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ツクシの出る野原は島熊山のすそ野で、千里丘陵の一画だった。 竹林のあいだをずんずん上って行くとお不動さんがあった。 お不動さんの向こうは下りになっていて、 見渡すと、やはりずっと竹林が続いているだけだった。 中学生の姉にはどうということもないが、 かいちゃんの体力ではキツイ道のりだったので、 ごくたまにしか、そこまでは行かなかった。 ある日、姉がとても熱心に「お不動さんまで行く」と言った。 しんどいなあと思ったが、遊んでくれなくなると困るので...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.02.18 Sat 23:33
つくしの出る野原はしばらくするとスギナでいっぱいになる。 スギナは食べられないが、 節のところを引っ張るとプキッという感触で上下に分かれる。 全部の節をバラバラにして元のように組み立てたり、 何番目が切れているのでしょう? と当てっこをして遊んだ。 スイスイと呼んでいた可愛いピンクの花が咲く草は、 茎を折ってそっと引き抜くと糸のような繊維だけが残る。 ハート型の三枚の葉が糸にぶらさがったような恰好にして、 からませて相撲をとった。 スイスイ...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.02.17 Fri 21:10
家と幼稚園のあいだには車の通れない細い道があった。 道は下り坂になっていて千里川という川に突き当たる。 川に掛かった丸木橋を渡って少し上ると、 つくしのいっぱい生えている野原があった。 出始めの つくし は頭のところが青くて硬く、 少し開いたやつの方が苦くなくて美味しい。 姉と競うように摘んで帰ると 「ハカマをとってね」と母に言われる。 ちびちびとハカマをとっていると、 きみどり色の胞子が煙のようにふわふわ舞うのが見える。 ...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.02.16 Thu 22:27
ある日、幼稚園から帰ると家の中に母の姿がなかった。 冬の制服を着ていたがあまり寒くなかったし、 お弁当を食べていなかったので、4月頃の土曜日だと思う。 とりあえず制服を脱いでシミーズ姿になった。 帰ったらすぐに着替えることになっていたからである。 問題はタンスの引き出しが重くて洋服が出せないことだった。 お腹が空いたので台所に行き、 あまり好きではない牛乳を飲んだら寒くなってきた。 押入れから掛け布団を引きずりおろし、頭からもぐりこんだ。 い...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.02.15 Wed 18:12
シスターがくれる聖画カードは、いかにも外国っぽく、 天使がふわふわと空を飛び、金や銀のラメが散りばめてあった。 「金や銀」は貴重品なので、普通の折り紙には入っていない。 『金銀入り』と書いた倍くらいの値段の折り紙の中に、 1枚ずつ入っているのが やっとなのに、 さすがはカナダの幼稚園である、と かいちゃんは思っていた。 そんなにも貴重なカードを大喜びで貰ったくせに、 物を集める根気がないため、いつもすぐに失くしてしまっていた。
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.02.14 Tue 21:56
幼稚園には柵も塀もなくて、いつでも遊びに行けた。 仲良しのユキちゃんは虫捕りや泥遊びが大好きで、 みんなから「どろんこユキちゃん」と呼ばれていた。 ある日、ユキちゃんと一緒に”マルムシ”をいっぱい捕まえて、 幼稚園の手洗い場に置いてきた。 かいちゃんは夜になってからそれがひどく気になってきた。 排水溝にマルムシが詰まってしまうところを想像したのだ。 かいちゃんは母に告白した。 翌朝早く、母と手洗い場を見に行ったことは憶えて...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.02.13 Mon 22:26
かいちゃんが4歳のとき、家の庭の向かいに幼稚園ができた。 カナダのカトリック教会の資金で建てられた幼稚園で、 牧師さんと園長先生は青い目の外国人だった。 幼稚園には砂場とグルグル回る遊具とプールがあった。 園の奥のほうには教会と牧師さんの家と小さな畑があり、 牧師さんが野菜を育てていた。 日本人のシスターも何人か居て、 白と黒の修道服を着てすっぽり髪を隠した人と、 白いブラウスと黒いスカートで、 前髪は出して黒いスカーフをかぶったような若い人もいた。 ...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.02.12 Sun 20:25
「わせ」になった毛糸を丸い毬状にするには、 ひとりが両手首に「わせ」を掛け、ひとりが巻いてゆく。 巻く人は4本の指を揃えて、その指にぐるぐる巻き付ける。 あるていど巻いたら指を抜き、方向を変えてその上から巻く。 丸い形になるようにタテヨコナナメと、考えながら巻いてゆく。 両手首に毛糸をかけた人は、たるまないようにピンと張る。 巻く人のスピードに合わせて、巻きやすいように左右に動かす。 毛糸が手首のところを通過するときは、 引っかからないように手首をぐ...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.02.08 Wed 18:03
毛糸のセーターは小さくなると、ほどいて編み直す。 くるくると手に巻いて、ほどきながら丸い毬のようにしてゆく。 すっかりほどいたら今度は30センチほどの長さの 木でできた素麺の箱のフタにぐるぐる巻きつける。 2か所を短い毛糸で縛ってフタからはずすと、 何重にもなった毛糸の輪っかができる。 母はこれを「わせ」と言っていた。 ぬるま湯で振り洗いして、汚れと縮みをとる。 輪っかのまま物干し竿に通して干すのだが、 ときどき外と内をほぐしな...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.02.08 Wed 18:00
母は編み物が得意で、娘たちのセーターやカーディガン、 靴下から毛糸のパンツまで、なんでも2本の棒針で編んでいた。 新品の毛糸は出産祝いの贈り物の定番でもあり、 紙の箱に12個とか20個とか、高級そうな顔をして詰められていた。 母の棒針の先は見えないほど早く動き、 1本の細い毛糸がセーターに変わっていく。 六畳の和室の陽だまりで編み物をしている母は、 座布団を敷き、着物を着て正座をしていたように思う。 そのそばで、50センチほどの毛糸を輪っかに...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.02.06 Mon 21:42
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