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気付けば太陽は、完全に夜の闇に落ち、辺りは暗い青に染まっていた。 動物の気配もなく、ただしっとりとした静寂が、崖壁の狭間に満ちている。 ケヴィットの炊いた小型ストーブの火が広場の中央でちりちりと燃え、その火を挟むように距離を置いて地面に座るケヴィットとフィニィを、夜と光の境に照らし出していた。 「――生まれは?」 ふいに発せられたケヴィットの問いに、フィニィは訝しげに眉を顰める。 「お前さんの、出身地」 そう補足すると、いよいよその眉間に、深く皺が刻まれる。 「そんなこと、訊いてどう...
白亜同盟 BLOG版 | 2012.11.26 Mon 00:07
ミクローシュ・フィニィ。 その名を知らない者は、この星にはもう存在しないだろう。 この星では、三年前にスロールの集団が決起し、自分たちの人種の復権を求め、主にレグナートが主権を握る政府に対しての、反抗運動を開始した。 彼らは一般のレグナート市民も巻き込んだ大規模なテロ、通称グレンツェンド・ナハトを引き起こし、以降スロール対レグナートという図式で、内戦状態が続いている。 スロール集団は、自らをエティール解放軍と称し、その数は数千に及ぶものであった。 だが、はるか昔より戦いの使命を持...
白亜同盟 BLOG版 | 2012.11.26 Mon 00:05
リヴレフの配達は、空を飛んで行われることがままある。ハングライド・モビールと呼ばれる、巨大な双翼を背負うような形の飛行用機体を用いて、だ。ケヴィットも実際、さっきまではそれを使ってこの上空を飛んでいた。 飛行中、その下(現在地から見れば上だが)の地上では、戦闘が起きていた。 数百体の遠隔操縦型(モード・ギニョル)のオランピアと、近接操縦型(モード・アルム)オランピアを操る一人の操縦士(コッペリウス)の戦いだった。 数だけを見れば、前者の圧倒的優位を想像するだろうが、実際にはその逆で、...
白亜同盟 BLOG版 | 2012.11.25 Sun 23:38
ぼんやりと空を見上げて、彼は小さくため息をついた。 灰色に染まった世界の中央が縦に避け、そこから水色をした中身が覗いているような、そんな景色が広がっていた。 実際には、両脇にそびえる崖壁の狭間から、亀裂のように空が見えているだけなのだが。 太陽の逆光によって影になった白い崖は、彼と同じくらいの身長の人間が二十人肩車をしたところで、頂上に手は届かないだろう。それくらい、高い。 日の光は崖下の地までは届かず、崖の影によって、辺りは冷え冷えとした空気が漂っていた。 「さてと」 ただこの...
白亜同盟 BLOG版 | 2012.11.21 Wed 17:29
夢を見ているようだった。 瞑想、昏迷。意識は曖昧で、それでいて鋭敏に研ぎ澄まされている。音、匂い、空気――彼を取り巻くあらゆるものが体を包み込んでいるように感じ、まるで温い海水の中にいるようだ、と思った。 両手両足首に枷のように巻きついた、黒く艶やかな機体の熱を感じながら、彼はほとんど習慣的に、右耳の下に手をやる。きちんと『接続』が為されているかを 確認するためだ。脳に到達するように、そこに手術でもって設けられた小さな接続用穴(アウトレット)には、右下腕に巻いた制御盤から伸びるコードのプ...
白亜同盟 BLOG版 | 2012.11.19 Mon 21:47
――オランピアって言うものはつまり、空の人形なのさ。 そう言うことを、ことも無げに言ってしまえるのが、ミクローシュ・フィニィという男だった。 まるでそれが息をするよりも簡単なことだとでも言うように、得意げな顔で、神経質に揃えられたその人種特有の白銀髪をしゃらりと揺らし、オランピアをいとも簡単に、自由自在に操って見せた。 ミクローシュ・フィニィという男は、いわゆる特権階級の家柄の出で、生まれた時からエリート街道に乗っかっていたような男だった。 そして、その特権とやらを、彼は最大限行使していた。...
白亜同盟 BLOG版 | 2012.11.17 Sat 15:25
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー Fifth day その日、快眠ができず複雑な思いを抱いたまま彼は起き上がる。昨日のことをひきずっていた。それほどにショックを受けたのは、彼と30(サン)だけ。教室には皆がいるであろう楽しそうな会話や足音が聞こえていた。それが妙におかしな感覚を呼び起こす。なぜ、ここまできて“平和“というものが存在するのか。 彼がいるのは荷物置き場のような小部屋だった。ここで彼はいつも寝起きしている。彼はとりあえず皆のもとに行こうと思い、支度を整える。「シェルター、起きてますか...
朽ち逝きる、最期の棲み処 | 2012.10.23 Tue 21:30
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー Third day 恐ろしいほどに、食料で困ることはなさそうだった。 「食べても食べても減らないとはまさにこのことだろうな」 彼はむしゃくしゃとおいしそうに食べる皆を見ながら言った。それを後ろに居る30(サン)は聞いていた。 「そうかもしれませんね。しかし、これは考えられないことではないはずですよね、シェルター」 「そうだろうな。彼らは他のことで“殺そう”としている」 彼の顔が歪んだ。眉間にしわを寄せ、近くには居ない「敵」の様子を想像しているようだった。 彼女も...
朽ち逝きる、最期の棲み処 | 2012.10.23 Tue 21:22
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー One day 何度も走る光と轟音に戦慄を覚え、彼は重い瞼を開けた。しかし彼はもう一度目を閉じる。目を閉じても開いても、視界は同じ暗闇だった。 彼は目を開けると、今度は上半身を起こし、辺りを見回した。 暗闇でははっきりと見えなかったものに、一瞬の光が照らされる。 彼のほかに何人かいるらしく、皆死んだように横たわっている。ここは、彼がいつも通う学校のようだった。それならばと、彼は教室の電気をつけ、職員室というプレートの下がる部屋に向かった。その間、あの教室以外に人...
朽ち逝きる、最期の棲み処 | 2012.10.23 Tue 21:10
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