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JUGEMテーマ:ショート・ショート 僕の声は少し高音で鼻にかかっていて、泣きそうな声だってよく言われたりする。それはキミもよく知っているよね。キミは僕のそんな声を気に入ってくれているみたいで、僕はそのことがすごく嬉しかったりするんだ。キミまでの距離はどのくらいだろう。今は簡単に調べることだ出来るんだ。キミまでの距離は3.6キロ。成人男性の歩行速度は時速約4キロ。一時間かからずキミの所まで歩いて行けるね。十分に可能な距離だ。歩くことにおいては。まあ、歩かないけどね。 窓を開けて叫...
pale asymmetry | 2020.04.12 Sun 21:19
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「少しだけ昔の話をしたいんだけど良いかな?」 「もちろん良いよ」 「確かあなたと始めて出会った夏のことだったと思うの。あの夏って、異常だったじゃない?」 「うん、確かに異常だったね」 「世界中の気候が大きくシフトした夏だったわ」 「そうだったね」 「世紀が変わるまですぐだったから、このまま世界が終わってしまうのじゃないかと思ったりしたわ」 「僕は完全にそう思っていたよ」 「そんな予言もあったしね」 「ああ、あったね。僕は信じて...
pale asymmetry | 2020.04.10 Fri 21:45
JUGEMテーマ:ショート・ショート テラスで、ハンモックが震えている。やわらかな日差しの下、風は静穏。自然がそのハンモックを震わせているわけではない。もちろん超自然が震わせているわけでもない。ハンモックの内で眠る彼が震わせているのだろう。それはつまり、彼が震えているのだろう。覗き込む。硬く目を閉じ、寝息は微かすぎて、半分死に浸っているようだ。私は彼の頬に手の甲で触れる。体温は高く、ほっとする。擽ったそうに唇を揺らがせ、彼が目を開ける。 「夢を見ていたよ」 声はまだ、眠りを...
pale asymmetry | 2020.04.01 Wed 21:56
JUGEMテーマ:ショート・ショート キーを叩く僕の目の前には小さなモニターがあって、その横のドライブにさらに小さな端末が立てかけてあったりするんだ。僕はキーを指先で弾きながら、意味もなくただ流れに任せて弾きながら、その端末からテキスト着信音が飛び出すのを待っていたりするんだ。でもまだまだそれが飛び出しそうな気配はないな。端末は沈黙に沈んだままだ。どこまでもどこまでも沈んでいく。落ちていくのか浮かんでいくのか、溶けていくのか昇華していくのか、その全てでそのどれでもなんだろうな。 ...
pale asymmetry | 2020.03.31 Tue 21:45
JUGEMテーマ:ショート・ショート ニコニコ顔で彼が帰ってきた。そしてウキウキした声であたしに尋ねる。 「週末の食料は買い込んだかい?」 「ええ、十分に」 あたしの答えに彼は満足そうに頷く。そしてスーツのポケットから取り出したものを、ダイニングテーブルに並べた。それは十七枚の薄紅色の花弁で、顔を近づけると少しだけ渋みのありそうな甘い匂いがした。 「香りを感じられるかい?」 「うん」 「それなら良い。君は感染していない」 「あなたは? 感じないの?」 「感じるよ...
pale asymmetry | 2020.03.27 Fri 21:43
JUGEMテーマ:ショート・ショート 見知らぬ言語だ。と思った。美しくない言語だ。と感じた。吐き出され、言語という形態に填め込まれる微振動は、まるでウィルスのように空間を流れ、私の鼓膜に到達する。決して、穢されていると感じたわけではないけれど、とても綺麗だとは認識できなかった。哀しいことだと思ったし、虚しさも少し感じたけれど、何故その言語を美しくないと感じるのか、それはつまりその言語が絶対的に美しくないのか、それとも受け取る私が美しくないのか、その言語に耳を傾けながらじっくりと考...
pale asymmetry | 2020.03.20 Fri 20:16
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「それは小さな妖精かもしれないし、小さな精霊かもしれない。あるいはそれは、小さな小さな幻獣かもしれないし、場合によっては魔獣かもしれない。とにかくそれが、駆け回っているんだ。世界中をね。その身体にはコードが描かれている。模様のようにね。でも本当はそれは模様ではなく、そのコードこそがそれそのもなんだ。つまりコードが描かれている身体の方は、じつは借り物で、その身体が破壊されてもそいつは痛くも痒くもないんだ。身体が破壊されてもコードは駆け回り続け、次...
pale asymmetry | 2020.03.13 Fri 21:19
JUGEMテーマ:ショート・ショート 湿った生温かい風に鼻先と唇を擽られて、私は目を覚ました。強い風に揺れるカーテン。開いた目はまずその乱舞する空色のカーテンを捉える。そしてその窓辺に並んで座る少年と黒猫の背中を認識する。彼らは何を見つめているのだろう。街角を行進する微細なウィルスの隊列だろうか。それともそれを支援する穢れたインフォメーションだろうか。そういうものを見つめているのだとしたら、そうすることで傷ついたりしなければ良いけれど。半覚醒を弄びながら、私はそんなことを考える、...
pale asymmetry | 2020.03.09 Mon 21:10
JUGEMテーマ:ショート・ショート パーキングに車を止めると、私たちはコンバーチブルの屋根を開いた。強い北風が雨を斜めに降らしていたから、私たちは大きな傘を開く。車は水色で、傘は白。大空を飛ぶ白鳥、あるいは大海原を進む白鯨。そんなイメージを弄んでみる。寒かった。だから目一杯に着込んで、さらにナイロンコートを羽織っていた。私たちはバスケットを開き、サンドイッチと熱いコーヒーを取り出す。コーヒーの熱が、私たちの息を白イタチのように弾ませた。 「こういうのって、意味あるの?」 ...
pale asymmetry | 2020.03.05 Thu 20:05
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「コヴィは、すごく小さいんだよ」 「じゃあ、見えないの?」 「見えないどこじゃないよ。いろんなものを通り抜けられるんだ」 「壁とかも?」 「もちろん」 「じゃあ、どこにいてもやられちゃうじゃん」 「やられちゃうよ。でも除菌スプレーには弱いんだよ。狙い撃てば即死だね」 「それで、さっきから除菌スプレーを構えてるんだ。でも、見えないんでしょう?」 「見えないよ。だから感じるんだよ。考えるんじゃなくて、感じるんだ」 「お兄にそんな超...
pale asymmetry | 2020.03.03 Tue 21:58
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