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JUGEMテーマ:ファンタジー小説 「ローゼ……!」 そしてエヴィンは誰にともなく叫んでいた。 「どうして……どうして昇天させてやらない! ローゼはずっと、ずっと焦がれる太陽を見られないまま、暗黒の闇夜で一人眠っている…… 彼女は一人きりだ! 地下の暗闇で、ずっとずっと一人きりだ! 百年も……百年間も……!!」「……その通り。ですから、太陽をさし上げたいと思った」 エヴィンはビクッと顔を上げた。どす黒い怨念が如きなめらかな声が、暗闇から静かに轟いてきた。 「馬鹿な……」「だから私は、今までその為だけに生きてきた。...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.10.05 Fri 00:12
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 何処かで夢見ていた。手を携え、ローゼと共に首都に凱旋し。日に日に健康になる彼女を妹のように慈しみ、馬車に乗せて街のあらゆる場所に案内し、欲しいものがあったら買ってやり。 メイド頭のマキラが育てた庭の花を見せたら彼女はどんなに喜ぶだろう。そうして学校に通うようになれば、友達も出来、いつか出逢った誰かと恋をして……。 蒼き瞳に涙が溢れた。 頬の涙のつたった跡が熱かった。 どこにでもある当たり前の幸せ。 友と語らい、共に歩き、どこへでも行ける足を持ち、明日を夢見、...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.10.04 Thu 09:34
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 ※※※ エヴィンはしばしその場に立ち尽くした。一切の言葉が胸に浮かばなかった。何もかもが真っ白に吹き飛んだ荒野に独り取り残されたようだった。 去来した衝撃の正体は驚愕でも恐怖でもなかった。 言葉を交わし、手を繋いだ。彼女は口づけてくれたし、抱きしめてもくれた。全身で自分を愛してくれたあの少女の暖かさは、全て虚像だったのか。 ローゼ。ローゼ……。 その名を心で呼び続ける。砂礫都市のすべての花が枯れた理由がわかるような気がした。目の前の古びた小さな...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.10.03 Wed 14:30
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 「エヴィン様はどうやって……何処からここに入ったんですか?」「上からだな。ルーヴェンスは空から降り注ぐものには無警戒だったたらしいなあ」「……上? ……エヴィン様には背中に羽根でもおありになるのですか?」「あったら苦労はしなかったがな! ……で、ここは一体なんなんだ。お前の名は?」 エヴィンの言葉に男は強い瞳で頷くと「こちらへ」と少年騎士を誘った(いざなった)。エヴィンは素直にそれについて歩きついた先に、草に埋もれた地下への入り口があるのを見つけた。わだかまる闇に怖気が...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.10.02 Tue 08:08
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 自分が生まれてきてよかったのか、そんなことを真剣に考えている時がある。自分がここにいることは本当に正しいのか、時期や場所を間違えてはいまいか。それとも自分の存在そのものが罪なのではないか……。 どうしてそんなことを思うのかはよくわからない。ただ自分が存在しなければ笑顔でいられた人がいる、その事実が何より狂おしく、どうしたら取り返しがつけられるのかと、いつもそんなことばかり考えてきた気がする。だから力が欲しかった。誰かのために戦える力が。そうしなければ自分がこの...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.10.01 Mon 12:08
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 老人の哀れな悲鳴が響いた。きつく水の流れにまかれ呻いている老人の姿を、ティルラドは瞳をすっと細めて見咎めた。具現した竜の咆吼が地鳴りとなって尖塔を揺らす。ティルラドは満足げに笑い、体の動きを束縛されて床に倒れ込むしかない老人の頭を思い切りブーツのかかとで踏みつけていた。 「……俺の背後をとろうとしたね。そのような真似は許さないよ。あの世で自らの不敬をわびるがいい。ああそれとも、お前にはこの現世(うつしよ)こそがあの世の地獄に等しいか、哀れで愚かな化け物よ!」 ...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.09.21 Fri 12:44
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 男は夢から覚めたような声で、 「……倒して、下さる? あなたが? あの化け物を? 本当に?」 と、語りかけてきた。 ティルラドは頷いて返す。 「約束するよ。だから教えて。ルーヴェンスはどこ? 闇雲にこの広い城を探し回っていては朝になってしまう……その前に!」 セルティが部屋から消えたこと。それもルーヴェンスの仕業には違いない。その上で厄介なことだが、ルーヴェンスの気配はティルラドにすら感じ取ることが出来ない。意識もしていなかったが、いつもそうだった。奴の存在は...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.09.20 Thu 16:44
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 ティルラドは黒鏡じみた階段を下り、たくさんの気配がわだかまっている大広間を目指した。錆びたシャンデリアがぎいこぎいこと風に揺れて不気味な唸りを発する部屋を通り過ぎ、いくつもの崩れた壁を乗り越え、ここが廃城であることを実感させられる悪路の果てに、がらんどうと称するのが相応しい玉座の間に辿り着いた。 そこには武装した男達が整列して立ちつくしていた。容易に大隊編成が出来る程の大人数を前に、ティルラドはちっと舌打ちをする。用意しておいた国軍の先遣部隊は精鋭揃いとはい...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.09.19 Wed 07:37
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 闇夜に月が嗤っている。疲労に耐えかね、真っ先にベッドの上に四肢を投げ出していたティルラドはそれを苛立たしげに睨み返した。砂礫都市の夜は冷える。凍り付く夜気をしのぐために火を炊こうかとも思ったが、撃たれた脇腹がじくじくと痛んでいてどうにも億劫だった。それに寒いくらいの方が怪我の痛みも麻痺して楽かもしれないしと、ティルラドは胸の内で言い訳を続けた。 己が身を自ら銃口に晒すなどという愚かな真似をした自分が信じられなかった。もし自らが失われれば中央大陸の未来に安寧は...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.09.18 Tue 08:29
JUGEMテーマ:ファンタジー小説 ローゼの陶器のように真っ白な髪に月明かりが差して、なめらかな銀に輝く。されば思い出すはかの銀糸。美しい彼女にずっと言いたい言葉がある。しかし自分はその言葉に鍵をかけ続け、あわよくば葬ってしまおうとしている。だがローゼは、泣きながら苦しみながら、それでも鍵を外したのだ。 「エヴィン、あなたが好き」 ……どうして、どうして。 そんな言葉が胸の内を駆けめぐる。 お願いだからもうやめてくれ。 自分にはそんな価値なんてない……。 「ローゼ、ありがとう」 しかしそん...
三日月の聖書〜景澤 晶の創作思考 | 2012.09.13 Thu 16:32
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