうよね、まだ
きちんと言って聞かせれば、分かってもらえるはず――リーリエはそんな楽観的な気持ちでいた。
……ソフィーローズの次の言葉を聞くまでは。
「よろしければ“お姉様”と呼んでもよろしいですか?王妃と宝玉姫ともなれば、長いおつき合いになりますもの。
リーリエは頬を引きつらせ、それでも『幼い子どもの言うことだから』と、怒りを
「まぁ……。王女殿下は、ご結婚を考えるには、まだ早くていらっしゃるのでは?」
ソフィーローズはその言葉にきょとんとし、すぐにくすくす笑い出した。
「お姉様ったら、私が
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・「双子の聖女は運命を入れ替える」の第66回です。
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「大丈夫だった?ソフィステスの王女様がいらっしゃるなんて、私、知らなくて……」
イーリスはひどく
「大丈夫。上手くやり過ごしたわ。誰にも疑われていないはずよ」
リーリエは、自分がどれだけ
だから、ルーカスとの会話内容をリーリエに話すことはなかった。
「良かった……。でも、油断は禁物よね。どうしましょう?今からでも元に戻る?」
「それは
(それに……まだ私、このままでいたい。
ルーカスの去って行った方にちらりと目をやり、リーリエはそっと胸を押さえる。
「……ねぇ、イーリィ。この入れ替わり、もっと長く続けちゃ
「何を言っているの?この件が明らかになれば、私たち、身の破滅なのよ」
「でも、双子のどちらがどちらかなんて、赤の他人には分かりっこないわ。多少
「それはそうかも知れないけど……どうしてしまったの?リーリィ」
やけに意固地なその態度を
「だって……このままじゃルーカス様、あのソフィステスの王女様に取られてしまうわ」
イーリスはその声と表情にハッとする。
リーリエは
「あの王女様、確実にルーカス様狙いよ。私、このまま王都を離れるなんて嫌。その
「リーリィ……」
イーリスは妹を
だが、政略を黙認してきた身で「大丈夫よ」などと、その場
「仕方がないことなのよ、リーリィ。国同士、王族同士のおつき合いは、私たちにはどうにもできないのだから」
その言葉にリーリエは、イーリスの
(……そう。イーリィは、反対する気は無いのね。このままあの二人が結ばれても、黙って見ている気なんだわ。……私の気持ちを知っているのに)
リーリエは裏切られた気分だった。
イーリスには宝玉を守る聖女としての立場があり、公私混同することは許されない。
だがリーリエは、そんなことには考えが
リーリエに分かっているのは“
(……そう。だったら……二人の進展を
心の中で、リーリエは冷たく
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・「双子の聖女は運命を入れ替える」の第66回です。
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「大丈夫だった?ソフィステスの王女様がいらっしゃるなんて、私、知らなくて……」
イーリスはひどく
「大丈夫。上手くやり過ごしたわ。誰にも疑われていないはずよ」
リーリエは、自分がどれだけ
だから、ルーカスとの会話内容をリーリエに話すことはなかった。
「良かった……。でも、油断は禁物よね。どうしましょう?今からでも元に戻る?」
「それは
(それに……まだ私、このままでいたい。
ルーカスの去って行った方にちらりと目をやり、リーリエはそっと胸を押さえる。
「……ねぇ、イーリィ。この入れ替わり、もっと長く続けちゃ
「何を言っているの?この件が明らかになれば、私たち、身の破滅なのよ」
「でも、双子のどちらがどちらかなんて、赤の他人には分かりっこないわ。多少
「それはそうかも知れないけど……どうしてしまったの?リーリィ」
やけに意固地なその態度を
「だって……このままじゃルーカス様、あのソフィステスの王女様に取られてしまうわ」
イーリスはその声と表情にハッとする。
リーリエは
「あの王女様、確実にルーカス様狙いよ。私、このまま王都を離れるなんて嫌。その
「リーリィ……」
イーリスは妹を
だが、政略を黙認してきた身で「大丈夫よ」などと、その場
「仕方がないことなのよ、リーリィ。国同士、王族同士のおつき合いは、私たちにはどうにもできないのだから」
その言葉にリーリエは、イーリスの
(……そう。イーリィは、反対する気は無いのね。このままあの二人が結ばれても、黙って見ている気なんだわ。……私の気持ちを知っているのに)
リーリエは裏切られた気分だった。
イーリスには宝玉を守る聖女としての立場があり、公私混同することは許されない。
だがリーリエは、そんなことには考えが
リーリエに分かっているのは“
(……そう。だったら……二人の進展を
心の中で、リーリエは冷たく
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・「双子の聖女は運命を入れ替える」の第54回です。
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後半は声を
だがその声は、
(お……王妃!? 何を言っているの、この子!ルーカス様のお妃になるのは私なのに!)
