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JUGEMテーマ:日本文学 「青べか物語」『青べかを買った話』vol,8/13 山本周五郎著・新潮文庫刊 【 本 文 】 それから後も時々道で会ったが、老人は挨拶もしないし、私を見ても棒杭か石ころでも見るような眼つきしかしなかった。 頬かぶりを取った老人の顔はやせていて小さく、太陽と潮風に焼けた頭は禿げていて、灰色の髪の毛がほんの少し後頭部に有り、頬やあごにはまばらな不精髭が、古くなったブラシのように、一本ずつ数えられるほどまばら...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.11.12 Sat 21:31
JUGEMテーマ:日本文学 「青べか物語」『青べかを買った話』vol,6/13 山本周五郎著・新潮文庫刊 【 本 文 】 私は縛り上げられ、罠にはまったことを知った。 まだ三分の一ほど残っているビール瓶を、老人の方へ置き直しながら、私は云わなければならない事を云った。 「そうかね」と云うより早く老人は女に向かって喚き立てた。 「コップ」 それから私を見て「タバコの持ち合わせはねえかね」 私が答えると、老...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.11.09 Wed 22:42
JUGEMテーマ:日本文学 『青べかを買った話』vol,6/13 「青べか物語」山本周五郎著・新潮文庫刊 所収 【 本 文 】 女が座敷の所へ来て、 「芳さんなんにするだえ」 と呼びかけた。 「うう」 と老人が答えた。 「おっかあがいねえからめし食うべえと思って来ただが、うう、なんにすべえか考げえてるだ」 「うちじゃあ考げえるほどごたいそうなものは出来ねえよ」 すると老人が私を見ながら、 そこへ腰かけた...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.11.07 Mon 22:17
JUGEMテーマ:日本文学 『青べかを買った話』vol,5/13 「青べか物語」山本周五郎著・新潮文庫刊 所収 【 本 文 】 私が答えると、 老人はちょっと考えた。 「つまり失業者だな」 と老人は喚いた、 「嫁を貰う気はねえだかい」 私は黙っていた。 別れる時マッチだけ返してもらったが、急に耳の遠くなった老人は、二度も三度も私の云う事を訊き返し、そのため私は自分がひどい吝嗇漢(りんしょくかん)になったような...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.11.06 Sun 21:18
JUGEMテーマ:日本文学 『青べかを買った話』vol,4/13 「青べか物語」山本周五郎著・新潮文庫刊 所収 【 本 文 】 それはこの土地の漁師たちに共通の常着(つねぎ)であるが、もう綿入れの股引をはく季節ではなかった。 「おめえ舟買わねえか」 と老人は私と並んで歩きながら喚いた。 「タバコを忘れて来ちまっただが、おめえさん持ってねえだかい」 私はタバコを私、マッチを渡した。 老人はタバコを一本抜いて口に...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.11.05 Sat 21:57
JUGEMテーマ:日本文学 『青べかを買った話』vol,3/13 「青べか物語」山本周五郎著・新潮文庫刊 所収 【 本 文 】 二度目には百万坪で会った。 季節は春で強い風が吹いていた。 私は「二つ入り」の堀に沿った道を、沖の弁天社の方へ歩いていた。 何の風情もない、ただだだっ広いだけのその荒地のほぼ中ほどに、無人の、小さな、毀れかかったような古い社が、ひねこびた古い六七本の松に囲まれて建って...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.11.04 Fri 21:41
JUGEMテーマ:日本文学 『青べかを買った話』vol,2/13 「青べか物語」山本周五郎著・新潮文庫刊 所収 【 本 文 】 すると一人の老人が、すぐ後ろに腰を掛けて、私なぞは目にも入らないといった様な顔つきで、古風な煙草入れを腰から抜く処であった。 私は支える足に気を配りながら、また海の方へ眼を戻した。 「ずっとめえに、ここへなにかぶっ建てようと思ったっけだが」 と老人が大きな声で云った、 百メートルも先に...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.11.03 Thu 21:46
JUGEMテーマ:日本文学 『青べかを買った話』vol,1/13 「青べか物語」山本周五郎著・新潮文庫刊 所収 【 本 文 】 芳爺さんに初めて会ったのは、「東」の海水小屋であった。 冬の事で、海水小屋は取り払われ、半分朽ちた葦簀(よしず)の屋根と、板を打ち付けた腰掛が一部だけ残っていた。 町を西から東へ還流する掘割が、東の海へ出る川口の所で、土地の人たちはその辺り一帯を漠然と「東」と呼んでいた。 私は...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.10.31 Mon 23:17
JUGEMテーマ:日本文学 「青べか物語」山本周五郎・新潮文庫刊 ★全文紹介 本日、ラスト(最終章) vol,5/5 百万坪から眺めると、浦粕町がどんなに小さく心細げであるか、ということがよくわかる。 それは在れた平野の一部に平べったく密集した、一塊(ひとかたまり)の、廃滅しかかっている部落といった感じで、貝の缶詰工場から立ち上る煙と、石灰工場の建物全体を包んで、絶えず舞い上がっている雪白の煙のほかには、動くものも見...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.10.28 Fri 19:24
JUGEMテーマ:日本文学 「青べか物語」山本周五郎・新潮文庫刊 ★全文紹介 本日、vol,4/5 この町ではときたま、太陽が二つ、東と西の地平線上にあらわれる事がある。 そういうときはすぐにそっぽを向かなければ危ない。 おかしなことがあるものだ、などと云って二つの太陽を見ると、 「うみとんぼ野郎」になってしまう。 そうしてそのときにはすぐ脇の方で、獺(かわうそ)か鼬(いたち)の笑っている声が聞こえるという事であ...
「3分読むだけ文学通」新URL http://bungakutuu.net/ | 2022.10.27 Thu 22:46
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