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キシム、キシム、キシム、キシム。 恐るべき薄い壁に囲まれた<蜜月>の部屋は、刹那的に寝台を軋ませる隣客の気配を日替わりで伝えた。フロントの男のシャツが、日々、うつろいゆくように。耳を澄ます必要もなかった。 ある日――夜勤帰りで「疲れた」を連発する男と「舌平目が食べたい」とつぶやく女。 ある日――「いい額縁が見つからない」と嘆く青年と「額縁より絵が肝心でしょ」とたしなめる年上の女性。 ある日――環状鉄道の運転手と<就職斡旋協会>の女事務員。 ある日――ロケット打ち上げ跡地の警備員と熱帯植物園の受付...
KAKER*α DAYS | 2010.11.12 Fri 21:16
なんで人としても男としても面白みがない判断力に欠けたあんな人がよく見えたんだろう?それが恋の力だったらよかったのに。違うことを私は知っていた。自分に自信がなくって、生きていることに罪悪感があったから、自分を好きと言って言い寄ってくれた人を貴重に思わなくてはいけない、と思ってしまったのだ。 −よしもとばなな「体は全部知っている」より「おやじの味」 JUGEMテーマ:物語への招待
KAKER*α DAYS | 2010.10.21 Thu 01:39
風景の一番遠くに淡い灰色の空と海それから風一番近くに あなたの薄い冷たい耳目を閉じる時睫毛でふれたきっと 何度でも思い出す −榛野なな恵「パンテオン」 JUGEMテーマ:物語への招待
KAKER*α DAYS | 2010.10.14 Thu 01:47
泣いているときに電話が鳴って眼の下を涙で濡らしたまま相手の冗談に私は笑った泣いた理由は通俗的な小説の通俗的な一行でだが泣けるということに私は救われそのせいで笑ったのかもしれない笑って電話を切ったあと煙草に火をつけ私は自分の感情について考えたそれを何と名づけることができるのかと結局名づけようはなかったのだ窓の外で木枯らしがうなりをあげ私はもうどんな季語ももっていない私をしばる制度の中で感情は出口を見失いそのすべてが怒りに似てくるがそれすらも私のものかどうか定かではない眼の下はとうに乾きやみくも...
KAKER*α DAYS | 2010.10.05 Tue 21:12
WHY DO I RUSH DOWN HERE EVERY MORNING TEN MINUTES AHEAD OF TIME SO I WON'T MISS THE SCHOOL BUS ?...AND THEN STAND HERE FOR TEN MINUTES HOPING IT WON'T COME? −CHARLES M.SCHULZ「A PEANUTS BOOK featuring SNOOPY 6」 JUGEMテーマ:物語への招待
KAKER*α DAYS | 2010.09.28 Tue 23:39
私が飲みたいのはいつもコーヒーで、みのりは紅茶だった。「どうしてもコーヒーじゃなきゃ嫌だってわけでもないんだけど」 私がいうと、みのりはコーヒー豆を挽きながらこちらへすいっと顔を向けた。「仕事で煮詰まってるときなんか、一杯の熱いコーヒーに救われることがあるんだ。目が覚めるっていうか、さあもうひと息がんばろうって思えるっていうか。でも、紅茶は、飲んでしみじみおいしいと思ったことってないな」「なんとなく、わかるよ。真夏はコーヒー向き。コーヒーって、これからのための飲みものって感じがするもの」...
KAKER*α DAYS | 2010.09.09 Thu 00:04
しかし、微妙に違うのだ。またすぐに、なんて私は一度だって思ったことはなかった。別れがこんなにも唐突なものだなんて今の今まで知らなかった。毎日少しずつあきらめて、小さいことからこつこつと心の整理をつけて、痛くない痛くないと言いきかせながら注射を受けるみたいに、つらくないつらくないと言いきかせながら彼を失っていく。別れにとって大切なのはその過程ではないか。だって、つまるところは皆同じさようならなのだから。 −森絵都「いつかパラソルの下で」 JUGEMテーマ:物語への招待
KAKER*α DAYS | 2010.09.06 Mon 01:01
携帯電話の番号を変えようか、変えまいか・・・・・・いつまでも迷った。 私はがんばって古い機種を長く使っていたので、まだふたりが離れて住んでいた頃の楽しいメールがたくさん入っていて、ずっしり重く感じられ、持って歩くのも苦しかった。がんばって一日ひとつくらい削除してみるのだが、ふと心が弱って見てしまうと、「見ていたい」という自分との暗い戦いがあった。 電話は単なる道具だと思っていたので、こんなに見るだけで気が重くなる代物に変わったのにびっくりした。これもまたTVと同じ、都会の魔法かもしれない。 いず...
KAKER*α DAYS | 2010.08.25 Wed 01:00
現実では、体が「よく寝た」とか「いっぱい食べた」とか「疲れ気味でとにかく寝たい」とか「もっと動きたい」とかいろいろ気がまぎれる体の言葉を発してくれるので、私はなんとか体という乗り物に乗って、今という時間の中になじんでいける。 でも、夢の中では自分の精神だけが自分だ。だから、感情は大きくなったら遠慮なく器からあふれだしてしまう。あふれて、いろいろな気持ちが百倍くらいに増幅されている。そして、遠い旅をしてきたように、ただただ心が痛くなっている。 −よしもとばなな「王国 その2 痛み、失われたもの...
KAKER*α DAYS | 2010.08.20 Fri 01:16
もっとも、ニムトが「きのう、婚姻届を出しに行った」と手紙に書いてきたときは−そしてその相手がアンヌ先生だと知らされたとき−彼ら二人の声やたたずまいから遠く離れていることが、僕には何よりの救いだった。「救い」と考える自分に戸惑いも覚えたが、時間や場所から離れることで、たとえば恋のようなものに輪郭が与えられることもある。 −吉田篤弘「空ばかりみていた」 JUGEMテーマ:物語への招待
KAKER*α DAYS | 2010.08.18 Wed 15:00
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