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第二章 4-5 まだ−1

  久しぶりの実家だな。 朱里のスキャンダル以来、森がここへ来なくなってから4ヶ月ほど経つ。一時は毎晩のように張っていた記者連中も、家の前の細い道と、親切なご近所の監視の目に音をあげたのか、最近はめっきりいなくなっていた。そろそろ、戻ってきても良いのかもしれない。 アイアン製の門を開けると、赤いカローラが、電話ですみれが言っていたとおり車庫に収まっていた。「蒼衣。おはよ」 リビングのソファには、蒼衣が突っ伏すように横になっている。この姿勢のときの蒼衣は、要注意だ。もちろん、返事はない。「こ...

小説 カラスト 〜Color stories〜 | 2009.07.18 Sat 10:20

愛の糸 #30 森弥祥乃(もりや さちの)の ときめき

JUGEMテーマ:恋愛小説はじめから読まれる方は ここから  森弥祥乃は、いつもの様に仏壇に丁寧に手を合わせた。仏壇には、今朝方庭から切ってきた、祥乃の育てた竜胆と菊が供えられている。 「あなた、今日拓真が来ます。お正月以来ですね。もちろん、佳苗さんと露海(ろみ)も一緒ですよ。でもね、今日はもっと嬉しい事があるんです。私だけ、こんなにいい思いをして。あなた、妬かないで下さいよ。」 祥乃は仏壇に話しかけると、拓真達を迎える為のごちそうの準備に取り掛かった。ごちそうといっても、決まりきった田舎料理...

シリウスの泉  「愛の糸」 | 2009.07.18 Sat 09:59

第二章 4-4 デート−4

「よ・・・」 陽。 そう言いたかった唇は、陽の唇に塞がれて息もできない。体重をかけるように押さえつけられた体は、身動きもできない。手を体の間に差し込んで拒絶しようとするが、あっさりと手首を掴まれて頭の上に押さえつけられてしまった。 キスが、より深く、激しく、口の中を蹂躪する。陽は、キスをしながら片手で蒼衣の両手首を掴みなおすと、もう片方の手を、耳たぶ、うなじ、首筋へと意図を持って撫で下ろした。いつも蒼衣がうっとりと見つめている美しい指先が、さらに鎖骨の下へと伸びていく。 蒼衣は身を捩ったが、あっ...

小説 カラスト 〜Color stories〜 | 2009.07.17 Fri 08:34

第二章 3-17 プリプリ−3

 「ねえねえ、陽は、休みがあったらどんなところに行ってみたい?」 美味しい食事が進んでも、ビールを数本あけたあとでも陽が蒼衣の天然ぶりを挙げてはからかうので、蒼衣は強引に話題を変える。一度もしたことのない、いわゆる、デートというもののリサーチをするのだ。「場所?」「そう」「そーだなあ。やっぱ、留学してたボストンかなあ。」 帰国して、そろそろ一年。あちらで就職しなかったことに対する後悔はまったく無いが、向こうで仲良くなったたくさんの友達が恋しかった。「海外か・・・。」 デートでボストンに行くわ...

小説 カラスト 〜Color stories〜 | 2009.07.13 Mon 08:34

第二章 3-16 プリプリ−2

JUGEMテーマ:恋愛小説「はあ?」 陽は、案の定、訳がわからないという顔をしている。『友達みんなが “お泊り” してるのに私はそういうことしてないのが悲しい』と白状できない蒼衣は、答えを聞くまで甘い拷問を繰り返すであろう陽に対し、違う答えを用意した。・・・以前陽から聞いて信じ、佳代たちに話して笑われた、ネズミーランド話を。「ネズミーランド・・・?ああ、ディズニーね」「ほら、やっぱり!嘘つき!!」 鬼の首を取ったかのような、蒼衣の顔。「ちょー待て。ディズニーが、どうしたって?」「陽が、言ったじゃない。アメリ...

