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連載記事です 目次はこちら 運ばれている途中、わたしはおかしなことに気づいた。ベッドを運んでくれている看護師さんたちに伝えようとしたけれど、まだ声がよく出ない。そもそもどう説明したらいいのかわからない。戸惑っているうちに、そのおかしな感じはどんどん膨れ上がっていった。 エレベーターを降りてしばらく進むと自分の部屋だ。ベッドが元の場所に収まり、右手の傍にナースコールが下げられた。オレンジ色のボタンが目に入ると同時に、わたしはナースコールを掴み、思い切り押した。 「どうしたの」看護師さんが気付...
12th crowns | 2014.09.18 Thu 13:37
連載記事です 目次はこちら わたしが事故に遭って病院に運ばれ、そのまま入院となったのが金曜日、そして手術は水曜日だった。 手術の日を聞いたとき、耐えられるはずがないと思った。薬が手放せないほどの痛みが五日間も続くのだ。 痛みがなくとも身動きひとつできない。栄養と水分の補給のために点滴がつながれていたし、ベッドの右にはバルーンと呼ばれる袋が下がっていた。バルーンもカテーテルを通してわたしに繋がっていた。特に意識したりいきんだりしなくても、尿が勝手にバルーンに溜まってゆくのだった。身体を捩る...
12th crowns | 2014.09.14 Sun 18:34
連載記事です 目次はこちら わたしが噂の的になるまでに、そう時間はかからなかった。病室のみんなはいつも退屈していたし、ただでさえ井戸端会議の好きそうな、年配の女性ばかりだった。 朝食が下げられると、すぐにおしゃべりが始まった。内容は同じことの繰り返しだ。家族や親戚の愚痴。他の患者や医師の噂話。昔行った観光地と、そこで食べた料理。 食べ物の話は特に盛り上がるようだった。魚は北海道より新潟の方がが美味しい。米は魚沼産ばかりもてはやされているが、自分はもっといいものを知っている‥‥。そして必ず、こ...
12th crowns | 2014.09.13 Sat 18:08
連載記事です 目次はこちら ふいに目が覚めた。人の気配がした。 真夜中だった。隣のベッドから、軽い鼾が聞こえていた。 数時間前眠りに就いたばかりの、病院のベッドの上だ。かちりという音がして、枕元の読書燈がともされた。黄色っぽい光の中に、看護士さんの姿がぼうっと浮かび上がった。 四本の腕が伸びてきた。わたしは驚いて悲鳴を上げた。太い腕が容赦なく左腕の、ちょうど布が巻いてあるところを掴んだ。 「痛い、やめて」 そう叫ぶと、看護師さんの片方が顔を寄せ、こう説明した。ずっと同じ姿勢でいると床ずれが...
12th crowns | 2014.09.12 Fri 11:59
JUGEMテーマ:交通事故示談まで JUGEMテーマ:入院 連載記事です 目次はこちら 身体を動かすことも、逃げ出そうと考えることもできなかった。横たわったまま、ただおろおろしているだけだった。 寝台がまた、別の部屋へと運ばれた。今度はさっきよりも明るく、すっきりした感じの部屋だった。何が始まるのか全く見当がつかず、わたしはただ顔をこわばらせていた。息を詰めているわたしに 女性看護師さんがこんなことを訊いてきた。 「これから脳の様子を調べるためのレントゲンを撮ります。そのための造影剤を注射...
12th crowns | 2014.09.08 Mon 14:17
重く垂れ込めた雲から、小雨がぱらつきはじめていた。 11月の半ばだった。雪が降るにはまだ早かった。 金曜日だった。明日のお休みには、近所のショッピングモールでお気に入りの時計の電池を替えてもらうつもりだった。白い大きな文字盤を、金色のシルエットや渦巻く数字や、きらめくビーズが取り巻いている腕時計だった。 その日は午後から、倫理学概説の講義が一コマ入っていた。 11時10分。わたしはチャコールグレイのタートルに厚手の白いニットを重ね、いちばんのお気に入りの青灰色のコートを羽織った。寒...
12th crowns | 2014.09.04 Thu 14:45
事故からちょうど一カ月目に、回復期リハビリテーション病院に転院した。 わたしも自分が入院して初めて知ったのだけれど、急性期病院で治療し、状態が落ち着くと回復期病院で本格的なリハビリを行うという流れになっているらしい。尤も急性期の病院でもリハビリは行われる。早く始めればはじめるほど、効果が高くなり、元の身体に戻る確立が高くなるからです。 (・ω・)b 回復期のB病院に転院し、新しい主治医の先生から説明を受けた。最初の主治医の先生とは別の意味で先生らしくない、でも信頼できそうな方だった。 (・&...
12th crowns | 2014.07.08 Tue 04:39
さて、昨日予告しました、病院ごはんのお話です。 交通事故でA病院に搬送され、そのまま入院となった。大怪我にもかかわらず、病院の食事は初日から普通のものが出た。おにぎりと煮魚と、おひたしとバナナだったと思う。 内臓が無傷だったからだ。 でも、わたしは殆ど手をつけることができなかった。もともと小食な上、環境が変わったショックと身体の痛みで、食欲が全く出なかったのだ。結局ごはんは妹が食べた。バナナも妹が持って帰った。事故のとき持っていたバッグの中に入っていたチョコも、妹が食べた。妹はきっと疲れて...
12th crowns | 2014.07.06 Sun 15:33
大学へ行く途中、車にはねられてそのまま入院になった。 (なぜこれを毎回しつこく書くのかというと、ブログの読者さんが最初の記事から読んで下さるとは限らないからです) 当然、準備も心構えもなにもない。痛みと精神的なショックで混乱しているので、看護士さんの説明も頭によく入らない。どうにかわかったのは、冷蔵庫とテレビが有料で、おむつは自腹だということくらい。そう、わたしこの頃おむつをしていたのです。もう全ての恥はかき捨てた。 入院の理由は骨折である。左上腕から左足のくるぶしにかけてずらっと骨折した...
12th crowns | 2014.07.05 Sat 10:35
昨日の記事で、交通事故で顔を強打した(らしい)こと、それによってひどい擦り傷ができたことを書いた。 でも、当時のわたしにとって、擦り傷なんてどうでもいいことだった。擦り傷よりも、切り傷よりも、骨折よりも心配なことが、わたしには起きていた。 主治医の先生の何回目かの回診のときその心配を思い切って口にした。 「眼の縁に光が見えます」 先生の顔が曇った。やはり只事ではない。わたしは不安になった。 病室に運ばれてから、眼におかしな光が見えるようになったのだ。主に左、つまり、強く打って怪我をした方...
12th crowns | 2014.07.03 Thu 10:04
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