JUGEMテーマ:経済成長
JUGEMテーマ:直接金融
JUGEMテーマ:デフレ・インフレ
今日は、銀行の役割で大きな機能の一つ「信用創造」について論説します。
皆さんは、銀行というと国民から預金を受け入れて、その通貨を融資として貸し出すのが銀行であると思っていないでしょうか?いわば、株式市場やその他の金融仲介業者と変わらず、預金者から投資家へお金を受け渡しをしているだけのように思っていませんでしょうか?
実際は、同一の預金を複数回にわたって融資として貸し出しています。
下図は、預金3000万円を2回貸し出しに回した場合の信用創造の仕組みのイメージです。
<信用創造の仕組み>
上図は、XYZ銀行が、預金3000万円をもとに、個人Aさんに貸し出し、法人C社に貸し出しているというシミュレーション図です。個人Aさんは住宅を建築し、B建設に3000万円を支払います。
結果、B建設はXYZ銀行にあるB建設の口座に3000万円預金して、3000万円がXYZ銀行に戻ってきます。
次に、戻ってきた3000万円をC社に貸し出しします。C社はD社に3000万円の物・サービスを購入し、D社に3000万円支払います。D社は支払いを受けた3000万円を、XYZ銀行のD社の口座に預金します。
この結果、XYZ銀行は預金が9000万円に増えます。元手は3000万円でしたが、9000万円に増えるのです。こうした仕組みが信用創造機能です。資本主義の仕組みとは、借入金を増やしていって経済のパイを拡大していくというものなのです。
バンクとノンバンクという言葉が使われることがありますが、バンクとは正にこの信用創造の仕組みを持つからこそバンクです。ノンバンクは、信用創造の仕組みを持ちません。
例えば、消費者金融でいえば、銀行から借り入れる、社債で投資家からお金を集める、株式発行で投資家からお金を集めるなどして、集まったお金に利息を乗せてお金を貸し付けます。
生命保険会社や損害保険会社の貸し付けも同様です。保険料という名目でお金を集める、銀行から借り入れる、社債で投資家からお金を集める、株式会社の場合は株式発行、相互会社の場合は基金の名目でお金を集めるなどして、集まったお金に利息を乗せて貸し付けます。
よくある誤解なのですが、銀行は外部からお金を調達して、調達したお金に利ザヤを乗せて貸し出しているという誤解です。上図でいえば6000万円のお金を調達してから3000万円ずつ個人Aさん、法人C社に貸し出していると思いがちです。
XYZが、消費者金融や保険会社であれば、何らかの名目で6000万円集めない限り、個人Aさん、法人C社に貸し出すことはできません。XYZは銀行ですので、信用創造機能によって無からお金を作り出すことができるのです。
このように、バンクとノンバンクの違いとは、信用創造機能を持つか持たないか?ということです。
バンクは信用創造機能を持つため、3000万円を貸付金と記帳するだけで無からお金を生み出して貸し出すことができます。一方で、もし準備預金という規制がない場合、XYZ銀行は記帳するだけで貸し出せるとなると、無限にお金を貸すことができます。
そこで法定準備預金という規制をかけて、貸付金の一部を日銀当座預金に預け入れなければならないように義務付けています。上図では準備預金率1%とし、貸付金の1%を日銀当座預金に預け入れなければならないというシミュレーションになっています。
上図は、日銀当座預金の預金準備率が1%であるため、XYZ銀行は、信用創造機能によって預金が9000万円に増えたので、日銀当座預金に90万円預けたということを示しています。
銀行はお金を手に入れなくても、無からお金を作り出すことができます。銀行以外のノンバンクは無からお金を作り出すことはできません。
多くの人は3000万円を銀行が貸すためには、預金準備率1%だとすれば、日銀当座預金に預けるための30万円と、貸し出すための原資3000万円で、合計3030万円資金調達してから、やっと3000万円貸し出すことができると思われる人が多いでしょう。
とはいえ一般人だけでなく、経済学者やアナリスト、エコノミストであっても、このことを知らない人は多いのではないでしょうか?
