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第1章 【俯瞰風景 Thanatos.】 目次

JUGEMテーマ:気になる本 ちょっと前が読みたい…でも面倒だなぁ ということで目次を作りました  【俯瞰風景 /】 【俯瞰風景 Thanatos.】 【/0】 ・ 【/1】 ・ 【/2】 【俯瞰風景 /】 【?】 ・ 【?】 ・ 【?】 ・ 【?】 【俯瞰風景】  【/3】 ・ 【/4*?】 ・ 【/4*?】 【俯瞰風景/】 【了】 6/1

たいむかぷせる。 | 2010.05.05 Wed 14:45

【俯瞰風景 Thanatos.】/2

JUGEMテーマ:気になる本 ☆ /2  八月も終わりにさしかかった夜、散歩をする事にした。  夏の終わりにしては外気は肌寒い。終電はとっくに過ぎていて、街は静まり返っていた。  静かで、寒くて、廃れきった、見知らぬ死街のようでもある。人通りも温かみもないその光景は写真みたいに人工的で、不治の病を連想させた。  ―――病い、病気、病的。  何もかも、明かりのない家も明かりのあるコンビニも、気を許せば咳き込んで崩れ落ちるような感じ。  そんな中、月光は青々と夜を浮き彫りにする。  全てが麻酔された...

たいむかぷせる。 | 2010.05.05 Wed 09:07

第十章−3【ミセス・キッパーソルトの動揺】

JUGEMテーマ:気になる本 ☆10−3  そこで女主人がいきなり怒鳴り出した。 「あいつ、今度は何をやらかしたんだ?」  えっ、何々、どうしたの? 「どなたのことをおっしゃってるんですか?」 「いや別に」  いつもの笑みがすっかり消えて、女主人の顔が険しくなった。そのとたん、骨太の逞しい印象が一気に強くなり、こっちは思わず後退りそうになるのを、必死に耐えた。母親のような温かみが、今は敵意に変わっている。 「ちょっとあんた、何を探ろうってんだい?」  ロンドン訛りがどんどん強くなって...

たいむかぷせる。 | 2010.05.05 Wed 09:04

第十章−2【ミセス・キッパーソルトの動揺】

JUGEMテーマ:気になる本 ☆10−2  どう考えたってそんな名前が本名であるわけがない。それで相手も、ちょっとぎこちない感じの笑みを漏らしたんだと、そのときのわたしはそう思っていた。  こちらは推測を重ねて、さらに聞いてみる。 「もしかして、ご主人は俳優さんか何かだったんですか? それでこういうご商売をするようになったとか?」 「いいえ、そんなんじゃありません」  女主人の口調に、どことなく答えをしぶるような感じが出てきた。 「ひょっとしてご主人はもう亡くなられたのですか?」  店...

たいむかぷせる。 | 2010.05.04 Tue 10:15

【俯瞰風景 Thanatos.】/1

JUGEMテーマ:気になる本 ☆ /1    八月になったばかりの夜、事前に連絡もなく幹也がやってきた。 「こんばんは。相変わらず気怠そうだね、式」  突然の来訪者は玄関口に立って、笑顔でつまらない挨拶をする。 「実はね、ここに来る前に事故に出くわしたんだ。ビルの屋上からさ、女の子が飛び降り自殺。最近多いって聞いてたけど実物に遭遇するとは思わなかったな。―――はいこれ、冷蔵庫」  玄関でブーツの紐をほどきながら、手に持ったコンビニのビニール袋を投げてよこす。中にはハーゲンダッツのストロベリー...

たいむかぷせる。 | 2010.05.04 Tue 09:58

第十章−1【ミセス・キッパーソルトの動揺】

JUGEMテーマ:気になる本 ☆10−1 ペルテローテの店にわたしが入っていっても、大皿のような顔を女主人は、ぽかんとするでもなく、素っ頓狂な声もあげなかった。たいしたものだ。ただ目をみはり、小声でこう呟くに留めた。 「まあ、これは驚いた。なんと素敵に変身なさったこと。お見事ですよ、ミス……ええと、エヴァソー」  つまり相手は、わたしがここでカツラと付けぼくろを買ったことも、もとは冴えない外見だったことも覚えていた。おまけに名刺に刷った名前まで。 「ありがとうございます」  わたしはにっこ...

たいむかぷせる。 | 2010.05.03 Mon 16:46

【俯瞰風景 Thanatos.】1/0

JUGEMテーマ:気になる本 ☆ 1/0 その日、帰り道に大通りを選んだ。 自分にしては珍しい、ほんの気紛れである。 見飽きたビル街を呆と歩いていると、ほどなくして人が落ちてきた。 あまり聞く機会のない、ぐしゃりという音。 人がビルから墜ちて死んだのは明白だった。 アスファルトには朱色が流れていく。 原形を留めているのは長い黒髪と。 細く、白を連想させる脆い手足。 そして貌の亡い、潰れた顔。 その一連の映像は、古びた頁に挟まれ、書に取り込まれて平面となった押し花を幻想させた。 ―――おそらくは。 ...

たいむかぷせる。 | 2010.05.03 Mon 16:45

第九章−2【鼻のない男】

JUGEMテーマ:気になる本 ☆9−2 その夜はほんのわずかしか眠らなかった。温かくて、すっぽり身を隠せる黒い衣装をミセス・タッパーの下宿に全部置いてきていなかったら、きっと寝るなんてことは考えもしなかっただろう。自分よりも恵まれない人々を探して夜の街をうろつき、食べ物とわずかなお金をあげて、自分の悩みなんてたいしたことはないと考えていたはずだ。夜になるとあれこれぐじぐじ悩むのは、ほとんどわたしの癖と言ってよかった。  なのにヴィオラ・エヴァソーに扮していては、夜中に外に出ることもできないのが悔...

たいむかぷせる。 | 2010.05.02 Sun 07:11

第九章−1【鼻のない男】

JUGEMテーマ:気になる本 ☆9−1 できるだけ人目につかない道を選んで監視用の下宿に急いで戻り、ベルを鳴らしてお湯を持って来てくれるよう頼んだ。身体を洗い終えると、清潔な服に着替え、濡らしたスポンジでスカートの泥汚れを拭い取り、髪を整え直しながら――つまり、カツラを外して櫛でとかし、あちこちピンでとめて、これならまずまずというスタイルにしながら――じっくり考えようとした。  けれどいくら真剣に考えようとしても、頭に浮かぶのは、鼻のない男の話。どういうわけで鼻を失ったんだろう。確かルネッサンスの時...

たいむかぷせる。 | 2010.05.01 Sat 10:14

【6.晩餐会は夜の庭で】2

JUGEMテーマ:気になる本 ☆6−2 縁飾りに野ばらの彫刻が施された鏡を見て、ミリセントは誇らしげに口にした。 フィンレイを実体化した翌日、彼自身の姿はもう部屋にはなかった。 そこにあるのは本来の姿を取り戻し、まったく輝きの損なわれていない姿見だけだった。 ミリセントが改めて感心していると、その向かいあった壁に掛けられた鏡の縁がすっかりようすを変えていることに気づいた。 彼なりの感謝の気持ちだろうとアンセルに言われ、ありがたく自室で使うことにしたのだ。 支度を終えたミリセントが階段をおりると...

たいむかぷせる。 | 2010.04.30 Fri 10:21

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