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第七部 13.

  紅茶が出来上がったので圭は満足しながらお盆に載せてソファまで運んだ。「お待たせ。克も楽しみにしていたでしょ?」「まぁそうですね。丁度寒くなってきたし――いいですね」 アールグレイの香りが漂ってきた。克の好物であるものを圭は知っている。それだけでも嬉しく思った。

:+: notebook :+: | 2010.08.02 Mon 12:01

第七部 12.

 「日本も寒くなってきたな――」 空港で送迎車に乗る時に日本の空気を感じ取った時の一言であった。 克は意気高揚としている。全身が震え、興奮状態にある。それが言葉によって示され、こんな台詞を吐いたのである。 車に乗り込むと、克はおもむろに携帯電話を取り出してボタンを一回押して耳にあてた。さっと腕をまくって時計をチェックする。

:+: notebook :+: | 2010.08.01 Sun 10:54

第七部 11.

  目の前に真っ赤なバラの花束を持って顔を隠しながら立っている男性を見て、圭は思わずうわあ、と叫んだ。「素敵! 綺麗ね!」 バラの花束の持ち主がパッと顔を出してにっこりと圭に差し出した。「どういう吹き回しなの? 普段こんなの買わないくせに」 彼女の夫は照れを隠しながら、花屋に呼び止められて買ったんだよとポツリと呟く。夫がそうやって照れるのを久し振りに見た様な気がして、嬉しくなって抱き締めた。 その後ろには小さな人影があり、息子だと分かった。

:+: notebook :+: | 2010.07.31 Sat 15:47

第七部 10.

 「それは、どういう事?」 麻奈の動きが止まる。圭は少しためらいながらも、ポツリと呟く。「前提に言うわ。夫の事が一番よ。愛してる。だけど――」「だけど?」 早く、とせかすような感じで繰り返して言った。「克の事、最近何だか……ほっとけないの」 少女の爆弾発言でもしたような顔つきになる。 麻奈は怪訝そうな顔をして、圭をじっと目を凝らした。「どういう意味? どういう意味でほっとけないの? ――同情から?」「それが、分からないの! ただの同情なのか、それとも――」「好き、なの?」 圭の言わんとしていた事...

:+: notebook :+: | 2010.07.30 Fri 10:30

第七部 9.

 「どうやったら圭のような幸せな結婚が出来るの?」 麻奈の相談とはそういうものだったので圭は拍子抜けした。そして、困惑気味に目を泳がせながらどうアドバイスすればいいのか迷っている。「どうやったら、滝川和也みたいないい男を捕まえられるのかしら?」「ええっと……それは……」 圭も答えようが無い。なぜなら彼女は学生時代からずっと付き合ってきた結果、結婚という形になっただけである。

:+: notebook :+: | 2010.07.29 Thu 09:08

第七部 8.

  数日後、圭の家に一本の電話が鳴った。 急いで出ると、そこには懐かしい声が聞こえてきたので、圭は思わず友の名を呼ぶ。「わあ、麻奈! お久し振りね」 高校時代の仲良くしていた友人であり、ロンドンにも遊びに来た事もある。「どう? 元気にしてた?」『ぼちぼちよ。ねえ、これからちょっと会えない?』 麻奈からの突然の誘いに圭は少しためらう。子供が二人寝ている上に夫は仕事、和則は幼稚園だからである。

:+: notebook :+: | 2010.07.29 Thu 09:07

第七部 7.

 「とりあえず、降りてこい」 男は布団を踏み潰しながら天井に隠れている部屋の住人に声をかけた。 部下の二人が天井を叩いて刺激したのでやめろ、と制した。「そんなことをしたら頼めるモノも頼めなくなるだろう?」 ちったぁ頭を使え、と男はタバコを思い切り吸った後、胸ポケットに収まっていた携帯灰皿を取り出して丁寧に火を消して入れた。「俺は乱暴な事は嫌いなんだよ」 その割にはドアを乱暴に開けたのだが、それを男はまるきり自覚していないように思われる。

:+: notebook :+: | 2010.07.27 Tue 08:41

「イニシエーション・ラブ」 乾くるみ

本を買う時は、だいたい裏表紙の説明を読んで買います。特に初めて読む著者のものは。こちらの本は裏表紙にミステリーと書いていました。でも私的には恋愛小説だと思います。最初から合コンで始まり、男女の出会いとしては平凡にストーリーは進んでいきます。でも時代背景は80年代中頃。私より少し上の世代で、バブルを実体験した世代です。話は大きくは2つ別れていて、最初は静岡が舞台となり出会いから結ばれるまでの幸せな話しになっています。後半はウブだった男性が仕事の関係で静岡から東京で出て行き、どんどん世界を広げオ...

kuuの読書感想 | 2010.07.27 Tue 02:38

第七部 6.

 「そろそろ戻るわ」 そう言いながら立ち上がって克の方を振り向いた。克は肩をすくめながら、こう言う。「そうですね、兄さんに怒られたら嫌でしょうから」「そうね、ありがとう」 安堵しながらも家に向かって夫のいる部屋へと急ぐ。克はボンヤリとベンチに座ったまま空を仰いだ。

:+: notebook :+: | 2010.07.26 Mon 10:01

第七部 5.

 「そうね――昔克と付き合っていた頃を話したわ。初めてのデートがマリアさんのコンサートだったのよ」 圭はありのまま正直に夫に話す事に決めたようで、本当に正直に伝えた。「そうか」 つれない態度に圭は少し腹が立ったのだが、言い返せずそのまま口をつぐんでいる。確かに彼女に非があるようで滝川を責める理由がどこにもなかったからだ。「ごめんなさい、反省してるのよ。出過ぎたと思って」「いやいいよ」 即答で返されて圭はますます後ろめたく感じられる。

:+: notebook :+: | 2010.07.25 Sun 10:26

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