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JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー 地面にそっと、横たわる少年。 懐かしい顔が、微笑んで、こちらを見ている。 レイ、だった。 エヴィンは、叫ぶ。 ティルラドは、にっこり笑った。 シェーダもリエも涙は流していたけれど、同じように輝く笑顔できらきらと笑っている。 そう、笑って……! 「レイィーーーーーっっ…!!!」 生きてる。 レイが、生きてる……! ...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.25 Sun 15:11
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー その冷静沈着さで名高い黒獅子ことアグリウス少佐は、その時はらしくもなく完全に慌てふためき、落ちつきなくわめきちらしていた。 炎熱に閉ざされたアシェードの鐘の周りは、若い兵が取り囲んでいる。赤く染まった夜の中で、イクセレアの住民を決して燃え盛る塔に近づけさせないよう、厳重体制がしかれていた。 だが、人は口々に叫んでいた。「赤い悪魔がまた現れた!」 と。 「下がれ! 下がらせるんだ! くそ…っ」 アグリウス少佐が舌打ちする。 その時、人混みがわっと、左右...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.24 Sat 22:14
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー 「レイ」 呼ばれて、レイは笑った。 「決めて、たんだ……」 そしてレイは、突然、口から真っ赤な血を吐いた。 エヴィンが起きあがれないのは、消耗のせいだった。 金の髪の少年は、無傷だった。 「昔……お前と出来なかったこと…、やろうって、全部な、…みんなで、やろうって…」「レ…イ」「お前、体、弱かったから……一緒に、走りたくて、…とっくみあいの喧嘩とか、してみたくて、…一度でもいい、…したくて、出来なかったこと、…やろうって……っ……」 レイの声...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.23 Fri 23:44
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー エヴィンは、肩で荒く息をしながら、ふと不思議なことに気づく。 どうしてだろう。体の変化は戻っていないのに。 硬質化した爪。増幅された筋力。エヴィル・ドールの力。それがあればレイの剣を一瞬でへし折ることなどたやすいはずだった。なのに、レイと対峙して、こんなにも長く決着をつけずにいることが出来ている。 力が弱っている? それとも、無意識が力の制御を? ……決闘は、公平でなければいけないということか? エヴィンは、あまりに皮肉な現実に、思わず苦い笑いを浮...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.22 Thu 12:39
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー 5 未来 小さな子供は、柔らかな毛布にくるまって、父の腕に抱かれていた。母は、既に亡かった。だが、それを理解するには子供は幼すぎた。 父親は、子供をあやしながら、かがり火を照り返す雪を見ていた。 「おとうさん」 子供が、顔を上げる。その頬が、ぬくもりで薔薇色に火照っている。 「毛布、あったかいね」 父は子供を抱きしめる。これで大丈夫だ。この子はもう、寒さで死ぬことはない。 「おかあさんにも、毛布あげなきゃ」 父は涙をこらえて、きつく子供を抱き...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.19 Mon 16:22
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー ※※※ それは夢だった。 エヴィンの寝室の窓から見える庭で、いつも駆けずり回っていたレイとスィエル。たくさんの友だち。かわるがわるエヴィンの窓辺に来て、銀杏の葉で作った狐を、雪でこしらえた兎を、育てて咲かせた一輪の花を、差し出しては笑ってくれた……みんな。 早く外で、一緒に走りたいな。そしたら毎日、学校でも会えるようになるよな! レイが言った。 エヴィンは何気ない顔をしていたけれど、本当はそれが、待ち遠しくてたまらなかった。 誰もいない時、一...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.18 Sun 22:37
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー エヴィンは、瞬間、過去を見た。 そうだ。あの時も、雪が降っていた。 爆発に、巻き込まれた仲間達。こんな自分を、命掛けで愛してくれた人もまた。多くの時を共に過ごした大切なみなの顔が、いくつもの破片に砕け、赤い肉片となって散らばっていた。 気づいた時には、腕の中に抱え込んだはずの、銀糸の少女の姿はなかった。 シェーダ。 遠く瓦礫の下に、白い細い、血まみれの腕が一本だけ見えた。自分の体も、血まみれだった。しかし、痛みは感じなかった。不思議と、頭は鮮...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.17 Sat 22:23
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー そうだ。 求めていた場所は、こんなに近くにあった。 「お、おい、将校さんよぉ!」 もう何も、聞こえなかった。今のエヴィンを支配しているのは、無意識だった。思考らしきものは何も浮かばず、理由も理屈も、いまの彼には何もなかった。 ただ、衝動。 なま暖かい風が吹いた。 それは地獄の火炎が産み出す風の幻。 屍肉の焼ける臭い。 血が燃える香り。 満ちるは、闇の臭気。 蒼があれば緋色があり、夜があれば昼がある。太陽と月が交互に入れ替わり、神々しい...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.16 Fri 17:50
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー もたれていた鉄枠から離れると、途端、エヴィンは少しふらついた。 額を、おさえる。 熱がさがらない。 「くそっ!」 鉄枠を、思い切り殴りつけた。 抜け出したことがばれたら、リエに甲高い声で散々説教されるだろうし、アルスは怒鳴り散らすだろうな。さすがに、熱がある時はおたまで叩いてはこないかな……。エヴィンは苦笑した。 そして、蘇ろうとしている故郷の夜景に背を向けた。 今自分に出来ること。今自分がしたいこと。しなくてはならないこと。わかっている。わかっ...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.12 Mon 13:32
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー 4 覚醒 いつも見つめていたのは、本当に遠い場所だった気がする。 それがどこなのか、解れば悩みはしない。 けれどその場所は、決してたどり着けないほどに遠い。 それだけは、よくわかっていた。 生きることから逃げ出したかったのか、それすら未だに、よくわからない。 生きていたくないわけではない。 今までの人生が、満ち足りていなかったわけではない。 しかし過去を思えば、炎と鮮血の記憶ばかりがべったりと脳裏にこべりつき、時たま蘇る記憶...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.12 Mon 13:23
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