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JUGEMテーマ:ものがたり 山中の小道を、私は歩いていた。道は細かくうねり、一方の側は急激に立ち上がる壁で、もう一方は奈落に続くような急斜面だった。しかし道はちゃんと舗装されていて、斜面側にはガードレールまで設置されている。道は那由多の樹木や植物に取り囲まれていて、空はその隙間に尖った斑として散りばめられているだけで、落ちてくる陽光もとてもか弱かった。植物の大半はシダ類で、空気は高熱を孕んでいて、時間はひたすらに沈んでいるようだった。 私はピンクと白の縞模様の靴下と紅色の...
pale asymmetry | 2018.08.06 Mon 21:37
JUGEMテーマ:ものがたり その街は十年前に水没していた。十年間水面下に没したあと、今朝浮上したばかりだった。だからその街に人間の姿はない。人間というものが存在していた気配があるだけだ。それは石造りの家であり、家具であり、旗だ。たくさんの旗が、久しぶりに風を孕んで踊っていた。十年間水流による緩慢なはためきしかできなかった憂さを晴らすように。旗には紋章が織り込まれていて、それぞれの紋章にはもちろん意味があったけれど、それを知る人間はもういない。 街は小さな人工島の上にあ...
pale asymmetry | 2018.08.05 Sun 21:03
JUGEMテーマ:ものがたり 空全体が黄土色に暗んでいるのは、破壊兵器のせいだ。 「ある男がいた。愚直な男だった。長く長く続く世界戦争を終わらせる方法はないかと、男は深く深く思考した。そして男は儀式を行い悪鬼を召喚した。そして悪鬼に己の全てを差し出し、その代償として終戦を貰い受ける契約を交わそうとした。しかし悪鬼はせせら笑った。争いや憎しみや悲しみこそ俺様のエナジーなのに、そんな契約を受けるわけがなかろうと。そこで男は、自身を悪鬼にしてくれと願った。悪鬼は男から魂を奪い、その代...
pale asymmetry | 2018.08.04 Sat 20:28
JUGEMテーマ:ものがたり 墨をする。静かに丁寧に。心を澄み渡らせて、私は墨をする。部屋の隅で、炭火にあたりながら墨をする。そして私はその墨で、『済』と描く。とても上手にかけたので、それを持って銀行に出かける。 カウンターで行員の女性にそれを差し出すと「大きな葛籠にされますか、それとも小さな葛籠にされますか」と尋ねられた。 「それぞれのサイズを教えて下さい」と私が言うと、「大きな方は一辺が二百四十メートルの正六面体で、小さな方は一辺がコンマゼロ二ミリの正八面体です」と教...
pale asymmetry | 2018.08.03 Fri 21:27
JUGEMテーマ:ものがたり 川沿いの遊歩道を歩いていた。そろそろ日付が変わろうかという時刻。中天に満月が鎮座していて、その月光を浴びていると、ここが何処なのかも私が誰なのかも解らなくなってしまいそうだ。嘘だ。本当は、仕事帰りがこんな時間になる自分のことを忘れてしまいたいだけだ。月が、私を連れ去ってくれてもいいのに。古の姫のように。 重い身体を強引に進めていると、川の上に丸テントが浮かんで見えた。月光に照らされその純白色が綺麗に輝いていた。幅が五メートルくらいの川と同じぐらい...
pale asymmetry | 2018.08.02 Thu 21:38
JUGEMテーマ:ものがたり 父は言った。 顔の造作や体型に自分の気に入らないところがあって気に病むこともあるだろう。 けど、あと数年もすれば、そのままの栞を好きになってくれる男がきっと現れるよ。 それは栞が十七歳の時だった。父はその後、栞が短大を卒業する年に転勤で広島に単身赴任となった。新幹線のホームで、母と一緒に父を乗せたのぞみを見送りながら栞は思う。 そのままの私。今の私に何もないものが、あと数年すればどう変わるというのだろう。 栞には兄が二人いるが、二人とも親元を離れ...
Une bonne vie | 2018.07.28 Sat 16:39
JUGEMテーマ:ものがたり 父は言った。 顔の造作や体型に自分の気に入らないところがあって気に病むこともあるだろう。 けど、あと数年もすれば、そのままの栞を好きになってくれる男がきっと現れるよ。 それは栞が17歳の時だった。父はその後、栞が短大を卒業する年に転勤で広島に単身赴任となった。 兄が2人いるが、2人とも親元を離れ遠方に暮らしている。 短大卒業後も実家を離れることを許されなかった栞は、現在無口な母と二人暮らしである。 口数は少ないけれど、母は昔からすこし窮屈...
Une bonne vie | 2018.07.27 Fri 14:56
JUGEMテーマ:ものがたり 和奏との待ち合わせの場所はたいてい本屋である。 日曜日、栞はいつもの美容院で髪を切った。ウィンドウに映る自分のシルエットが「ちゃんとしてる」ことが嬉しくて、つい何度も見てしまう。今日はお化粧もしてきた。栞は普段ほとんどメイクをしない。メイクをすれば見違えるほどのテクニックもないし、隠さなくてはいけない(と自覚している)難もいまのところ、ない。とは言うモノの髪の毛を切ってもらう間、鏡に映る自分の顔をずっと眺めていなくてはいけない為、あまりに素のままは居心地が悪い...
Une bonne vie | 2018.07.27 Fri 14:55
JUGEMテーマ:ものがたり 玉井は決して不細工じゃない。 もうずいぶん酒がまわった状態ではあるけれど、飲み会の席で面識のある営業社員に(面と向かって)そう言われたことがある。 いや、むしろ見ようによっては、AKBとかモー娘に紛れ込んでいるレベルと遜色ない。 栞はありがたくその言葉を、いたって額面通りに受け取った。しかし、紛れ込んでいるレベルと遜色ないとは…褒められているのか貶されているのか、いささか複雑な心境である。だがしかし、どのみちその男性は既婚者である。社内恋愛で...
Une bonne vie | 2018.07.27 Fri 14:53
JUGEMテーマ:ものがたり 和田遼太郎は休日出勤を終えて、最寄りの地下鉄の駅へと向かっている。 思いの外早くに仕事の片が着き、明日は振替えて半休にしている為気持ちに余裕がある。このまま帰るのはなんだか勿体ない。なんせ、まだ日曜の14時である。一人暮らしの単身者用ワンルームに帰れば、シャワーを浴び、部屋着に着替えてビールを開けて、TVをつけたら、寝落ちするまでだらだらと過ごすだけだ。映画でも見て、飯食って帰るか。ネット配信の動画ではなく、駅前のシネコンで映画を見る。その贅沢を自分に許せるこ...
Une bonne vie | 2018.07.27 Fri 14:53
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