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JUGEMテーマ:気になる本 ☆ 23 白純里緒の体が跳ねる。 一直線に襲いかかってくる敵を前にして、それでも彼女は動かなかった。 ざくりと、ケモノの爪が腕の肉を削ぐ。 血が流れて、敵が真横を走り抜けても、式は俯いたままだった。 彼女の両手は、優しくナイフを抱いている。 かけがえのない宝物のように、大切に、大切に。 覚えていた熱が薄れていく。 自分の体温とか、触れあった時の肌の温かさとか。 こんな私にも少しはあったんだと思えていたココロとか、あいつが信じていた私のココロと...
たいむかぷせる。 | 2011.03.08 Tue 09:42
JUGEMテーマ:気になる本 ☆ 21 ごとん、と幹也は床に転がった。 うつぶせに倒れこんだまま動かない。ただ顔の部分から赤い血が流れて、コンクリートの床を濡らしていく。 ボクは呆然と手のなかのナイフを見つめていて、何もできなかった。 幹也の死体は恐ろしくて、近付く事さえできそうにない。 だって、幹也は、死んでいるんだ。 「ごめん……こんなつもりは、なかったんだ」 呟いても、答える声は雨音しかない。 ボクは、泣いていた。 遠い昔。白純里緒が学生だった頃からずっと残っていた愛情...
たいむかぷせる。 | 2011.03.06 Sun 09:31
JUGEMテーマ:気になる本 ☆ 20 「……殺人を犯して。その罪から逃れるためにあなたは自分を捨てた。むかし、両儀式を愛していた白純里緒は、自分を正当化するためだけに式を求めた。そこにもう愛情はないんです。あなたは―――」 「うるさい!」 大きな声がして、白純里緒は僕の体を蹴りつけた。 幸い、痛みはとうに麻痺して感じない。 「ボクの事なんかいい。今は、キミの事を話してるんだから」 苛立たしげに言って、白純里緒はナイフを振るう。 彼は式のナイフで棒の先を小指ほどの大きさに切ると、それ...
たいむかぷせる。 | 2011.03.05 Sat 07:43
JUGEMテーマ:気になる本 ☆ 19 焼きつきそうな喉で、僕はばかな事を口にしていた。 心外だな、と白純里緒は顔を曇らせる。 「クスリで死ぬのは俺のせいじゃない。欲しがったのは奴らだし、耐えきれなかったのも奴らの責任だ。……ま、同情はしてるよ。俺みたいに特別だったら、死ぬ事はなかったんだろうから」 …………あたまが、くらくらする。 さっき呑まされたクスリが、意識を、ボロボロにしていくみたいだ。 「でもさ、三年間も続けたっていうのに、成功したヤツはいなかった。俺は諦めかけた。その時さ、...
たいむかぷせる。 | 2011.03.04 Fri 07:33
JUGEMテーマ:気になる本 ☆ 17 粘つく音は、ただ、不快だ。 際限なくしたたる唾液は、服の上からでも肌を濡らしていく。 ……手錠で繋がれた両腕がいたい。 ケモノの舌は私の胸の形を丹念になぞって、首筋にまで到達した。 頬から目までを、ぞろりと舐めあげる。 はあはあという息遣いが、目の前で繰り返された。 唾液にまみれた自分の体と、獣臭いソレの吐息が鼻について、吐きそうになる。 「―――駄犬」 ただ、そう罵倒した。 ソレは愉しそうに笑って、私の首筋に噛みついた。 「あ―――」 ...
たいむかぷせる。 | 2011.03.02 Wed 07:35
JUGEMテーマ:気になる本 ☆ 16 … 懐かしい、夢を見た。 “人は、一生にかならず一度は人を殺す” そう、なの? “そうだよ。自分自身を最後に死なせるために、私たちには一度だけ、その権利があるんだ” じぶんの、ため? “そうとも。人はね、一人分しか人生の価値を受け持てないんだ。だからみんな、最後まで辿り着けなかった人生を許してあげられるように、死を尊ぶんだ。命はみんな等価値だからね。自分の命だからって、自分の物ではないんだよ” じゃあ、おじいちゃんは? “おじいちゃ...
たいむかぷせる。 | 2011.03.01 Tue 15:23
JUGEMテーマ:気になる本 ☆ 15 ……それでも、ボクは安心できない。 ひとりきりは不安すぎる。 ボクは、ボクと同じ狂人の仲間が必要だと気がついた。 ◇ 二月十一日、木曜日。 早朝から降りはじめた雨の中、僕は橙子さんの事務所に顔を出した。 仕事に戻ろうとしたのではなく、港に行く前に橙子さんに相談しなくちゃいけない事があったからだ。 僕が白純先輩について語ると、橙子さんはつまらなそうな顔でふぅん、と相づちをうっただけだった。 「どう思います、所長?」 式の事も先輩の...
たいむかぷせる。 | 2011.02.28 Mon 09:13
JUGEMテーマ:気になる本 ☆ 14 八月。 荒耶さんの言うとおりだ。 ボクは正しい。 狂っているのなら、人を殺してしまうのは仕方のない事なんだから。 ◇ ……雨が、降ってる。 ざあざあと止まない雨音がうるさくて、私は閉じていた瞼を開けた。 「……なんだ、まだ生きてる」 眠りから覚めて、コンクリートの床に横になったまま、その風景を眺めた。 草が茂っている。 私より二倍以上も背の高い植物。 高い窓から差し込む陽光は、雨のせいで灰色だ。 それでも一面にぐるりとある窓...
たいむかぷせる。 | 2011.02.27 Sun 11:07
JUGEMテーマ:気になる本 ☆ 13 八月。 ボクは、だんだんと狂いはじめている。 ◇ ―――だって、君は優しいから。 つまらない言葉を思い出して、私は足を速めた。 沸き上がるのは凶暴な感情だけで、本当にいらいらする。 「…………なんて、幸福な男」 ぎり、と歯を噛んで、私はあいつのまぬけ顔を頭の中で殴りつけた。 変わってない。本当に、あいつは四年前から変わってない。両儀式という殺人鬼を信じて、私にばかみたいな笑顔を向ける。……私と普通に接して、殺されるなんて事を夢にも思わな...
たいむかぷせる。 | 2011.02.26 Sat 08:45
JUGEMテーマ:気になる本 ☆ 12 八月。 あの日から一睡もできない。 恐くて恐くて、外を出歩く事もできない。 のうのうと生き延びてる自分が厭で、鏡を見る事もできない。 僕は、最低の人間だ。 何もする気になれないし、何も食べる気になれない。 僕はひとつも傷を負っていないのにボロボロで、まるで死人のように暮らしている。 七日目に気がついた。 あの時に死んだのは彼だけではなかったっていう事に。 ほんと、どうして誰も教えてくれなかったんだ。 誰かを殺すというコトは、自分も一...
たいむかぷせる。 | 2011.02.25 Fri 08:33
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