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掌編。超短編。など、名前は様々。
一瞬を切り取って、読んでくれる人に届けたい。
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A walk that does not lead to a journey

JUGEMテーマ:ショート・ショート    近所を散歩していたはずなのに、いつの間にか見知らぬ街路に立っていた。何となくいつもより随分と早くに目が覚めてしまったから、少しだけ散歩でもしてみようかと思い立っただけだったのに。右を見ても左を見ても、足下を見ても空を見上げても、見覚えのある風景はなかった。まだ薄暗い空気が遠くまで見定めることを幾分邪魔していたけれど、それを差し引いたとしても見知らぬ場所に立ち尽くしていることは確実だった。 「忘れ物はないですか?」  声は斜め上から聞こえた...

pale asymmetry | 2021.06.21 Mon 20:57

杜火

JUGEMテーマ:ショート・ショート    最近は皆が我慢しなければいけないご時世のようだけど、僕の場合は特に何も変わらずに暮らしている。考えてみれば、今までの人生で大きな事件に出会ったこともなければ、とんでもないトラウマを抱えることになったしまった、といったようなエピソードもない。何とも平々凡々と生きてきたというわけだ。そんな僕でも不可思議な出来事の記憶なら、一つだけ持っている。事件と言えるほどのものではなく、ただ少し不可思議な出来事というだけの記憶だけど。  あれは今から十数年前...

pale asymmetry | 2021.06.19 Sat 20:46

Frogs that know, frogs that don't know

JUGEMテーマ:ショート・ショート   「知っている、とカエルが言ったの」 「カエルが? 人語で?」 「ごめん、説明不足だったわ。カエルが人間の言葉を口にしたわけではないの。知っていると意思表示したということ」 「どんな感じで? ジェスチャーとか?」 「いいえ、何というか雰囲気ね。あるいは、纏った空気を震わせることによって」 「何だか、特殊な能力をカエルは、そのカエルは有していたようだね」 「あら、これは特別な能力ではないわ。どんなカエルだって持っている。それにカエルだけ...

pale asymmetry | 2021.06.15 Tue 21:30

Selfish saffron

JUGEMテーマ:ショート・ショート    サフラン色の髪の少女は、胸に小さな傘を抱きしめていた。雨は強く降っていたけれど、その閉じられた傘を抱きしめ、開くつもりはないようだった。もっともそれは本当に小さくて、たぶん直径三十センチくらいだと思われたから、開いたところでたいして役には立たなかったかもしれないけれど。その傘はサフランの色をしていた。サフラン色ではない。染料の色ではないということ。サフランの花冠の色だった。 「私たちはもう溺死していてもおかしくないと思わない?」  サフラ...

pale asymmetry | 2021.06.14 Mon 21:17

Last shot

JUGEMテーマ:ショート・ショート    私たちは窓辺のソファーに並んで腰掛けていた。腰掛けていると言うより、だらしなく身を沈めていると言った方が正確だろう。そのソファーは二人で吟味して買ったもので、最近のお気に入りの場所だった。休日の午後はだいたい並んで過ごしていた。湿度が高かったから、窓はしっかりと閉じてエアコンディショナーを働かせていた。 「ねえ、フクロミツスイの精子って、哺乳類では最も大きいんですって」  私はタブレットで有袋類のドキュメンタリーを見ていた。骨伝導のイヤホ...

pale asymmetry | 2021.06.13 Sun 20:44

カニの脚を踏む

JUGEMテーマ:ショート・ショート   「…踏んじゃった」  西風が強すぎて、立ち止まった彼女の言葉を上手く聞き取れなかった。 「え? 何だって?」 「だから、カニの脚を踏んじゃったって言ったの」  彼女がアスファルト路面を指差す。確かにそこにはカニの脚が落ちている。カニの脚だけが。胴体の姿はどこにもない。その脚は15?くらいの長さでもちろんスーパーで売っているような食用のカニではない。僕らは細い川沿いの道を歩いていたから、その川に住んでいたカニだったのだろうか。そうだと...

pale asymmetry | 2021.06.04 Fri 20:58

Wash the car

JUGEMテーマ:ショート・ショート   「洗車するの好きだよね?」  アウトドア用の椅子を組み立て、そこにだらしなく腰掛けるとすぐに彼女はそう口にした。 「うん、好きだよ」  僕はもちろん車を洗っていた。銀色の小さな四輪駆動車を。 「お休みの日は、取り敢えず洗車してるよね?」  彼女は目を細め、空を見上げている。まだ日差しは幼かったけれど、十分に眩しかった。それはもう、夏の成分を色濃く持っているようだった。 「そうだね。晴れた日にはね」  シャンプーをたっぷり含ませたス...

pale asymmetry | 2021.06.02 Wed 21:07

スイッチを押す、背を撫でる

JUGEMテーマ:ショート・ショート    日が暮れたその瞬間に雨が降り出した。スイッチが押されたように。押したのは私ではないけれど、思わず「ごめんなさい」と呟いてしまう。それくらい切り替わり感の強い雨だった。そのせいだろう、四肢を投げ出して床に横たわっていたナイジェルが、顔を起こし耳を立てている。眼差しは窓に向けられ、ガラスを叩く雨粒を通り越して、向こう側の世界を見つめているようだ。そこはつまり天国なのかも知れない。ナイジェルは時々、そういう世界を見つめている賢そうな横顔を私に見せる...

pale asymmetry | 2021.05.27 Thu 20:39

Lunar eclipse syndrome

JUGEMテーマ:ショート・ショート   「これは病のようなものだと思うの」  彼女はそう言って、ビールをグラスに注ぐ。黒ビールのはずだったけれど、少し赤みがかって見えた。それがベランダに流れ込む街の明かりのせいなのか、それともこの夜の持つ性質のせいなのか、僕には解らない。 「つまり私たちは、循環するものに敏感なのだと思う」  彼女はグラスを傾け、気持ちよさそうに喉を鳴らす。どこか吸血鬼のような横顔に見えた。ビールが赤みがかって見えるのは、僕の心持ちのせいかもしれないな。 「だ...

pale asymmetry | 2021.05.26 Wed 20:34

加速する想い、踞る想い

JUGEMテーマ:ショート・ショート    大き過ぎるダイニングテーブルの真ん中に鉱石が置かれている。テーブルの端に彼女が頬を横たわらせ、その鉱石を見つめている。黄昏時の風が、窓から控えめに漂ってくる。夜の冷ややかさより、まだ昼の名残の熱を孕んだ風だった。僕は窓辺のソファーで文庫本を読んでいた。そろそろ部屋の明かりを灯そうかと思いながら。 「ねえ、この石には私たちが見えているかしら?」  深い青灰色の鉱石を、彼女が指差す。頬はだらしなく横たわったまま。僕は文庫本から顔をあげ、鉱石を...

pale asymmetry | 2021.05.19 Wed 21:08

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