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編みさしの赤き毛糸にしみじみと針を刺す時こほろぎの鳴く 『桐の花』 男性の手によって編まれるならば、「赤き毛糸」のイメージも、日常的な生活のぬくもりへの素直な感慨というより、そこからはぐれがちな魂がことさらにひとこまの芝居として日常を演出するかのごとく、危なげに浮き立ったものとなる。 生活そのものではなく、生活を表現として捉えなおしてしみじみと抒情の具としている者のたよりなさと切実さで「こほろぎ」が鳴く。 JUGEMテーマ:日本文学
星辰 Sei-shin | 2021.09.10 Fri 17:34
JUGEMテーマ:日本文学 ★瀬戸内寂聴の「寂聴 残された日々」(『朝日新聞』毎月第2木曜日に掲載)を愛読している。67回目の今年1月には「数え百歳の正月に おかあさん、短かったよ」のタイトルで、「今年の正月で、私は数え百歳になった。まさか自分が百歳まで長生きしようとは夢にも思ったことがなかった。五十一歳で、防空壕(ごう)の中で焼死した母は特別として、その跡を追うように、死亡した父も、たったひとりの姉も、癌(がん)や結核を患い、人生の半分しか生きていない。」と記し、 ★5月には「人間...
見る 読む 歩く | 2021.09.09 Thu 19:27
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,162 「この女が己(おれ)を欺いている?そんなことが在るだろうか?・・・・・・この、現在己の目の前で平和な呼吸を続けている女が?・・・・・・」 私は密かに、彼女の眠りを覚まさない様に枕もとへすわったまま、しばらくじっと息を殺してその寝姿を見守りました。 昔、狐が美しいお姫様に化けて男をだましたが、寝ている間に正体を現わして、化けの皮を剥がされてしまった。 私は何か、子供の時分に聞いたことのあるそんな噺(はなし)を想い...
「3分読むだけ文学通」 | 2021.09.06 Mon 21:16
あはれなるキツネノボタン春くれば水に馴れつつ物をこそおもへ 『桐の花』 「キツネノボタン」だけが鮮やかな黄色で具象画の素材としての存在感を主張しているが、「春」も「水に馴れ」ることも「物をこそおもへ」もすべて朦朧とした抽象性が強い。 そのコントラストが、キツネノボタンに官能的な象徴性を与えており、叙景と叙情との一体感を生み出してもいる。 対照性が一体感を生むところに白秋らしいまなざしを感じる。 鮮やかな風景を、鮮やかなまま身に沁みとおらせている白秋と、鮮やかさに苦痛...
星辰 Sei-shin | 2021.09.04 Sat 13:41
JUGEMテーマ:日本文学 8月24日は中野重治の命日。生地福井県丸岡で行われてきた「くちなし忌」は、コロナ禍で昨年に続き今年も中止になった。 最近、中野の葬儀・告別式を記録したDVDのことを知り、今でも入手可能なことがわかって、早速発売元のVIDEO ACT! に注文、入手した。 すばらしい記録映画だ。さすが土本典昭の作品と思った。遺族や弔辞を述べた人も、映像に残る著名人も、その多くが既に他界。遺影の前に献花(ほおづき)する人たちの列を見つめながら、感慨ひとしおだった。今日はこのDVDを視ながら、あの...
見る 読む 歩く | 2021.08.24 Tue 07:55
JUGEMテーマ:日本文学 「季刊文科」85夏季号の特集は、「さまざまな八月十五日」。その最初の論文で富岡幸一郎は、第二次世界大戦の終結は、正式にはアメリカ軍艦ミズリー号上で、日本政府代表が降伏文書に署名をした9月2日である。この時マッカーサーは寛容と理想を掲げた演説を行ったが、それはアメリカ空軍機が空を覆い、軍艦が東京湾を埋め尽くす中で行なわれ、勝ち誇る西洋文明に傷つき惨めにさらされた日本の姿だった。以来75年余、屈辱的な敗北の記念日は忘れられ、終戦は玉音放送による8・15という特別...
見る 読む 歩く | 2021.08.10 Tue 11:33
黄なる日に鏽びし姿見鏡てりかへし人あらなくに百舌啼きしきる 『桐の花』 錆びた姿見鏡(すがたみ)に映る人の姿はなく、秋の「黄なる日」に空白をてりかえすばかり。ただ百舌が啼きしきる。 鏡の中の空白と、百舌の啼きしきるけたたましさとの対比が不安をかきたてる。 秋の日の人のもの思いを映すべき鏡ではなく、そのような安定感のある情緒を欠落させた世界を空白として照りかえすだけの鏡。そしてその不安にいらだつかのような百舌の声。 人も世界も錆びてしまったと感じている作者のア...
星辰 Sei-shin | 2021.08.07 Sat 11:26
なつかしき七月二日しみじみとメスのわが背に触れしその夏 『桐の花』 白秋の資質は、幼少期のまどろむような幸福感へ回帰しようとするのではなく、初めて世界に触れたときの恐怖の感触とまどろみとがひとつに溶け合っている場所への回帰願望に特色があるとおもわれるが、その資質は、「手術」という酷薄な体験をもまた、同様の場所のなつかしさとして自らに刻みつけようとする。 「な音」や「さ行」の多用が、己れの肉体と世界とがメスによって融合する瞬間への粘っこい凝視の感触を伝えてしみじみと痛ましい。...
星辰 Sei-shin | 2021.07.24 Sat 11:44
折ふしのものの流行のなつかしくかなしければぞ夏もいぬめる 『桐の花』 短歌という器にとって新鮮な素材を詠む行為は、正岡子規においては、こんな物もかつて詠まれたことはなかった、これも近代においては素材になり得る、という、幼児のような眼で貪欲に対象を発見していく溌剌とした行為であったろうが、白秋においては、どこか素材の永遠性を信じきれないといったけだるい距離感が漂う。 ヒヤシンスもココアもカナリヤもハモニカも、あるいは古典の中で数知れず詠まれてきた夕暮れも春も螢も恋も、白秋が...
星辰 Sei-shin | 2021.07.23 Fri 16:03
JUGEMテーマ:日本文学 『朝日新聞』文化欄「語る――人生の贈りもの 田中優子」が14回(7・16)で終わった。田中優子は有名人で、どんな活動をしているかも大体わかったつもりでいた。しかし、知らないことばかりで、興味津々、毎朝楽しみに読んだ。 今回の第165回芥川賞の受賞者は二人とも女性、それがニュースにならなくなって久しい。最近、斎藤美奈子、上野千鶴子の発言・発信が鋭く面白いが、大学総長の役から降りた田中さんのこれからの発言も楽しみだ。総長時代も忖度なしに発言したというが(...
見る 読む 歩く | 2021.07.17 Sat 14:32
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