[pear_error: message="Success" code=0 mode=return level=notice prefix="" info=""]
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 老人の哀れな悲鳴が響いた。きつく水の流れにまかれ呻いている老人の姿を、ティルラドは瞳をすっと細めて見咎めた。具現した竜の咆吼が地鳴りとなって尖塔を揺らす。ティルラドは満足げに笑い、体の動きを束縛されて床に倒れ込むしかない老人の頭を思い切りブーツのかかとで踏みつけていた。 「……俺の背後をとろうとしたね。そのような真似は許さないよ。あの世で自らの不敬をわびるがいい。ああそれとも、お前にはこの現世(うつしよ)こそがあの世の地獄に等しいか、哀れで愚かな化け物よ!」 ...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.09.21 Fri 12:44
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 男は夢から覚めたような声で、 「……倒して、下さる? あなたが? あの化け物を? 本当に?」 と、語りかけてきた。 ティルラドは頷いて返す。 「約束するよ。だから教えて。ルーヴェンスはどこ? 闇雲にこの広い城を探し回っていては朝になってしまう……その前に!」 セルティが部屋から消えたこと。それもルーヴェンスの仕業には違いない。その上で厄介なことだが、ルーヴェンスの気配はティルラドにすら感じ取ることが出来ない。意識もしていなかったが、いつもそうだった。奴の存在は...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.09.20 Thu 16:44
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 ティルラドは黒鏡じみた階段を下り、たくさんの気配がわだかまっている大広間を目指した。錆びたシャンデリアがぎいこぎいこと風に揺れて不気味な唸りを発する部屋を通り過ぎ、いくつもの崩れた壁を乗り越え、ここが廃城であることを実感させられる悪路の果てに、がらんどうと称するのが相応しい玉座の間に辿り着いた。 そこには武装した男達が整列して立ちつくしていた。容易に大隊編成が出来る程の大人数を前に、ティルラドはちっと舌打ちをする。用意しておいた国軍の先遣部隊は精鋭揃いとはい...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.09.19 Wed 07:37
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 闇夜に月が嗤っている。疲労に耐えかね、真っ先にベッドの上に四肢を投げ出していたティルラドはそれを苛立たしげに睨み返した。砂礫都市の夜は冷える。凍り付く夜気をしのぐために火を炊こうかとも思ったが、撃たれた脇腹がじくじくと痛んでいてどうにも億劫だった。それに寒いくらいの方が怪我の痛みも麻痺して楽かもしれないしと、ティルラドは胸の内で言い訳を続けた。 己が身を自ら銃口に晒すなどという愚かな真似をした自分が信じられなかった。もし自らが失われれば中央大陸の未来に安寧は...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.09.18 Tue 08:29
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 ローゼの陶器のように真っ白な髪に月明かりが差して、なめらかな銀に輝く。されば思い出すはかの銀糸。美しい彼女にずっと言いたい言葉がある。しかし自分はその言葉に鍵をかけ続け、あわよくば葬ってしまおうとしている。だがローゼは、泣きながら苦しみながら、それでも鍵を外したのだ。 「エヴィン、あなたが好き」 ……どうして、どうして。 そんな言葉が胸の内を駆けめぐる。 お願いだからもうやめてくれ。 自分にはそんな価値なんてない……。 「ローゼ、ありがとう」 しかしそん...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.09.13 Thu 16:32
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 「怖ろしい、実に怖ろしいですよ。神具の守人、聖大使一族! ……これだけの力をお持ちなのです。あなた方の力を増幅させる装置たるかの『神具』を使えば、聖大使一族は世界に君臨することが出来ましょうに……歴代の聖大使閣下のお考えは全くもって理解出来ませんな。力とは有効に使うべきもの。ヘルファングリーストの様な巨大で強大な神具を手にしながら世界征服すら行わんとしない。王国中の『神具』を使いこなせば、帝国を滅ぼしウィルシードを中央大陸に君臨させることなどたやすいでしょうに、まさ...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.09.12 Wed 09:25
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 「お前は相変わらず短気だな。気に入らないことがあるとすぐに力を使う癖は直せと言ったろ? お前は族長なんだ、もっと自覚をして大人にならなければ」「……どうして」「どうして? お前が心配だからさ。俺はお前を守る為の剣(つるぎ)なのだから」「……ソア…ラ」「一緒に返ろう。そしてまた共に暮らそう」「……、……」 柔らかく低く紡がれる。それは甘い誘惑だった。 ソアラと共に戦い、ソアラと共に生きていた。そんな日々もあった。そしてそれはとても幸せな思い出だった。 汗が止まらない...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.09.11 Tue 08:49
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 「あーもう! ……ほら見ろ、やっぱりだ。ローゼが自分の部屋でおとなしくしててくれればもっとあの爺を追求できたのに。でもいいやもう……今更仕方ないからねえ……」 セルティははああと大きくため息をつき、幾分力なく肩を落として、今まで開いていた扉をカチャリと閉めた。城中にわけの分からない空気の流れを感じる。呼吸するたび、異質な「何か」の気配が体に入り込んでくるのだ。それがセルティの鋭敏な五感に膜をかけ、今や彼女の感覚は完全に鈍く翳っていた。 三人同時に別々の部屋に入...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.09.10 Mon 10:13
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 「ア〜ルス! なにやってんの? どこ行くの?」「リエか」 突然慕わしげに飛びついてきた小さな影に、アルスは表情を和らげた。 「お前こそ、今日は食堂の仕込みの担当だったんじゃねえのか? 何してんだよ?」「えへへ。実は、待ち伏せてた」 高くゆいあげた緋色の髪を閃かせ、短いスカートをひるがえした少女がおどけた調子で舌を出す。 「お休みをもらったの! 今日はセントクランネルの授業は……って、ああ。アルスはもう卒業資格持ってるのよね。秋には国立の学生かぁ。 大学で学士号...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.09.06 Thu 12:13
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 「痛いわ、エヴィン。力が強いのね」「あ……すまない。少し考え事を」 エヴィンは唇を解いて微笑むと、ローゼの手を優しく握り直した。ローゼはそれに薔薇の頬をして笑み返した。その笑みにまるで心が砕かれるようだった。答えは明日、国軍がやってくるまでに出さねばならない。 ……後でティルラド達と相談しよう。エヴィンはそこで思考を切り、あとは黙して歩んだ。窓から差し込む神秘の月明かりに、ローゼの白い髪が銀色に輝いている。まるで紡ぎ上げた銀糸のようだ……。 シェーダ。 ふと浮か...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.09.05 Wed 14:06
全490件中 401 - 410 件表示 (41/49 ページ)