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JUGEMテーマ:ショート・ショート 海沿いのパーキングで車を止めて、少し仮眠することにした。窓を全開にすると心地良い西風が流れ込んでくる。日差しの強さとその風の湿り具合が古い記憶を呼び覚ます。目を閉じて真っ先に浮かんでくるのは、君の笑顔だ。唇の両端の持ち上げ具合が独特で、僕にはその笑顔が妖精のように思えた。そんな記憶。 「花については全然詳しくないの」 僕らは岬の先端の遊歩道を歩いている。強い西風が君の髪を揺さぶる。 「僕もよく知らない」 君が指差した花に目を向けて...
pale asymmetry | 2023.04.13 Thu 20:15
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ベランダで月を見よう」 放射冷却で冷えた朝にやってきた甥っ子は、玄関の扉を開けるなりそう言った。 「月? 今見えるの?」 反射的に僕は時計を見る。午前七時三分だった。 「うん、見えるよ」 甥っ子は何故か得意げに胸を張る。 「ところでその耳は?」 甥っ子は頭にウサギの耳をのせていた。黄みの強い赤色の耳だった。 「良いでしょう。昨日フリースクールで作ったの」 「それはフェルト?」 「そう。中に針金のフレームが入っている...
pale asymmetry | 2023.04.10 Mon 20:06
JUGEMテーマ:ショート・ショート 家に帰るとリビングのソファーで彼女がラップトップのキーを忙しなく叩いていた。ソファーの前のテーブルには小さなロボットが横たわっている。ガンメタリックの五頭身くらいのロボット。中性的で、幼さを感じさせるフォルム。フェイスにパーツはなく、だからもちろん表情もない。 「おかえり」 キーを弾く指を止めずに、彼女が言う。眼差しもラップトップのモニタに向けられたままだ。 「ただいま。何してるの?」 「この子の眠りと目覚めの準備」 彼女が目を...
pale asymmetry | 2023.04.07 Fri 21:41
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「さっきそこで妖精に出会ったわ」 帰ってきた彼女がそういって笑う。 「妖精? どんな感じの?」 僕はソファーに寝そべったまま尋ねる。 「あれはカタツムリの妖精ね」 彼女はソファーに歩み寄り、僕を起き上がらせて隣に座る。僕は彼女に寄りかかり、二人でだらしなく崩れていく。 「貝殻を背負っていたのかい?」 「そうね、尖っていてとてもカラフルな貝殻だった」 「羽は? 羽は生えていた?」 彼女は一瞬斜め上を見つめ、二三度瞬きをし...
pale asymmetry | 2023.04.01 Sat 19:04
JUGEMテーマ:ショート・ショート 家に帰ると甘い香りで満たされていた。リビングの床に、ピンクの花が敷き詰められている。その花が甘い香りを放っていたのだった。 「お帰り」 ソファーに横たわる彼女が僕を見て微笑む。モフモフした毛布を首まであげていたから、猫のように見えた。 「ねえ、見て。面白いよ」 彼女が毛布から右手だけを出しテレヴィジョンを指差す。そのモニターには走る少女の映像が映し出されている。学校の制服のような、でも制服にしてはガーリー過ぎる衣装の女の子が都市を...
pale asymmetry | 2023.03.29 Wed 21:10
JUGEMテーマ:ショート・ショート 土曜日、僕も彼女も久しぶりの休日だったからたっぷりと眠った。とろけてベッドに染み込んでしまうくらい眠り続けた。 「ねえ、まだ眠る?」 彼女の声で世界に呼び戻されたとき、カーテンは鋭い陽光を過剰に孕んで発光していた。 「何時だろう?」 「11時30分」 「少しお腹が減ったな」 「私は喉が渇いたわ」 僕らはもぞもぞと互いを支え合い、覚束ない足取りでキッチンへと移動した。そのままダイニングテーブルに倒れ込み、彼女はミネラルウォーターを...
pale asymmetry | 2023.03.18 Sat 20:30
JUGEMテーマ:ショート・ショート 家に帰ると、リビングのテーブルに数字が並んでいた。3と1と4の数字だった。それらの数字はチョコレートで出来ていた。 「どう?」 ソファーに寝転ぶ彼女が尋ねてくる。 「パイだね」 そう答えると、彼女は満足そうに頷く。 「ホワイトデーと絡めて、チョコでパイを作ってみました」 彼女は立ち上がりキッチンへ。そこで冷蔵庫からガラスの器を取り出す。器には3と1と4がびっしりと詰まっていた。 「大盛りのパイだ」 「そうパイに溢れる世界を表現...
pale asymmetry | 2023.03.14 Tue 21:01
JUGEMテーマ:ショート・ショート 仕事から帰ると、彼はリビングのソファーに横たわっていた。胸の上で両手を噛み合わせるように握り、硬く目を閉じていた。それはまるで棺に納められた人のように見えた。ただ、死者には見えなかった。彼はまだたくさんの付随するものを纏っているのを感じられたから。彼は重そうに見えた。自分の質量を持て余しているような気がした。私はそっと彼に近づき、耳元に顔を近づけ囁いた。 「重いの?」 彼は目を閉じたまま、小さく頷く。 「そうだね」 「沈んでしまいそ...
pale asymmetry | 2023.03.11 Sat 20:26
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ある朝目を覚ましたら、自分以外に誰もいなくなっていたと仮定して」 彼女はリビングのテーブルに頬を横たわらせ、窓の向こうを見つめている。 「どんなに探し回っても、世界には自分一人しかいないと結論づけるしかないという状況なの」 「うん」 僕はソファーに身を沈めて、彼女と同じように窓の外を見つめている。 「そのときあなたは、自分一人だけが世界に取り残されたと思うかしら」 窓の外はどんよりと曇っていて、街路樹の様子から強い風が吹いて...
pale asymmetry | 2023.03.03 Fri 20:48
JUGEMテーマ:ショート・ショート 早朝、スマートフォンのコールで起こされる。 「今、扉の前にいるよ」 甥っ子の声。よろけながらベッドを後にし、玄関のドアを開ける。レインコートを纏った甥っ子が立っている。外の空気は冷たく硬く、そして強く流れていた。 「どうこれ?」 両腕を広げて、甥っ子はレインコートを僕にお披露目する。寒風と雨滴が玄関に入ってくるのに、ドアを閉めてはくれない。サフランイエローとモスグリーンのコートはたぶん寒さを完璧に撥ね除けているのだろう。 「いい...
pale asymmetry | 2023.03.02 Thu 18:58
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