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JUGEMテーマ:連載JUGEMテーマ:連続ブログ小説 佐倉はサトの車いすを押しながら、老人ホームの庭の中をミヨ子との3人で散歩していた。秋の気配が強まり、空が清々しく晴れ渡る気持ちのいい日で、少し乾いた風が木々の間を爽やかに駆け抜けるのが心地よかった。 「佐倉さんが来てくれたお陰で、本当にここのみんなは明るくなれたわね」そう語りかけるミヨ子に他の二人はお互いの顔を見ながら微笑んだ。 「ミヨ子さんはビリヤードやってみたいとは思わないんですか?」佐倉はミヨ子にはじめて訊ねた。 「そうね、わた...
Race to Eleven 〜 レース・トゥ・イレヴン | 2012.09.28 Fri 05:00
JUGEMテーマ:連載 決して華やかな演出とは行かないが、『大正デモクラシーズ』の二人はちょっとフォーマルにワイシャツを着て、年代物のスラックスをはきこなし、もう一方の『昭和モボス』は赤と青のバンダナをそれぞれ頭に巻いて、タンゴ氏がサトさんの車いすを押して登場した。開会のあいさつや選手宣誓は端折ったカジュアルなスタイルで、観戦しにきた他のホームの住人やその家族らもリラックスした様子で2チームの健闘を見守る。 「それでは試合を始めます。20点先取で交互にショットします」 佐倉は簡単に試合の...
Race to Eleven 〜 レース・トゥ・イレヴン | 2012.08.28 Tue 04:47
JUGEMテーマ:連載 「なんとかサトさんに、一回でもいいから当てさせてあげたいんだけどな〜」佐倉はため息をついて、大家や石黒らを片っ端から捕まえては相談して回っていた。アイデアの中の一つがメカニカル・ブリッジを使用する方法だ。ウッシーがどこからかネットで調べてきて、この方法を試すように助言した。 早速、佐倉がサトさんにアドバイスする。 「こんな棒を使うのなんてヤだよ。みんな使ってないじゃないか」 サトさんはそうやって嫌がったが、渋々使ってみるとこれがすこぶる良い。撞くたびにブリッジは少...
Race to Eleven 〜 レース・トゥ・イレヴン | 2012.08.21 Tue 02:41
JUGEMテーマ:連載 その後も『先生』の佐倉とタンゴのおじいちゃんのレッスンは続き、2回に1回ぐらいは当たるようになってきた。 「上手い、上手い。ナイス!」 この『先生』は『生徒』を褒めて伸ばすのが上手らしい。 「それもこれも先生のお陰ですわ」 タンゴのおじいちゃんは謙遜も忘れない、非常に謙虚な気持ちで四つ球を習得しようと懸命だ。 「老い先短い身やけどな、気長にやるさかいにな」 そう口癖のようにつぶやくタンゴのおじいちゃんの目標は、5回連続して当てることだそうだ。そうしたらもう一度、アヤベ...
Race to Eleven 〜 レース・トゥ・イレヴン | 2012.08.14 Tue 02:01
JUGEMテーマ:連載 その後のレクリエーションルームは、ミヨ子おばあちゃんが腰掛けた椅子の周囲に、他の老人たち数人で埋められることが多くなった。館長が気を利かせて、中古のテレビをどこからかもらってきてくれて、佐倉が説明書を読みながら設置すると、あっさりと画面に映像が流れ出した。以前は食堂でしか見れなかったテレビがそこにあることで、食事の合間の憩いの場として機能し始めた格好だ。 そこへ小太りのタンゴおじいちゃんがやってきて、テレビを観たり新聞を読んだり、部屋の中にある単行本を片っ端から取...
Race to Eleven 〜 レース・トゥ・イレヴン | 2012.08.08 Wed 00:51
JUGEMテーマ:連載 「こんな時間にどこに行くんだい?」 老人ホームの館長が二人に訊ねると、岩倉は庭の方を指さし、館長はゆっくりと頷いた。 かつては豪邸だった広い庭の中を、岩倉はゆっくりと歩き、佐倉はそれに従った。 「あたしがここに来る前の出来事なんだけど…」岩倉は遠い夜空を眺めるような視線で穏やかに話し始めた。その話し方はこれまでのようにぼそぼそとしたものではなく、ハッキリを澄み渡っているように佐倉は感じていた。 「いつ頃の話しですか?」 「そうね、聞いた話では5、6年ぐらい前にな...
Race to Eleven 〜 レース・トゥ・イレヴン | 2012.07.31 Tue 04:38
JUGEMテーマ:連載 黒いセンチュリーが堀川ビリヤードの前に停車した。緑地に白文字で88のナンバーが刻印されたプレートは、日本酒の原料が米であることから米の字を分解して「八十八」を縁起物とした造り酒屋の娘、酒井葵が乗っている。運転手が後部座席のドアを開け、例によってゴスロリファッションを決めこんだ少女がゆっくりと路上に降り立った。 「兄から聞いてはいたけど、まだまだのようね」 「あと数ヶ月はかかりそうな様子ですね」 運転手が応えると、辺りを見渡した。焼け焦げた臭いはもうすっかり消え去っ...
Race to Eleven 〜 レース・トゥ・イレヴン | 2012.07.18 Wed 05:04
JUGEMテーマ:連載 佐倉が電車に乗って向日市の駅で降りると、改札口を出たところで岩倉が待っていた。動きやすい服装でとのことで、佐倉はジャージを着ていったが、岩倉は白いTシャツにブルージーンズという出で立ちだった。二人は駅からの坂を歩いて登って古い洋館のような建物の中に入っていった。佐倉が住んでいるアパートよりもまだ古そうだった。 中に入ると外とはうって変わった薄暗い雰囲気で、蛍光灯が点いているにも関わらずあまり明るくなかった。木の床や廊下の壁なんかが濃い茶色で光を吸収してしまっているの...
Race to Eleven 〜 レース・トゥ・イレヴン | 2012.07.11 Wed 02:43
JUGEMテーマ:連載 「あー、なんか、バイトだるいなー」 一般教養の大教室で、佐倉は机の上に両腕を投げ出して、腕の上にあごを乗せながら言った。いかにもけだるそうだ。 「いっそのこと、辞めちゃえば〜?」可南子は一見、無責任そうにそう言い放ったが、それには理由があるようだ。 「あそこのバイトって入れ替わりが激しいらしくてさ、前に行ってた子から偶然聞いちゃったんだけど…」 「うんうん」まだけだるそうに話しを聞いているのは佐倉の方である。 「好きな色がどーのこーのっていう、アレでもさ、バイトの中心...
Race to Eleven 〜 レース・トゥ・イレヴン | 2012.07.03 Tue 03:35
JUGEMテーマ:連載 馬子にも衣装の言葉がぴったり似合いそうなぐらい、佐倉は張り切ってめかし込んでいた。アパートを出ようとするときに大家と出くわした。 「今日はなんだい? めかし込んじゃってさ」 「アルバイトの面接なんです。河原町の喫茶店の…」 「そうかい、頑張っておいでよ」 「はい、ありがとうございます」 そう言って玄関で靴のかかとを直そうとしているとき、大家が再び声をかけた。 「そうそう、ビリヤードの方はね、また気が向いたときでいいからさ」 左手の人差し指をかかとに突っ込んだまま、佐...
Race to Eleven 〜 レース・トゥ・イレヴン | 2012.06.12 Tue 04:22
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