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JUGEMテーマ:日本文学 ★全文紹介 vol,2/19 この土地では松が育たないそうで、それは「堀の三本松が一本だけにされた報い」だともいわれているが、確かに、芳爺さんの家に近い、堀端にある老松の外に松らしい松は一本も見当たらなかった。 そのひねこびた松並木を挟んで、枯れた芦の茂みがところどころに見える、それらはみな沼か湿地で、川獺(かわうそ)や鼬(いたち)が棲んでいると言われ、私も川獺は幾たびか見かけたし、それを捕獲して毛皮屋へ売ってもうけようとしたこ...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.08.27 Sat 20:10
JUGEMテーマ:日本文学 ★全文紹介 vol,1/19 私は青べかを二ついりへ漕ぎ入れ、細い水路を二百メートルほどいった、川柳の茂みのところに繋いで、釣竿をおろした 三月初めの曇った日で、風は無く、浅い水路の水は淀んだように澄んでおり、実際には流れているのだが、殆ど静止したままのように見えた。 私は竿を下ろしてから、青べかの中へゆっくり坐りなおし、タバコを出して火をつけた。 そこは百万坪のほぼ中央に当たっていた。 北の方に遠く、...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.08.26 Fri 22:11
JUGEMテーマ:日本文学 ★全文紹介 ◆◆最終回◆◆ vol,21/21 増さんは恥ずかしそうに眼をしばしばさせ、右手で、銀色の不精髭の伸びた頤を擦(さす)った。 「どうか殺さないでおくれって」 と増さんは少しまをおいて云った、 「おらを見た眼つきと、そう云うのを聞いた時、おらそれまでに自分のしてきたことを、 洗いざらい一遍に見せられたような気がしただ、 なんもかんも一遍によ、 まさか嘘かと思うかもしれねえが、おらそん...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.08.25 Thu 22:28
JUGEMテーマ:日本文学 ★全文紹介 vol,20/21 「つまらねえ、あんなことっくれえなんでもねえだよ」 と増さんは云った。 「このおらがおっかあにしたことに比べれば、あんなことっくれえ蜂の頭みてえなもんだ」 「先生は知るめえがね」 と増さんは続けて云った。 「おっかあを跛(びっこ)にしたのはこのおらだ、おらがこの手でやったこった、 この手でおっかあの髪の毛をつかんで、うちの中じゅう引き摺りまわし、 殴ったり蹴...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.08.25 Thu 22:03
JUGEMテーマ:日本文学 ★全文紹介 vol,19/21 平治郎老人の話は以上のものであった。 私は「天鉄」で増さんを見かける度に、段々と親しい気分になり、ちょっと懐に余裕があると、ビール一本とか、酒一本位を奢ったりした。 増さんは悪く遠慮をせず、すなおに喜んで受け、自分の更にある天ぷらを 「摘(つ)まんでくれ」 と云ってすすめたりした。 例の鯊やめごちや車海老などの、頭と尻尾(しっぽ)と骨だけの天ぷらである。 その...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.08.24 Wed 19:51
JUGEMテーマ:日本文学 ★全文紹介 vol,18/21 相変わらず酒は飲むけれども、増さんは決して酒乱にはならなかったし、喧嘩などもしなかった。 大蝶の工場で雑役のような事をやっているうちに、大蝶の若旦那の口利きで、漁業組合へ勤めるようになった。 もちろん妻に乱暴するなどということは無い。きみのは完全な跛(びっこ)になったため、水汲みや薪’(まき)作り、買い物などは増さんが引き受けた。 そればかりか、前に記したように、銭湯へ...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.08.23 Tue 20:38
JUGEMテーマ:日本文学 ★全文紹介 vol,17/21 増さんはまた大蝶へ通いだした。 もう若旦那の代になっていて、若旦那と云っても年は四十がらみだったが、亡くなった大旦那から聞いていたのだろう、若旦那も鉄砲打ちが好きで、その季節になって猟に出かける時、増さんにお供を命じたが、増さんはそのたびに断り、どうしても一緒には行かなかった。 それについて増さんは一度だけ 「大旦那の時に大きなしくじりをやらかしたから」 ともらし...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.08.23 Tue 15:29
JUGEMテーマ:日本文学 ★全文紹介 vol,16/21 きみのは殺されはしなかった。 明くる朝そっと、平次郎の家の勝手口に来て、済まないがお米を少し貸してくれ、と云った。 眼の周りに青あざが出来てい、顔全体が腫(は)れ上がり、片方の足を痛そうに引き摺っていた。 あとでわかったのだが、きみのはその時左の足の骨を折っていたので、隣とはいえよく歩いてこられたものだと、医者が云ったそうである。 足の骨折で、きみのは工場へ勤めに...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.08.22 Mon 21:53
JUGEMテーマ:日本文学 『家鴨(あひる)』山本周五郎・新潮文庫刊 ★全文紹介 vol,15/21 帰って来て、家へ入るといきなり始めたのであった。 留守の間に男を作った、ちゃんと聞いて来たと云うのが理由で、一度途中で焼酎を買いにやり、それを飲んでから又始めた。 「あんまりひでえんでよ、おら聞いていられなかった」 と平次郎は云った。 「もう夜の十時くれえだったが、おっかあやがきを伴(つ)れて外へ出ちまっただ、うちのおっかあは駐在...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.08.21 Sun 19:40
JUGEMテーマ:日本文学 『家鴨(あひる)』山本周五郎・新潮文庫刊 ★全文紹介 vol,14/21 帰って来るのも全く突然であった。 まるで朝出かけた者が夕方に帰って来た、といった様子で、家へ入るなり、(きみのがいれば)「めし」とか「酒」とか云う。 君のが工場へ出ている時だと、山崎屋という酒屋で立ち飲みをしていて、きみのに、 「銭を持ってこい」 と使いを出すというぐあいであった。 夫婦には子供が無かった。 増さんが道楽の揚句...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.08.20 Sat 20:48
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