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JUGEMテーマ:気になる本 ☆35 … ―――魔術師は言った。 私でも、言葉だけは殺せないと。 けれど、それでもいつかは死んでしまうだろう。 物事はすべて消え、無くなり、死ぬものだ。 そうでなければ過去と未来の境界が曖昧になってしまう。ものごとは戻らないものだからこそ、無くさないようにと大事にするんだ。 ……そもそも、どうして無くなるぐらいでそれを永遠でないと言うんだろう。 消えてしまっても、忘れさってしまっても、物の存在は変わらない。変わるのはそれを受けとめる私達自身の心の...
たいむかぷせる。 | 2011.02.13 Sun 09:18
JUGEMテーマ:気になる本 ☆34 その日の授業を終えて、玄霧皐月は準備室に戻ってきた。 天気は何日かぶりの曇りで、廊下はモノクロームの写真のように静まり返っていた。 準備室の扉を開けて、中の様子をゆっくりと眺めた。 物であふれている彼の部屋は、けれど生活感というものが排除されていた。 灰色の陽射しに照らされた、時が止まった準備室。 その風景が玄霧皐月の記録してある情報と一致するか確認してから、彼は中に足を踏み入れた。 ぱたん、とドアを閉めた。 「―――――」 同時に、彼は鋭い...
たいむかぷせる。 | 2011.02.13 Sun 09:16
JUGEMテーマ:気になる本 ☆ 33 一月十一日、月曜日。 学校が始まって、わたしはいつも通りの学生生活に戻っていた。 授業を終えて教室を出る。寮に戻って支度を調えてから、シスターに外出届を提出する。 しぶい顔をされながらオーケーをもらって寮を出ると、そこで藤乃とぶつかった。 「出かけるの、鮮花?」 「ちょっとね。もしかすると門限に間に合わないかもしれないから、瀬尾によろしく言っといて」 綺麗な長い黒髪をした同級生にルームメイトへの伝言を頼んでわたしは急ぐ。 早足で森を抜けて...
たいむかぷせる。 | 2011.02.13 Sun 09:15
JUGEMテーマ:気になる本 ☆ 32 子供のころの夢を見た。 まだわたしが黒桐の家で暮らしていた頃の、ずっと昔の思い出を。 月の明るい夜のことだ。その日の昼に、隣の家に住んでいたおじいちゃんが他界した。 その人はただのお隣さんで、若い頃に家族を亡くされて独りきりの、淋しげな老人だった。 痴呆が進んで昨日のこともよく覚えていない人だったけれど、とても優しくて、温かいおじいちゃんだった。 わたしは遠見に、兄は親身になってその老人と日々を過ごしていた。 老人は自らの孤独を埋めるように...
たいむかぷせる。 | 2011.02.13 Sun 09:13
JUGEMテーマ:気になる本 ☆ 31 小降りの雨が黒い制服を濡らす。 冬の雨は、雪のように冷たかった。 吐く息は白くて、うなじのあたりがジンと震える。 そんな凍えた空気の中を駆け抜けて、黒桐鮮花は旧校舎に辿り着いた。 昇降口から中にはいる。 校舎は、もう何十年と放置された廃屋のように寂しげだった。生徒である子供達の声も、学校としての息遣いも死に絶えている。 今ここにあるのはキイキイと小煩い虫の声と、鼻をつく乾いた匂いだけ。 彼女はくん、と匂いをかいで、それがガソリンの香りだと...
たいむかぷせる。 | 2011.02.09 Wed 21:27
JUGEMテーマ:気になる本 ☆ 30 平坦な、とてもつまらなそうな顔をして、彼は言った。 わたしはほんの一瞬だけ、この人物の意志に触れられた。けど、そんなものは、本当に瑣末な事だ。 ここには誰もいない。 ただ人の忘却を採集する本があるだけ。 ……むかし、玄霧皐月は自分の記憶を取り戻す為に魔術を習って、人々の記憶を巡っていった。 けれどそれは無意味だった。結局、記憶を取り戻したところでそれを自分のものと認識できなければ意味がない。彼の行為は徒労だった。 そうして目的は変わってしまっ...
たいむかぷせる。 | 2011.02.09 Wed 21:27
JUGEMテーマ:気になる本 ☆ 29 唐突に訊かれて、わたしは喉をつまらせる。わたし達が物忘れをする理由。それは、きっと――― 「……脳の用量は限られています。わたし達は、必要な情報と不必要な情報を分けなくてはいけません。長く時間を重ねれば重ねるほど、その忘却は大きくなるでしょう。わたし達は日々を混乱する事なく暮らす為に、不必要な記憶を削除していかなければいけないから」 「ええ。それが大半の過程でしょう。ですが、それは忘却ではなく整理というのです。時間によって消え去った記憶と、個人の意志によっ...
たいむかぷせる。 | 2011.02.09 Wed 21:25
JUGEMテーマ:気になる本 ☆ 28 幹也からの電話を切って、わたしは高等部の校舎へ急いだ。 時刻は午後一時を過ぎたばかり。 空模様は今にも泣きだしそうな鉛色で、頭上は厚い雲に覆われている。 「……この分じゃ、今日は雨になるのかな」 冬の冷たい空気を肺にしみ込ませながら、わたしは昏い森を抜けて校舎に辿り着いた。 誰もいない廊下を歩いて、一階の端になる英語教論の準備室に行く。 ノックもせずに扉を開けると、玄霧皐月という教師はすべて解っていたように、椅子に座ってわたしを待ち受けてい...
たいむかぷせる。 | 2011.02.09 Wed 21:25
JUGEMテーマ:気になる本 突然ですが、皆さんは週刊誌を読まれることありますか?読まれる方には、それぞれひいきの出版社があるようで毎週楽しみにされている方も多いようです。週刊誌は、政治、経済、社会、スポーツ、芸能・・・刻々変化するあらゆるジャンルの情報がタイムリーに書かれていますから、世の中の流れを大きく掴むのに大変便利な媒体ですよね。 本日の日経の4面下部に大きなスペースをとって、週刊新潮と週刊文春の広告が並んで載っています。発売日が同じなのでしょう(毎水曜日か?)、両誌が並んで掲載され...
酒そば本舗奮闘記 | 2011.02.09 Wed 16:55
JUGEMテーマ:気になる本 ☆ 27 ……性格などいらない。自己が重ねてきた歴史だけが自己を示す証であるのなら、それは何が起きても変わらないモノになる。観測者そのものが観測される対象になれば、観測するモノも不変であり、観測される対象も不変。 それが永遠だと魔術師は言った。 「……おまえの言っている事は、わからない」 「そうでしょうね。簡単に物事を忘却できる君達にはわからない。この世界で永遠と呼べるものは人の記録だけなんです。君達は人生の後に思い出が出来ると錯覚している。本当は思い出の後に人...
たいむかぷせる。 | 2011.01.31 Mon 10:43
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