[pear_error: message="Success" code=0 mode=return level=notice prefix="" info=""]

JUGEMテーマ:ショート・ショート 海辺のカフェの二階席に落ち着いてコーヒーを飲む。全ての窓が開け放たれていて、ひっきりなしに南風が駆け抜けていく。この風はきっと夏の到来を告げる南風なのだろう。通常はもっと湿っているはずなのに、とても爽やかに私の髪を揺らすから。夏の到来を告げる風は、どこから吹いてくるのだろう。吹き始める場所があったとして、それはどんな所なのだろう。ここから見える水面のように、その場所も金属質に煌めいているのだろうか。なんて、とりとめのないことを考えたりする。考...
pale asymmetry | 2020.06.18 Thu 22:07
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「アーシタは夜空でうたた寝する卵の月を見上げていました」 娘はそう言って僕の顔をじっと見つめる。僕は次の言葉に耳を傾けながら、その眼差しを受け止める。 「ねえ、おかしい?」 娘が少し尖った口調で言う。 「え、何が?」 僕はドキドキする。何か間違った反応をしただろうか。 「今私が言った物語、おかしいと思うところがあった?」 「いや、ないよ」 「でもね、先生はおかしいと言うの」 「どこが?」 「それはね、夜空は見上げるに決...
pale asymmetry | 2020.06.15 Mon 21:00
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「月が落ちているの」 ケータイから聞こえてきた彼女の声は、いきなりそう告げた。それは確かに彼女の声だったけれど、どこか異性の知性体のそれのようにも思えた。僕らはすでに調べ上げられていて、何者かが彼女の声に擬態して僕にアクセスしてきたのかもしれない。とか考えてみたけれど、それには無理があるだろう。異性の知性体が興味を示すような事象を、僕は有してはいない。それにケータイの声は本当の声ではないことを僕は知っている。つまり彼女とのケータイでのやりと...
pale asymmetry | 2020.06.13 Sat 21:29
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「団扇って、だいたい丸いじゃない?」 風呂上がりに、僕らは窓辺でスイカを食べていた。今年初めて食べるスイカだ。 「角張ってないという意味ならそうだね。まん丸ではないけど」 彼女は団扇をパタパタさせながら、気持ちよさそうに笑う。僕のことを笑ったのか、風に擽られたからか、どちらなのかは解らなかった。 「小僧がね、観音開きの扉を開いたり閉じたりしているわけ」 「え?」 「だから小僧がね、たぶん金太郎みたいな前掛けをした小僧がね、扉を何...
pale asymmetry | 2020.06.09 Tue 21:48
JUGEMテーマ:ショート・ショート 雨が真っ直ぐに降っていた。僕は透明な傘を差していたから濡れていなかった。空想の傘という意味じゃないよ。コンビニで買った透明なビニール傘という意味。犬は雨に打たれて濡れていた。犬は傘を差していなかったから。でも犬は雨の全てを受け入れていたから、不自由のない表情をしていた。僕にはそう見えた。犬が傘を差さないのは身体的な理由ではなく、僕よりもずっと雨と近しい間柄だからなのだろう。雨に濡れる犬は、そう思わせるたたずまいで地面に鼻を沿わせていた。 ...
pale asymmetry | 2020.06.07 Sun 21:44
JUGEMテーマ:ショート・ショート お昼過ぎに目覚めてリビングに行くと、リビングの真ん中のソファーに彼女が横たわっていた。大きなソファーは存在感が強くて、リビングの真ん中がこの銀河の真ん中であるかのように感じた。こんな端っこの惑星にいるにもかかわらず。彼女はマスカット色の水着を着ている。リビングの窓は全開で、南からの風が白いカーテンを盛大に踊らせていた。踊るカーテンは、何故だか天の川のように見えた。 「どうして水着?」 ソファーに近づき、彼女に軽くキスをする。彼女は擽った...
pale asymmetry | 2020.06.02 Tue 22:03
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「ゆるみが出たら、このゆるみ止めを飲んで下さいね。念のために四錠出しておきますね」 「ゆるみですか?」 フェイスシールド越しだったから聞き間違えたのかと思って、私は質問した。 「はい、ゆるみです。我慢できるのなら良いですけれど、我慢できないほどのゆるみになったら飲んで下さいね」 全体が微かな水色に染まっているフェイスシールドには、真ん中に大きく流星のイラストが描かれている。いや、彗星かもしれない。そのせいだろうか。そのせいで、私はゆ...
pale asymmetry | 2020.06.01 Mon 20:40
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「最近、眠りがざわざわするの」 ベッドに並んで横たわり、互いに読書しているときに彼女がそう言った。眠る前に読書することが僕らの日課だった。 「ざわざわって?」 僕の問いかけに彼女はやわらかく目を閉じ黙り込む。正確で精密な表現を探しているようだった。 「舞ね」 「舞?」 「そう。舞のせいで、心がざわついてしまう感じ。眠っている最中に」 「夢の中で、舞を舞っているってこと?」 「そうではないの。舞っているのは、私の身体から剥がれ...
pale asymmetry | 2020.05.28 Thu 20:55
JUGEMテーマ:ショート・ショート 旅を続ける日々が長く続くと、ふとした瞬間に自分が地球上のどこにいるのかよく解らなくなることがある。それは例えばホテルの部屋で眠り、翌朝目覚めた瞬間とかいう解りやすいシチュエーションだけではなく、街路を歩いているときや、美術館などで鑑賞しているときとか、挙げ句の果てには仕事相手と商談している最中でさえも、見失ってしまうことがある。不思議なのはその喪失感のすぐ後に、何とも言えない安堵感が湧き上がることだ。どこにいるのか解らない自身を、彷徨い続けて...
pale asymmetry | 2020.05.25 Mon 21:54
JUGEMテーマ:ショート・ショート 頬を擽られて目を覚ます。彼女が僕を覗き込み微笑んでいる。僕の頬を擽っていたその手は真っ赤な毛糸の手袋を纏っている。ふわふわとしたなめらかな感触だった。休日の目覚め方としてはまずまずに思えた。 「うん? 何?」 彼女は手袋を纏った両手を顔の前で並べてにぎにぎする。 「新しい青を模索していたの」 そう言って、彼女は僕の頬をまた撫でる。 「新しい青? 赤い手袋なのに?」 「これは、衣替えをしていたら衣装ケースの隅で発見したの。発掘し...
pale asymmetry | 2020.05.23 Sat 20:58
全1000件中 441 - 450 件表示 (45/100 ページ)