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JUGEMテーマ:ショート・ショート 「写真集を拝見致しました。どの写真もとても綺麗で感動しました」 「ありがとうございます」 「それで、インタビューの最初にお訊きしたいのは、どうしてあのような写真集を企画されたのでしょう?」 「あのようなとは、死骸だけの写真集をという意味でしょうか?」 「はい。動物写真家の方々は、やっぱり動物の死骸にもよく出会うものなのでしょうか?」 「さあどうでしょう。人によると思います。僕はよく出会う方だと思います。だからこそ、この写真集を企画しま...
pale asymmetry | 2021.02.10 Wed 21:40
JUGEMテーマ:ショート・ショート 橋は水中にある。巨大なアーチ橋だ。アーチは鋼鉄のような見た目だけど、全く錆びてはいない。触ってみると、それは陶器のような感触だ。あるいは、骨のような感触だ。つるつるとざらざらの間くらいの感触と言えば良いだろうか。でもたぶん私の頭蓋骨よりはさらさらしているように思う。これはさわり心地のことではなく、存在の感じが。 アーチ橋の曲線の天辺に腰掛ける。そうすれば私の存在感もさらさらするかもとか思ったけれど、まあそうはならない。私はどろどろした...
pale asymmetry | 2021.02.05 Fri 21:42
JUGEMテーマ:ショート・ショート 綺麗な月だった。満月から少し痩せた月。上品な黄金色に輝いていて、見つめているとやわらかな心持ちになる。僕と彼女はベランダにテーブルと椅子を出して、月を眺めることにした。たっぷりと着込んで、ワインを片手に。 「月は寂しくないかしら」 少し頬を赤らめた彼女が呟く。 「寂しい?」 僕は彼女を見つめる。彼女は月を見つめたまま。その横顔は何か悪戯を企んでいるように見えた。 「だって、地球の衛星は月一つじゃない。土星だと、衛星は八十二個なん...
pale asymmetry | 2021.02.01 Mon 21:32
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「そこは巨大な城塞都市だったわ。あちらこちらに複雑な回廊がいくつもあって、すぐに道に迷ってしまうの。私は都市の中心の尖塔に行きたいと思っているのだけれど、近づこうとしても上手くいかない。少し近づけたかなと思っていると、いつの間にか遠ざかっている。その繰り返しなの」 「疲れてしまうね」 「うーん、どうかな。疲れたという想いはわき上がったりしなかったと思う。それよりも物足りなさね。私には尖塔でやらなければいけない使命があって、それはとても愉しい...
pale asymmetry | 2021.01.25 Mon 21:27
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「目の前に未知の扉があります。どんな扉でしょう?」 僕と彼女はベランダでランチしていた。二人ともテレワークで、長めの昼休憩中だった。明日からは数日雨が続く予報だったので、日差しを楽しむことにしたのだ。風は北からでひんやりしていたけれど、たっぷりの陽光が擽るように身体を暖めてくれた。だから心地よかった。 「どんなって、見た目のこと?」 「そう。色や形や模様や大きさ」 僕はしばらく考えてから答えた。 「机の引き出し」 「机?引き出し...
pale asymmetry | 2021.01.20 Wed 20:19
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「擽ったいわ」 と私が言っても。あなたはお構いなし。その真っ赤な口紅を私の身体に沈めるように唇を這わす。 「温かいわ」 私は息を震わせる。あなたの呼吸も震えている。それが唇から私の皮膚に伝わってくる。それは紅の生み出す波紋かもしれない。それは魔的な舞かもしれない。口紅の密やかな舞だ。 「気持ち良くなってきた」 私の震えとあなたの震えが同調するのを感じる。あなたと私が重なり合うような感覚。あなたの唇が私のそれになる。同じ口紅をさし...
pale asymmetry | 2021.01.19 Tue 21:52
JUGEMテーマ:ショート・ショート 潮の引いた礁湖で、チョウダイサギが小魚を加えて歩いている。夕刻の空は広い範囲に雲が広がっていたけれど、時折切れ間から太陽が顔を出したりしていた。風は北から吹いている。強くはないけれど冷え切った風だ。僕は軽く足踏みしながらファインダーを覗き込む。チョウダイサギは悠然と歩いている。周りの空気に哲学を滲ませている。あの鳥は寒さを感じたりはしないだろう。そう思えた。寒さというものの要素の全てを羽毛の狭間に巻き取って、エナジーに素早く変換して、血流に染...
pale asymmetry | 2021.01.10 Sun 21:48
JUGEMテーマ:ショート・ショート 音声で彼女に回線を繋ぐのは久しぶりだと気づく。最近はテキストばかりになっていたから。 「ごめん、仕事がまだ終わりそうにない。帰りは遅くなりそうだ」 「そう。大丈夫。おせちとワインを用意して待っているわ」 「先に食べてくれてもいいよ」 「今読んでいる本が面白いところだから、大丈夫よ」 「わかった。なるべく急いで帰るよ」 「慌てなくていいわよ。マイトレーヤより早ければ、それでいいわ」 彼女の声が笑っている。回線を通して聞くその声は...
pale asymmetry | 2021.01.02 Sat 20:59
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「もう僕らは、とっくに死んでいるのではないかと思ったりもするんだ」 コイルが唐突に切り出した。僕らは大陸極東の秘密の遺跡で落ち合ったばかりだった。 「どういうこと?」 寝起きでログインしたので、コイルの言っている意味が解らなかった。 「つまりさ、もう僕らは、というか全世界の生命は、すでに死んでいて、その魂同士がこの惑星上で交流しているというわけ」 「全世界って、現実の世界のことだよね?」 「もちろんそうだよ。今君と僕がログインし...
pale asymmetry | 2020.12.29 Tue 22:10
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「空がある今日は、幸せね」 ビルの屋上から、街路を見下ろして彼女が言う。その幸せは僕らにとってだろうか、それとも世界にとってだろうか。あるいは、空自身にとってだろうか。空というものの本質をちゃんと理解していないくせに、僕はそんなことを考えてしまう。ごめんなさい。空とその向こうの宇宙に対して、僕は心の中で謝ってみる。 「高いビルだと思ったのに、そうでもなかったわね」 彼女はフェンスを乗り越え、ビルの縁から両脚を投げ出して腰掛けている。僕...
pale asymmetry | 2020.12.26 Sat 20:20
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