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JUGEMテーマ:ショート・ショート ざわついた音が、外から聞こえてくる。カーテンがしっかりと閉じられていたから、外の様子は見えない。でもきっとざわついているのだろう。すごく大きなものが、大きすぎて僕らには存在さえ認識できないものが、あるいはそういう者たちが、戯れあっているのかもしれない。夏だから。 「ねえ、雨の代わりに空から好きなものを降らせるとしたら、何を降らす?」 傍らにいた彼女が、文庫本に落としていた目を僕に向ける。僕も雑誌から顔を上げる。僕らは肩を寄せて、ソファー...
pale asymmetry | 2020.08.27 Thu 20:56
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「こんばんわ」 声を掛けられ振り向くと彼女がすぐ後ろに立っていた。マスクをしていて、アイメイクをしていて、スーツ姿の彼女は、僕の知らない時間をまだ纏っている。 「こんばんわ」 僕は丁寧にお辞儀をしてみる。すると彼女も丁寧なお辞儀を返してくれる。 「お仕事帰りですか?」 「ええ。君も?」 「ええ、そうです」 彼女には僕はどう見えているのだろう。僕もマスクをしてスーツ姿だったから、少し異次元にシフトしているように感じたりしている...
pale asymmetry | 2020.08.19 Wed 21:56
JUGEMテーマ:ショート・ショート 大粒の雨は、地面を砕こうとするように落ちていたけれど、もちろん砕かれるのは彼らの方だった。それは地面がアスファルトだったからじゃない。世界の法則がそれを許さなかったからだ。その法則の外側に翻ることを、雨粒たちは望んでいたのかもしれないけれど、まあそんなことは起こりえない。世界は、特に最近の世界は、全く面白みのない悪循環に陥っているから。 「宝石みたいな雨だと思わない?」 隣に立つ彼女が独り言のように言う。声は雨音に纏わり付かれて、どこか...
pale asymmetry | 2020.08.15 Sat 21:41
JUGEMテーマ:ショート・ショート パンナコッタが食べたいの。フルーツが山盛りに乗っかったパンナコッタが。と彼にテキストを送り、彼を走らせる。私は家中の窓を全開にして、南風を、その全てを受け入れて待つの。それは例えば風の前世であり、風の来世であり、それを纏わり付かせる私の前世であり、私の来世でもあるの。 汗がどこにも逃げないから、私は服を脱ぎ、下着姿で床に横たわる。私は床の冷気を奪い、床は私の熱を奪う。風は私と床の交歓には関われないので、きっと嫉妬しながら天上辺りで渦を巻い...
pale asymmetry | 2020.08.11 Tue 21:29
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「桃を食べたいの。それに相応しい場所で」 あなたがそう言うので、私たちは水着に着替えた。今年買った水着。でも多分今年は砂浜で着ることはないだろうな。私が着たのはあなたに選んで貰った水着。あなたが着たのは私が選んであげた水着。その上から服を着て、私たちは出かける。小さなクーラーボックスに、皮をむいて切った桃を入れて。一緒にシャブリも入れて。 「見て、太陽が真上にあるわ」 パーキングで車を降りると、あなたはそう言って空を指差す。何故か勝ち...
pale asymmetry | 2020.08.10 Mon 21:25
JUGEMテーマ:ショート・ショート 重すぎる脚をギクシャクと動かして、ようやく家に辿り着いた。最早、痛みさえ感じない。扉を開けるとエアーコンディショナーの涼風を感じる。よく冷えていて、温かな我が家を感じる。キッチンでは、彼が鍋を覗き込んでいる。その背中はとても牧歌的だった。ここではない遠い国の、こことは全く違う文明を感じさせた。 「私の手は、汚れているかしら?」 彼は火を止め、振り返り、少し首を傾げた。 「おかえりなさい」 声はフラットで、だから安穏と響いた。その響...
pale asymmetry | 2020.08.05 Wed 21:28
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「例えばそうね、SOSのようなものかしら」 その向こう側に堕ちてしまった太陽をさげすむような声で、水平線を見つめたまま彼女が呟く。僕にかけられた言葉だったのか、降臨してくるはずの夜に向けられた言葉だったのかは、よく解らない。でも僕は応える。仕事の関係で今日は早起きしたので、少し眠かったから。 「誰からの、何に関するSOS?」 僕は持ってきた金属製のバケツに海水を四分の一ほど掬う。そして分離されたこの海は、太古からのこの惑星の記憶をコードとし...
pale asymmetry | 2020.07.29 Wed 20:51
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「世界って、すでにマンボウで溢れているのじゃないかしら?」 夕食の後、デザート代わりに金平糖を食べていたら、彼女が唐突にそう口にした。 「マンボ?」 「マンボじゃなくて、マンボウ」 「ああ、魚のマンボウね」 僕はまた一粒金平糖を口に運ぶ。僕は子供の頃から金平糖が大好きだった。色とりどりの金平糖を食べていると、自身の内側がその多彩な色に染まっているような気がして、何となく幸せな気分になったりするのだった。 「どうして、マンボウに溢...
pale asymmetry | 2020.07.24 Fri 20:24
JUGEMテーマ:ショート・ショート お祖母ちゃんからピアノが届いた。と言っても、お祖母ちゃんはもうこの世界にはいない。一足先に次の世界に旅立ってしまったから。次の世界では孫と祖母という関係ではなく、恋人同士として出会いたいな。僕はお祖母ちゃんに性的な魅力を感じていたから。もちろん一線は越えなかったけれど。と言うことをお祖母ちゃんが死んだときに両親に話したら、めちゃくちゃ怒られた。こういうことを口にしてしまうから、僕は両親に嫌われるのだろうな。で、実家には住めなくなって、姉さんと...
pale asymmetry | 2020.07.22 Wed 17:50
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