口を出したいが二人の会話に割り込めず、リーリエは歯がゆい思いで立ち
そんなリーリエに、ふとソフィーローズが目を向ける。
「あら?もしかして、お隣にいらっしゃるのは光の宝玉姫様でしょうか?」
「え?あ……私は……」
(そうだ。私、イーリィの振りをしなければいけないのだわ。……え?
さすがのリーリエも、事の重大さに気づき、青ざめる。
ここで事が知られれば、
……国家の恥だ。
「お……お初にお目に、か……かかります。マリア・リ……マリア・
入れ替わりのため、
だが、ソフィーローズはまるで
「まあぁ……何てお美しい御方なのでしょう。さすがは美を司る光の宝玉の守り主様です!私の姉とは大違いですわ」
無邪気に
(……そんなに悪い子ではないのかも知れないわ。そうよね、まだ
きちんと言って聞かせれば、分かってもらえるはず――リーリエはそんな楽観的な気持ちでいた。
……ソフィーローズの次の言葉を聞くまでは。
「よろしければ“お姉様”と呼んでもよろしいですか?王妃と宝玉姫ともなれば、長いおつき合いになりますもの。
リーリエは頬を引きつらせ、それでも『幼い子どもの言うことだから』と、怒りを
「まぁ……。王女殿下は、ご結婚を考えるには、まだ早くていらっしゃるのでは?」
ソフィーローズはその言葉にきょとんとし、すぐにくすくす笑い出した。
「お姉様ったら、私が
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グローリアからもたらされた情報は、イーリスによって
幾度もの会議の末に出された結論は、国境の警備をさらに固めること、武力を増強すること、そして……ソフィステスとの間の“政略”を、一刻も早くまとめることだった。
イーリスは
ソフィステスとの政略が進むということは、リーリエの恋が叶わなくなるということだ。
だが、妹の恋路を優先し、政略の失敗を望むことなど、国を守る聖女の立場でできるはずがない。
(ごめんなさい、リーリィ。私には、あなたの恋の
フェーダーとの再会のために、危険な橋を渡ってくれたリーリエ。
そんな妹のために、今度は自分が力を貸したい……イーリスは心からそう思っていた。
そんな折、何も知らないリーリエが、手紙で無邪気な提案をしてきた。
『この前は、私がイーリィに協力してあげたでしょう?
だから、今度はイーリィが協力して
ただの公爵令嬢では、なかなか王子様の隣にはいられないわ。
だから、イーリィの姿になって、パーティーの間ずっと、ルーカス様のそばにいたいの』
イーリスは戸惑った。
『リーリエとしてではなく、
私が仲介すれば、しばらくルーカス様とお話しする機会くらい、作れると思うのだけど……』
『イーリィを“利用”してルーカス様とお近づきになったりしたら、他の令嬢からどんな目で見られるか分からないわ。
イーリィとしてなら、誰も文句は言わない。
ずっと、あの方を独占していられるもの』
リーリエには、手紙には書いていない下心があった。
それは、イーリスの姿を利用して、近しい立場からルーカスの好みや、効果的なアプローチ法を探ること……そして、会話を通して
(今の
リーリエは知らない。
もう、
こうして
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その日からどことなく、ルーカスの態度がよそよそしくなった。
距離を取られていることに気づきながらも、多忙なイーリスは、関係修復の機会を持てなかった。
(やっぱり、あの時の言葉がいけなかったのかしら……。冷たく突き放したように聞こえてしまったのかも知れない。でも、私は宝玉姫。王が迷い、道を
そこには、
『お願い、イーリィ!ルーカス様を
きっとルーカス様は、お母様のことで、深い悲しみと絶望の中にいらっしゃるわ。
だって、“いつか普通の
王妃の訃報は、リーリエの元にも届いていた。
それを聞いた瞬間、リーリエの
あの時、リーリエは気づいていた。ルーカスの胸に、母への切ない思慕があることを。
母との心の距離を実感しながらも、密かに“いつか普通の母子のようになれること”を夢見ていたことを……。
『本当は、すぐにでも飛んで行って、私がルーカス様をお慰めしたい。
でも、私には無理だもの。一番近くにいるイーリィが、あの方の御心を救って差し上げて』
