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「ありがとね」 会社の喫煙室で、私はいつの間にか傷ついた携帯を握り締めながら言った。 「よかったやん。見つかって」 「うん。助かったよ」 「でも、おまえが携帯落とすなんて珍しいやん」 「そーだよね」 私の隣で侯久が缶コーヒーのプルトップを引く。 窓からは灰色の空が見えていた。 今にも雨が降り出しそうな空。 時間の感覚がなくなるほど、それは薄暗い空だった。 「それより、決まったん?」 「あーうん。多分、来月の初めだと思う」 「そーなんや」 「今の仕事を片付けてからになると思うから」 ...
君に綴るもの・・・ | 2008.09.16 Tue 23:15
僕は手前の席に座った。 侯久が慣れたように飲み物を頼み、隣に座る。 僕はずっと美風を見ていた。 だけど、美風はもう僕を見てはいなかった。 「彼が吉田君の友達の亮くん?」 そう聞いたのは、多分さっき電話で侯久が言っていた大倉という男だ。 「大学ん時の後輩やねん」そう言って、侯久が目の前のグラスを手に取る。 「後輩?え、亮くんて今いくつなの?」 美風の隣に座る1人の女性が続けて訊いた。 それから僕は、仕事は何をしているのかとか、何処に住んでいるのかとか、 彼女はいるのかとか、しばら...
君に綴るもの・・・ | 2008.09.16 Tue 01:12
「侯くん。やっぱり俺、今からそっちに行くわ」 僕は、パタンと勢いよく携帯を閉じると、 角から右折してくる一台のタクシーを止めた。 行き先を告げ、また携帯を開く。 携帯のデジタル時計は、0時10分を表示していた。 電話の向こうで、確かに侯久は「美風」と言った。 それは、ただの偶然かもしれない。 彼女と同じ名前なんて、この世にごまんといる。 だけど、僕はこの目で確かめたかった。 美風に会いたかった。 やがて、町の一角にある店の前でタクシーは止まった。 コロニアル調の外観が印象...
君に綴るもの・・・ | 2008.09.16 Tue 01:10
洗面台の蛇口を捻ると、勢いよく顔を洗った。 季節はもう冬で、水で顔を洗うには冷た過ぎる。 それでも、酔いを醒ますように顔を洗うと、目の前のタオルを手に取った。 ふと見える、鏡に映った自分の顔。 じんわりと痛みが蘇る。 右瞼に微かに残る傷跡。 この傷跡を見るたび、僕は彼女の事を思い出した。 「あたし、もう帰るね」 脱衣所から出てきた僕に、ソファーに座っていたしずくが 振り返って言った。 「え、泊まっていかへんのん?」 「うん。明日の仕事、いつもより早いの」 そう言って、しずくは...
君に綴るもの・・・ | 2008.09.16 Tue 01:08
しずくは、それ以上何も聞かず、さっさと 教室にカバンを取りに行くと下駄箱へ向かった。 後を追うようにカバンを下駄箱の上に置き、靴を履き替える。 先に靴を履き替えたしずくが、傘立ての前で自分の傘を見つけると、 「早く」と急かした。 外は、今朝、雨が降っていたのが嘘のように青空が広がっていた。 「すっかり、雨あがったね」 「おん・・」 するとしずくは、空を見上げたかと思うと、校門じゃなく、 グランドのある方向へ歩き出した。 「ちょ、しずく、何処行くん?」 「グランド」 「グランド?...
君に綴るもの・・・ | 2008.09.16 Tue 00:58
長い廊下を走り、また階段を降りる。 無意識に足は動いていた。 泣いている彼女の姿は、今までの僕を壊すには 充分な強さだった。 階段を降りて、廊下を右に曲がる。 右に曲がると、渡り廊下に続く入り口が見えた。 きっと、まだそこに美風はいる。 そう思った時、入り口から出てくる美風が見えた。 足が止まった。 さっきまで動いていた足が、今度は根が張ったように動かない。 僕はいったい、彼女に何を言うつもりなんだろう。 想いは溢れそうやのに言葉が見つからない。 美風との距離は縮まっていく。 ...
君に綴るもの・・・ | 2008.09.16 Tue 00:56
美風は、隣のクラスを受け持つ事になった。 隣のクラスの担任は木ノ内(きのうち)だ。 木ノ内は32歳の独身男で、最近、数学教師の神谷(かみや)と付き合い始めた。 その木ノ内の横に並んで、こっちに歩いてくる美風が見えた。 木ノ内は、ちょうど非常階段の辺りで足を止める。 冷やかす男子に教室に入るよう促す。 「教室に戻れよー」廊下に出ていた生徒にも聞えるように木ノ内は言った。 ずっと彼女を見ていた。 僕は彼女の事を何も知らない。 わかるのは、今日からこの学校の教育実習生で、 名前は崎本美風とい...
君に綴るもの・・・ | 2008.09.16 Tue 00:52
ドクンと心臓が鳴った。 彼女を見た瞬間、時が止まる。 時間がもの凄いスピードで戻っていく。 何もかも全て消えてなくなる。 昔と変わらない彼女の姿に、僕は今にも涙が出そうやった。 たった10日間の記憶。 全校生徒が並ぶ体育館。 校長の話をよそに、周りの女子がヒソヒソ話を始めた。 連鎖するように、他の生徒達もザワザワし始める。 それは、校長が話す傍で並ぶ、教育実習生達が原因だ。 高校3年にもなれば、教育実習生なんて、珍しい訳でもない。 だけど、どの実習生が何処のクラスに来るのか、...
君に綴るもの・・・ | 2008.09.16 Tue 00:50
JUGEMテーマ:恋愛小説今日は これ観てきました最近 気になる『源氏物語』これでも 意外と好きだったりするんですよぉ与謝野晶子現代語訳も読んだし橋本治さんが書いた『窯変 源氏物語』も読んだし大和和紀さんのコミック『あさきゆめみし』はもうほんとうに 何回も何回も読んだし先月は 甲子園観戦の合間に源氏物語ゆかりの地を訪ねる プチ京都ブラリ旅もしたし今度は 寂聴さんの訳を読んでみようと思ってるところです展示会観てきて やっぱり1000年も読み継がれてる物語ってすごいよなぁって あらためて思いました展示されてたのは 紫式部像...
蒼色の空 | 2008.09.14 Sun 02:15
もう少しで読み終わりそうです。「人のセックスを笑うな」読みやすいです。美術の教師と学生。。。設定がいいなぁと思った。作家は男性の視点で書いていてでも作家は女性だから表現がさらりとしているというか。。。。。。年上の女性が年下の男性に愛されるってステキに思います。
キネンシャシン。amita | 2008.09.13 Sat 10:10
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