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JUGEMテーマ:ショート・ショート 「台風が近づくと、眠くならない?」 彼女が僕に訊く。庭とベランダを片付けた後、僕らはダイニングで温かいカフェオレを飲んでいる。ミルクの比率の高いカフェオレを、大きなボウルで、旅の途中のような気分で。台風が近づくと、僕はそんな気分になる。 「強い台風が近づくと、特に眠くなるの」 彼女のその声は、半ば眠りを纏っているようにも感じられる。カフェオレがそれを後押ししているのか、それとも引き留めているのかはよく解らない。 「台風によって、私は...
pale asymmetry | 2020.09.05 Sat 20:56
『青い星の子』 1。 2。 3。 4 出会い 涼SIDE。 5レガント星へ。
チームSECHS! | 2020.09.01 Tue 10:15
JUGEMテーマ:ショート・ショート 右足の親指を強く引っ張られて目が覚めた。庭を抜ける風の清廉な冷ややかさが心地良くて、縁側でいつの間にか眠っていたのだ。足下に目を向けると、十歳になったばかりの甥っ子がけれんのない眼差しを僕に向けている。僕と目が合うと、薄く笑う。僕の肌を冷ましている風のような笑顔だった。 「叔父さん、出かけるから着いてきて」 そう言うと庭に降り立ち、サンダルを履く。キラキラと光るビーズでたっぷりとデコレートされたサンダルだった。そのサンダルに負けないくら...
pale asymmetry | 2020.08.30 Sun 21:29
JUGEMテーマ:ショート・ショート ざわついた音が、外から聞こえてくる。カーテンがしっかりと閉じられていたから、外の様子は見えない。でもきっとざわついているのだろう。すごく大きなものが、大きすぎて僕らには存在さえ認識できないものが、あるいはそういう者たちが、戯れあっているのかもしれない。夏だから。 「ねえ、雨の代わりに空から好きなものを降らせるとしたら、何を降らす?」 傍らにいた彼女が、文庫本に落としていた目を僕に向ける。僕も雑誌から顔を上げる。僕らは肩を寄せて、ソファー...
pale asymmetry | 2020.08.27 Thu 20:56
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「こんばんわ」 声を掛けられ振り向くと彼女がすぐ後ろに立っていた。マスクをしていて、アイメイクをしていて、スーツ姿の彼女は、僕の知らない時間をまだ纏っている。 「こんばんわ」 僕は丁寧にお辞儀をしてみる。すると彼女も丁寧なお辞儀を返してくれる。 「お仕事帰りですか?」 「ええ。君も?」 「ええ、そうです」 彼女には僕はどう見えているのだろう。僕もマスクをしてスーツ姿だったから、少し異次元にシフトしているように感じたりしている...
pale asymmetry | 2020.08.19 Wed 21:56
JUGEMテーマ:ショート・ショート 大粒の雨は、地面を砕こうとするように落ちていたけれど、もちろん砕かれるのは彼らの方だった。それは地面がアスファルトだったからじゃない。世界の法則がそれを許さなかったからだ。その法則の外側に翻ることを、雨粒たちは望んでいたのかもしれないけれど、まあそんなことは起こりえない。世界は、特に最近の世界は、全く面白みのない悪循環に陥っているから。 「宝石みたいな雨だと思わない?」 隣に立つ彼女が独り言のように言う。声は雨音に纏わり付かれて、どこか...
pale asymmetry | 2020.08.15 Sat 21:41
JUGEMテーマ:ショート・ショート パンナコッタが食べたいの。フルーツが山盛りに乗っかったパンナコッタが。と彼にテキストを送り、彼を走らせる。私は家中の窓を全開にして、南風を、その全てを受け入れて待つの。それは例えば風の前世であり、風の来世であり、それを纏わり付かせる私の前世であり、私の来世でもあるの。 汗がどこにも逃げないから、私は服を脱ぎ、下着姿で床に横たわる。私は床の冷気を奪い、床は私の熱を奪う。風は私と床の交歓には関われないので、きっと嫉妬しながら天上辺りで渦を巻い...
pale asymmetry | 2020.08.11 Tue 21:29
JUGEMテーマ:ショート・ショート 「桃を食べたいの。それに相応しい場所で」 あなたがそう言うので、私たちは水着に着替えた。今年買った水着。でも多分今年は砂浜で着ることはないだろうな。私が着たのはあなたに選んで貰った水着。あなたが着たのは私が選んであげた水着。その上から服を着て、私たちは出かける。小さなクーラーボックスに、皮をむいて切った桃を入れて。一緒にシャブリも入れて。 「見て、太陽が真上にあるわ」 パーキングで車を降りると、あなたはそう言って空を指差す。何故か勝ち...
pale asymmetry | 2020.08.10 Mon 21:25
JUGEMテーマ:ショート・ショート 重すぎる脚をギクシャクと動かして、ようやく家に辿り着いた。最早、痛みさえ感じない。扉を開けるとエアーコンディショナーの涼風を感じる。よく冷えていて、温かな我が家を感じる。キッチンでは、彼が鍋を覗き込んでいる。その背中はとても牧歌的だった。ここではない遠い国の、こことは全く違う文明を感じさせた。 「私の手は、汚れているかしら?」 彼は火を止め、振り返り、少し首を傾げた。 「おかえりなさい」 声はフラットで、だから安穏と響いた。その響...
pale asymmetry | 2020.08.05 Wed 21:28
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