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JUGEMテーマ:ショート・ショート 「例えばそうね、SOSのようなものかしら」 その向こう側に堕ちてしまった太陽をさげすむような声で、水平線を見つめたまま彼女が呟く。僕にかけられた言葉だったのか、降臨してくるはずの夜に向けられた言葉だったのかは、よく解らない。でも僕は応える。仕事の関係で今日は早起きしたので、少し眠かったから。 「誰からの、何に関するSOS?」 僕は持ってきた金属製のバケツに海水を四分の一ほど掬う。そして分離されたこの海は、太古からのこの惑星の記憶をコードとし...
pale asymmetry | 2020.07.29 Wed 20:51
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「世界って、すでにマンボウで溢れているのじゃないかしら?」 夕食の後、デザート代わりに金平糖を食べていたら、彼女が唐突にそう口にした。 「マンボ?」 「マンボじゃなくて、マンボウ」 「ああ、魚のマンボウね」 僕はまた一粒金平糖を口に運ぶ。僕は子供の頃から金平糖が大好きだった。色とりどりの金平糖を食べていると、自身の内側がその多彩な色に染まっているような気がして、何となく幸せな気分になったりするのだった。 「どうして、マンボウに溢...
pale asymmetry | 2020.07.24 Fri 20:24
JUGEMテーマ:ショート・ショート お祖母ちゃんからピアノが届いた。と言っても、お祖母ちゃんはもうこの世界にはいない。一足先に次の世界に旅立ってしまったから。次の世界では孫と祖母という関係ではなく、恋人同士として出会いたいな。僕はお祖母ちゃんに性的な魅力を感じていたから。もちろん一線は越えなかったけれど。と言うことをお祖母ちゃんが死んだときに両親に話したら、めちゃくちゃ怒られた。こういうことを口にしてしまうから、僕は両親に嫌われるのだろうな。で、実家には住めなくなって、姉さんと...
pale asymmetry | 2020.07.22 Wed 17:50
JUGEMテーマ:ショート・ショート 僕らはリビングのラグに背中合わせで腰を下ろしていた。互いに体重を掛け合ってバランスを取りながら、互いに文庫本を読んでいた。僕が呼んでいたのは最新の、革新的な、先鋭的なSFと謳われた作品だったけど、先鋭的すぎるのか僕には退屈だった。とても面白いのにとても退屈な作品で、不可思議な感じがした。時間は、ときどき止まっているような感じで流れていた。堂々巡りしているような感じもした。 「A rolling stone gathers no moss って言葉を知ってる?」 彼...
pale asymmetry | 2020.07.20 Mon 20:44
JUGEMテーマ:ショート・ショート 窓辺のソファーには、眠りへと傾斜する柔らかさがある。だからそこに横たわる彼女は、ひたすら眠りへと転がり落ちているようだ。そのまま落っこちてしまっても良いのに、抗おうとしたりしている。まどを撫でる雨のせいだろうか。それとも、休日の安らかな午後を惜しんでいるのだろうか。僕はソファーに背中を預け、ひんやりとした床に両足を投げ出して、サイエンスマガジンを広げてはいたけれど、心はそこに向かってはいなくて、何となくこの午後の全体に拡散していた。 「この...
pale asymmetry | 2020.07.16 Thu 21:45
JUGEMテーマ:ショート・ショート ドキドキしている、風が止んだだけで。いいえ、正確には止んだわけではない。そのベクトルが変化し、そのエナジーが極々控えめな、貞淑なそれになったのです。だから吹いているのに、止んでいるのです。その二つの事象が、愛し合うように重なり合っているのです。 わくわくしている、その風が空気に纏わり付くだけで。そう、その風は確実に風景が内包している空気から剥離しているのです。この暑い風景から、残忍でそれ故に魅了されてしまう陽光が統治する暑い風景から、完全...
pale asymmetry | 2020.07.12 Sun 21:29
JUGEMテーマ:ショート・ショート 枕元の小さなLEDトーチだけが光を放っていた。それはとても小さな照射範囲だったので、何も照らしてはいなかった。これだけ物に溢れた世界なのに、そのトーチは何も照らし出してはいなかった。その様子が、僕にはとても誠実に思えた。 「ねえ、明日世界が始まるとしたら、あなたは何をする?」 彼女が囁く。その表情は見えない。とても奇妙な質問。いろいろなことを確認したかったけれど、質問に質問で返すのは僕たちの間ではルール違反だったから、僕はただ考えてみた。 ...
pale asymmetry | 2020.07.08 Wed 17:55
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「新しい様式って、ちょっと可笑しな響きじゃない?」 彼女が囁く。囁き声だったけれど、思ったよりも大きく響いたように感じた。空間が広すぎたせいだろうか。広いフロアには、たくさんのテーブルが並べられている。たぶん無限に挑戦できるくらいの勢いを持つ数くらい。 「可笑しな響き? どの辺りが?」 僕が聞き返すと、彼女はどこかはにかむように微笑む。 「うーん、新しいと様式をくっつけてるところかな。この二つをくっつける必要はないと思うんだ、私は」...
pale asymmetry | 2020.06.30 Tue 22:04
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「今日は、UFO記念日なんだって」 夕食を食べながら、彼女が言う。何故が企む表情で。 「へー、そんな記念日があるんだ」 「そう、あるんだ。でもどんな記念日だと思う?」 「どんなって?」 「私ね、思うわけ。実はUFOが初めてこの惑星にやって来た記念日じゃないかって」 「たぶんそうだろうね」 「え? あなたもそう思うの?」 「普通そうじゃない。UFOとされるものが初めて目撃された日とかじゃないのかな」 「そうじゃなくて、UFOがどこか...
pale asymmetry | 2020.06.24 Wed 22:05
JUGEMテーマ:ショート・ショート 真夜中に轟音。世界を震わせる。地響きがベッドから伝わってくる。心臓のリズムが乱される。半覚醒まで引き上げられ、雨の音を認識する。また轟音。音源はとても近くに感じる。振動が部屋の空気を隅々まで歪ませ、半覚醒からさらに半分ほど浮上してしまう。ゆるやかに目を開ける。足の方に仄かな光。誰かが仄かに光りながら立っている。僕の暗い部屋に。 「やあ、目覚めた?」 その声は僕だ。足下に目を向けると、仄かに光っているのは僕だった。僕と同じ相貌が、横たわる...
pale asymmetry | 2020.06.22 Mon 21:44
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