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3.春嵐の来訪〜旅立ち(4)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説   凛々しい軍服姿になったエヴィンが階下に降りてくると、やんやと店中で喝采が興った。髪や肌の色合いが限りなく薄いため真白く光を纏ったような印象を人に与うるエヴィンだが、漆黒の軍服と空色のマントを纏えばその姿はいっそう鮮やかに強烈な光を放つ。蒼穹の騎士の放つオーラはあたかも夜の店内に太陽が昇ったかのごとくだ。  「さて本題だ。……セルティ。お前、ティルラドと二人がかりで試みたんだろ? シルヴァロスタの神具の破壊。……違うか?」 「そ、そうだけど……神具は、血で動く...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.06.07 Thu 12:17

3.春嵐の来訪〜旅立ち(3)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説  「……もうおしまいにしろ。いい加減にしねぇと減給されるぞ。 仕事しろって!」「わかってるわよっ」 「おっし、食うか! あれ、ところでアルス、お前らって夕飯はどうしてるんだ? あのいつもの美味そうなまかない?」  「今日はもう食わねえよ。まかないなら夕方に食ったし。知ってるだろうけど、オレは元々あんまり食わねえからさ」 「ちなみに、私もダイエット中!」「……どうしてお前らは食わないで育つんだ。……リエは胸だけだけど」   エヴィンは実に不可解とばかりに両の眉根...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.06.06 Wed 12:07

3.春嵐の来訪〜旅立ち(2)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説 「アルス! あんただって仕事してないじゃないのよっ」 リエの言葉にアルスはバツが悪そうに顔を赤らめ、「じゃな」とエヴィンに軽く手を振ってから空になった隣のテーブルの皿を手にその場を離れた。リエはアルスをにやにやと見送ってから、入れ替わりとばかりテーブルに両手をついてエヴィンに向かって愛くるしく笑みかけてくる。   しかしエヴィンにはその笑顔に応える余裕はなかった。目の前で前屈みになった彼女の豊かな胸元がほぼ鼻先の距離で芳しく香っているのだからたまらない。エヴィ...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.06.05 Tue 11:23

3.春嵐の来訪〜旅立ち(1)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説 青白いガス灯に静まりかえる貴族街のセント・ランベス通りを右へ、首都一の大通りたる石畳のロックスベル・ストリートを進めば夜も盛況な飲み食い処が集まるブルジョア雑然街がにぎやかに広がっている。その一角にあるのは大衆食堂『ラズベリーキュート』。 銅製の唐草ランタンで灯心草が燃える炎に、雑然街は揺らめきの陽炎と夕闇に浮かぶ。  工場勤務帰りの男達がカードゲームに興じる傍ら、初老の踊り娘が肉付きのいい足でタップを踏み鳴らす。それに合わせてまだら化粧のピエロがタンバリンを叩...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.06.04 Mon 11:06

2.月と陽光の少年(4)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説   彼女は漆黒の軍服の裾を短く切り取って太股を大胆に露出させており、しなやかな足には踵のえらく高いヒールブーツ、その背はマントの代わりに長い黒髪が覆っていた。きびきびとした動作や男口調で女らしさよりも快活さが目立つ彼女だったが、そんな服装の悩ましさでなんとか女性としてのバランスがとれているようだった。  「セルティ姉ちゃん」   彼女はティルラドの双子の姉だ。  双子だけあり、顔立ちから笑い方まで互いによく似ている。   しかし人にペーパーウエイ...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.05.31 Thu 11:27

2.月と陽光の少年(3)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説  「……考え込むなよ、お前らしくもない」 エヴィンがぼそっと呟いた。 ティルラドもそれにぼそぼそ呟くように返す。 「……買いかぶらないでよ。俺はメンタル頑丈な方じゃないもん。イヤだよ、もう。ややこしい事件ばっかりで……いて!」  台詞の途中で、ティルラドはエヴィンに後頭部を平手打ちされた。衝撃につんのめったティルラドは突然の暴挙に抗議しようと振り返ったが、当のエヴィンは肩を揺すって笑いつつ、当惑顔のティルラドにびしっと指を突きつけていた。「悩んで物事が解...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.05.30 Wed 12:56

2.月と陽光の少年(2)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説  「鍵、かけないとね」  ティラは片方の手袋を外し、壁に埋め込まれた透明な板(パネル)へ剥き出しの手の平を翳した。するとイールの来訪を告げた時と同じ、奇妙な音が辺りに鳴り響く。 「おっし。じゃ、行きますか!」 そうしてティラがきびすを返せば、地下への入り口はまるで自ら口を閉じるように跡形もなく消え去った。 後には金縁の白亜の石壁が何事もなかったかのようにすまして佇む。ただ壁に埋め込まれた透明なパネルが放つ光が、そこにある「入り口」の気配を物語る。  ...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.05.29 Tue 15:27

2.月と陽光の少年(1)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説    雪解けを迎え、花がいっせいに開き出す季節もいよいよ間近。やさしい木漏れ日に照らされて水晶庭園の噴水の冷たいしぶきがまばゆい七色に煌めいている。 芽吹く緑、高い青空。 貴き蒼穹に集うた聖なる白鳥(しらどり)達が、いざ来たらん春を迎うる祝宴を舞う。 それはなんともうららかな午後だった。   しかし陽光届かぬ地下深く。  大地の底、隠された闇にそれはあった。 神具。 ガリシア聖教の旧約聖書に記されし、天界を統べる唯神セドリュウス。  おこがましくもその神の御手...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.05.28 Mon 13:01

1.太陽を希う姫、空を呼ぶ流星(4)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説  「さあ、凱旋だ。捕虜を運べ!」  アグリウスの野太い号令が響く。  しかし一方でエヴィンが少し高めの声でこんなことを言っている。 「急所は外しといたけど、やっぱ痛そうだな。医療班もまわしとこうか?」 「なんでですか? こいつら賊ですよ?」 「だってやっと捕らえた貴重な情報源だろ。本拠地を吐かせる前にへばったらどうすんだよ」 「ああ。それはそうっすね。了解しましたリスバーン准佐! おい、医療班手配しとけ!」 「お、いい返事だぞラスターク少尉。そんな感じに...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.05.24 Thu 11:14

1.太陽を希う姫、空を呼ぶ流星(3)

JUGEMテーマ:ファンタジー小説  「さて、これで今宵の任務は完了ですか」  エヴィンは細い腰に手を当てて仁王立ちになり、そう嘆息した。その傍らに巨木じみて立ちつくすアグリウスも返答代わりにおうと唸る。辺りには黒装束達が手放した荷物が散らばっている。どれもこれも女物の高級な衣服や宝石ばかりだ。金に換えれば相当額になるだろう。 「神出鬼没の黒装束の夜盗団。こいつらがファングリーストの貴族街に出没するようになって幾年月……かの黒獅子アグリウスさえも手玉にとるとはまっこと怖ろしい手並みですね...

三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.05.23 Wed 13:03

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