小説 カラスト 〜Color stories〜 | 2009.07.11 Sat 08:18

愛の糸 #29 森弥露海(もりやろみ)の戸惑い

JUGEMテーマ:恋愛小説はじめから読まれる方はこちらから  「玲王、私ね暖かい家庭に憧れてたの。実はね私の母、あなたのおばあちゃんだけど、父と別れた後、誰か必ず男の人がいたの。その人を父と呼んだ事もあったのよ。でも正式な結婚はしていなかったの。だから、玲王のおとうさんと、両親のいる当たり前の家庭が作りたかった。」 「どうして、別れたの?」 「別れた理由は、夫婦の事だからあまり詳しくは言えない。ごめんなさい。玲王のおとうさんにも悪いしね。ただひとつだけ。」 「ひとつだけ?」 「私は玲王を引き取...

シリウスの泉  「愛の糸」 | 2009.07.11 Sat 00:47

愛の糸 #29 森弥露海(もりやろみ)の戸惑い

JUGEMテーマ:恋愛小説はじめから読まれる方はこちらから  「玲王、私ね暖かい家庭に憧れてたの。実はね私の母、あなたのおばあちゃんだけど、父と別れた後、誰か必ず男の人がいたの。その人を父と呼んだ事もあったのよ。でも正式な結婚はしていなかったの。だから、玲王のおとうさんと、両親のいる当たり前の家庭が作りたかった。」 「どうして、別れたの?」 「別れた理由は、夫婦の事だからあまり詳しくは言えない。ごめんなさい。玲王のおとうさんにも悪いしね。ただひとつだけ。」 「ひとつだけ?」 「私は玲王を引き取...

シリウスの泉  「愛の糸」 | 2009.07.11 Sat 00:47

第二章 3-15 プリプリ−1

「蒼衣。なにプリプリ怒ってんの」 週末。一色家週末恒例ディナーがなく森も出掛けるということで、久しぶりに陽が手料理をふるまってくれることになったものの、蒼衣はどうしようもない苛立ちを陽にぶつけていた。「プリプリなんて、怒ってないもん」 今日は中華にしようという陽の提案で、蒼衣は台所に立ってネギやら豆腐やらを切っていた。まるで、処刑するようにバッサバッサと・・・。「じゃあ、ブリンブリン?」 隣に立って麻婆豆腐用のひき肉を準備しながら、陽がからかう。「なにそれ、ヘンなの」 ぷん、と、口を尖らせると、...

小説 カラスト 〜Color stories〜 | 2009.07.10 Fri 08:34

第二章 3-14 かなわない写真−2

JUGEMテーマ:恋愛小説 翌日は、いい天気だった。大学1・2年生のころは辺鄙な場所に位置しているこのキャンパスのいいところは、豊かな自然とゆとりある贅沢なスペースだ。 蒼衣は広い中庭を突っ切り、円形の簡易的なテーブルとプラスチックの椅子が並べられているフリースペースの一角に、悠美の姿を見つけた。 逆毛を立ててこってり盛られた悠美のヘアスタイルは、蒼衣の1.3倍のボリュームがあるので遠くからでもすぐ分かる。「悠美」 隣の椅子にカバンを置いて腰掛けると、悠美はマスカラ片手に手鏡を凝視したまま「おっつー」 ...

小説 カラスト 〜Color stories〜 | 2009.07.09 Thu 08:37

第二章 3-13 かなわない写真−1

JUGEMテーマ:恋愛小説 蒼衣は、嬉々としながら封筒を胸に抱え、自分の部屋へ飛び込んだ。「はい、これ」 杉浦が仕上げてくれたこの上なく美しく仕上がった家族写真を、今日家にいたパパ・ママ・そして蒼衣で感激しながらたっぷりと堪能したあと、蒼衣がひとりでソファに腰掛けたときにそれは渡された。「え?」「秘密の写真」 封筒には、『蒼衣様』と書いてある。ということは、これは私だけのものなのだろうか?「あけてみて」 杉浦も蒼衣の隣に座りながら、なにやらニコニコしている。封筒を開けると、数枚のモノクロ写真が入っ...

小説 カラスト 〜Color stories〜 | 2009.07.08 Wed 08:41

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