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JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー 草原の上の小高い丘をのぼると、空はずいぶん近くなる。エヴィンは流れていく雲の海のその雄大さに、しばし心奪われて立ちつくしていた。 風は、だいぶ暖かくなった。 イクセレアは、まだ完全に復興しきってはおらぬものの、元の活気を取り戻しつつあった。そんな、春がそこかしこに息づきはじめる季節。 17歳になった蒼穹の騎士・エヴィンは、イクセレア復興の仕事を後任に引き継ぎ、勉学のために首都に戻ってからも、安息日の度に列車に乗り、よく故郷の地に日帰りで訪れてい...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.27 Tue 18:15
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー 青空に、白い鳥が飛んでいく。 何日ぶりだろうか。曇天が晴れ、爽快な日差しがイクセレアに降り注いでいた。 青空と全く同じ色をした瞳が、優しく街を見渡していた。その瞳の長い金の睫が、陽光に真白く透けて輝いていた。 今日のイクセレアは、とても暖かい。思わず、笑みがこぼれる。 【神具】は、聖大使が破壊したらしい。詳しいことは知らない。聞く必要もなかった。心から、信頼していたから。 以来熱はすっかり冷め、養生の末に体力も戻り、エヴィンの体調は今や良好そ...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.26 Mon 13:00
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー 地面にそっと、横たわる少年。 懐かしい顔が、微笑んで、こちらを見ている。 レイ、だった。 エヴィンは、叫ぶ。 ティルラドは、にっこり笑った。 シェーダもリエも涙は流していたけれど、同じように輝く笑顔できらきらと笑っている。 そう、笑って……! 「レイィーーーーーっっ…!!!」 生きてる。 レイが、生きてる……! ...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.25 Sun 15:11
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー その冷静沈着さで名高い黒獅子ことアグリウス少佐は、その時はらしくもなく完全に慌てふためき、落ちつきなくわめきちらしていた。 炎熱に閉ざされたアシェードの鐘の周りは、若い兵が取り囲んでいる。赤く染まった夜の中で、イクセレアの住民を決して燃え盛る塔に近づけさせないよう、厳重体制がしかれていた。 だが、人は口々に叫んでいた。「赤い悪魔がまた現れた!」 と。 「下がれ! 下がらせるんだ! くそ…っ」 アグリウス少佐が舌打ちする。 その時、人混みがわっと、左右...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.24 Sat 22:14
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー 「レイ」 呼ばれて、レイは笑った。 「決めて、たんだ……」 そしてレイは、突然、口から真っ赤な血を吐いた。 エヴィンが起きあがれないのは、消耗のせいだった。 金の髪の少年は、無傷だった。 「昔……お前と出来なかったこと…、やろうって、全部な、…みんなで、やろうって…」「レ…イ」「お前、体、弱かったから……一緒に、走りたくて、…とっくみあいの喧嘩とか、してみたくて、…一度でもいい、…したくて、出来なかったこと、…やろうって……っ……」 レイの声...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.23 Fri 23:44
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー エヴィンは、肩で荒く息をしながら、ふと不思議なことに気づく。 どうしてだろう。体の変化は戻っていないのに。 硬質化した爪。増幅された筋力。エヴィル・ドールの力。それがあればレイの剣を一瞬でへし折ることなどたやすいはずだった。なのに、レイと対峙して、こんなにも長く決着をつけずにいることが出来ている。 力が弱っている? それとも、無意識が力の制御を? ……決闘は、公平でなければいけないということか? エヴィンは、あまりに皮肉な現実に、思わず苦い笑いを浮...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.22 Thu 12:39
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー 5 未来 小さな子供は、柔らかな毛布にくるまって、父の腕に抱かれていた。母は、既に亡かった。だが、それを理解するには子供は幼すぎた。 父親は、子供をあやしながら、かがり火を照り返す雪を見ていた。 「おとうさん」 子供が、顔を上げる。その頬が、ぬくもりで薔薇色に火照っている。 「毛布、あったかいね」 父は子供を抱きしめる。これで大丈夫だ。この子はもう、寒さで死ぬことはない。 「おかあさんにも、毛布あげなきゃ」 父は涙をこらえて、きつく子供を抱き...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.19 Mon 16:22
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー ※※※ それは夢だった。 エヴィンの寝室の窓から見える庭で、いつも駆けずり回っていたレイとスィエル。たくさんの友だち。かわるがわるエヴィンの窓辺に来て、銀杏の葉で作った狐を、雪でこしらえた兎を、育てて咲かせた一輪の花を、差し出しては笑ってくれた……みんな。 早く外で、一緒に走りたいな。そしたら毎日、学校でも会えるようになるよな! レイが言った。 エヴィンは何気ない顔をしていたけれど、本当はそれが、待ち遠しくてたまらなかった。 誰もいない時、一...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.18 Sun 22:37
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー エヴィンは、瞬間、過去を見た。 そうだ。あの時も、雪が降っていた。 爆発に、巻き込まれた仲間達。こんな自分を、命掛けで愛してくれた人もまた。多くの時を共に過ごした大切なみなの顔が、いくつもの破片に砕け、赤い肉片となって散らばっていた。 気づいた時には、腕の中に抱え込んだはずの、銀糸の少女の姿はなかった。 シェーダ。 遠く瓦礫の下に、白い細い、血まみれの腕が一本だけ見えた。自分の体も、血まみれだった。しかし、痛みは感じなかった。不思議と、頭は鮮...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.17 Sat 22:23
JUGEMテーマ:オリジナルファンタジー そうだ。 求めていた場所は、こんなに近くにあった。 「お、おい、将校さんよぉ!」 もう何も、聞こえなかった。今のエヴィンを支配しているのは、無意識だった。思考らしきものは何も浮かばず、理由も理屈も、いまの彼には何もなかった。 ただ、衝動。 なま暖かい風が吹いた。 それは地獄の火炎が産み出す風の幻。 屍肉の焼ける臭い。 血が燃える香り。 満ちるは、闇の臭気。 蒼があれば緋色があり、夜があれば昼がある。太陽と月が交互に入れ替わり、神々しい...
三日月の聖書〜Crescent Bible 波濤の戦士達 | 2011.12.16 Fri 17:50
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