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JUGEMテーマ:ものがたり 夜食を買いにコンビニに行った帰り道、歩道の真ん中にSを見つけた。街灯の少ない暗い路上で、そのSはタンポポ色に輝いていた。大きさは僕の掌くらい。極薄く、金属質。膝を折り、じっと見つめてみる。どういう仕組みで光っているのかは解らない。もちろん、これが何なのかも解らなかった。 プラスチックバッグを路上に置き、両手を地面について顔を近づけてみる。微かに何かの音が聞こえた。聞いたことのある音に思える。しばらく考えを巡らせてみて、それがソングだと気づいた。つま...
pale asymmetry | 2019.01.05 Sat 21:13
JUGEMテーマ:ものがたり その場所には、巨大なビルディングが建つはずだった。その地方都市のランドマークになるはずだった。区画が整備され整地され、翌々日から工事が始まるはずだった。しかし今から三年前のその日、突然その場所の真ん中にフットプリントが出現した。それは巨大な足跡で、指は六本あった。踵が尖っていた。 最初にそれを見つけた若者たちが、メジャーを用意してそのサイズを測ろうとした。そのときフットプリントの上に足を踏み出そうとした若者の一人が、弾き飛ばされた。数メートル飛ば...
pale asymmetry | 2018.12.22 Sat 21:36
JUGEMテーマ:ものがたり 時間には、三つの様態があるのだという。第一に、過去から未来へと直線的に進む時間。第二に、季節や月の満ち欠けや、暦のように循環する時間。そして第三にひたすらに解ける時間。第一と第二はともかく、第三についてはどう解釈すればいいのか、私には上手く咀嚼できない。この三つの様態とは、私がフィールドワークで訪れたある場所での考え方だ。そこには、確かに時間の三つの様態が存在した。その存在の意味は、私には曖昧模糊としたままだけれど。 陽光に煌めく錦織の...
pale asymmetry | 2018.12.13 Thu 21:23
JUGEMテーマ:ものがたり 叔母が火星にバカンスに出かけたので、庭の管理を任された。管理といっても、僕が日常的にしなければならないことは特にない。つまり主な仕事は留守番だ。その庭は、石だけで構成されていた。様々な大きさ、形、色彩だったけれど、石は石だ。貴石でもなければ半貴石でもない。ただ輝石は混じっていたので、陽光を綺麗に弾き、晴れた日には光の幾何学紋様を纏う庭だった。 この庭は叔母の私的な所有物だったが、世界中から鑑賞希望者がやって来る。この『世界』とは文字通りの世界だ。...
pale asymmetry | 2018.12.06 Thu 21:00
JUGEMテーマ:ものがたり トイレに入ろうとしたら、トイレの照明のスイッチがオンになっている。自宅のトイレのことだ。いつからかはよく思い出せないけれど、トイレに入ろうとすると、いつもスイッチがオンになっているのだ。 もちろん、トイレを出たときにスイッチはオフにしている。しているはずだ。最初はうっかり消すのを忘れていたのかと思ったけれど、何度も続いたあとは、ちゃんとトイレを出たときにオフにしたことを確認している。確実に、しっかりと。 けれど次に入ろうとすると、やっぱりスイ...
pale asymmetry | 2018.11.26 Mon 21:27
JUGEMテーマ:ものがたり 私は気持ち良い仕事をしている。あるいは、気持ち良いを仕事にしている。それは、生殖行動に関する仕事だ。種を蒔く仕事といってもいい。それも百発百中だ。といっても、不妊治療とかに関する事ではない。私のカスタマーは子供は欲しいけれど、性交はしたくないという女性。もしくは、子供が欲しいけれどパートナーは男性ではないという女性。そういう女性と私は生殖行動をする。いや、するわけではない。というか、するのだ。この辺りは少し複雑だ。 私は女性だ。そしてペニスを有し...
pale asymmetry | 2018.11.25 Sun 21:25
JUGEMテーマ:ものがたり 月を眺めていた。滴るように朱く輝く十六夜の月を。夜気は重く冷たく、私はたんまりと着込んで縁側に腰掛けていた。星たちを掻き消すほど月は明るく、もし今風景の端っこで雨が降れば、くっきりとした夜虹を見ることも出来るだろうと思えるほどだった。その虹の赤も、きっと滴るようないやらしい赤なのだろうなと考えたりした。 梟の声が聞こえる。思慮深く呪文を唱えるような声が。風のない今夜、その声は真っ直ぐに天上へと昇っていくように思えた。あとから思えば、いろいろなもの...
pale asymmetry | 2018.11.24 Sat 21:12
JUGEMテーマ:ものがたり 山高帽の紳士は、ダブルのダークスーツで闊歩する。上品なヴァイオレットのタイをセミウインザーノットに締め、美しいディンプルを形づくることも忘れない。ベルトは使わずサスペンダーでズボンをつり、ピカピカのステッキで独特のリズムを刻んでいたりする。急加速したり急減速したり、歩くスピードは目まぐるしく変化する。そして時々立ち止まり、山高帽の鍔を軽くつまんで空を見つめる。その日の空は全体が薄曇りで、聡明な青は見つけられなかった。 「小生は、このような空も気に入...
pale asymmetry | 2018.11.14 Wed 20:17
JUGEMテーマ:ものがたり 未明に雨が降った。私を眠りから揺り戻す雨が。がむしゃらな雨で、雷鳴が響き、稲光が世界に亀裂を走らせる。風は南から疾走していた。裏庭に面した縁側に出て、私は夜にも朝にも距離がある風景を眺める。縁側は北に面していたので、雨に濡れることはなかった。軒先に吊している珊瑚片も沈黙している。雷鳴に共振することもなく。繭に守られているような気分で、時折発光する風を、その光を纏う雨たちを、私はそっと見つめて過ごす。縁側に腰を下ろし、やがてそこに寝転がったりして。 ...
pale asymmetry | 2018.11.13 Tue 21:03
JUGEMテーマ:ものがたり 悪魔のような大樹たちが、何かを食い荒らしたあとだった。それは人工的な何かで、つまり遠い昔に人間が造った何かで、たぶんそれも巨大な何かであっただろうけれど、今は細かな残骸しか残っていない。だから少年には、その人工物がどの様な姿をしていたのかは解らなかったし、想像することも難しかった。ただ大樹と混ざり合っている今の姿は、少年にはとてもグロテスクだと思えた。それ故に、とても綺麗だとも思えた。 大樹たちの足下を擦り抜け少年が進むと、そこに卵があった。大樹...
pale asymmetry | 2018.11.11 Sun 21:41
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