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JUGEMテーマ:ショート・ショート 今年九十七歳になる曾祖父の家に遊びに行った。家といっても、そこは島だ。小さな島全体が、曾祖父の家の敷地なのだ。どことも橋で繋がったりしていないので、海上タクシーで行くしかない。それ以前に国が違うので気軽にいける場所ではなかったけれど、何年かに一度何故か無性に行きたくなるのだ。その島は、年間の八十パーセント以上が雨の日なのだそうだ。それで僕は、その島を雨の島と呼んでいた。多分実際には正式な名前がなかったように思う。曾祖父に命名権があったのだけど...
pale asymmetry | 2020.01.15 Wed 17:43
JUGEMテーマ:ショート・ショート シロサイのように大きなダイニングテーブルに、僕たちは並んで腰掛けている。ブラインドはしっかりと閉じられていたけれど、外は良い天気だということが解るくらいに光子が忍び込んでくる。今日は雨の予報ではなかっただろうか。それとも僕の勘違いだろうか。あるいは雨の世界から晴天の世界にスリップしてしまったのかもしれない。ぼーっとしている間に。それくらい僕たちはのんべんだらりんと過ごしていた。休日だったから。二人の休日が重なるのは久しぶりだったから。 「雨...
pale asymmetry | 2020.01.10 Fri 21:45
JUGEMテーマ:ショート・ショート あなたは手足を投げ出して、呼吸は妖精の微笑だ。まぶたは固く閉じられ、それは宝箱のよう。奥には宝石が身を潜めているの。例えば今私が軽くまぶたを舐めたりすれば、その鍵を開けることが出来たりするのかな。でもしない。少し緊張しているような表情だから。重い夢を見ているのかもしれない。淀んだ法則に捕らわれているのかもしれないな。数学的に解くことなど出来ないだろうけど、数学は常に万能だから、一度だけ挑戦して見ようかしら。嘘、しません。 指先で頬にそっと...
pale asymmetry | 2020.01.02 Thu 20:49
JUGEMテーマ:ショート・ショート そのとき私はダイナーのカウンター席で、店主とバックギャモンの最中だった。時刻は午前三時を少し過ぎたところ。ウインドウの向こうの街路では、木々の枝葉が激しく揺れている。北西からの風が強まっているのだ。きっと街路はひどく寒いだろう。けれど店内は強すぎる暖房のせいで、私は少し汗ばんでいた。客は私一人。私はほとんど毎晩、この時間帯をここで過ごしていたけれど、この時間帯に開店している必要があるのだろうかと、実は毎晩のように思っていた。もちろん、いつも客...
pale asymmetry | 2019.12.29 Sun 21:18
JUGEMテーマ:ショート・ショート リブには六つの車輪が突いている。六輪はそれぞれ独自の回転数で駆動し、独自の方向に舵を切ったりする。だがらリブの動きは我が儘気ままだ。それはコミカルにも見えるし、エロチックにも見えるし、哲学的にも見える。クレバーでアグレッシブな冒険家にも見える。リブのボディは九つの部位から構成されている。それらは複雑で可動範囲の広いジョイントで繋げられていて、だからリブは自由だ。自身の欲求に忠実に従って、走りたいコースを遠慮なく走る。道はリブが作り出すもので、...
pale asymmetry | 2019.12.27 Fri 21:02
JUGEMテーマ:ショート・ショート 祖父が残した車は、真横から見ると凸型に見える。不思議な色をした車だ。白に見えるのに、光の加減で僕の皮膚の色にも見える。白っぽい皮膚、皮膚っぽい白。そんな色だ。だから、うっかりボディに手を突いたりすると、そのときの偶然の自然光や人工照明の加減で、手がボディに融けたように見える。そういうとき僕は思う。やっぱりこれは融けているのではないだろうかと。一瞬融けて、そして拡散して、これはいけないっと手が気づいて、そして慌てて戻ってきているのではないだろう...
pale asymmetry | 2019.12.26 Thu 20:49
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「今夜は、空を見上げてはいけないよ」 迎えに来てくれたパパは、歌うようにそう言った。プログラミング教室からの帰り道。街のキラキラが強すぎて、空なんて見えないんじゃないかと思えた。というか、とっくに夜空は街に飲み込まれているのじゃないかしら、と思えたりした。 「どうして。どうして空を見上げてはいけないの?」 パパは笑う。私の耳元に顔を近づけて、声を潜める。 「この夜は、僕らのものではないからだよ」 「じゃあ、誰のものなの?」 パ...
pale asymmetry | 2019.12.25 Wed 20:15
JUGEMテーマ:ショート・ショート 陽光は犬のように朗らかだった。皮膚に当たる光子はもふもふとして感じられた。それは明らかに粒子ではなく波だった。そうでないとしたら、私はこの世界を全く理解していないことになるだろう。そしてそれは同時にこの世界も、私のことを全く理解していないことになるだろう。雲一つ見当たらない空を見つめながら、そんなことを考えてみる。そうやって、時間を無益に消費する贅沢を堪能してみたりする。そういうことは、きっと不必要なことなのだろうと思う。私は。よくそんな立ち...
pale asymmetry | 2019.12.22 Sun 20:42
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「コウセイの翼がひどく傷ついてしまってさ」 という話し声が、後ろの席から聞こえてきた。外回りの仕事の後、遅めの昼食をファーストフード店で食べているときだった。コウセイの翼という響きが気になって、私は密かに耳をそばだてる。 「それは大変ね。船の運行に影響が出るのじゃないかしら」 「そうだね。多分出るだろうね」 どうやら、男女の二人が会話をしているようだ。 「どうするの。修理しないといけないのでしょう?」 「まあそうなんだけど、その...
pale asymmetry | 2019.12.19 Thu 21:31
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「あ、今タイムスリップしちゃった」 ダイニングのテーブルで夕食をとっていたとき、彼女が唐突にそう言った。右腕の腕時計をじっと見つめながら。 「え? 今? いつに? 僕も?」 彼女は質問の一つ一つを噛みしめるように考える。けれど回答は一つしか返ってこなかった。 「うーん、多分私だけだね。今あなたは何時?」 僕は腕時計をしていなかったので、ポケットからスマホを取り出し確認する。 「19時3分だよ」 「日付は?」 「2019年12月12日...
pale asymmetry | 2019.12.12 Thu 20:52
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