家計簿発想で国家の財政運営を考えることは大変愚かなのですが、資本主義というものが借入金を増やしていって、経済のパイを拡大させる、それは即ち銀行の信用創造機能そのものであるということを、経済学者、アナリスト、エコノミスト、国会議員らでさえ知らない人は多いと思われます。
そうでなければ、借金=悪と考えて「政府の負債を増やすなんてとんでもない!」という発想は出てこないはずです。資本主義は負債を増やして経済のパイを拡大し、経済成長していくものであり、借金=悪と考えることは、資本主義の否定に他なりません。
今の日本はデフレであるため、民間企業は負債を増やしにくい環境です。なぜならば、デフレで物・サービスの値段を下げないと売れない状態ですので、銀行から借り入れて負債を増やして投資しようにも、儲かりにくく、借入金の返済に窮してしまう可能性があるからです。
このように民間企業はデフレで負債を拡大しにくくても、政府は負債を拡大することは可能です。なぜならば通貨発行権を持つからです。地方自治体は通貨発行権を持たないため、プライマリーバランス黒字化の発想があってもやむを得ません。それとて地方自治体の首長や都道府県の知事や地方選出の国会議員らが、地方交付税交付金の分配を多く配分するよう要求し、財源は国債発行で何ら問題がありません。
何が言いたいかといえば、景気が悪いときは政府が負債を拡大し、デフレ脱却して民間が負債を拡大しやすい環境になって、実際に民間企業が負債を拡大し始めたら、政府は負債の拡大を抑制すればいいのです。デフレのときは、デフレ脱却のために政府が国債増刷するということで何ら問題ありません。
というわけで、今日は銀行が持つ「信用創造」について論説しました。何が何でも「借金=悪」というのは、デフレ化における家計簿の発想、企業経営の発想です。デフレ化の場合は、借金の元本は相対的に価値が高くなりますし、家計は負債を相続しますので、ある意味で合理的です。とはいえ何が何でも「借金=悪」とすることは資本主義の否定であり、通貨発行権を持つ政府は自国通貨建ての負債を増やしても財政破綻することはありません。
家計は相続します。企業は倒産します。国家は破綻しません。利益追求不要のNPO法人であり、通貨発行権を持つのが政府です。デフレ下では、政府しか負債を拡大することができません。
また民間であろうと政府であろうと、負債を拡大すれば、経済成長していくということをご理解いただきたく、「借金をひたすら増やすことは無責任だ!バラマキだ!」という考えこそ、資本主義の否定であって間違っているということを、多くの人々に気付いていただきたいと思うのです。
〜関連記事〜
]]>JUGEMテーマ:国際金融情勢
今日は企業の資金調達の方法の1つであるCoco債という社債についてご紹介したく、転換社債やストックオプションなどの新株予約権についても触れながら、CoCo債の特徴を論説します。
次の3つの表題の順で説明したいと思います。
1.資金調達と資産運用は表裏一体
2.転換社債とワラント債の特徴
3.CoCo債の特徴
1.資金調達と資産運用は表裏一体
リスクとリターンが表裏一体であるのと同様に、資金調達と資産運用もまた、表裏一体の関係にあると私は思っております。即ち、数学でいうところの関数・方程式とグラフみたいなものです。そのため、あらゆる金融商品について、資金調達サイドから見るメリデメと、資産運用サイドから見るメリデメは、常に表裏一体であると考えております。
普通社債を考えれば理解しやすいと思われるのですが、普通社債で資金調達する場合のコストは支払利息です。その利息を受け取るのは投資家になります。普通社債の資金調達コストは、発行企業体の財務内容などを投資家が判断して決まります。
発行企業体の財務内容が、相対的・絶対的に良好と判断されれば、利息は小さくなります。結果、発行企業体は少ないコストで資金調達でき、投資家は利回りが小さくなります。
逆に相対的・絶対的に良好でないと判断されれば、利息は大きくなります。その結果、発行企業体は高いコストで資金調達することとなり、投資家は利回りが大きくなるのです。
2.転換社債とワラント債の特徴
以上は普通社債についての説明でしたが、株式投資をされている方であれば、転換社債という金融商品をご存知の方もおられるでしょう。
転換社債は、株式と社債を合体させた商品であり、株価がトリガーと呼ばれる価格にタッチしたら、株式へ転換請求できる権利を持つ社債といわれています。デリバティブ取引のオプション取引の1つであるコール・オプション(トリガー価格で買う権利)が付いた社債ともいえます。
