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日本に生まれた我々が、
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「青べか物語」『砂と柘榴(ざくろ)』 vol,4/21 山本周五郎・新潮文庫刊

JUGEMテーマ:日本文学   ★全文紹介   vol,4/21     それから力尽きて、梯子の桁(いた)に手をかけ、全身でもたれかかって眠ってしまい、知らせを聞いて駆け付けた妻女によって、家へ連れ去られたのであった。   こうして山口屋の披露宴は事無く終わり、五郎さんと花嫁とは、客たちより先に家へ帰った。 ここまでは五郎さんの運命もほほ笑んでいた。   彼自身は高等小学校しか出ていないのに、花嫁は東京の女学校を卒業していた。 彼が貧相で見栄えのしない...

「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/   | 2022.10.04 Tue 17:22

「青べか物語」『砂と柘榴(ざくろ)』 vol,3/21 山本周五郎・新潮文庫刊

JUGEMテーマ:日本文学   ★全文紹介   vol,3/21     誰も止める者は無かった。   こういう興味深いものを途中で止めるような、おせっかいな人間は浦粕には絶対にいないのである。   彼等はわに久を遠巻きにして、げらげら笑ったり、けしかけりようなことを云ったりした。   わに久は懸命に梯子をよじ登ろうとするが、ニ三段登るとずるずる落ち、またニ三段登ると落ちてしまうので、倍増し腹を立てた。   「悪いいたずらだ」 と彼は怒鳴っ...

「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/   | 2022.10.03 Mon 21:26

「青べか物語」『砂と柘榴(ざくろ)』 vol,2/21 山本周五郎・新潮文庫刊

JUGEMテーマ:日本文学   ★全文紹介   vol,2/21     結婚式はかなり派手に行われた。   披露の宴会は「山口屋」の大広間を使い、招待された客は町長はじめ二十余人、 皆旦那衆と呼ばれる人ばかりで、お引き物の折詰には目の下尺二寸の鯛が入っていたという。   招待されなかった消防組長のわに久は、はらだちまぎれに酔っぱらったあげく、火の見櫓(やぐら)へつかまって暴れた。     「あの宴会をぶち壊してくれるだ」 とわに久はどなっ...

「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/   | 2022.10.02 Sun 22:05

「青べか物語」『砂と柘榴(ざくろ)』 vol,1/21山本周五郎・新潮文庫刊

JUGEMテーマ:日本文学   ★全文紹介   vol,1/21     堀の洋品雑貨店「みその」の息子が嫁を貰った。   息子の名は五郎、年は二十四、町の人たちはごろさんと呼んでいた。 嫁はゆい子といい、年は二十四。   この町から四キロほど川上にある篠崎の者で、実家はかなりな地主だといわれていた。   五郎さんは温和(おとな)しい性分であった。 背丈は五尺一寸くらい、痩せていて、顔は蒼白く、いつもて指の爪をかじる癖があった。   家族...

「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/   | 2022.10.01 Sat 21:37

「青べか物語」『繁 (しげ ) あね』ラスト vol,19/19山本周五郎・新潮文庫刊

JUGEMテーマ:日本文学   ★全文紹介 最終章(ラスト) vol,19/19     「ああつまんね」 と繁あねが云った、   「いくら見てえても釣れやしねえに、おらいくべ」 私は又タバコの火をつけた。   「へたくそだな、先生は」 とお繁は立ち上がりながら云った、   「こんなへたくそな釣り、おんだらまだ見たこともねえ」 私は黙って沼の方を眺めた。   お繁の歩き去るのが聞こえ、まもなく、彼女のうたうわらべ唄が聞こえて来た。  ...

「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/   | 2022.09.30 Fri 22:25

「青べか物語」『繁 (しげ ) あね』 vol,18/19山本周五郎・新潮文庫刊

JUGEMテーマ:日本文学   ★全文紹介   vol,18/19   これが繁あねなのだ。 しかもその身体は今、内部から新しい彼女を創り出しつつある。   私の眼に映った美しい部分には、成長する新しい命というものが脈打っているように感じられた。   そうだ、まだ子供っぽい腰つきにも、どこやらまるみがあらわれ、平たい胸にもいくらかふくらみがうかがわれる。 野生丸出しの好戦的な眼はうるみを帯び、薄い唇は活き活きと赤く湿りをもってきた。   或る時は妹を背負...

「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/   | 2022.09.29 Thu 21:34

「青べか物語」『繁 (しげ ) あね』 vol,17/19山本周五郎・新潮文庫刊

JUGEMテーマ:日本文学   ★全文紹介   vol,17/19     「ぬかすな、吉」 とお繁はやり返す、   「墓場の物を喰うぐれえが何だ、おめえのおっかあなんかもっとげんがだぞ、中堀の巳之なあことくっついて、夜中になると海苔漉(こ)きへ行って寝るだ、   おんだら見てちゃんと知ってるだ、嘘だと思ったら、田島の漉き小屋へ夜中に行ってみろ、二人で一緒に寝て、尻尾を踏んづけられた犬みてえな声だしてるだから、げんがたおめえらのことを云うだ」   そ...

「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/   | 2022.09.29 Thu 21:25

「青べか物語」『繁 (しげ ) あね』 vol,16/19山本周五郎・新潮文庫刊

JUGEMテーマ:日本文学   ★全文紹介   vol,16/19     漁師の持っている提灯の光りの中で、お繁はじろっと白い眼を向ける。   「いけ、ま」 と少女は云う、 「おんだらのことより早く行って海苔を拾うがいいだよ」   或る日、お繁は消防の白いポンプ小屋の脇で、 垢だらけの妹に小用を指せている。   また町の家並の裏をひっそりと歩いているし、 或る夜は若い漁師が、ひび置場の蔭でお繁を見つけ、 慌てて、連れの娘とほかの場所を捜しに...

「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/   | 2022.09.27 Tue 22:08

「青べか物語」『繁 (しげ ) あね』 vol,15/19山本周五郎・新潮文庫刊

JUGEMテーマ:日本文学   ★全文紹介   vol,15/19   町役場で二人の面倒を見ることになったが、現実的には何もしなかった、と云うのが正しい様である。   お繁は役場へ近寄らず、ごったくやや洋食屋の裏を回ったり、墓場の供え物をあさったりして食べ、夜になると、海苔焼き小屋であれ、消防のポンプ小屋であれ、どこかの納屋であれ、好きな場所で寝た。     乳飲み子の妹をどうやしなったかは誰も知らないが、赤子は丈夫そうに育っていた。 お繁はどこのいるかわ...

「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/   | 2022.09.24 Sat 20:07

「青べか物語」『繁 (しげ ) あね』 vol,14/19山本周五郎・新潮文庫刊

JUGEMテーマ:日本文学   ★全文紹介   vol,14/19   或る日、源太は山城屋に飲みに来た。 彼は助二郎の帳面のつけで焼酎を呷り、いくらでも呷った。   「逃げて見ろ」 と酔った源太は蒼い顔で笑いながら云った。   「逃げられるものなら逃げて見ろ、へ、いまに二人とも捉めえて火祭りにしてくれるぞ」 そして、源太も出奔した。   お繁と乳飲み子の妹とは、こうして親たちに捨てられたのであった。 町では二人を引き取ろうと言う者は無かった。 &n...

「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/   | 2022.09.22 Thu 22:19

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