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JUGEMテーマ:ファンタジー小説 「ルーヴェンスとか言ったね、爺」「ほっほ、名を覚えてらして下すったのですか。有り難いことです」 セルティの疑心暗鬼に満ちた声音に動じることもなく、ルーヴェンスは歩き続けながらおどけた笑い声を発した。しかしセルティは容赦なく続けた。 「男達を統率しているのはお前だと聞いたよ。お前は首都で男達にあんな事をさせて、いったい何を企んでいるんだい?」 ローゼは全くなんのことかわかっていないようで、 「お姉様は何を話してらっしゃるのかしら?」 と、エヴィンに聞いてく...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.09.04 Tue 08:52
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 「街を……見たことは?」「……エヴィン、あのね。わたしの目は近くしか見えないの。それも、よく輝くものしか。だからこのお部屋はキラキラしたものが集められているでしょう? ……私、黒い王子様やお姉様の姿、ぼやけてしまってよくわからないわ。本当にごめんなさい。駄目な目ね。……でもね、目が弱い分、他の感覚が優れているらしいの。だからみんなの違いは何故だかよくわかるのよ」「男の人達とずいぶん仲良しだもんねぇ、ローゼちゃん。みんなの名前知ってるし」「ええ、黒い王子様。だって皆さんと...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.08.30 Thu 10:02
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 ※※※ 滝の飛沫が煌めくのは、月明かりにか、太陽のまぶしさにか。風が鳴くのは、想い乗せてか、心砕いてか。遠くから来た旅人が綴る世界の美しさは、太古より変わらぬ大自然の雄大さか、街を築いて生き続ける人々の猛々しさか。 旋律は全てを織りなした。力強く響く音に、死んだ都にもかつてはまばゆく満ちていた命というぬくもりが駆け爆ぜ、鍵盤の上では白い指が踊る。白鍵を叩けば音は真昼の陽射しのように明るく、黒鍵を叩けば音はより切なげに歌った。そうして高らかに紡がれたピアノの...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.08.28 Tue 08:42
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 賊達が無抵抗のエヴィン達を無言で導いたその先にあったは、崩れかけた王城だった。その城の内部に三人は招かれた。武器を奪われて腕を後ろ手に縛られはしたが、三人はおとなしく従った。賊達の気配から危険は感じなかったし、いざとなればセルティやティルラドには「力」がある。エヴィンも足技を使った体術を得意としているから、腕など使えずともどうとでも出来る自信はあった。 しかしなによりも、目の前に現れた砂礫の城と、そこにいるのであろう「ローゼ」への強い興味が勝っていた。囚われの...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.08.27 Mon 10:57
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 繋いだ手はとてもか細かった。力をこめたらすぐに折れてしまいそうな手だった。その小さな手がしっかりと自分の手を握りしめている。そのいたいけな暖かさに、心の隅がほんのりと染まるのを感ずる。時折笑みを浮かべながら、エヴィンの顔を仰ぎ見ているローゼ。その微笑みは切なげな至福に輝いていた。 エヴィンは素直にこの少女を愛おしいと思える。しかしそれは愛らしいものに対して誰もが抱く感情と同じものであり、恋心とはまた別の感情だ。 せめてこの子の前では立派な騎士であろう。エヴィ...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.08.27 Mon 08:56
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 それは怒りの涙だったのだろう。しかし確かな慈愛に満ちたものだった。エヴィンはまだ見ぬ母への憧憬をその涙に重ねていたことに気付いて、そんな自分に苦笑いをもらしていた。 やっと合流した三人は比較的閑散とした洞穴住居のひとつに潜み、ティルラドの手当てをしている。幸い弾丸はどの臓器も傷つけずに肋骨と脇腹の間を貫通していた。セルティは黙りこくったままに、腰に下げたポシェットから包帯や消毒液を取り出してティルラドの手当をし出した。 止血が終わると、 「……今、ある程度ま...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.08.23 Thu 09:43
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 そこそこの距離を移動するのだから全力で走っているわけでもない。しかしエヴィンは駿足を誇る。戦闘を生業とするがゆえに瞬発力も常人のそれではない上、持久力についても日々軍部にて相当な訓練を積んでいるのだから、少女じみた見かけに違えて彼の体力は相当なものだ。だがセルティは少女ながら彼の走りに息一つ乱さず着いてくる。エヴィンはそんな彼女を振り返って軽く口笛を吹くと、少しスピードを上げようかと逡巡(しゅんじゅん)した。だが前方に向き直ったエヴィンは、目に入ってきた光景に...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.08.22 Wed 13:04
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 「……やっと来たか」 ティルラドは舌先で乾いた唇を湿し、サーベルの柄に手をかけた。 おそらくこの砂礫都市シルヴァロスタに巣くう夜盗組織の賊達であろう。自分のいるこの建物を目指して多くの気配が近づいてきていることには先ほどから気づいていた。しかしティルラドがあえて外に出なかったのは、広い場所で四方八方から囲まれるより狭い建物の入り口にて進入してくる者を一人ずつ斬り倒した方が安全、かつ確実だと考えたからだ。 ティルラドはサーベルの柄に手をかけたまま、木戸の横に張...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.08.21 Tue 09:27
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 遠くで風が鳴いている。耳慣れない音色だ。この季節に宮殿(パレス)の窓辺でそよぐはいつも花の香りをまとった瑞々しい風で、彼はいつも親しげに葉擦れの柔らかい音を連れてきたものだ。 しかし、この風は堅い。 そは鋭利な刃のように吹きすさび、岩をも削る猛き風だった。乾燥した国土西南の気候はこの季節砂嵐を呼ぶ。遙か南、アルクミール大海の暖流が渦と昇ってしこり、それは南部の森林都市には恵みの雨雲をもたらすが、西部の枯れた土地に雨水は一滴も届かない。限界まで乾ききった空気...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.08.20 Mon 09:24
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 「エヴィンの女たらし。黒の貴公子を差し置いて、いっつも美味しいところ持っていくんだから! ……なんであの子ってあんなにモテるんだろ」「さあねえ。あたしにはわかんないけど」「でもさあ、ローゼはまだ十四歳でしょ。早くない?」「……遅いくらいだろ。あたしはもっと小さい頃からソアラが好きだったしね」 ローゼは蒼穹の騎士の英雄譚をよく知っていた。タイムズの連載記事として広く出版されていることから、彼の名前はとても有名だ。裁きの天使の再臨と呼ばれる救国の英雄、美しい少年騎士。...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.08.17 Fri 14:15
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