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JUGEMテーマ:ものがたり 冷たい霧雨がふわふわと落ちてくる道を、少女は歩いていた。両手で包み込むようにグラスを抱えて、暗い夜道を歩いていた。そのグラスは蝋燭で満たされていて、小さな炎が灯っている。その炎は霧雨を被っても消えることはない。その炎は普通のそれではなかったから。少女にもそれは一目で解った。炎が煌めく瑠璃色をしていたからだ。それは全く揺らぐことがなく、それなのに渦巻いているように少女には感じられた。きっとこれは銀河なのだと少女は思った。どんな銀河も最初はこんな風な小さ...
pale asymmetry | 2025.02.08 Sat 20:09
JUGEMテーマ:ものがたり 庭の真ん中に突き出るように佇む石は、先端が鋭く尖った歪な角錐形で、青白く濁った色彩だった。私は石には詳しくはないので、それがどういう種類に分類される石なのかは解らない。ただ眺めていると、強い孤独を感じる石だった。この石は千年万年前からこの場所に佇んでいて、ずっと孤独だったのではないかと思えるのだった。表面はざらざらしているように見える。でも実際に触れたわけではないので、本当にそうなのかは解らない。触れることは禁忌だったので、この先も私がその感触を知る...
pale asymmetry | 2025.02.06 Thu 21:09
JUGEMテーマ:ものがたり 「みぞれだけは宿るのですよ」 やわらかなベンチシートの傍らに立つ館長が、外の風景を見つめながら唐突に言う。彼が見つめる先でみぞれが降っていたのかというと、そうではない。どんよりと曇っていて、そのグレーに空気が染められていたし、その空気は重く冷えていたから、みぞれが降り出してもおかしくないような風景だったけれど、今はまだ降ってはいない。彼がこのタイミングでみぞれという言葉を口にした意味を私は考えようとして、すぐにやめる。そういう言葉のいちいちに意味を...
pale asymmetry | 2025.01.26 Sun 20:50
JUGEMテーマ:ものがたり 右の耳に仄かな痛みを感じた。原因に心当たりはない。洗面所にいって鏡を覗く。右耳にリスがぶら下がっていた。私の耳朶をしっかりと噛んでぶら下がっている。でも実在するリスではない。透明だったからだ。いや、それは正確ではない。透明ならばリスの姿は見えないはず。でも半透明と言えるほども鮮明な姿ではない。それよりもずっと希薄なリスだ。コバルト色の斑模様のリスだった。だから森に住むリスではないだろう。その色では迷彩効果はないと思えた。でも希薄だったから、何処にいて...
pale asymmetry | 2025.01.21 Tue 20:34
JUGEMテーマ:ものがたり 半日で仕事が終わったので、正午過ぎに自宅に戻る。玄関の鍵を開けようとして扉に近づくと、扉の前にウグイスが立ちはだかっていた。寒そうな顔をして私を見上げるウグイスは、逃げ出す様子はなく僅かに首を傾げながら私を見つめている。どことなく幼く見えるその姿に私は思わず手を伸ばしてしまう。さすがに逃げ出すかと思われたけれど、ウグイスは飛び立つことなくちょこちょこと跳ねて少しだけ移動すると、そこから私を振り返った。そしてまたちょこちょこと跳ね、振り返る。まるで私を...
pale asymmetry | 2025.01.16 Thu 21:07
JUGEMテーマ:ものがたり その鳥は、六枚の翼を有していた。けれど頭も尾も有してはいなかった。脚もなかったので、着地することも出来ない。胴体から生えでた六つの翼をはためかせ、あるいはいっぱいに広げて風を孕ませ、飛び続けなければいけなかった。いつから自分が飛んでいるのかを、その鳥は知らない。空中で生まれ、生まれた瞬間から飛んでいたのか。あるいは地上で生まれ、某かの手立てによって空中に放たれたのか、どちらの記憶も持っていなかった。いや、記憶というものを全く持っていなかったのだ。だっ...
pale asymmetry | 2025.01.11 Sat 21:06
JUGEMテーマ:ものがたり その廊下は階段状で、果てしなく延びていた。一段一段がとても広い。というかとても細長い階段状の廊下だった。床面はモザイクのような複雑な模様を描くように木製のタイルが敷き詰められていた。歩くとその模様が僅かに沈む。けれど軋むような音は立てなかった。足の裏には鈍い音の感触があるのに、それは空間には放たれていない。どこか別の世界に漏れ出ているのかもしれない。そんな気がした。その廊下が階段状なのは、両側に座敷が並んでいたからだ。階段の細長い一段が座敷の一辺と同...
pale asymmetry | 2025.01.10 Fri 20:47
JUGEMテーマ:ものがたり 「渋滞はないから醜態もないね」 タクシー乗り場で声をかけてきた銀色の異星人はそう言って笑う。風は真下から吹き上がってきたので、常にコートが捲れ上がって寒かった。私はそれを押さえながら曖昧に微笑む。それをどう受けとめたのか、異星人は私に抱きついてきた。その躰はゴツゴツとしていたけれど、暖かかった。だから払いのけることは出来なかった。 「そういうわけで、次のタクシーに一緒に乗ろう」 何がそういうわけなのか解らなかったけれど、私は頷く。その異星...
pale asymmetry | 2025.01.07 Tue 21:41
JUGEMテーマ:ものがたり ・「双子の聖女は運命を入れ替える」の第106回です。 他のページはコチラ→双子の聖女は運命を入れ替える1/2/3/4/5/6/7/8/9/10/11/12/13/14/15/16/17/18/19/20/21/22/23/24/25/26/27/28/29/30/31/32/33/34/35/36/37/38/39/40/41/42/43/44/45/46/47/48/49/50/51/52/53/54/55/56/57/58/59/60/61/62/63/64/65/66/67/68/69/70/71/72/73/74/75/76/77/78/79/80/81/82/83/84/85/8...
言ノ葉スクラップ・ブッキング〜シーン&シチュ妄想してみた。〜 | 2024.12.29 Sun 23:24
JUGEMテーマ:ものがたり 正六面体の巨大な建物は、宇宙の青色を纏っていた。それは深い深い青で、神性を感じさせない青だった。しかしその建物は神殿で、多くの人たちがこの場所に巡礼に来ているのだという。でも今は人影はない。私とガイドの二人しかいなかった。 「巡礼者は、今日はいないのですか?」 私が問うと、ガイドはゆるやかに首を振る。そして両手で何もない空間を撫でるような仕草をした。 「あなたはまだ、世界と縺れ合っていないのです」 そう言って、何度も何度も空間を撫でる。巡...
pale asymmetry | 2024.12.29 Sun 20:24
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