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JUGEMテーマ:気になる本 ☆6−3 「それは、身分の破滅というのではないか」 帰るべき家もなく、頼るべき親族や家臣たちとの縁を切り身一つ。彼女は今、荘園を逃げ出した哀れな農民と同じだ」 「いいえ。命がありますから破滅ではない」 「私と共にいては、その命すらなくすかもしれない」 「今更、命を落とすことを恐れはしません」 そして、意を決した様に火焔は唇を震わせ言った。 「お目障りならば姿を見せない様に気をつけます。ですから、軍に加えてください」 火焔は引き返せない場所にいる。それを悟る。命...
たいむかぷせる。 | 2011.01.20 Thu 11:19
JUGEMテーマ:気になる本 ☆6−2 「今、お前を喰っても、あの男は、その事すら気がつかない。それでは意味が無い。けれどお前を、あおの男の目の前で喰うのもいただけない。人なんていうのは愚かだから、相手が死んでしまうと「綺麗な思い出」なんてものを勝手に心の中に作ってしまう。そんなものを残されて心の支えになんぞにされては叶わない。お前を喰うよりも、もっと良い方法がある」 鬼は懐から小さな青い花をつけた草花を取り出した。枯れた景色の中に、青々とした歯と、鮮やかな花の色が鮮明に見える。 「呪いをか...
たいむかぷせる。 | 2011.01.19 Wed 09:18
JUGEMテーマ:気になる本 ☆6−1 火焔は律家を抜け出すと、久見所の風雅を訪ねた。 久見所に寝泊りする事があったので、彼女の所に着替えを一式預けてある。婚礼衣装のまま飛び出したので、出迎えた庭番や風雅は目を丸くした。 「初夜に久見所に遊びに来る花嫁なんているの?」 呆れ顔の風雅に着替えを手伝ってもらいながら火焔は首を振る。 「婚儀を済ませ、高峯の妻になった。けれどそのすぐ後に、私は高峯の手で討たれて死んだ」 ぽつりぽつりと火焔が経緯を語るのに、風雅は一言も差し挟まずに聞いてくれた。 ...
たいむかぷせる。 | 2011.01.17 Mon 09:21
JUGEMテーマ:気になる本 ☆5−9 火焔は、白い小袖に白い打ち掛けという婚礼衣装を着た。化粧をし紅をひいた。 男子の服装ばかりして紅一つひいた事がなかった。そうして着飾ると女らしく見える。 それだけで家臣達は誉めてくれた。 静かに婚儀は進んだ。 正装した高峯の隣に座り、火焔は広間に集まる律家の人々を冷静に見回していた。戦の始まる直前、高台の上から自陣の配置を冷静に見回す様な気持だった。 婚姻の儀式が終わる。 広間に酒や食事が運ばれ、庭に面した引き戸が開かれた。 庭に敷かれていた筵は取り去ら...
たいむかぷせる。 | 2011.01.09 Sun 21:57
JUGEMテーマ:気になる本 ☆5−8 鳳悠は恐れているのだ。追って討ち取ろうとする気概もない。ただ怯えて、甲羅の中に首を縮める亀の様に、都の中で身を守ろうとした。 乱戦の夜から、火焔の心はすっきりと整理されていた。 もう迷いはなかった。 ・・・鳳悠を守るために戦はできない。綾白様の敵にはなれない。 そうと決めると、晴れ晴れとした心持になった。 綾白一党が今後どう動くか解らない。そんな時期に、火焔の婚儀を執り行うべきか否か、律家で問題になった。延期するべきではないか、と言う家臣もいた。 しか...
たいむかぷせる。 | 2011.01.09 Sun 21:56
JUGEMテーマ:気になる本 ☆5−7 律家と笙家に阻まれていたが、彼らの背後にある堅精門が、ゆっくりと扉を開いた。 「門が開いた!」 「斬り込め」 と叫ぶ声と、 「させるな」 「止めろ」 「門を閉めろ」 と怒鳴る声が乱れ飛ぶ。 門は開いた。目前に門がある。 しかし、綾白一党の進行は止まっていた。更に背後、貴族たちで組織する弱い一郭に、律家の別隊が突っ込んできた。崩れた場所を補強するのに、楷家の一団が走る。 「陣立てが乱れている」 綾白は呻いた。 一丸になって内裏に突入し、律家と笙家...
たいむかぷせる。 | 2011.01.09 Sun 21:56
JUGEMテーマ:気になる本 ☆5−6 ・・・苦しい。 胸が圧迫される様な感覚に、何度も寝返りをうった。 そうしていると、遠く馬のいななきが聞こえた。耳を澄ますと複数の馬のいななきが聞こえる。 身を起こし、眉をひそめる。 その時、廊下を掛けてくる足音がした。 「火焔!」 許しもなく引き戸を開いたのは、高峯だった。床から飛び起きた直後らしく、髪が乱れていたし寝間着姿だった。 「火焔!大内裏に向けて軍勢が押し寄せている!綾白親王の旗指物と楷家の旗指物をたてている」 ・・・来た。 火焔は跳...
たいむかぷせる。 | 2011.01.09 Sun 21:55
JUGEMテーマ:気になる本 ☆5−5 「綾白様が内裏にお帰りにならない。こちらにおいでなのでしょう?ご無事かどうか。それだけが知りたい」 「内裏に帰らないこと等、よくある。子供でもあるまいに、それがそんなに心配か」 「ただ帰ってこないのとは、訳が違う」 「お前、何か知ってて来たな」 鋭い左近は、直ぐに気がついたらしい・ 「詳輝殿で何か見たか」 問われて頷く。左近は溜息をついた。 「ご無事だ。あの方は、それほど弱くない。だが痛ましい」 そして屋敷の方へ向かって、顎をしゃくった。 「中...
たいむかぷせる。 | 2011.01.09 Sun 21:55
JUGEMテーマ:気になる本 ☆5−4 綾白の静かな目が怒りに滾る。 火焔は、飛び出して行きたかった。しかし随身の身で、そのような事ができるはずもない。 ・・・お逃げください! 心の中で叫んだ。無様でもいいから逃げて欲しかった。 鳳悠は焼印を手に綾白に駆け寄ると、髪を掴み顔を仰向けにさせる。 「大皇になど、なれぬ様にしてやる!」 熱した赤い先端が、綾白の額に押し付けられた。 ・・・綾白様! じりっと、嫌な音がした。食いしばった歯の隙間から綾白が呻く。 鳳悠が綾白を突き放した。 肌が焼...
たいむかぷせる。 | 2011.01.09 Sun 21:54
JUGEMテーマ:気になる本 ☆5−3 「月と同様、なんだ」 鳳悠が不愉快げに問う。すると鬼はさも哀しそうな顔をした。 「御門の治世を脅かす悪辣な者がいると思えば、満ち足りた治世も月と同様欠けるやもしれないと。私は不安でたまりません」 「悪辣な者とは誰だ」 「御門が最も忌み嫌われているお方です」 すると鳳悠は、ふんと鼻で笑う。 「あれは朕が飼っている、無力な子犬と同じだ。朕の足元で、生涯飼い殺しにする。心配には及ばぬ」 「飼い犬も主人の指を噛みます」 「なに?」 顔の半分に月光を受け...
たいむかぷせる。 | 2011.01.09 Sun 21:53
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