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JUGEMテーマ:ものがたり 最初に見えたのは大きな紅玉だった。距離感がよくつかめなくて正確にはわからなかったけれど、きっと私の頭よりも大きな紅玉だ。そんな紅玉は実際にはありはしないだろうから、紅玉のような、紅玉のような輝きを放つ、紅玉のようなオーラを振りまく何かなのだろう。遠い場所からそれが見えたのは、高い場所、地上から二十六メートルの場所にあったからだ。それはとても大きな杖の天辺に乗っかっていたのだった。建物に隠されて、杖の姿はまだ全部見えない。 「最初はね、あの杖だけだっ...
pale asymmetry | 2020.01.09 Thu 22:24
JUGEMテーマ:ものがたり 初詣から家に戻ると、玄関の扉の前で小さな訪問者が待ち構えていた。街並みの向こうから届くぽかぽかの陽光に目を細めて、通せんぼをするように立ち尽くしていた。奇妙な小人だった。身長は十五センチくらいだろうか、紫紺色の廻しを締めその他には衣服を身につけていない。筋骨は隆隆、がっしりどっぷりした体格、つまりは力士のような身体をしていた。では小人の力士だったのかというとそうではない。というのも、首から上がネズミだったからだ。もちろん、大銀杏は結ってなどいない。さ...
pale asymmetry | 2020.01.05 Sun 19:45
JUGEMテーマ:ものがたり ネオはラムネのブルーだった。だから空には決して舞い上がらなかった。カラルカラルとでんぐり返り、地面はラジオの破片だらけ。ネオの身体はすぐに鮮血の紋様を纏う。ラムネの宝玉が空にビームを放ち、黄鶺鴒がそれに呼応するように大きな宙返りを描いたとき、ネオはサワサワとした気持ちを抱えて、少しばかりその気持ちを持て余して、遠い昔に遙かな場所ではぐれた人の名を呼びたくなったりした。そして次の瞬間に、その人の名をすっかり忘れていることに気づいたりした。 ネオのラ...
pale asymmetry | 2019.12.31 Tue 22:18
JUGEMテーマ:ものがたり そして僕たちは言葉を失った。これはバベルのようだ。僕たちは、触れてはいけない何に触れてしまったのだろうか。僕たちは、冒してはいけない何を冒してしまったのだろうか。僕たちは何者の怒りに触れてしまったのだろうか。その何者かは、僕たちをどこに向かわせようとしているのだろうか。 これは宇宙人の侵略兵器によるものなのだ、と誰かが言った。これは狂った科学者の仕業なのだ、と誰かが言った。某国の化学兵器の実験が失敗してこのような事態になったのだ、と誰かが言った。...
pale asymmetry | 2019.12.23 Mon 21:09
JUGEMテーマ:ものがたり その一葉のリーフは、衣と呼ばれている。理由は知らない。僕が生まれるずっと前から、僕という現象に繋がる事象さえとても希薄な昔から、そのリーフは衣と呼ばれている。それは家の一番奥の神棚に、盾と一緒に祀られている。その盾もまた、我が家に代々受け継がれてきたものだ。我が家の固有の紋様が一面に描かれた盾だった。 リーフと盾は、普段は神棚で寄り添うように過ごしている。その姿は、穏やかに眠っているように見える。夢を見ているように思える。同じ夢を見ているように。...
pale asymmetry | 2019.12.18 Wed 22:30
JUGEMテーマ:ものがたり 少女は小さなロボットにプログラムを入力した。彼女がその小さな身体に宿したかったのは、知性のための知性だった。彼女がイメージしたのは、満月の夜に、月を隠すことなく降る雪。その結晶。一つ一つが掌と同じくらいの大きさの結晶。銀色のその結晶は、月の光を分解して増幅し、七色の色彩を発射して攻略する。描かれていない世界地図の存在しない暗号記号を。このイメージで彼女が躓いたのは、暗号記号を攻略するのは何者かということだ。それは満月か。それとも夜そのものか。あるいは...
pale asymmetry | 2019.12.16 Mon 20:57
JUGEMテーマ:ものがたり 山羊曜日の午前J時にダイナーに来る客などめったにいない。大抵山羊曜日のこの時間帯には、エーテルがひどく濃くなってしまうから。多くの者は都市の街路を出歩かず、暖かいベッドの懐深くで、ライネックスを六錠ほどきめて意識不明に陥っているか、さもなくばパートナーとコンフュージョンティーを飲みながら、オルガンを共有するトリップに浸るかのどちらかだ。といってもそれは都市の西側に住む者たちの話で、東側に住む者たちは別段エーテルのことなど気にせずに、普段通りの深夜帯を...
pale asymmetry | 2019.12.13 Fri 21:56
JUGEMテーマ:ものがたり 心が重く感じるのなら、あるいは気持ちが疲れていると感じるのなら、あなたのコイルから色彩が失われているのかもしれない。いや、十中八九失われているだろう。そのままでは、遠からずあなたは枯渇してしまうだろう。コイルが完全に色彩を失うことによって。透明なコイルは存在さえもが希薄になり、風が散らす花弁よりも雅だけれど、その分あなたの雅は余剰次元に巻き取られてしまうだろう。 因みに、十七年前に首都上空に突然現れた雅型未確認飛行物体は、当初まことしやかに囁かれ...
pale asymmetry | 2019.12.11 Wed 21:49
JUGEMテーマ:ものがたり それは北風の強く吹く真夜中のこと。空は分厚く陰鬱な雲に埋め尽くされ、月も星も見えない。新月の夜だったから、月はそもそも見えるはずもなかったけれど。星はどうかというと、それは流星群の極大期だったから、晴れていれば流れる星々のパフォーマンスを存分に楽しめただろう。そんな真夜中のこと。 旅人はコートの襟を立て、ただ自身の歩みだけに集中し、暗い夜道を急いでいた。この峠を越えれば、程なく今夜の宿に辿り着くはずだった。しかし先程から、旅人は背筋に冷たい電流が...
pale asymmetry | 2019.12.09 Mon 20:52
JUGEMテーマ:ものがたり 僕は紫紺の傘を裏返し、空から落ちるピースを受け止めたりする。月は両端に僅かな尖りを有する護符。その白銀の輝きは聖なる暴力を秘めていて、今夜は白夜のようだ。さしずめあの月は、青ざめた太陽だ。天空を駆ける馬だ。ではあの月の名は死か。それはひねくれすぎた心持ちだろうか。僕は跳ねる、兎のように。銀色兎は何見て跳ねる。この夜にないもの、この世界にないもの。探しに行こう、ロケットに乗って。空色の煌めくロケットに。僕は操縦できないから、誰かに頼まなければいけないな...
pale asymmetry | 2019.12.08 Sun 21:17
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