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JUGEMテーマ:ものがたり 少年は『彦』と呼ばれていた。『彦』は少年の名前ではない。それは只単に男の子を表す言葉として使われていた。彦は美しい少年の姿をしていたが、人ではなかった。それどころか生命体ですらなかった。彦は傀儡だった。その集落の里山の奥、巨木に覆い被さられて昼でも薄暗い場所にある社の傀儡だった。その社の内部は空っぽだった。何かが奉られていたという記録もなかった。それでも社はずっと昔からそこにあり、ときどき集落のものが訪れ掃除をしたり修繕をしたりしていた。どういういき...
pale asymmetry | 2018.10.11 Thu 21:28
JUGEMテーマ:ものがたり 恐ろしいほどに猛り狂った嵐が過ぎ去った翌々日の朝のことだった。私は裏庭から続く石段を下り、砂浜に降りた。まだ少しうねりは打ち寄せていたけれど、あどけない陽光の下で海はすでに淑やかさを取り戻していた。砂浜は嵐が運んできた漂流物で賑やかだった。その半分は流木などの自然のもの、残りの半分はプラスチック製品等の人工物。そしてどちらにも属さない舟が一つ。 それは小さな舟だった。私の両掌を合わせたくらいの大きさ。キラキラした山吹色の紙のようにも石のようにも思...
pale asymmetry | 2018.10.10 Wed 21:02
JUGEMテーマ:ものがたり その白は、純白すぎて銀色に輝いて見える、と聞いていた。そしてまさにその通りだった。目の前の純白は、眩しい銀色に陽光を変換して弾いていた。 「サンザ猫だ」 僕は思わず呟いた。 「如何にも、サンザ猫に違いない」 純白すぎる銀色のそれが応えた。老女のように芳醇な声だった。ブロック塀の上に座っていて、丁度目線が僕と同じ高さになっている。だから顔と顔をつき合わせるような形になっていた。サンザ猫は都市伝説に過ぎないと思っていた。けれど確かに目の前に見...
pale asymmetry | 2018.10.09 Tue 20:45
JUGEMテーマ:ものがたり 「あなたは何も解っていない」 彼女は厳しい口調で、けれど微笑んでそう言った。 「だから、君に質問しているのだよ」 彼女は柱の中にいる。直径が三十センチ、高さは九十センチの透明な円柱の中に。その中で彼女は浮かんでいる。妖精のような羽を、ときどき振るわせながら。彼女は水色のスクール水着を着ていた。たぶん彼女の主の趣味なのだろう。その主はもうこの世界にいないけれど、彼女は勝手に着替えたりできない。 「君は、君のロードのことを愛していたかい?」 ...
pale asymmetry | 2018.09.06 Thu 20:37
JUGEMテーマ:ものがたり その巨大な基地は、千人の無能な人々によって造られた。そして別の千人の無能な人たちによって運用されている。その基地は六秒で二百万人を殺傷できる能力を有している。そしてまた二十四時間でこの惑星を三度粉々に破壊できる能力も有していた。しかしながら、その千人の無能な人たちは悪意を微塵も持っていなかったので、基地が何ものに対しても攻撃を開始することはなかった。 その基地は三百六十五人の人間によって監視されていた。一人が一日ずつの交替で基地を見張っていた。...
pale asymmetry | 2018.09.05 Wed 20:22
JUGEMテーマ:ものがたり 広い広い邸宅の中で、小さなヤモリは迷子になっていた。彼は小さな歯車だった。同じように小さな歯車と噛み合っていたのに、今は一人で行くあても解らず彷徨っていた。彼はこれまで歯車としてこの邸宅を守るために機能し、これからもずっと機能し続けるはずだったのに、今はまるでただ放蕩に明け暮れるジュエルだった。冷たい高音を放つジュエルだった。 事の発端は嵐だったのだ。見事な渦を巻く嵐だったのだ。四半世紀に一度のその残酷なほど美麗な渦を目にしたくて、彼は本来の場所...
pale asymmetry | 2018.09.04 Tue 20:50
JUGEMテーマ:ものがたり 私はベッドに横たわっていて、部屋の薄暗さあるいは薄明るさから推測して夜が明ける直前か直後かそれともその瞬間だと思われた。バイブモードにしたケータイのような振動音が、足の方向、たぶん床から聞こえてくる。最初そこにバイブモードにしたケータイを置いていたかしらと思ったりもしたけれど、ケータイは寝る前にモーニングアラームをセットして枕元に置いたことを思い出す。さて何だろう。確かめなければ、と考えてみるけれど、身体が気怠くて起き上がる気になれない。そのうちその...
pale asymmetry | 2018.09.01 Sat 20:25
JUGEMテーマ:ものがたり アレサンドロ・オコンはフランス人の父とスペイン人の母との間に生まれ、ロンドンを拠点に活動した画家だった。だったというのは十五年前にこの世から旅立ってしまったからだ。ある朝愛人の一人が彼の自宅兼アトリエを訪れると、水色の羽が敷き詰められた床の真ん中で、彼が気持ちよさそうな表情で死んでいたのだという。死因は心不全。つまりは原因不明ということだ。 アレサンドロ・オコンの作品の中で最も有名なものは『reaction』だろう。その絵画は、見る者にまず驚愕を与える。...
pale asymmetry | 2018.08.31 Fri 22:16
JUGEMテーマ:ものがたり 雲一つない空だった。陽光が過剰に弾けていて、青でも空色でもなくとても透明に近い組成の空だった。大きな爆撃機が一機、低高度を南から北へと飛翔していた。その音はオレ様的な響きだった。真夏そのものを蹴散らせると思っているような響きだった。陽光の溢れかえる艶に埋もれそうになっていることに気づいていないのだ。愚かなヤツだと思った。だから、僕は中指を立ててやった。 すると機体の腹部が開き、漆黒のピスタチオのような爆弾が投下された。落下の途中でそれは弾け、飛散...
pale asymmetry | 2018.08.30 Thu 20:52
JUGEMテーマ:ものがたり 大通りは怪人で溢れている。仮面を付けた怪人で。その怪人を背負った人々で。怪人を背負っていない人は、大通りには一人もいなかった。都市で暮らすということは、怪人を背負うということなのだろうか。 僕はその怪人のことを、仮面坊主と名づけてみた。仮面を付けたてるてる坊主のような姿をしていたから。仮面には様々な模様が描かれていて、同じ模様の仮面は一つとしてない。模様はとても細かく複雑で、サイケデリックな色彩ばかりだった。そして全ての模様には意味があ...
pale asymmetry | 2018.08.28 Tue 20:43
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