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ふはふはとたんぽぽの飛びあかあかと夕日の光り人の歩める 『桐の花』 退嬰的であることが同時にはじめて世界から〈傷〉を受けた記憶への遡行でもある、という風に、白秋の資質は形成されたのだろう。 「ふはふはとたんぽぽの飛び」というイメージだけならば、ひたすらに世界がやわらかかった乳児期の世界風景への素直な回帰願望とも見えるが、そこに射す夕日は「あかあかと」鮮やかで、白秋の「あかあかと」には、まどろみへの希求に水をさすような毒々しさがある。いや、むしろ、まどろみを壊された瞬間の記憶...
星辰 Sei-shin | 2021.04.16 Fri 16:33
いつしかに春の名残となりにけり昆布干場のたんぽぽの花 『桐の花』 非常にハイカラな西洋趣味の素材が非日常的で退嬰的な空気をあふれさせるかと思えば、「昆布干場のたんぽぽの花」のように俳句的な日常の異化が顕著な作風もあり、『桐の花』は白秋のその後の歌風の展開を予期させるに十分な振幅をもつ。 ただ、己れの歌おうとする風景でありながら、それをひどく怖れているような感覚が、白秋の歌にはつきまとう。 それは神秘や自然への〈畏怖〉というよりも、風景が作者を傷つけに来るのに...
星辰 Sei-shin | 2021.04.15 Thu 12:37
指さきのあるかなきかの青き傷それにも夏は染みて光りぬ 『桐の花』 「指さきのあるかなきかの青き傷」に思いが集まるということは、己れとその傷との間に断絶があることの表われであり、かつその断絶が、己れをその傷によって象徴させたいという希みが生じる契機ともなるということだ。 〈身体〉というものが断絶や孤絶の感覚によって痛むとき、それがしたたかな表現に連結してゆくさまをまじまじと見るような一首である。 指さきの傷にも「夏」は染みて光る。それは全身を「夏」にさらわれてしま...
星辰 Sei-shin | 2021.04.14 Wed 12:19
手にとれば桐の反射の薄青き新聞紙こそ泣かまほしけれ 『桐の花』 泣きたいのが作者なのか、桐の葉の青さを反射して薄青い新聞紙なのか、作者にとってもその境界があいまいになった一瞬を鮮烈に掬い取っているようにおもわれる。 ほんとうは桐の葉を透く陽ざしを、作者はじかに浴びているのだが、ふと身に沁みそこねたその感覚を、新聞紙などが代わって浴びてこともあろうに薄青く身を染めているではないか。その驚きに一瞬遅れて、さればわが身もかく薄青く染まっているはずなのだ、と気づく屈折したプロセ...
星辰 Sei-shin | 2021.04.13 Tue 12:36
病める児はハモニカを吹き夜に入りぬもろこし畑の黄なる月の出 『桐の花』 幼少期の病の思い出は、〈時間〉をやりすごさねばならない苦痛とともに、世界が不意に甘く秘密の扉を開いてくれるかのような、異次元との親密さの記憶として蘇る。 病児がハーモニカを吹きながら時をもちこたえてようやく夜になる頃、日常がふと異形の貌をみせるかのように、もろこし畑に黄の月が出る。病んだ自分と、病んだ黄の月。世界は閉じる。 不吉でもあり、甘い吸引力をも持つこの風景は、おそらくは白秋の幼少期に刻印...
星辰 Sei-shin | 2021.04.12 Mon 17:02
JUGEMテーマ:日本文学 「没後50年 今夜はトコトン 三島由紀夫」(NHKBS 4・4)を録画で観た。瀬戸内寂聴や美輪明宏など、三島由紀夫を直接知る人も登場して貴重な証言が聞けたし、ノーベル文学賞や東大全共闘、縦の会、市ヶ谷の自衛隊員への演説をめぐって、当時の生々しい映像もあって、50年前の衝撃的な事件を思い出しながら観た。 三島由紀夫と言えば、一番の問題はあの衝撃的な死である。この番組で佐藤秀明(三島由紀夫文学館館長)氏の解釈・解説になるほどと思った。 佐藤氏によれば、「英雄」...
見る 読む 歩く | 2021.04.07 Wed 19:43
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,96 と、鏡の中から私の姿を見るなり言って、片手を後ろの方へ伸ばして、彼女が指し示すソォファの上には、三越へ頼んで大急ぎで作らせた着物と丸帯とが、包みを解かれて長々と並べてあります。 着物には口錦の入っている比翼の袷で、金紗(きんさ)ちりめんというのでしょうか、黒みがかった朱のような地色には、花を黄色く葉を緑に、点々と散らした總(ふさ)模様があり、帯には銀糸で縫いを施した二たすじ三すじの波がゆらめき、ところどころに、御座船(...
「3分読むだけ文学通」 | 2021.03.31 Wed 23:04
JUGEMテーマ:日本文学 今年も心待ちにしていたいちはつの花が咲いた。いちはつの花が咲くと、正岡子規の いちはつの 花咲きいでて 我目には 今年ばかりの 春ゆかんとす が浮かぶ。ネット検索だと、いちはつの花は紫らしく、我が家のはシロバナ。花の時季も5月とあるから、ひょっとして違うのかもしれないが、ずっと「いちはつの花」と思って、短命で亡くなった子規への感慨とともに大事にしてきた。今年も咲いた。いつものように咲いた。よかった、と思う。それが何十年も続いた。花もこちらもい...
見る 読む 歩く | 2021.03.27 Sat 19:22
JUGEMテーマ:日本文学 深田久弥は、昭和46(1971)年3月21日、山梨県・茅が岳登山中に脳卒中で急逝した。「山の作家 登山中に急死」のニュースは、夕刻、テレビ・ラジオが伝え、翌日は新聞各紙が大きく報じた。 翌年(昭和47年)4月、山村正光の案内で妻の志げ子が追悼登山、郷里に建てたお墓に手を合わせている時よりも、身近に夫を感じたと言い、同行の近藤信行も、茅ヶ岳が「墓標」のように思えたという。七回忌には終焉地点に記念木柱が建てられ、その後石碑が建立された。 そ...
見る 読む 歩く | 2021.03.21 Sun 10:26
JUGEMテーマ:日本文学 『日本百名山』で知られる深田久弥は、若い時から俳句に親しみ、戦後の郷里大聖寺時代には、「はつしほ句会」を興し、亡くなる直前まで月例句会の選者を務めた。没後、妻志げ子が『九山句集』を上梓した。戦前、鎌倉文士の時代には?浜虚子にも近づき、応召の際には「梅凛々し九山少尉応召す 虚子」の句が贈られた。大きな結社に属さなかったせいか、俳人関係の事典等に「九山の」記載はない。亡くなる前日、韮崎城址を歩いた時の二句を手帳に遺した。 犬ふぐりまず現は...
見る 読む 歩く | 2021.03.21 Sun 08:03
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