似たような商品では、ワラント債というのもありました。ワラント債は、価格がトリガーと呼ばれる価格にタッチしたら株式を購入できる権利を売買するというものです。
転換社債とワラント債の違いでいえば、転換社債は社債部分の資金を投資家が既に払い込んでいるため、発行企業体からみると、株式転換された場合に、新たな資金流入が発生しません。
投資家サイドからみた転換社債は、権利行使価格以上に株価が推移しているのであれば、株式転換後の株式を市場で売却することで、そのまま「時価−権利行使価格」の分だけ利益を得ることができます。
<発行企業体における転換社債の転換前後のバランスシートのイメージ>
一方でワラント債は、既に払い込む社債部分がないため、発行企業体からみると、権利行使後に新たに資金が払い込まれることで、自己資本に資金が流入します。
投資家サイドからみた場合、権利行使価格にタッチしたら、株式購入代金を一時的に資金を払い込む必要がありますが、権利行使価格以上に株価が推移しているのであれば、すぐに市場で売却することで、「時価−権利行使価格」の分だけ利益を得ることができます。
<発行体企業におけるワラント債の権利行使前後のバランスシートのイメージ>
企業が役員や従業員にインセンティブとして給料に変えてストックオプションを付与することがあります。このストックオプションも、株価がトリガーと呼ばれる価格にタッチしたら、株式を買う権利があるというもの。これは従業員が一時的に金銭を払い込むわけではないため、ワラント債に近いといえます。
以上「転換社債」「ワラント債」「ストックオプション」という語彙を出させていただきましたが、2002年4月の商法改正で、新株予約権制度というのが新設されて「新株予約権」という名称に統一され、「新株予約権付き社債」と呼ぶようになりました。
3.CoCo債の特徴
CoCo債とは「Contingent Convertible Bonds」の略称で、「偶発転換社債」と和訳され、株式と債券の中間の性格を持つハイブリット証券と呼ばれる部類に入ります。(因みに転換社債は「Convertible Bonds」の略称でCBと呼ばれます。)
このようなハイブリット証券は、社債だから負債勘定と思いきや、金融機関の自己資本比率規制(バーゼル3)において、自己資本に入れてもいいとされており、金融機関の資本増強手段の一つとして人気があります。
同じような資金調達方法としては、劣後債や劣後ローンとメザニンファイナンスと呼ばれるものがあります。劣後債も劣後ローンも社債と借入金なので他人資本ですが、金融機関の自己資本比率規制において、やはり自己資本への参入を認めています。
一般にCoCo債は、発行体企業である金融機関の自己資本比率について、あらかじめ定められた水準を下回った場合に、元本の一部もしくは全部が毀損したり、強制的に株式転換されるなどの仕組み(トリガー条項)を持つ債権とされています。
普通の「転換社債」では株価水準をみながら、投資家が株式転換するか否か?判断できるのですが、CoCo債は、発行体の金融機関の財務状況によって、強制的に株式転換されたり、元本削減されたりする点が特徴です。
投資家サイドからみた場合、その分リスクが高いため、利回りは高めに設定されます。また、ハイ・イールド債と比較した場合でも、CoCo債の方が格付けが高いこともあり、リスクと利回りを他の金融商品と相対的に比較した場合に、CoCo債が有利と考えられて投資家には高い人気があるのです。
このように投資家にとって高い人気があり、魅力的に見えるCoCo債ですが、商品設計の複雑さから問題視する声もあります。リーマンショックのような金融危機が発生した場合、発行金融機関でトリガー条項が発動された場合に、ドミノ倒しのように債券価格が下落し、金融機関の破綻が連鎖するというリスクがあります。
というわけで、今日は普通社債や転換社債やストックオプションなど、新聞などでは稀に出てくる語彙ですが、改めてその違いについての説明と合わせ、CoCo債の特徴をご説明いたしました。
金融危機のような非常事態のときに、強制的に株式転換された場合、金融危機で株価も低迷しているため、強制転換された株式を市場で売るとしても損する可能性が高いです。
逆に強制転換できるという点があるからこそ、社債という顔を持ちながらも、自己資本に算入できるという点で、発行金融機関と投資家間でリスク・リターンが表裏一体になっているのです。
低金利にあえぐ日本の金融市場ですが、だからといって、よくわからない金融商品に手を出すのは危ないです。CoCo債には、そうしたリスクがあるということをご理解いただきたいと思います。