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JUGEMテーマ:小説/詩 「咲ちゃん」茫然と、木之花を呼ぶ。 「――はい」木之花は何かを察知した様子で、慎重に答える。「何か、来ました?」 「うん」恵比寿は相変わらず茫然としている。「納品書」 「納品書?」神たちは異口同音に訊き返した。「どこから――」そして異口同音に問いかけ、異口同音に絶句した。「まさか」 「マヨイガから」恵比寿が答える。「サンプル納品、って」 ◇◆◇ 「消えちゃったねえ、啓太君」結城が上方を見回しながら残念そうに言う。「まだどっかその...
葵むらさき言語凝塊展示室 | 2022.05.20 Fri 11:39
するり、とそうするのが当然のように掬いとられた手に、彼女は視線を上げた。 そこには当然今の今まで傍にいた彼がいて、右手一つで何故か彼女のその手を撫でる。そこにはそれ以上の意味など感じ取れず、無口で無表情の彼が一体何故そうしているのか全くわからなかった。 私の手が何か?そう訊いても、己の感情の機微を滅多に口にもしてくれない彼からはやはり言葉は返らない。別段嫌なわけでもないし、彼に限ってそこから何か甘やかな意味を含む展開になるはずもないので、彼女は諦めて彼の好きにさせた。そうすると、優しく撫...
雪乃に!サイコロ振らせろ!! | 2022.05.17 Tue 23:51
みえるのはボールあそび たまがひとつ みぎへいったりひだりへいったり そしてそれにつられて右往左往するこどもたち いまのわたしにできるのはそれをながめるだけ もちろん ほほえんだりはらはらしてもいいのだけれども みえるのは殺戮 たからかにわらっているのはたったのひとりで ほかはだれもにげまどうばかりだ 必死とはこのことなのだろう それはきのうのひるさがり いまはただすなぼこりがまうだけなの ではどうして わたしにそれがみえるのか わたしにわかれをつげるひとがいる てをふって さっきまでこの部屋...
with a kiss, passing the key | 2022.05.15 Sun 00:00
JUGEMテーマ:小説/詩 「鯰」鹿島は反射的に池の傍で膝を曲げ、その次の瞬間には自らも池の中に頭から飛び込んでいた。 「鹿島さん!?」恵比寿が叫んで立ち上がる。 池の径は三メートル程もあるが、深さは人間の身長の半分ほどもない筈だ。そこに頭から飛び込むというのは、無謀な行動に思えた。池の水面は大きく波打っている。 「――」恵比寿は茫然と波打つ水面を見詰めた。 何も、浮かび上がっては来ない。鹿島も、鯰も。 「――ま、さか」恵比寿は茫然と呟く。 「鹿島さん」 「鹿島さん」 「え、今どこに...
葵むらさき言語凝塊展示室 | 2022.05.13 Fri 10:24
「兄ちゃん、火ぃ貸してくれよ」 喫煙室で声をかけられた。中肉中背、くたびれたグレーのスーツに臙脂のネクタイ。顔に靄がかかっててよく見えない。 胸ポケットからライターを取り、どうぞと出しても相手は受け取らない。仕方なく擦って火をつけると、無骨な手の向こう、眩しそうに細められる目が見えた。すまんねえと声が言う。ふーっと吐き出された煙で室内が曇る。換気扇仕事しろ。 俺が黒い機器を取り出すと、声の主は笑った。 「電子かよ。なんでライター持ってんだ」 「両方吸うんですけど、ちょうど切らしてて」 ...
水平線上の雨 | 2022.05.11 Wed 08:26
JUGEMテーマ:小説/詩 「田中さんと連絡ついた?」磯田はスマホに向かって叫ぶように訊く。「ええ? もう帰ってる? ああもう」唸る。「他の人じゃ対応できないの? 緊急なんだけど。ああそう。どれ位で来てもらえるの? そんなにかかるの? ああもう」再度唸る。 伊勢は口では黙っていたが、内心では社の者とコンタクトを取っていた。 「“あの出現物”以外にも新人を引きずり込もうとする奴が出て来てるってことなら、やっぱり対処するには、あれしかないんじゃないすかね」 「あれ?」住吉が...
葵むらさき言語凝塊展示室 | 2022.05.06 Fri 11:47
問一:三人称限定視点を素早く切り替えること。六〇〇〜一二〇〇文字の短い語り。同じ活動や出来事の関係者が数人必要。 複数の様々な視点人物(語り手含む)を用いて三人称限定で、進行中に切り替えながら物語を綴ること。 空白行の挿入、セクション開始時に括弧入りの名を付すことなど好きな手法を使って、切り替え時に目印をつけること。 地軸はクロカワ先輩の指ひとつでいとも簡単に夜に傾いた。墨で染まった指先が昼をひっくり返す。烏の濡れ羽色の髪が揺れる。抵抗も虚しく、シロヤマは森の奥に誘われ、暗がりから猛...
水平線上の雨 | 2022.05.02 Mon 00:50
JUGEMテーマ:小説/詩 「のんびりと過ごしていた」新人たちが言葉を失っている間に、その声は言葉を繰り返した。 「誰すか?」結城が問いかける。 声は止んだが、数秒後「草食の、俺達は」と言葉を続けた。 「俺達さん、どなたすか?」結城が主語不明の問いかけを繰り返した。 声はまた止んだが、数秒後「喰ったり、寝たり」結城の問いかけとは違う次元の話を繰り出し始めた。「茫としたり、喋ったり、遊んだりしていた」 「何? この人」結城が人差し指を上の方へ向け、他の二人を見て問いかけた。 「新...
葵むらさき言語凝塊展示室 | 2022.04.29 Fri 11:06
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