その文面には、リーリエの必死の想いが
イーリスは
(私、気づいていなかった。ルーカス様が、そんな想いを秘めていたなんて……)
イーリスの目に映るルーカスは、時におどけた所はあっても、あくまで立派な“王子様”だった。
己の立場を
だから、ごく平凡でありふれた、
(そばにいる私すら気づけずにいたことを、リーリィは見抜いていたのね。これは……恋の力なのかしら)
それまでイーリスは、リーリエの恋心を甘く見ていた。
イーリス自身が現実に出逢って夢から
(なのに……遠く離れていても、こんなにもルーカス様のことを想って……。どうしましょう。私……リーリィに言っていないことがあるのに)
リーリエの恋は、きっと叶わない。――国の事情を知るイーリスには、その恋の結末が、容易に想像できた。
この国には今、水面下で進められている政略がある。
ルーカスの弟王子が、ずっと国を離れて留学しているのも、そのためだった。
(王妃様の御葬儀で、第二王子殿下も一時帰国される。そうなれば、きっと
イーリスがルーカスを異性として意識しないのは、その事情を知るせいでもある。
そしてその事情を、イーリスはあえて妹に知らせていなかった。
無邪気に王子様に憧れるリーリエの“夢”を、壊さないようにするために……。
(でも、こんなことなら、もっと早くに教えてあげれば良かった。幼い夢が破れるのと、本気の恋が破れるのとでは、大違いだわ……)
憂鬱な気持ちを抱えながら、イーリスは、しばらく足の遠のいていた例の塔へ向かう。
せめて、リーリエの今の“願い”を叶えるために……。
ルーカスはこの夜も、塔の屋上にいた。
イーリスの姿に気づいた彼は、気まずそうに目を
「待ってください!」
イーリスはあわてて引き留める。
「この前は、申し訳ありませんでした。お母上を亡くされたばかりのあなたに、気遣いもできず……」
「いいよ。君の言葉は正しかった。王子が感傷に
ルーカスの言葉には、感情が籠もっていなかった。
心からの言葉ではなく、王子としての模範解答をしているだけなのだと、イーリスは悟る。
(このままでは、慰めどころではないわ。聖女としての教科書通りの言葉では、この人の心は救えない)
イーリスは
今は、ルーカスを慰めることを優先すべきだと。
「ずっと、我慢していらっしゃったんですよね?お母上に甘えることを……」
その言葉に、ルーカスの動きが止まる。イーリスは、ゆっくりと歩み寄っていった。
「そして今も、王子だからと、悲しみを
イーリスは
「私の母は、私が泣いていると、こうして優しく頬を撫でてくれました。私では、お母上の代わりにはなれないでしょうが……ほんの少しだけ、あなたを甘やかしても、よろしいですか?」
「イー…リス……」
ルーカスは戸惑うように瞳を揺らす。
「甘えてください、
ルーカスは、しばらく呆然とイーリスを見つめていた。
その顔が、くしゃりと
「み……見ないでくれ。王子が、人前で涙を流すなど……」
顔を逸らそうとするルーカスを、なおもじっと見つめ、イーリスは首を振る。
「泣いてください。今だけは。『甘えてください』と、言ったでしょう?」
ルーカスの唇から、
ルーカスはそのまま
自然、抱き締められるような格好になり、イーリスはあわてる。
「ルーカス様……っ」
「……ごめん。少しの間だけ。このままでいさせてくれ」
震える声で囁かれ、イーリスには彼を突き放すことができなかった。
(……大丈夫。他意は無いわ。これは男女の
イーリスは心の中で、必死に言い訳する。
確かにこの時、ルーカスにはイーリスへの恋情も下心も一切無かった。
だが、この夜のこの触れ合いが、ルーカスの、イーリスに対する意識を大きく変えてしまうこととなる。
これまで、ルーカスにとってイーリスは、最初に会った日の印象のまま――“泣き虫な年下の女の子”だった。
泣かせないよう守り支える相手ではあっても、共に国を
まだ“子ども”だからと、無意識のうちに恋愛対象に入れないようにしてきた。
だが、ルーカスは知ってしまった。
イーリスが
(イーリス姫……君は、いつの間に、こんなに優しく、心の大きな女性になっていたんだ……?)
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