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JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー エヴィンは、肩で荒く息をしながら、ふと不思議なことに気づく。 どうしてだろう。体の変化は戻っていないのに。 硬質化した爪。増幅された筋力。エヴィル・ドールの力。それがあればレイの剣を一瞬でへし折ることなどたやすいはずだった。なのに、レイと対峙して、こんなにも長く決着をつけずにいることが出来ている。 力が弱っている? それとも、無意識が力の制御を? ……決闘は、公平でなければいけないということか? エヴィンは、あまりに皮肉な現実に、思わず苦い笑いを浮...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.22 Thu 12:39
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー 5 未来 小さな子供は、柔らかな毛布にくるまって、父の腕に抱かれていた。母は、既に亡かった。だが、それを理解するには子供は幼すぎた。 父親は、子供をあやしながら、かがり火を照り返す雪を見ていた。 「おとうさん」 子供が、顔を上げる。その頬が、ぬくもりで薔薇色に火照っている。 「毛布、あったかいね」 父は子供を抱きしめる。これで大丈夫だ。この子はもう、寒さで死ぬことはない。 「おかあさんにも、毛布あげなきゃ」 父は涙をこらえて、きつく子供を抱き...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.19 Mon 16:22
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー ※※※ それは夢だった。 エヴィンの寝室の窓から見える庭で、いつも駆けずり回っていたレイとスィエル。たくさんの友だち。かわるがわるエヴィンの窓辺に来て、銀杏の葉で作った狐を、雪でこしらえた兎を、育てて咲かせた一輪の花を、差し出しては笑ってくれた……みんな。 早く外で、一緒に走りたいな。そしたら毎日、学校でも会えるようになるよな! レイが言った。 エヴィンは何気ない顔をしていたけれど、本当はそれが、待ち遠しくてたまらなかった。 誰もいない時、一...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.18 Sun 22:37
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー エヴィンは、瞬間、過去を見た。 そうだ。あの時も、雪が降っていた。 爆発に、巻き込まれた仲間達。こんな自分を、命掛けで愛してくれた人もまた。多くの時を共に過ごした大切なみなの顔が、いくつもの破片に砕け、赤い肉片となって散らばっていた。 気づいた時には、腕の中に抱え込んだはずの、銀糸の少女の姿はなかった。 シェーダ。 遠く瓦礫の下に、白い細い、血まみれの腕が一本だけ見えた。自分の体も、血まみれだった。しかし、痛みは感じなかった。不思議と、頭は鮮...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.17 Sat 22:23
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー そうだ。 求めていた場所は、こんなに近くにあった。 「お、おい、将校さんよぉ!」 もう何も、聞こえなかった。今のエヴィンを支配しているのは、無意識だった。思考らしきものは何も浮かばず、理由も理屈も、いまの彼には何もなかった。 ただ、衝動。 なま暖かい風が吹いた。 それは地獄の火炎が産み出す風の幻。 屍肉の焼ける臭い。 血が燃える香り。 満ちるは、闇の臭気。 蒼があれば緋色があり、夜があれば昼がある。太陽と月が交互に入れ替わり、神々しい...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.16 Fri 17:50
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー もたれていた鉄枠から離れると、途端、エヴィンは少しふらついた。 額を、おさえる。 熱がさがらない。 「くそっ!」 鉄枠を、思い切り殴りつけた。 抜け出したことがばれたら、リエに甲高い声で散々説教されるだろうし、アルスは怒鳴り散らすだろうな。さすがに、熱がある時はおたまで叩いてはこないかな……。エヴィンは苦笑した。 そして、蘇ろうとしている故郷の夜景に背を向けた。 今自分に出来ること。今自分がしたいこと。しなくてはならないこと。わかっている。わかっ...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.12 Mon 13:32
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー 4 覚醒 いつも見つめていたのは、本当に遠い場所だった気がする。 それがどこなのか、解れば悩みはしない。 けれどその場所は、決してたどり着けないほどに遠い。 それだけは、よくわかっていた。 生きることから逃げ出したかったのか、それすら未だに、よくわからない。 生きていたくないわけではない。 今までの人生が、満ち足りていなかったわけではない。 しかし過去を思えば、炎と鮮血の記憶ばかりがべったりと脳裏にこべりつき、時たま蘇る記憶...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.12 Mon 13:23
精霊の守り人シリーズ 最新作『炎路を行く者 -守り人作品集- 』 がいよいよ2012年1月発売になるそうです。「炎路を行く者」は、「蒼路の旅人」「ヨゴ皇国」の登場人物・ヒュウゴを主人公にした物語で、上橋菜穂子先生がずいぶん前から構想を発表されていたけれど、なかなか執筆されずに、ファンの間では「幻の外伝」になっていました。それが今回ようやく発刊となりました。 今回の主人公、アラユタン・ヒュウゴは、女用心棒バルサや新ヨゴ皇国・チャグム皇子と敵対するタルシュ国の密偵ですが、もともとはチャグムの国・新ヨゴと...
日々の書付 | 2011.12.12 Mon 01:19
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー 「お待ちしておりました。少佐」「うむ。ユリシーズ少尉。例のモノは?」「こちらです」 敬礼をしてから、シェーダは、鎧戸を閉ざして歩んできたアグリウス少佐を奥へと招いた。少佐の背後に、誰もいないことを確認してから。 アグリウス少佐が、太い腕で、ぐいとシェーダの指した床を持ち上げた。取っ手などがついているわけではない。閉じてしまえば、全くなんの変哲もない床だ。 「気づかないのも無理はありません。……というよりも、気づかれなくてよかったと、言った方がよいでしょう...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.11 Sun 18:53
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー ※※※ 「本隊より入電! 閣下は明朝お着きになるそうです」「わかった。皆は作業を続けろ! 私は少々場を空ける」「はっ!」 ウィルシード国軍少佐官、セイント・ウォリアーズ所属、ヴィクトール・アグリウス。「黒獅子」の二つ名で呼ばれる彼は、国軍聖大使ティラの忠実な腹心の一人だった。 筋骨隆々としたその体躯は見事だが、内面は朴訥とした実直な男だ。体に不調をきたしたエヴィンことリスバーン准佐の、イクセレアの住民に対するそのカリスマ性が無くとも、その誠...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.10 Sat 21:43
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