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オスカーの目は輝いた。 金色の騎士が持っていた剣とはちょっと違うが、それは紛れも無く剣だった。 その表情を見たハンス・ヴェルナーの瞳も輝いた。この顔が見たくて、わざわざ学校から持ち出してきたのだ。してやったりだ。しかし、簡単には渡せない。もうひとつ演出をするべきだ。ワクワクは多ければ多い程いい。 ハンス・ヴェルナーは模擬刀を鞘から抜くと、力を込めて雪の下に眠る凍った地面に突き刺した。そして、「さあ、これを抜け。抜けたらこの剣はお前の物だ」と、物語の中の台詞をそのまま、演技たっぷりに言って...
叛逆は英雄の特権 | 2010.02.12 Fri 22:06
しかし、オスカーが「僕は、騎士になりたいと思う」と言ってみても、執事のハンスからは「そのようにお元気になったのですから、そろそろ、またキンダー・ガーデンへ行きましょう」と、軽くあしらわれるだけだった。 執事のハンスには少し思う所があった。夢物語が幼い主人の心を蘇らせてくれるのは結構なのだが、それによって長物を振り回されるのはご勘弁願いたいところだ。何故なら、彼はオスカーの気性に一抹の不安を覚えていた。 躾は行き届き、お行儀も全てこの私がお教え申し上げている。しかしオスカー様は、誰に教わ...
叛逆は英雄の特権 | 2010.02.12 Fri 12:30
しかし雨の日もある。 雨降りだって、傘でも差して出掛けてしまえばよいのだけど、どうせあの爺さんは許さないだろうと、ハンス・ヴェルナーは思う。 実際、最初に出掛けた日、冷風にさらされたオスカーは、屋敷に着く頃になると少し鼻水を垂らしてた。案の定、それを見咎めた爺さんにちくりと嫌味を言われた。そして次の週には、あの厚着。 だから、こんな青白いヘタレに育つんだ、と、彼は内心、舌打ちを禁じ得ない。 しかし、その想いは後ほど覆される事になる。 それはハンス・ヴェルナーが持ち込んだ、...
叛逆は英雄の特権 | 2010.02.11 Thu 11:26
2 〜 パーツィバルの微笑み・1 〜 ナイトハルト・ミュラーは、番兵にIDをかざすと門をくぐった。風に揺れる木々の間をしばらく歩くと、小さいながら堅牢な造りの家が見え、その玄関の呼び鈴を押した。「やあ、ようこそ」 帝国宰相ウォルフガング・ミッターマイヤーはそう言って、直々に扉を開けて出迎えた。「恐縮です。お元気でしょうか?」 と、ミュラーが訊くと、彼は「ご覧の通りさ」と肩をすくめた。 ミュラーがご機嫌伺いに訪れたのは、戦友でもあるこの宰相が、妻を失って半年ほど経っての事だ。宰相の子息であるフェリ...
叛逆は英雄の特権 | 2010.02.09 Tue 12:34
ハンス・ヴェルナーはこの教会の聖歌隊の一員だった。といっても、何かの神を信仰しているわけではない。観光地に用意された遺跡や記念館としての礼拝堂で、パフォーマンスのために用意された音楽隊に仕事を得たというだけの事であった。 しかし、そこで歌われる古い歌の、歌詞に込められた祈りの言葉は、帝国公用語に根深く組み込まれた慣用句や故事成語の元の意味を教えてくれ、そのことごとくが彼には興味深くてたまらなかった。 それに、音楽。簡素な古い旋律は、ほんの少しの痛みと共に、何故か胸に深く滲み入る。 だから彼...
叛逆は英雄の特権 | 2010.02.07 Sun 02:55
フレンチ・フライを食べ終わる頃、太陽はほんの少し西へ移動した。すると、通りを挟みつつも四方を建物に囲まれたこの公園は、日の光りを失って急速に冷え込んで行く。 オスカーがくしゃみをひとつしたのを切欠に、ハンス・ヴェルナーは南隣りの礼拝堂へ逃げ込む事に決めた。取り敢えず風は避けられるし、これ以上気温が下がれば暖房が入るだろう。無理は禁物。このチビはなにせ病み上がりだ。 但し、気は進まない。何故なら、この礼拝堂はハンス・ヴェルナーのかつての得意先だ。以前のバイトはここが職場だったのだから、胸...
叛逆は英雄の特権 | 2010.02.07 Sun 01:52
1 〜ベディヴィエールの嘆き〜 アウグスト・ザムエル・ワーレンは目を疑った。届けられた一通の通信文の意を計りかねたからだ。彼は、何かの間違いではなかろうかと、後ろで眠る男を振り返った。 しかし、文の送り主の心を思うと、問い返すのも躊躇われ、事の真偽を自らの端末に指で静かに問い掛けるのだった。 ワーレンは再び目を疑った。彼が得られた情報によると、後ろの男は孤児も同然。少年の頃に身寄りを全て亡くしたという。 ワーレンは思う。 その昔、士官候補生であった頃、鮮やかに立っていた彼を思う。 ...
叛逆は英雄の特権 | 2010.02.04 Thu 11:30
突然ですが、月に3回ぐらいのユルいペースで『その後の銀英伝』を捏造する事をここに宣言します。ベイオウルフ伝説をそのまんまなぞって書きます。なので、あらすじ的には、筆者は一切ストーリーを創作しません。そして、時々、アーサー王伝説からのエピソードを挿入します。筆者の視点は、それら既存の物語の中から、どこを選んだかという、その選択で語れれば幸い。各キャラの私情などは、銀英本伝同様、あまり語らない予定です(覆ったら御免)。では、只今準備中、どうぞ、お楽しみに。*日本のカタカナ表記では主に『べ−オウルフ...
叛逆は英雄の特権 | 2010.02.03 Wed 18:09
まったく、この屋敷は陰気だ。門を出た途端なんだか肩が軽くなる、と、ハンス・ヴェルナーは思った。 庭の一角で咲き誇る薔薇の園へと行きたがるオスカーの腕を引き掴んで、鉄門扉を開けると、そこは自由の地だ。空気が軽い。 ハンス・ヴェルナーは気分が上向きにになるのを感じると、瞬時に行き先を決めた。賑わいのある場所。人混みがいい。広場では、道化師が辻芸を見せているあそこ…。 オスカーは自分の足で門の外に出たことに驚いていた。 いつもはランド・カーで出掛けるこの道を、実は歩けたなんて。閉まっ...
叛逆は英雄の特権 | 2010.02.01 Mon 11:19
鏡を割ったその次の日から、オスカーはうまく声が出なくなっていた。言いたい事も特に無い。熱に侵された体は確かに苦しいのだけれど、沈むに任せてそのままどこかへ消えてしまいたいと、そればかりを考えていた。 願わくば、母の眠るという薔薇の園へ。そこまで行けば、白い手が自分を迎えてくれそうな気がしてならない。 執事のハンスは、自分の説明に落ち度があったかと、内心、激しい自責に捕らわれていたが、目の前のやるべき事をやるしかなかった。この子を救わなければならない。開いたままの目はどこも見ていな...
叛逆は英雄の特権 | 2010.01.30 Sat 14:10
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