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JUGEMテーマ:ものがたり パンキッシュ・マニューバの夜からの一週間を、この地域では水銀の一週間と呼んでいる。水と銀がこの地域の生命と非生命をごちゃ混ぜにして、世界の理を奔放に覆してしまったからだ。もっともこの惑星上のどの地域も概ね似たような状態で、だからパンキッシュ・マニューバの後、この惑星上から国家が事実上消滅し、明確ではないが決して多くはない都市が地域の最も大きなカテゴリーになった。それまでは惑星中を縦横無尽に疾駆していたネットワークもずたずたに破壊され、都市と都市の繋が...
pale asymmetry | 2019.05.05 Sun 19:57
JUGEMテーマ:ものがたり 巨人には様々なタイプがいる。ふさふさしたのや、つるつるしたのや、いがいがしたのや、ねばねばしたのなどなど。それはつまり見た目なのだけど、見た目だけの話ではない。動きや印象や叫び声も、見た目と同じ感じなのだ。ふさふさしたのはふさふさと歩くし、つるつるしたのはつるつると笑う。いがいがしたのはいがいがと叫ぶし、ねばねばしたのはねばねばと跳ねる。それぞれの巨人を目の前にすると、それに合わせた気分になったりもする。つまりふさふさの巨人の前ではふさふさした気分に...
pale asymmetry | 2019.05.03 Fri 21:33
JUGEMテーマ:ものがたり 「本当にいいの?」 全裸で横たわる少女に、私は尋ねる。少女は黙ったまま頷いた。微かだったけれど、真っ直ぐな意思が込められた頷きだった。私もまた全ての衣服を脱ぎ、少女の傍らに片膝をつく。じっと少女を見つめる。観察し、観賞する。広い額、狭い肩幅、胸の膨らみはまだ熟していず、肌はどこに目を向けても瑞々しかった。 紅、紫、翠に碧。それに金と銀と黒を少量。 私は少女の身体を、その少女という身体をしっかりと捕捉し、細かく分解し、精密に再構築し、さらに私...
pale asymmetry | 2019.05.02 Thu 21:14
JUGEMテーマ:ものがたり 私の家は岬の先端にある。いや、岬の先端にあった、という方が正確だろう。今はもう、岬の先端にあるわけではないから。しかし私の家は壊れてしまったわけでも、どこか遠くへ旅立ってしまったわけではない。岬に止めた車の脇に立つ私の目の前に、家は確かに見えている。問題は、先端にないのだ。先端の地面から2メートルほど浮き上がっているのだ。そして右斜め前に約45度傾いていた。 宙に浮かぶ私の家が、時折僅かに揺れる。とても気持ちよさそうに。あるいは、とても思慮深そうに...
pale asymmetry | 2019.04.27 Sat 21:44
JUGEMテーマ:ものがたり 激しい雨の後、涼風に誘われて庭に出る。真上には洗いざらしの青空が、遠くには黒灰色の雲塊が見えた。乾いた風は貞淑だった。私にはそう感じられた。その風が軒先に吊した珊瑚片を揺らす。珊瑚片がぶつかり合い、音が鳴ったような気がした。そんな気がしたのにその音は私の耳に届かない。不思議に思いじっと珊瑚片を見つめると、煌めきが風に吹かれている。珊瑚片がぶつかり合うたびに煌めきが弾けて、それが風に乗って庭の隅へと流れていく。煌めきはそこから浜へと通じる石段を下ってい...
pale asymmetry | 2019.04.25 Thu 21:39
JUGEMテーマ:ものがたり 1メートル四方の浅い箱、その真ん中に一匹のコヨーテが佇んでいた。凛々しい顔つきで、少しだけ斜め上方に鼻先を傾けている。遠い場所を見つめているようだった。その場所には、コヨーテの求める風が吹き、コヨーテの求める光が降り注いでいるのかも知れない。つまりこの箱庭は、コヨーテにとっても寂しい場所なのだろう。見えない雨が降っているのかも知れない。冷たく尖った悪意の雨が。あるいは未熟で愚かな雨が。 少年がコヨーテを見つめている。箱庭の真ん中の孤独なコヨーテを...
pale asymmetry | 2019.04.24 Wed 21:38
JUGEMテーマ:ものがたり 風が急激に冷えた。けれど陽光は殺人的に鋭かった。頬に微少な何かが落ちた。次々と落ちてくる。それは雪だった。こんな南の島に、しかも真夏に雪が降るなんて、世界は終わろうとしているのだろうか。ふとそう考えたけど、まあ違うだろうとすぐに思い直した。条件さえ揃えば南の島でも雪は降る。条件さえ整えば、どんな事象でも起こりうるものだ。 「風が心地いいね」 妹が私の肩に頬を乗せて言う。見えないけれど、きっと私と同じ表情をしているだろう。もともと相似の顔を持って...
pale asymmetry | 2019.04.22 Mon 21:03
JUGEMテーマ:ものがたり 泉に着くと、カンナビさんは持ってきた柄杓で両手を清め、その手で口を清めた。泉の水はどこまでも澄んでいて、底に累々と重なり横たわる大樹たちがはっきりと見えた。彼らは腐ることなく、朽ちることもなく、悠久の時を不変の姿で過ごすのだろうと思えた。それは悲しいことのように思えた。彼らが閉じ込められているように感じたから。閉じ込められることは良くないことだと思えたから。窮屈なのは、私は嫌いだ。 「あなたも清めなさいな」 カンナビさんが柄杓を差し出すのでそれ...
pale asymmetry | 2019.04.21 Sun 21:01
JUGEMテーマ:ものがたり 大河を下り流れる空色の卵は、泣き叫んでいた。大きな卵で、人間よりもずっと大きなサイズ。その叫び声も大きかった。赤子が母親を求めるような鳴き声。あるいは天上界から追放された天使が、人間に貶められたことを嘆いているような声だった。声は近隣の人々の耳に届き、少なからずの人が河原に集まった。そして相談を始めた。その卵を助けるための相談を。 大河は速すぎる濁流で、しかも流れは悪魔よりも気まぐれで複雑だった。水文学者が何度計算しても、その流れを読み解くことは...
pale asymmetry | 2019.04.19 Fri 20:54
JUGEMテーマ:ものがたり 葉は一枚もないけれど、その大樹は枯れてしまったわけではないし、枯れようとしているわけでもない。その木は世界樹だったけれど、隻眼の老人が枝を手折ったわけでもない。あんなのはデタラメの嘘っぱちだ。だからその大樹は三界を結んで、エナジーを循環させている。休むことなく精密に静謐に。 では何故葉がないのかというと、それは私のお腹が減っているからだ。本当に切実に減っているからだ。それで、私はブラボーを待っている。木の根元で蹲り、不機嫌な顔で空と大樹を睨み。も...
pale asymmetry | 2019.04.18 Thu 20:40
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