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半夏生の揺らぎ

JUGEMテーマ:ショート・ショート   「きっとその人には機微が解らないのでしょう」  口をもぐもぐさせながら彼女が言う。僕らは縁側に並んで座り、冷たいうどんを啜っている。汁にはたっぷりのショウガと少しのワサビを入れて、麺にはミョウガを絡ませている。少しやりすぎのような気もしたけれど、暑熱を紛らわすためには、仕方のないことだった。 「機微?」 「そう。そういうのに疎い人は少なからずいて、けれど機微に疎いからといって感受性が鈍いわけではないから、そういう分野を漂ってたりする。そう...

pale asymmetry | 2026.07.02 Thu 18:29

ストロベリーコード

JUGEMテーマ:ショート・ショート    毎日毎日暗号を構築してあなたは愉しいの? と君が訊くから、僕はもちろんと答えながら、そうか僕は暗号を構築しているんだと気づく。遠い海の向こうで二十二年ぶりの歓喜が叫ばれているのだというニュースを受け取りながら、僕はなんて遠いところにいるのだろうとふと思ったりしている。ステップは一歩踏み出されたようだけれど、消えない混乱が確かに渦を巻いていることは否めない。それはとても小さな渦で、だから気にする必要などないのかもしれないけれど、それでも感じてし...

pale asymmetry | 2026.06.29 Mon 15:37

沈む、沈む

JUGEMテーマ:ショート・ショート    静かな部屋で、きみは静かに眠っている。息をしていないようだ。耳を澄ましてもエアコンディショナーの稼働音しか聞こえない。カーテンの向こうでは強い午後の日差しが渦を巻いているけれど、この部屋はきみのために完璧に制御されていて、きみの眠りを妨げる要素は何もない。あるいは僕だけがその要素、危険分子かもしれない。  きみの胸は微かに、そしてゆるやかに上下している。まだこの世界に繋ぎ止められている証拠だ。けれど半ば以上、きみはこの世界から離脱しているよ...

pale asymmetry | 2026.06.23 Tue 19:48

弾けて跳ねる六角形

JUGEMテーマ:ショート・ショート    温いペパーミントティーを飲みながら、僕らは縁側で怠惰な時間を愉しんでいた。ほぼ中天に太陽はあって、そこから陽光が豪雨のように降り注いでいる。もっともその粒子を感じたりは出来なかったけれど。それでも縁側から眺める庭は、其処彼処で陽光が跳ね回っているように感じた。その刺激で庭は歓んでいるようにも、うんざりしているようにも見えた。僕らの方ももちろん同じ陽光を浴びていて、それは皮膚の上を跳ね回っていたから、愉しかったし、うんざりもしていた。 「六角...

pale asymmetry | 2026.06.20 Sat 18:07

語る者は語る理由を語らない

JUGEMテーマ:ショート・ショート   「でもあなたには千年先の生はない。と白いキツネはハンターに言いました。その口調はやわらかでしたが、その声は凜と澄み渡っていました」  彼女のそんな声を聞きながら、僕は窓を開ける。南に面した窓で、開いた空間から風が流れ込んでくる。それは乾いた熱い風で、たぶん夏至南風だろうと思った。でも公式にはまだ雨期を引き摺っている。きっと敏感な人は皆違和感を抱いているだろうなと思った。 「千年というような長い流れを把握することも出来ないあなたに、世界の深層...

pale asymmetry | 2026.06.19 Fri 18:21

昏い雨とハニージンジャー

JUGEMテーマ:ショート・ショート    雨は強く激しく降っていて、空は暗い。黄昏時はまだ間があるのに、世界は昏く、空気は粗い粒子に退化してひたすらに沈んでいく。昏い世界は僕らに溺死する隙さえ与えてくれない。僕らは抱き合って昇天することも出来たはずなのに、暗い部屋で昏い雨の音に耳を傾けながら、互いに文庫本に視線を落としていた。 「寒い? それとも暑い?」  ページを見つめたまま彼女が言う。だから最初朗読を始めたのかと思った。けれどすぐにそれが僕への質問だと気づく。彼女の声が、全く...

pale asymmetry | 2026.06.15 Mon 17:35

雨滴のズレ

JUGEMテーマ:ショート・ショート   「雨滴のズレを感じる」 「雨滴のズレ?」 「そう。それに少しだけ苛立ちを感じたりしてる」 「そうなんだ。どのくらいのズレなの?」 「時間でいえば十八時間くらいかな」 「けっこうなズレだね」 「そうね。でも良く考えたらズレに苛立ちを感じているのではなくて、ズレに苛立ちを感じてしまう私自身のことを苛立っているのかも」 「でも苛立ちは少しだけなんだよね?」 「そうね、そんなに強くはない。けれどそれはそういう感覚をある程度抑えているから...

pale asymmetry | 2026.06.09 Tue 11:12

六月のステップは湖上を滑る

JUGEMテーマ:ショート・ショート    あなたは平たい石を手に取り、美しいフォームでそれを湖面に投げた。飛んでいく小石は水面に求愛するように触れて跳ね、触れて跳ねを繰り返し、やがて水中に沈んだ。私はたった今の、一連の出来事の流れを頭の中で反復してみる。まずあなたが水面を駆ける白鳥のように石を投げた。大きな翼をいっぱいに拡げて、そこに自ら駆けることで粒子を孕ませている白鳥のように。私はそれを美しいと思った。あなたが白鳥に近づくことが美しいと思えたのだ。あるいは、あなたの美しさが白鳥の...

pale asymmetry | 2026.06.05 Fri 19:46

拾い上げる前に風に流される

JUGEMテーマ:ショート・ショート   「たぶん、いえきっと大切なものを次々と失っているのだと思う」  彼女はそう言いながら、長い前髪を掻き上げる。けれどまだ強い南風が、すぐに彼女の長い髪を激しく踊らせるから、その前髪だってくしゃくしゃにしてしまう。それは宙に刻まれた銅版画のようにも思えて、僕は自然と魅せられてしまう。いやだめだ。彼女の話に耳を傾けなければ。 「正確には、大切なものになるはずだった事象。それを拾い上げる前に風が掠っていくの」  彼女は膝を折り、アスファルトを転が...

pale asymmetry | 2026.06.02 Tue 18:22

古材に沈む

JUGEMテーマ:ショート・ショート    兄に呼び出されて集合した場所は古民家だった。といってもとても大きな屋敷で、たぶんかなりの資産家の屋敷だったのではないだろうか。だったのでは、と過去形にしたのは、私がそこに着いたときにはまさに屋敷の取り壊しが始まったところだったからだ。 「あれを頂いたんだ」  兄がそう言って指差したのは、黒光りする太い柱だった。いわゆる大黒柱と言われるものだろうと思った。 「持って帰るのを手伝って欲しい」  兄の言葉になるほどそういうことかと納得し...

pale asymmetry | 2026.05.31 Sun 18:12

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