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JUGEMテーマ:日本文学 ★全文紹介 vol,15/21 この種のゴシップは、どこの土地でも広まりやすい者だが、ことに浦粕ではもっとも歓迎される特報で、たちまちち少年少女のあいだにまで伝わってしまった。 このこまっしゃくれた少年少女たちは、五郎さんの店の前を通る時、声をそろえて喚いた。 「みそのでは幟(のぼり)もおっ立たない」 この町筋の商店は、店の脇にみな幟(のぼり)を立てているが、「みその」は店名を染めたがたん(軒に陽除けのようにおろす幕...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.10.18 Tue 21:32
JUGEMテーマ:日本文学 ★全文紹介 vol,14/21 五郎さんは答えに困った。 「これってことはなかっただ、あの人もまたこれから嫁にゆくだろうしな、ほんとうにこれっていうほどのことはなかっただよ」 友人たちは代わる代わる訊いたし、いろいろと近所の評をさぐってみたが、それほど骨を折る暇もなく、第一級の情報を掴むことが出来た。 それは、篠崎へ貝を売りに行く女が聞いて来たもので、 ゆい子は五郎さんが男で無かったから帰った、...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.10.17 Mon 17:19
JUGEMテーマ:日本文学 ★全文紹介 vol,13/21 「そんなあべこべな話は請け合えねえだな。」 と五郎さんの父親は云った。 「家風に合わないとはこっちの云うことだべが、嫁の方から家風に合わない何ぞと云われては筋が立たねえべ、そんな話は真っ平御免蒙(こうむ)るだよ」 仲人はもっともだと合点して帰り、それから数回、両家の間を往復した後、五郎さんの方で「家風に合わないから離縁した」 という名目を立て、正式に離婚が決まると、ゆい子の...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.10.16 Sun 19:58
JUGEMテーマ:日本文学 ★全文紹介 vol,12/21 主人はいかにもコックらしく、白い上っ張りに前掛、頭にも白い茸形のコック帽をかぶっているし、二人に若い女給もきちんとエプロンを羽織っているという風で、客が酔って騒いだりすると、主人のコックが出て来て摘まみだすと言われ、そのためかどうか、若い衆と云われる人たちは殆どよりつかなかった。 五郎さんはその「四丁目」へ飲みに行き、それからは毎晩、店を閉めるとすぐ飲みに行った。 こういう状態が長く続くものでは...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.10.15 Sat 21:56
JUGEMテーマ:日本文学 ★全文紹介 vol,11/21 『もう昨日で喪が明けたよ。』 そう云おうと思った。 口まで出かかったのであるが、五郎さんはそれを飲みこんでしまった。 急に【男の意地】といったような、かたくなな気分がこみあげて来、 『勝手にしやがれ、』 と肚(はら)の中で怒鳴った。 『そっちがそうするならこっちもこっちだ、知るもんか』 と彼は肚の中で続けて怒鳴った。 七十七日目の夜も同じ、次の夜...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.10.14 Fri 22:16
JUGEMテーマ:日本文学 ★全文紹介 vol,10/21 ゆい子は毎晩夜具の周りに砂の垣を作った。 だんだん口数が少なくなり、顔色もさえず、いつもひどく疲れ果てたように、動作がぐったりと重たげに見え、また夜も熟睡が出来ないようであった。 時分でも喪が重荷になって来たんだな。 五郎さんはそう推察し、心の中で、カレンダーがあと三枚になった事を確かめた。 そうしてその三枚目も剥がされて、つまり七十六日目の夜になった時...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.10.11 Tue 23:50
JUGEMテーマ:日本文学 ★全文紹介 vol,9/21 ゆい子は家事になれない様子で、飯の炊き方もうまくないし、拭き掃除や洗濯なども、時間ばかりかかってとんと片付かなかった。 五郎さんの妹は十二歳になるので、もう男よりもそんなことに眼がつくらしく、父や兄に向って、頻りに兄嫁の批判をした。 「うちの事が出来ないんなら、お店へ出ればいいじゃないの」 と妹は云った。 「どうしてお店へ出さないの、兄ちゃん」 ...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.10.10 Mon 18:58
JUGEMテーマ:日本文学 閉館した水月ホテル鷗外荘が、鷗外ゆかりの根津神社に移転、の記事が『東京新聞』に載った。 「鷗外荘」は何度も訪れ、知友との会食の場にもなった。閉館のニュースでその消失が惜しまれたが、保存、移転が決まったことはまことに喜ばしい。
見る 読む 歩く | 2022.10.10 Mon 10:43
JUGEMテーマ:日本文学 ★全文紹介 vol,8/21 五郎さんはいくらかむっとして、何がいいのかと反問した。 すると住職は、指を折って日を数え、あと二十日ばかりで君のお母さんの喪はあける、二十日ばかり待つだけだから、 「まあいいじゃないか」 と答えた。 「ああそうですか」 五郎さんは納得した。 「すると喪は七十五日なんですね」 「いろいろあるがね、亡くなった人の魂は七十五日その家の軒先を離れない、ということがあ...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.10.09 Sun 16:58
JUGEMテーマ:日本文学 ★全文紹介 vol,7/21 本当にそんなことがあるんだろうか。 五郎さんは不審に思った。 けれども男女間の機微に触れる事なので、父親には勿論、親しい友人たちにも訊いてみるわけにもいかない。 それでゆい子が里帰りをした日、彼は寺の住職の所へ訪ねて行った。 大正寺は浦粕町から東北東へ、三キロばかり行った田圃の中にあり、住職は某宗教大学を出た「インテリ」だと言われていた。 「そういう話...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.10.08 Sat 22:07
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