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『タレンタイム』(2008年 マレーシア) ヤスミン・アハマド監督

 ヤスミン・アハマド監督の2003年のデビューから第6作にして遺作となった作品。1年に1本のペースで撮り続けた監督は、1作毎にカメラワークや編集が洗練されていき、巧みになっていくのがわかる。素晴らしい才能と、教養と、人間の猥雑さを包み込む寛容さを持った芸術家であることが理解されるに至って、見逃した作品が惜しまれるのである。多民族、多言語、多宗教の国、マレーシアの文化や生活、国情に当初違和感を抱いたにもかかわらず、作品を観る毎に彼女の作品に引き込まれていくということは、この監督の表現し、伝えん...

映画と日々 | 2010.11.07 Sun 22:30

『ルンバ!』(2008年 ベルギー・フランス)ドミニク・アベル、フィオナ・ゴードン、ブルーノ・ロミ監督

 「アイスバーグ!」を観た後では、もはやこの三人の俳優陣、懐かしく親しみのもてる知人のように思えてくる。この作品のユニークさもまた楽しく、嬉しい。エンターテイナーの鑑のようである。 英語教師のフィオナと体操教師のドミニク(ドム)夫婦。終業のベルが鳴ると同時に喜びいさんで教室を飛び出していくのは子供達ばかりではない。教師たちもまた同様だ。さて、フィオナとドム。空っぽの体育館で、いざ始めたのはダンスの練習。ペアでダンス大会に出場し、優勝を目指しているのだ。大会当日、緊張と昂奮に包まれて会場に向か...

映画と日々 | 2010.11.07 Sun 22:24

『シルビアのいる街で』(2007年 スペイン) ホセ・ルイス・ゲリン監督

 洗練された近代的デザインのトラム(路面電車)が静かに走り抜けて行くフランスの古都、ストラスブール。この街で、ひたすら記憶の女性の姿を求めて歩き回る青年画家。6年前、”アストロノート(宇宙飛行士)”というバーで出会った女性を探して再び訪れた。6年の歳月は、彼女を少しばかり’若くなく’しているにすぎない。石造りの建物、窓、看板、街路は歴史を感じさせて、懐かしい佇まいを見せる。電車の乗客、カフェで語らう人々、独りで読書をしたり、何かを想う人々を目で追いながら、スケッチの手が動く。客と給仕とのトラブル...

映画と日々 | 2010.11.07 Sun 22:18

「バード・シット」(1970年 アメリカ) ロバート・アルトマン監督

  不条理と妄想と荒唐無稽とナンセンスとアイロニー、さらに70年代的サイケデリックとポップとに彩られて、やるせない青春にからめ取られつつ、自由への夢が第一条件として人生を底上げしているような、そんな痛ましさを覚えてしまう作品だ。70年代のアメリカ映画には、そんなもがきがあって、今のハリウッド映画からは脱落してしまった不完全性というか、不純物というか、人間の内側にあって目に見えず、物理的に取り除くことのできないとげとげしいものがある。そのもがきのエネルギーが、独創的で、パワフルで、かつて日...

映画と日々 | 2010.11.07 Sun 22:01

「ハロルドとモード」(1971年 アメリカ) ハル・アシュビ−監督

 70年代アメリカ映画と出会う、第2弾。  19歳のハロルドと79歳のモードとの常識はずれのおとぎ話のような愛の物語。しかしながら、これは単に愛の成就ではなく、青年の瑞々しい感性ゆえに世 界への不信と反発を抱え込んであがき続ける苦しみと、深い、あまりにも深い生への悲しみを体験した老女の苦しみとが、それぞれ相反する行動に込められて、 その両極端を突き進むのだが、その二人の出会いが世界を救済する希望の芽をつくり出していくのである。というのも、二人はお互いに愛情を交わすようになる が、モードは...

