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祖父の家の前の浜は海水浴場でもなんでもなく、 小石や貝がらがコロコロ転がっている狭い砂浜だった。 かいちゃんは毎年、貝がらを熱心に拾った。 夏休みの宿題にするのである。 お菓子の箱に脱脂綿を敷いて貝がらを並べ、 百科事典で調べた名前を紙に書いて横に貼る。 これで貝がら標本の出来上がりである。 名前を調べるのがちょっと面倒だが、 浜に打ち上げられている貝がらは ほとんどが『ツメタガイ』という貝であった。 『ツメタガイ』は名前の通り...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.04.21 Fri 21:44
淡路島の祖父の家は海岸沿いの道に面し、 低い堤防の向こうはすぐ海だった。 水着を着たまま道路を横切って海に浸かり、 海から上がると砂浜を歩いてまた道路を渡り、 家の前にある井戸で頭から水をかぶる。 井戸にはポンプが付いていて、 長い金属の棒を上下にガコガコと動かすと 太い蛇口から冷たい水がじゃぶじゃぶ出た。 蛇口のところには白いガーゼの布がかぶせてあって、 これはゴミや小石を取り除くためである。 井戸のまわりにはしょっちゅう小...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.04.17 Mon 22:40
母方の祖父母は淡路島の海沿いの村に住んでいた。 天井板が無く屋根の丸太が直に見える古民家で、 隣に牛小屋だったのではないかと思う広い物置があって 湿気たような肥料のような埃っぽい匂いがした。 この物置にサンタクロースの人形が山積みになっていた。 いつも仏壇にお経をあげている祖母が なぜこんなものを持っているのか不審であった。 祖母にたずねると「サンタだあ」と言う。 島の言葉は語尾に「だあ」と付くのである。 サンタの胴体は赤い色に塗...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.04.16 Sun 22:22
母にはもう一人『やえちゃん』と呼ばれる、 天真爛漫というか豪快奔放な、年の離れた妹がいた。 母の親きょうだいはみんな淡路島に住んでいたので かいちゃんは幼稚園の頃からひとりで淡路島に泊まりに行っていた。 20才くらいだった やえちゃんがその日は遊んでくれていて、 「オリオンにつれて行ってあげよう」と言った。 オリオンというのは本町(ほんちょう)にある映画館で 入れ替え制ではないので中に入るとちょうど最後のあたりだった。 高い絶壁の上...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.04.11 Tue 11:41
家ではコーヒーを飲むことを禁止されていた。 もちろん豆のコーヒーではなくインスタントの粉である。 こどもには毒だ、という理由であった。 もともと「あんな苦いもののどこが美味しいんだ」と こっそり味見をしたことのある かいちゃんは思っていた。 叔母の家にひとりで泊まったとき、 朝はトーストとハムエッグとコーヒーだった。 叔母は”コーヒー”と言わず『ネスカフェ』と言っていた。 砂糖と牛乳をいっぱい入れると 『ネスカフェ』は甘い子供の飲...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.04.09 Sun 21:25
トースト好きの叔母は 次にポップアップトースターを買った。 入れるときは手動式のものと同じだが、 焼きあがると自動的にポン!と飛び出すのだ。 これだと出し忘れてまっ黒こげになってしまう心配はない。 今度こそ本当に素敵で便利なものだと思ったが、 不思議なのは、いったいどうやってこの機械が パンが焼けたことを知るのだろう、ということだった。 それと、このポップアップにも欠点はあって、 トーストが焼きあがって出てくる時に たまに勢いあまって外へ...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.04.07 Fri 23:06
家で食パンをトーストするときは ガスコンロに餅焼き網を乗せて焼いていた。 格子状の焼き目がついて 香ばしいというより焦げくさかったが、 まあそんなものだと思っていた。 叔母の家に泊まりに行った日の朝、 たぶん生まれて初めてトースターを見た。 四角い箱の上部に食パンが二枚入る口があって、 そのままだと半分しか入らないのだが 横のレバーを下げるとパンがすっぽり隠れてしまう。 いい匂いがしてくるのを待ってレバーを上げると きれいなキ...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.04.06 Thu 21:45
台所にはいつも”ふかし芋”が置いてあった。 ちょっと小腹がすいたときに食べる用で、 細くて小さい芋をふかして塩をふってあった。 ふきんが掛けてあることもあったが、 傘のように開いてかぶせる網のようなものもあった。 母は蠅帳(はいちょう)と呼んでいた。 隣の家の赤ちゃんが昼寝をするときにも これの大きなのが被せてあり、 「ふかし芋も赤ちゃんも一緒だな」と かいちゃんは思った。 祖父母の部屋には網戸の付いた箱があって、 ...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.04.05 Wed 22:39
食器棚のことを母は「水屋」と呼んでいた。 姉が二人いたせいか かいちゃんはあまりお手伝いをしなかった。 食器を出したり片づけたりもしなかったので 水屋に関する記憶も食器に関する記憶も曖昧である。 ひとつだけ はっきり憶えているのは 水屋の一番下に粉ジュースが入れてあったことだ。 白っぽい缶にみかんの絵が描いてあったと思う。 蓋を開けると中に透明な袋が入っていて その中にオレンジ色の粉が入っている。 この粉をガラスのコップに入れて水...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.04.04 Tue 20:57
シュークリームで思い出すのはNHKの『おはなはん』である。 詳しく憶えているわけではないのだが、 おはなはんが木に登って座っているシーンと ”しゅーあらくれーむ” を食べるシーンだけが 鮮明に記憶に残っている。 シュークリームを初めて食べる”おはなはん”に男の人が 「”ふた” で中のクリームをすくって食べるのです」 と言うのである。 ”おはなはん”も驚いていたが、かいちゃんも驚いた。 ドラマのシュ...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.04.01 Sat 22:55
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