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『大往生事典』に見る作家の臨終

JUGEMテーマ:日本文学  佐川章『作家の死んだ日と死生観 大往生事典』4月の項には、明治から平成までの49名が列記されている。死因では肺疾患の11名が最高で、癌が7名、脳疾患が6名、内田百?のような老衰も、6名が記録されている。   自殺の3名の中の一人は川端康成(昭和47年4月17日 72歳)。ノーベル文学賞作家の自殺は大きな反響を呼び、臼井吉見の『事故のてんまつ』が問題になったことなど、いろいろと思い出す。もう一人、『足摺岬』の田宮虎彦の高層マンションからの投身自殺(昭和63年4月9日 76歳)...

見る 読む 歩く | 2021.04.24 Sat 08:21

北原白秋『桐の花』を読む? 川喜田晶子

茴香の花の中ゆき君の泣くかはたれどきのここちこそすれ 『桐の花』    背丈ほどある茴香(ういきょう)の花の中をゆけば、薄黄色の小花に囲まれて、みるみる次元の違う身体感覚がせり上がってくる。現(うつつ)と彼岸の境界線が曖昧になる。  恋にまつわる抒情を風景に託すのではなく、風景と作者とのあいだに生じたドラマを「君の泣くかはたれどき」にたとえることで、〈恋〉は晒されて粘度が薄れ、風景には逆に妖しい官能性が添えられる。  人と風景とにそれぞれ付随する匂いを逆転させることで、両者の〈...

星辰 Sei-shin | 2021.04.23 Fri 12:09

北原白秋『桐の花』を読む? 川喜田晶子

わが世さびし身丈おなじき茴香も薄黄に花の咲きそめにけり 『桐の花』    人の身丈ほどもある茴香(ういきょう)は薄黄色の小花をたくさんつける。  花色の薄さ、花の一つひとつの小ささ、花数の多さには、個々の〈いのちの薄さ〉を感じさせるものがあり、作者の抱える生存感覚を象徴して、読む者も思わず呼吸がさびしく薄くなる。  花の咲きそめたことを歌いながら、〈いのちの薄さ〉の方へイメージを反転させてしまうところに、この世で呼吸していることが他界で呼吸していることでもあるような、透明な冷気...

星辰 Sei-shin | 2021.04.21 Wed 12:59

没後50年 内田百?の墓――中野・金剛寺

JUGEMテーマ:日本文学    4月20日は作家内田百?の命日。昭和46年(1971)に東京・麹町の自宅で亡くなった。死因は老衰。享年81。    本名:內田 榮造。別号は百鬼園(ひゃっきえん)。 夏目漱石の門下生の一人で、夢の光景のように不可解な恐怖を幻想的に描いた小説や、独自の論理でユーモアや諧謔に富んだ随筆を多数執筆し、名文家[1]としても知られている。筆名の「百?」は、故郷岡山にある旭川の緊急放水路である百間川から取ったもので、当初は「百間」と表記していたが、後に「百?」に改...

見る 読む 歩く | 2021.04.20 Tue 18:13

北原白秋『桐の花』を読む? 川喜田晶子

たらんてら踊りつくして疲れ伏す深むらさきのびろうどの椅子 『桐の花』   「踊子」と題する一連(暮れゆく春と踊子の群れにまつわる物憂い歌が数首)の中の一首。 「たらんてら」や「びろうど」の平仮名づかいが退廃的な空気を深める。 「たらんてら」は、毒蜘蛛タランチュラに因んだ踊り「タランテラ」であろう、この蜘蛛に咬まれると、死ぬまで踊り続けなければならないとも。つまり、芸術至上主義的な生きざまの喩として一首が顕ち上がっている。  一度「詩」という蜘蛛に咬まれた者は、死ぬまで「詩」を...

星辰 Sei-shin | 2021.04.20 Tue 12:04

北原白秋『桐の花』を読む? 川喜田晶子

アーク燈点れるかげをあるかなし螢の飛ぶはあはれなるかな 『桐の花』    闇夜を舞う螢ではない。白秋の美意識を震わせるのは、文明の象徴であるところの「アーク燈」が点(とも)る「かげ」を飛ぶ螢である。  近代文明の「光」とその「かげ」という振幅の内を舞う螢は、どこか腺病質な匂いをたてている。伝統的な「螢」のもつはかなさとは別種の、己れの居場所に惑っている者の匂いである。近代の光によってはかなくされたその「あるかなし」の存在感こそが、白秋にとっては、逆説的にリアルなものであったろう。 ...

星辰 Sei-shin | 2021.04.19 Mon 13:00

北原白秋『桐の花』を読む? 川喜田晶子

魔法つかひ鈴振花の内部に泣く心地こそすれ春の日はゆく 『桐の花』    鈴振花(すずふりばな)の内部(なか)で泣く魔法使いによって過ぎゆく春を表現することの、当時における斬新さはいかばかりだったか。  絵にすればメルヘンチックであやうい、つまりおめでたい感傷的な余剰としての表現になりかねない図柄の歌であるが、白秋の歌によって喚起される映像には、不吉ともいえるほどの世界との不協和音がにじみ出ている。  この魔法使いは、己れが世界に対して振るうことのできる力をうまく統御できない。よ...

星辰 Sei-shin | 2021.04.18 Sun 12:14

山仲間に見守られての往生――「幸いなるかな久弥」

JUGEMテーマ:日本文学  今日、深田久弥が急逝した茅ヶ岳山麓で午前8時から碑前祭が行われ、その後記念登山が行われる。チラシには雨天決行とあるが、東京は晴れているから、多分現地でも好天に恵まれていることと思う。    前日の朝、いつもより元気なくらいだった夫を送り出した妻の志げ子にとって、山で倒れたの一報、ついで警察からの脳卒中で急死の連絡、その後に続く通夜、葬儀……「本当に主人は茅ヶ岳でいってで逝ってしまったのであろうか」と、三七日が過ぎた今でも「ひょっこり旅から帰っ...

見る 読む 歩く | 2021.04.18 Sun 10:53

深田久弥没後50年深田祭――韮崎市

JUGEMテーマ:日本文学  『日本百名山』で有名な深田久弥が、茅ヶ岳登山中に急逝してから今年は節目の50年。韮崎市では今日明日の二日間にわたって、追悼のイベントが開かれる。    1昨年の48回深田祭には、記念登山もするつもりで、前日は石和温泉のかんぽの宿に予約、早めに着いて観光案内所に寄ったら、当地が深沢七郎や飯田蛇笏ゆかり地とわかった。それでそれぞれの生家や碑を尋ねて歩き回って疲労、体調崩してしまい、翌日は登山どころでなくなった。それで、午後に開催される碑前祭なんとか参加したの...

見る 読む 歩く | 2021.04.17 Sat 18:49

北原白秋『桐の花』を読む? 川喜田晶子

乳のみ児の肌のさはりか三の絃なするひびきか春のくれゆく 『桐の花』    春の暮色を喩えるに、「乳のみ児の肌のさはり」と「三の絃(いと)なするひびき」を列挙してみせる。  乳児の肌ざわりへの退行が片方にある。  一方には、三味線のもっとも高音の、つまりもっとも細い絃である「三の絃」をなすり上げて奏でられるひびきがある。つまり、そこには、追い詰められて初めて露出する女性の官能性の極点の姿をとった、感覚の解放がある。男性であるゆえに、解放することに罪の匂いを感じている白秋自身の、秘...

星辰 Sei-shin | 2021.04.17 Sat 13:16

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