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散髪屋さんの店名は『理容おおなろ』だった。 近所のお店は「肉のいしい」とか「いけうち商店」とか よくある名前が付いていたから、 「『おおなろ』ってヘンな苗字」と思っていた。 散髪屋さんはちょっと不思議なところだった。 お店の人がお医者さんのような服を着ている。 太い皮のベルトのようなものが壁に掛かっていて、 時々カミソリでそれをひゅんひゅんと撫ぜる。 白くて四角い陶器のコップに筆のようなものを入れて しゃかしゃか掻きまわ...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.03.16 Thu 21:02
散髪屋さんの店名は『理容おおなろ』だった。 近所のお店は「肉のいしい」とか「いけうち商店」とか よくある名前が付いていたから、 「『おおなろ』ってヘンな苗字」と思っていた。 散髪屋さんはちょっと不思議なところだった。 お店の人がお医者さんのような服を着ている。 太い皮のベルトのようなものが壁に掛かっていて、 時々カミソリでそれをひゅんひゅんと撫ぜる。 白くて四角い陶器のコップに筆のようなものを入れて しゃかしゃか掻きまわ...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.03.16 Thu 21:02
祖父を近所の散髪屋さんに連れて行くのは 小学生になった かいちゃんの仕事であった。 1年生の中でも ちっちゃっこい かいちゃんが 目の悪い祖父の手を引いて歩いていると 「えらいねえ」と近所の人が声をかける。 かいちゃんはそれが恥ずかしくていやだった。 楽しみだったのは散髪屋さんに 少年マガジンが置いてあったことだ。 祖父が散髪に行くのはひと月かふた月に一度だから 待っている間に「巨人の星」を古い号から順に読む。 散髪が早く終わる...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.03.15 Wed 21:43
祖父母の部屋は玄関を入って右の四畳半だった。 祖父は淡路島で自動車の修理工場をやっていたらしい。 晩年は緑内障のためにすっかり視力を失っていた。 不思議だったのは祖父が日記をつけていたことだ。 わら半紙だったかチラシの裏だったかに、 文字列が曲がらないように物差しをあてて 毎日なにかを書きつけていた。 かいちゃんはまだ字が読めなかったので なにが書いてあるかは分からなかったが、 「目が見えないのに字を書くなんて偉い」と思った。 &n...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.03.13 Mon 20:00
9才上の姉が高校受験の年、 かいちゃんの家に石油ストーブがやってきた。 全体に円筒形の赤いイメージで 燃焼部分の周りは銀色の金属の網で囲われていて さわっても熱くないようになっていた。 一番下の四角い鉄板の上に赤い丸いタンクが乗っていて、 その上に燃焼部分、一番上は赤い丸い鉄板で、 ここは熱くなるので絶対にさわってはいけない。 いつもヤカンがかけてあった。 ダイヤルを回して燃焼部分のレバーを上げ、 中の芯にマッチで火を点ける。 ダイ...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.03.12 Sun 15:21
頭まですっぽりと布団にもぐりこんでいると 『”みのむし”みたい』と言われた。 ”みのむし”は枯れ木の枝によくぶらさがっていたが、 あっちにもこっちにもいる、というほどでもなく めったにいない、というほどでもなく、 見つけようと目をこらすと「いた、いた」という頻度であった。 出がらしのほうじ茶の葉っぱや茎をくっつけたような 長さ2センチ位の紡錘形で、 木の枝から糸のようなもので垂れ下がっていた。 中身を確かめようと葉っぱ...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.03.10 Fri 17:01
寒い時期だけだったかもしれないが、 夜になるとチャルメラの音が聴こえてきた。 たぶん夜の8時か9時くらいだったのだろう。 寝ていないこどもを連れに”子獲り”が来ているのだと かいちゃんは騙されて信じ込んでいた。 街灯もあまりない住宅地に音はどこからか響いてきて、 近づいているのか遠ざかっているのか分からないまま いつのまにか聴こえなくなっている。 全く正体不明のものであった。 恐怖を感じるほどではないものの 「たりらーりら たり...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.03.09 Thu 23:02
物売りの声で思い出すのは竿竹屋さんか 豆腐屋さんの「ぱふーぱふー」というラッパの音ぐらいだ。 大阪では納豆を食べないから ”ひみつのアッコちゃん”のエンディングで 「なっとう売りが ア〜ア〜 なっとう〜」 と歌っているのが 何のことかさっぱり分からなかった。 近所にSPセンターという市場ができたとき 中に豆腐屋さんが入っていて、 ”あぶらげ” や ”ひろうす” と並んで藁に包んだものがあった。 「あれはなに?」と母に...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.03.08 Wed 20:30
庭には2本の細い電信柱のような木の棒が立っていて、 そこに竿を渡して洗濯物を干していた。 母はハンガーのことを『えもんかけ』と言っていた。 ”えもんかけ”を使わず竿竹に直に洗濯物を通すのが母のやり方で、 シャツやズボンやが人の形でパタパタと風にはためいていた。 電信柱のような棒にはカマボコ板が斜めに打ち付けてあって、 そこに竿を掛けるようになっている。 母の肩の高さと、その倍くらいの高さと、 もっともっと上に、もう一段あ...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.03.06 Mon 13:59
「氷の冷蔵庫はウチにもあった」と母が言い出した。 「氷屋さんが氷を届けに来ていた」と言う。 母の思い違いではないかと思うが、 台所は当時 かいちゃんの管轄外だったので 憶えていないだけかもしれない。 洗濯機に関する記憶が無いのも管轄外だったせいであろう。 置いていた場所すら憶えていないのだが、 使っていた洗剤が『ブルーダイヤ』だったことは確かである。 ”金銀パール プレゼント”というやつである。 ブルーダイヤはタテ長の紙箱で...
あべゆかり の 回想法ノート | 2017.03.05 Sun 17:12
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