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緊縛の愉悦と嗜虐萌えに生きる男

 アダルトビデオを観ているかのように錯覚するほど、男女の体液が匂い立つような具体的描写の後ですら清々しい気分になる不思議な読み心地は、アナイス・ニンの「小鳥たち」以来だろう。正直この作家からあの感動が再び得られるとは思いもしなかった。  これまでSMの陰鬱で禍々しいアンダーグラウンドを想起させるキーワードとして記憶にあった団鬼六というペンネームからは想像もできない爽やかな筆致は、久しぶりに読書の楽しさを満たしてくれたような気がする。  1話目はインテリ美人で女教師の妻をSM調教されて寝取られた作...

@東京都オタ区 | 2012.04.09 Mon 17:48

クライヴ・バーカー的デーモン一族、もしくはゲゲゲの鬼太郎、夜は墓場で運動会。

 著者自身によって映画化された作品名は「ミディアン」(なんとデヴィッド・クローネンバーグ監督が俳優としてキャスティングされている)。これもずっと観たいと思っていたが今ではプレミア価格になっていてDVDの入手も難しい。  バーカーは、同じホラーと言ってもキングのような心理的な恐怖を感じさせるサスペンスとは違い、映画「ヘルレイザー」に代表されるように独自性の強い不気味なダークファンタジーであり、その名声を不動のものにした「血の本」シリーズに収録された多くの短編がそうであるように、血なまぐさいスプ...

@東京都オタ区 | 2012.02.13 Mon 23:26

大人になりたくないと思っているうちにすっかり歳をとってしまった迂闊な自分に幸あれ。

 寓話的でありつつもリアルな自然描写の中で自由を謳歌する少年少女たちは、自分だけの理想世界へと旅立つピーターパンのような存在である。大人たちは戸惑い、子供達は彼らをヒーロー・ヒロインとして神話化する。しかしこの物語を旅する読者はむしろ毎日仕事と責任に追われつづける大人にこそ相応しい。あるいは明るい未来と希望を思い描けなくなった迷い人に。   JUGEMテーマ:ドクショノカンソウ

@東京都オタ区 | 2012.01.26 Thu 01:08

当時、子供心になんで画家が芥川賞を?と思った

 もっと洒落たエロスを描いているのかと思ったら、意外にも憂鬱な日常と陰鬱な情事に身を置いた男たちの心の独白ばかりだった。  芥川賞云々の文学的な価値はあいかわらず教養が足りなくて良く分からないが、表題作で受賞作の「エーゲ海〜」も米国版援交みたいな「ミルク〜」もさっぱり魅力を感じなかった。一番面白いと思ったのは一番長い3話目「テーブルの下の婚礼」である。しかしこの3作を並べてみれば、確かに著者の才気を感じることは間違いない。 「テーブルの〜」は一種の幻想文学あるいはホラー的なシチュエーションを...

@東京都オタ区 | 2011.12.31 Sat 16:42

同じ直木賞受賞作の入った短編集なのにこの違い

 まだ1話目で直木賞受賞の表題作でさえないのに、この居心地の良い感動は何だろうかと思った。やはり作り物めいたあざとさとは全く異なるリアルな日常と実在するかのように描かれた人物の心情に思わずもらい泣きしそうになった。小説の書けない自分にどっちが上等と断言できるはずもないが、暇な人はぜひ「鉄道員(ぽっぽや)」とこの「受け月」2冊の第1話目を読み比べて欲しい。  ただしかし、どちらの本が映画のネタとして魅力的かと言えばやっぱり前者の方であると言わざるを得ない。的を得ているかどうか分からないが、つまり...

@東京都オタ区 | 2011.11.16 Wed 02:02

鉄道員(ぽっぽや)に感じた違和感の正体

 前回「憑神」が意外と面白かったので、むしろ高倉健の映画として有名な「鉄道員(ぽっぽや)」を読んでみた。短編集の表題作だ。  ストーリーを知らなかったが、読んでみると主人公も世界観も高倉健の映画のイメージにまったく被ってこない。そして予想していた以上に安っぽくあざといお涙頂戴の展開で少々がっかりしてしまった。気になったので映画DVDのレビューを読んでみると、大方の高い評価に反して少数派の意見の中にこの原作と映画に対する自分が感じた違和感を代弁してくれていたものがあったので納得した。  今さらな...

@東京都オタ区 | 2011.11.07 Mon 09:05

ロリータ趣味とフェティシズム、老人幻想

 川端康成を生まれて初めて読んだ。  ロリコンが興味を示しそうな文芸作品という内容の記事の中で紹介されていた一冊。三島由紀夫にもそういう小説があるようなのでいずれ読みたいと思っている。  3つの小説すべてに共通することは、十代の少女を愛でる老人という設定である。  そんな内容からは、かつて庄屋の主は嫁ぐことが決まった村娘の処女を奪う習わしがあったという噂話や、70年代文化大革命期の中国を舞台にした映画「シュウシュウの季節」、現代イスラム圏の映画「アフガン零年」、あるいは梁石日の小説および映画...

@東京都オタ区 | 2011.10.08 Sat 12:54

田舎の少年と都会の老人

児童書一気読み。父親の仕事の都合で田舎から引越してきた少年と都会で鳩を飼う老人の交流を描く物語。あまり物わかりの良くない父親像に童話らしくないリアリティーを感じた。母親や老人の人間らしい不器用さも同様にリアリティーを伴い、著者のこだわりが感じられる作風だと思った。物わかりが良くないと言えば、主人公の少年もリアルに子供らしい無理難題を大人に向けていて、自分の年齢から逆に父親の方に同情してしまった。 JUGEMテーマ:ドクショノカンソウ  

@東京都オタ区 | 2011.09.05 Mon 23:31

すっかり珍しくなったマッドサイエンティストという肩書きに相応しい

 スティーヴン・キング、ディーン・R・クーンツ、そしてジョン・ソール。かつてホラー小説と言えばこの三人の名がまっさきに浮かんだものだが、残念ながら一流のキングに比べ得ることもなく、しだいに名も廃れかけているクーンツとソール。クーンツは何冊か読んだが、結局ソールは20年以上もの間1冊も読まずじまいで、この本も買ってから数年経ってしまっていた。  キングもSFを書くが、クーンツとソールの方が揃ってSF色が強かったように記憶している。ようするにホラーSF的な作品が多いイメージなのだが、実際どうなのかは良...

@東京都オタ区 | 2011.09.05 Mon 14:10

なんとなく時代に流されて生きてみるのも悪くない

「剣客商売」シリーズ全巻以来たぶん10年ぶりの池波作品。池波と言えば、定年後70にも手が届く歳になってようやく本好きになった父親が今一番好んで読む作家である。  池波作品は「剣客商売」以外にもいくつか読んだ記憶はあるが、これはちょっと今までに経験のないタイプの設定だった。主人公は女好きで剣の腕が立つ暴れん坊というところが、なんとなく最初に時代劇を読み始めるキッカケとなった隆慶一郎の作品を思い出させた。  決して悪人ではないが、正義感があるかと思えばなんとなく優柔不断であったり、いつも女の尻ばか...

@東京都オタ区 | 2011.08.04 Thu 13:48

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