林田由起子の映画日記『映画と日々』 | 2010.11.07 Sun 21:46

「何も変えてはならない」(2009年 ポルトガル・フランス) ペドロ・コスタ監督

 ジャック・リヴェット監督作品(最近公開では『ランジェ公爵夫人』('06仏・伊))に多く出演していたジャンヌ・バリバールの歌を初めて知った。女優というだけでなく、強烈な個性をもったアーテイストのひとりなのだ。表現することの深みと意志の強さ、ゆるぎない自己の存在への信念。アーテイストは孤独な一つの山だ。そびえる山の頂上から光を放つ。声を放つ。エロスを放つ。音を纏って。 モノクロームの陰影の濃淡や構図がしっかり計算されていて、ジャンヌとミュージシャンのコラボレーションの現場の緊張感に引き込まれていく。...

映画と日々 | 2010.11.07 Sun 21:30

『ザ・コ−ブ』(2009年 アメリカ) ルイ・ホシヨス監督

  上映前から物議を醸した作品であるがために、観る前に身構えてしまうきらいがある。たしかに、冒頭からこの作品は不穏な空気を纏って始まるのだ。禁忌を冒すかのような、あるいは驚愕の真実に踏み込む危険を孕んでいるかのような・・・。 この作品が扇情的で、文化的価値観を一方的に主張しているともいえるが、しかし、この撮影に対して過剰に抵抗してしまうがために、かえって取材対象となった側が非常にインモラルで非人間的であり、悪の評価を決定付けられたかのように見えてしまうといういびつさを生じさせたのではない...

映画と日々 | 2010.11.07 Sun 21:28

「ぼくのエリ 200歳の少女」(2008年 スエーデン) トーマス・アルフレッドソン監督

  北欧のある町で、不可思議な連続殺人と少年へのいじめが平行して起きている。それぞれの出来事の当事者は、それぞれに孤独で、自分の生存を賭けて、自分の宿命に耐えて生きている。そのふたりが出会い、次々に降り掛かる困難を乗り越えていくうちに、私たちの現実の生活では口にできない程過酷な真実が語られることになるのだ。北欧らしい美しい金髪の少年、12歳のオスカーは、同級生の男の子からひどいいじめを受けている。しかし、離婚した母親には秘密にしている。週に一度会いに行く父親は良い相談相手だけど、全てを話...

映画と日々 | 2010.11.07 Sun 21:23

『アイスバ−グ!』(2006年 ベルギー・フランス)ドミニク・アベル、フィオナ・ゴードン、ブルーノ・ロミ監督

 美男美女でもなく、冴えないカップルが主役となると、アキ・カウリスマキと印象が重なるのだけれど、作品の表情はずいぶんと異なる。こちらはよりコメディとしての演出が計算されていて、身体性がいっそう誇張されているのである。登場人物の表情、台詞、行動のそれぞれが、その場に応じて無駄をそぎ落とされて、乾いている。それでいて笑いを強要するのではなく、アートパフォーマンスを観るような感覚なのである。そして、ごくありふれた風景の中で身体活動が誇張されていくと、次第に精神は日常を逸脱していくのである! 冒頭、...

映画と日々 | 2010.11.07 Sun 21:14

『月に囚われた男』ダンカン・ジョーンズ監督(2009年 英)

 監督はデビッド・ボウイの息子とのこと。といって『地球に落ちてきた男』('76英 ニコラス・ローグ監督)を思い出すというよりむしろフリッツ・ラング監督の「月世界の女」('29独)が想起される。が、いっそうこの作品は現代の問題を様々に映し込んでいて、なおかつ近い将来起こらぬとも言えないリアリテイを含んでいて着想が面白い。ルナ・インダストリーという資源開発企業から月面採掘事業の管理者として3年契約で派遣されている、サム・ベルという男の残る2週間を描く。たった一人で業務をこなしながら生活する空間は何不自...

映画と日々 | 2010.11.07 Sun 21:06

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