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第七話

午後2時を過ぎた頃、天気雨が降った。 転々と模様が出来た砂浜は、すぐに琥珀色から鳶色に変わる。 日差しの中に降る雨は、光を集めた小さなガラス球のように見え、 やがて、固体に見えた雨は、みるみる髪や服を濡らしていった。 私が暫く降り出した雨を見上げていると、亮が私の手を取り、一気に走り出した。 慌ててミュールを持ち、亮に引っ張られるようにして、砂浜から続く階段を上る。 途中で亮にミュールを履くように言われ、私は亮の手を握ったままミュールを履いた。 家に着く頃にはもう、雨はすっかり上がってい...

君に綴るもの・・・ | 2009.06.16 Tue 21:40

第二章 2-14 不安7

JUGEMテーマ:恋愛小説「蒼衣・・・?」(あれ、オレ、声かけられたのに気づかなかった、とか?) 何も言わずに蒼衣が帰るなんてことは、いままで一度もなかった。別れ際は、必ずキスをしてから帰るのに? 時計に目をやると、12時10分すぎ。外はもうとっくに暗い。追いかけて送っていこうかと思ったが、愛に反して働きづめの体はもう動かないと言いたげに、鉛のように重い。 おまけに、今日は部長との飲みだったので気も使い、余計に疲れていた。玄関までかろうじて来たものの、明日の5時起きが頭を掠める。 しかし、蒼衣も心配...

小説 カラスト 〜Color stories〜 | 2009.06.16 Tue 08:31

愛の糸 #25 森弥拓真(もりやたくま)の ためらい

JUGEMテーマ:恋愛小説はじめから読まれる方は ここから  拓真が八歳の夏休みだった。家族は東京近郊に旅行に行き、一泊した。小さな温泉宿のような所だった気がする。お風呂から上がってから、今なら古いと言われそうだが、家族で卓球をしたようだった。 昔はよく温泉宿に卓球台があった。今でも、あの宿にはあるのだろうか。       「こんにちは、玲王(れお)くん。森弥拓真です。  君のおかあさんの、夫です。」 「こ・・こんにちは。嵯峨・・・玲王です。」 玲王は、はにかんでいるのか、下を...

シリウスの泉  「愛の糸」 | 2009.06.15 Mon 12:13

第二章 2-13 不安6

JUGEMテーマ:恋愛小説「悪い。鍵、あけてもらってもいい?」 家の玄関の前で、陽がどっさりと抱えたクリーニング済みのスーツを掲げながら言う。両手がふさがっているのでヨロシク、ということらしい。蒼衣は、誕生日に両親からもらったパディントンのバッグから、鍵束を出して開けた。 そういえば、この合鍵も“来てほしい”から預かったのではなく、祖父ちゃんに線香を上げてくれると嬉しい、という甘さのかけらもない理由だったような気がするな、と思いながら。 ガラガラガラ、と音を立てて扉を開けると、ひんやりとした空気がす...

小説 カラスト 〜Color stories〜 | 2009.06.15 Mon 08:38

第二章 2-12 不安5

JUGEMテーマ:恋愛小説(もう自分から陽に会いに行くのはやめよう。) 蒼衣は、また連絡するなんて言いながら、すでに音沙汰なく一週間を経過した日曜日の夜、人気のない離れからの帰り道に月を見上げながらぼんやりとそう思った。 期待しながら会えないときの、この胸の苦しさにもう耐え切れなさそうだと思ったし、陽のほうが寂しがって連絡をくれるかもしれない、という一縷の望みもあの同僚の女子の『妹分なんだって』の一言で吹き飛んだ。『また連絡する』なんて言いながら、何も連絡しないなんて社交辞令も、大嫌いだ。 思い返...

