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JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ハローハロー」 細いラインに僕は声を注入する。 「ハローハロー」 細いラインから、君の声が返ってくる。 「不思議な感じだね」 約二メートルの距離にある君の横顔を見つめながら、僕は言う。僕は問いかける。この感じを君と共有したくて。このラインの震えに共振したくて。そして君にも共振して欲しくて。 「不思議かしら。そうね不思議ね。でも繋がっている感じは、すごくする。いつもよりね」 君がこちらに顔を向けて笑う。口元は紙コップに隠れ...
pale asymmetry | 2020.02.29 Sat 21:26
JUGEMテーマ:ショート・ショート 叔母が旅立った。ソニドリとして。叔母はそれを願っていただろうか。おそらくそうだろう。だから彼女は満足しただろう。自身が研究してきた事象を、人生の最後に自身で体験できたのだから。もっとも、それを論文にすることは出来なかった。それについてはどうだろう。彼女はその論文を発表したかっただろうか。いや、そうは思わなかっただろう。それよりもソニドリになるというその変容そのものを、ずっと望んでいたのだから。本当にずっと願っていたのだから。 「私はね、この...
pale asymmetry | 2020.02.28 Fri 21:31
JUGEMテーマ:ショート・ショート 水面から八本の杭がはみ出している。そのうちの三本に鳥がとまっていた。サギのような鳥。白でもなく黒でもなく淡い灰色の羽毛を纏っている。決して美しい色ではなかったけれど、淑やかな色気を感じる色だった。ついさっきまで霧雨が降っていたから、それを嫌って羽を休めているのだろうか。北からの風に顔を向け、寒そうな様子もなく姿勢良く留まっていた。少し距離があって、その表情は窺い知れない。先程までの雨について考えているのかもしれないし、ゆるやかに転がり吹く北風...
pale asymmetry | 2020.02.22 Sat 20:37
JUGEMテーマ:ショート・ショート 魂をより戻す行事ごとが夏に多いのは何故だろう。そこにどんな意味があるのだろう。私には解らない。夏の夜に、多くの人が魂の気配を身近に感じ取りやすいのだろうか。私にはよく解らない。私はそうは思わないから。むしろ真逆で、私は冬にこそ、それも真冬にこそ感じたりするのだ。魂の気配を、身近に。風は何もかもを切り裂くほどに鋭くて、空気は全ての色を奪い取るほどに冷えていて、そして時間が後退しながら沈んでいくように感じられる真冬に。 火を熾すのはの大変だっ...
pale asymmetry | 2020.02.18 Tue 22:09
JUGEMテーマ:ショート・ショート 『怪獣だ。街路には怪獣がのっしのっしと歩いているよ。霧雨よりは少しだけ大きな雨粒たちが、風に躍らされてウインドウの全面に張り付いているから、その姿の詳細はよく見えないな。けれど街は確実に蹂躙されている、と僕には思えてならない。コーヒーを飲みながらその光景を長閑に眺めているのは、雨も寒さも嫌いだからだ。そう、もう寒くなってきている。どんどんと寒くなっていくんだそうだ。憂鬱になるよ。けど怪獣は、僕の憂鬱を踏み潰してはくれない』 送信。 既読...
pale asymmetry | 2020.02.16 Sun 21:59
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「あっ、唇に花飾りがついてるよ」 ベッドから半覚醒を抱えたままキッチンに行くと、僕の顔を覗き込んで彼女が笑う。 「花飾り?」 彼女は僕の唇の左端を指差す。僕は指先でその辺りに触れる。少し硬い違和感があった。 「ああ、熱の花だね」 そういえば最近疲れが溜まっていたな、とか思ってみる。 「気が付かなかったけれど、熱があったのかも」 「だね。朝食は消化にいいものにしようね」 そう言いながら、彼女がダイニングテーブルにエスプレッ...
pale asymmetry | 2020.02.14 Fri 21:08
JUGEMテーマ:ショート・ショート ==オリジナルのショートストーリーを掲載しています。== 1.なんでもしてあげる 2.足の小指を打つ感じ 3.美しき人 4.暴走 5.オモいデのサクラ 6.百鬼夜行
The Blog of Azuma | 2020.02.14 Fri 10:24
JUGEMテーマ:ショート・ショート 磨りガラスの向こうから、月の明かりが忍び込んでくる。赤い月光だった。痛みを抱えた月光に思えた。それは私が痛みを抱えているからかしら。それとも世界中が痛みを抱えていて、それが当たり前のことになっているからかしら。寝返りを打って、私の二つのブルカを押しつぶしてみる。この反発は水かしら。私は二つの海を抱えているのかしら。そんなに大きなブルカじゃないな。せいぜい湖。それとも井戸かな。 また寝返りを打って、ブルカを月光に晒す。二つの膨らみを両手で波...
pale asymmetry | 2020.02.13 Thu 21:22
JUGEMテーマ:ショート・ショート 錆び付いた錠前は、もう破壊するしかなかった。たぶんそうだろうと思って、持ってきた工具箱を開ける。パドロックの逆さU字のツルをワイヤーカッターで切断する。それは本当の植物の蔓のように脆かった。いや、それ以上に脆かったかもしれない。生命でないものは、生命のような長尺の時間軸を持てないものなのだと実感した。 木製の大きな引き戸は、恐ろしく鈍重で軋む叫びを上げて激しく悶えるけれど、一向に動かない。渾身の力を込めてレールに近い辺りを蹴り上げ、なんと...
pale asymmetry | 2020.02.10 Mon 20:49
JUGEMテーマ:ショート・ショート 僕たちは黙って巻き寿司を食べている。今年の方位角である255度の方角を向いて。何を願って食べたら良いのかよく解らなかったので、取り敢えず健康を願っておく。一気に食べて隣を見ると、彼女はまだもぐもぐしている。何を考えているのだろう。大きく目を見開いている。話しかけたい気持ちをぐっと抑えながら、その横顔を眺めていた。やがて彼女が食べ終わり、僕に顔を向ける。 「じっと見てるから、笑っちゃいそうになったじゃない」 そう言って笑う。 「何を願った...
pale asymmetry | 2020.02.03 Mon 21:13
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