シリン・ネザマフィ「白い紙/サラム」
白黒を基調としたシンプルな表紙ですが、そこはかとなく漂うのはオリエント・・・あるいはアジアンテイスト・・・と思ったら、作者は1979年にイランで生まれた方らしい。日本に留学し、現在はシステムエンジニアとして国内の企業に勤めている方だそうです。表紙に惹かれて借りてみたのですが、一読してビックリ!調べ…
【つづきを読む】
白黒を基調としたシンプルな表紙ですが、そこはかとなく漂うのはオリエント・・・あるいはアジアンテイスト・・・と思ったら、作者は1979年にイランで生まれた方らしい。日本に留学し、現在はシステムエンジニアとして国内の企業に勤めている方だそうです。表紙に惹かれて借りてみたのですが、一読してビックリ!調べてみたら、新聞でも話題になっていた作品でした。(汗)『イラン・イラク戦争下の恋を描き文學界新人賞を非漢字語圏から初めて受賞した作者。留学生文学賞を受賞した「サラム」も注目作。大型新人の傑作二作』(〜amazon)予備知識無しで読み始めたら、最初の一編「白い紙」はどうやらイ・イ戦争時のお話らしいと分かってちょっと後ろめたい思いが・・・。何故って・・・平和な日本で我々は、あれ以来続くあの国の過酷な現状を「無視」して生きているようなものですからね・・・。イスラムの戒律で、、女性が肌を晒すことも、男女が言葉を交わすことも許されない国。貧しく、形ばかりの学校では、生徒も親も成績などにかまってはいられない・・・。男達は戦場にかり出され、残された者は空襲に怯える日々・・・。出征した父親が激戦のさなかで逃亡したと知った息子は、残された母親への迫害を恐れて医学部への進学を断念し・・・・・・・。「君たちは望み通りの未来を書ける白い紙の様なものだ」と言って息子を励ましていた教師、密やかな交際を重ねていた息子の恋人・・・そして残される母親・・・それぞれが見せる涙・・・非情なまでの別れの場面は泣けます・・・。最後まで無言だった息子の思いに胸が詰まる・・・。二編めは「サラム」・・・。「サラム」とは元々は「降伏」「救い」「平和」等の意味があったが、今では単なる日常の挨拶として使われるらしい・・・。日本に留学して平穏な生活をしていた「私」は、難民認定の裁判に関わる弁護士にアルバイトの通訳として雇われる。入管の「収容所」で出会ったアフガニスタン人の少女レイラは、暗い瞳で、18才なのに手や顔に深い皺を刻んでいた。東奔西走する弁護士と行動を共にし、何度も言葉を交わすことで少しずつ心を開いていったレイラだったが、裁判に敗訴し、「9.11」を経験し、父親の死を知らされるて・・・「サラム」と言いながら敵に殺された母親を思い出し・・・・。結果的に守れなかった「私」と弁護士・・・無力さに身を震わせ・・・「日本」と言う国を・・思う・・・。最後の場面・・・過酷な運命を受け入れ、暗い瞳に戻った少女の言葉が鮮烈・・・打ちのめされる「私」と弁護士の姿にも泣けます・・・。「留学生文学賞」のHPのリンクを見ると、どうやらこの二編は完全な「小説」のようですが、作品の多くには現実の姿が反映されていると思えます。「聖戦」の内情や難民認定を巡る「悲劇」は何度も報道されていますしね・・・。正直言って、「小説」と言うより、イスラム世界と日本という国に対する「告発本」という面も感じます。「白い紙」は戦前の日本を思い起こさせます。でも、あの国はいまだにそんな世相なのか?とは言えません。身内に優しいけれど、外の人間には優しくない日本人は、彼らの事をどうこう言う資格は無いでしょう。「サラム」では献身的な日本人も登場しますが、「このままで良いの?」という日本人に対する著者の問いかけが「主題」だと思います。日本という大国は、世界中の人に優しくあって欲しい・・・という願いでもありますね。過酷な彼の地と平和な日本。生死のかかったギリギリの日常の国と、「ボケ」とも言われる平和な国がこの地球上に同時に存在している不思議な感覚を感じると
同時に、一種の罪悪感も感じます。だからどうする?と言われても答えようがありませんが、この「事実」を忘れてはならないと思います。読み進む内、所々で不思議な言葉遣いの部分が散見されますが、特に問題というほどではありません。出版社も分かっていて直さないのだと思います。(笑)それよりも、それぞれの作品の結末部分での、激しい感情の吐露に感動させられます。厳しい現実だけがもつリアリティーにたじろぐ方もあるでしょうが、目を背けてはいけない・・・そう思って読んでみて下さい・・・。それにしても思います・・・。楽に、楽しく、豊かに・・・日本人その様な価値観と、あえて過酷な運命を選ぶ人々の価値観・・・同じ人間なのに、何故これほど違うのか?そして・・・・どちらが幸福なのだろうか・・・と。あえて言えば、もちろん日本人の方が幸福に決まっているが・・・彼らの見せる、絶望の中の「崇高さ」に惹かれるのも事実ですね・・・。