小説 カラスト 〜Color stories〜 | 2009.06.13 Sat 10:26

第二章 2-11 不安4

JUGEMテーマ:恋愛小説「はっさーん。今日、コーヒーいるぅ?」 朝、5時半。仕事をし始めてからの陽は、早起きだ。はっさんも年の功でだんだんと朝早く起きるようになったため、お互い朝の挨拶を塀越しに交わす。「頂戴な」 毎朝陽はコーヒーを淹れるので、必ずはっさんに一声かけてくれるのだ。「陽、そういえば昨日、蒼衣ちゃんに会った?」「うん、会ったよ。どして?」「夕べうちに寄ってもらったんだけど、ピアスあけて可愛くなってたから知ってるかと思って」 保温ポットに淹れたコーヒーを受け取りながら、昨日気になったこ...

小説 カラスト 〜Color stories〜 | 2009.06.12 Fri 08:35

第二章 2-10 不安3

JUGEMテーマ:恋愛小説「陽の・・・バカーッ!」 ひどいひどいヒドイ。『彼女』だって、紹介してもくれないんだ・・・。(今日の私、そんなにイケてないのかな・・・。)可愛い格好をしてないと、彼女だ、って紹介しづらい。とクラスの男子が言っていた気がする。おだんごヘアが、失敗だったのだろうか?(それとも、そもそも紹介する気もないとか?) 『いもうとぶん』なんて言うなんて・・・。「うー・・・。」 かつーん、と、落ちている小石を思いっきり蹴り上げる。「あら、蒼衣ちゃん。久しぶり」 後ろから声を掛けられて振り向くと、そこに...

小説 カラスト 〜Color stories〜 | 2009.06.11 Thu 08:36

第二章 2-9 不安2

JUGEMテーマ:恋愛小説 夏が過ぎ、木の葉も落ち、涼しいというより寒いと形容するのがふさわしい季節になるにつれ、陽と蒼衣の間柄にもクールな風が吹きはじめていた。 陽はますます仕事熱心になり、平日はほぼ家にいない。たまの休日も、普段できない家事や勉強、習い事、はっさんなどのご近所さんへの顔出し、一色家でのディナー、買い物などで予定はめいっぱい埋まっており、とても二人きりで会いたいと言える状況ではなかった。 いや、言えばよいのかもしれない。ただ一言、『二人きりでゆっくり過ごしたい』とか、『デートをし...

小説 カラスト 〜Color stories〜 | 2009.06.10 Wed 08:36

第二章 2-8 不安1

JUGEMテーマ:恋愛小説「車、ねえ。」紅茶のカップを手で包むように持ちながら森が言う。猫舌なので、すぐには飲めない。 『嫌われてるかも』の一件以来、誤解の解けた森と蒼衣は、蒼衣の要望どおり、恋愛相談もつつがなくできる間柄に戻っていた。「そんなに、彼氏の送り迎えって重要なの?」蒼衣の大学では、彼氏というものは学校帰りや飲み会の後などに彼女を迎えに来るのが常識らしい。「いまどき、そんなヤツばっかじゃないだろ?」エコと叫ばれている時代に、なんつう話だ。「みんながみんなそうじゃないけど・・・“社会人の彼”...

小説 カラスト 〜Color stories〜 | 2009.06.09 Tue 08:40

愛の糸 #24  森弥拓真(もりや たくま)のためらい

JUGEMテーマ:恋愛小説はじめから読まれる方はここから 森弥拓真はそわそわと落ち着かない様子で、リビングを行ったり来たりしていた。 拓真はつい今しがたまでベランダから下を見ていた。下では妻の佳苗が白い車を迎えていた。そして、その車から初老の男と少年が降りてきて挨拶をし、一言二言言葉を交わしたようだった。まもなく初老の男は車で一人帰って行き、佳苗は少年を促すように、マンションの玄関口に向かった。 少年は佳苗と前夫・嵯峨叔且(さが としかつ)の息子・玲王(れお)だった。   拓真は、ずっと考えて...

シリウスの泉  「愛の糸」 | 2009.06.08 Mon 16:52

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